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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

子どもの健康より国歌が大事なのか、コロナ禍の今春卒業式で都教委が校長に出した指示

2021年01月30日 | 日の丸・君が代関連ニュース
  《東京新聞【こちら特報部】》
 ◆ 都教委、今春卒業式で都立高に指示
   感染防止へ 声を出しての君が代斉唱なし でも・・・ 一同起立せよ

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け東京都教育委員会は、今春の都立学校の卒業式で参加者に君が代を歌うよう求めない。「日の丸・君が代」について定めた「10・23通達」を2003年10月に出して以降、教職員に「歌え」という職務命令が出ない卒業式は初めて。ただ、歌唱入りのCDを流し、起立は求めるといい、通達にこだわる都教委のかたくなな姿勢が浮かび上がった。(石井紀代美)
 ◆ 歌唱入りCDを再生

 「コロナの感染拡大が続いていることから、飛沫(ひまつ)の拡散防止のため国歌を歌わないことにした」。都教委の桐井裕美・主任指導主事はこう説明する。
 一方で、式次第には「国歌斉唱」と明記。司会の発声を合図にして参加者に起立を促し、会場全体に聞こえる音量で歌唱入りCDを流す
 各学校には先月二十四日に文書で指示したといい、桐井氏は「学習指導要領を踏まえた対応」と話す。
 学習指導要領には、入学式や卒業式で「国歌を斉唱するよう指導するものとする」と書かれている。今回はコロナで歌えないから、CDで代用するという理屈だ。
 声を出して歌えば飛沫が飛び散る。感染リスクを避けたいと考えるのは当然と言えば当然だ。しかし、都教委は昨年の卒業式で、今回とは真逆の対応を取っている。
 一部の教委から「感染防止策として、歌わないことを考えている」などとする声が上がったのに、各学校に君が代斉唱を求めた。
 結果、全二百五十三校(当時)で君が代が斉唱された。中には、感染リスクを懸念して校歌は歌わなかったにもかかわらず、マスク着用で君が代だけ歌った学校もあった。
 「こちら特報部」が昨年七月にその経緯を報道すると、インターネット上で「子どもの健康より国歌が大事なのか」といった都教委への批判が噴出した。
 ◆ 不起立で懲戒処分対象

 都教委が「日の丸・君が代」に固執し、学校現場で合理的判断ができなくなっている原因は、石原慎太郎都政時代の〇三年十月二十三日に出した10・23通達にある。
 国旗を掲げる場所、卒業生が座る向き、卒業証書を渡す場所…。都教委が通達で事細かに定めた項目の一つが「教職員は会場の指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱する」だった。
 校長には、教職員に従うよう職務命令を出すことを求めた。
 その結果、従わなかった教職員を「職務怠慢」などと断定し、懲戒処分を連発。都の教職員らでつくる「被処分者の会」によると、10・23通達に基づく懲戒処分者は、延べ約四百八十人に上る。
 今回の「歌わない」卒業式でも職務命令が出るのか桐井氏に聞くと、「斉唱には出ない。起立はいつも通り」との答えだった。つまり、不起立はこれまでと同様、懲戒処分の対象になる
 懲戒処分を受けた教職員が「『日の丸・君が代』の強制は、思想・良心の自由を保障する憲法に反する」として訴訟を起こし、裁判所が違憲と認めた判決はあるものの、確定したケースはない。
 ◆ 国際基準逸脱した発想

 都教委の発想は、国際的な基準から逸脱している。
 国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(ユネスコ)は一九年、「起立斉唱の強制は、個人の価値観や意見を侵害する」などと都教委を批判。起立斉唱したくない教員も対応できる式典のルール作りのほか、懲戒処分を回避するため教員側と対話するよう求める勧告を出している。
 これに対し、都教委に加え文部科学省も一切、取り合わず、耳を傾けるそぶりがない。
 ◆ 識者「構築した論理と自己矛盾」

 「日の丸・君が代」問題に詳しい東京大の高橋哲哉教授(哲学)は「都教委は自己矛盾に陥っている」と指摘する。
 都教委が起立斉唱を求める根拠として持ち出す「高等学校学習指導要領解説・特別活動編」には、その目的として「(生徒が将来)国際社会において尊敬され、信頼される日本人」に成長するためとうたわれている。
 高橋氏は「労働と教育、両国際機関の勧告を無視し、生徒の目の前で強制を繰り広げることは、国際社会から尊敬される人への成長につながらない。自ら構築した論理と相反している」と指摘し、こう続ける。
 「世界のあちこちで台頭している『命令にはとにかく従え』という権威主義が、戦後日本にも根強く残る。不起立で抵抗してきた教職員を懲らしめようと、コロナで歌えなくても起立を強制する都教委の手法に『権威主義の地金』がくっきり見える。昨年来、批判が続く日本学術会議の任命拒否問題とも通底している」
 ◆ 病的な粘着気質

 「何があっても、強制をやめようとしない。都教委の粘着気質は病的と感じる。起立強制問題は、今の教育現場を息苦しくしている元凶と言っても過言ではない」。
 〇八年以降、不起立で懲戒処分を受けた教職員にインタビューするなど、「日の丸・君が代」問題を取材してきたルポライターの永尾俊彦氏(63)は、今回の都教委の方針を批判する。
 ◆ 「命令と服従教育になじまない」

 永尾氏は教職員らが起こした複数の訴訟の記録を読み込み、たくさんの原告に会って話を聞いた。「教師というのは生徒の心を聞く仕事だ」との元校長の言葉が印象深く記憶に残る。
 命令と服従は、子どもがそれぞれ備えている唯一無二の個性を伸ばす教育になじまない。
 それなのに、「日の丸・君が代」の強制は教育現場に上意下達の思想を植え付ける。
 「教職員に命令し、服従を強い、『上には何を置っても変わらない』という雰囲気をつくる。教職員も『子どもも命令に従って当然』という意識を形成する。権力側に都合のいい人間を育てる戦前の教育と似ている」
 懲戒処分を受けると、人事や昇給で不利になる。過酷な研修も科される。定年後の再任用も他の人より早く打ち切られる。
 「それでも何度も職務命令に従わない教職員がいるのは、子どもを上意下達型の人間にしたくないからだ」と永尾氏は語る。
 不起立に対し「歌わないのはけしからん」「政治的に偏っている」といった批判があるのも事実。
 永尾氏は、ある弁護士が語った「やりたくないことをやらなかったのではなく、子どものためにやってはならないことをやれと言われて悩み苦しみ、できなかった人たち」との言葉に共感するという。
 ◆ 取材続けるルポライター永尾俊彦氏

 永尾氏はこれまでの取材の成果を新著「ルポ『日の丸・君が代』強制」にまとめた。取材に応じてくれた教職員は、子どもと誠実に向き合ってきた人ばかりだった。
 「自分もそういう先生に教えてもらいたかった。もし今度の卒業式で不起立の教職員を見かけたら、『身をていして教育を守ろうとする先生だ』という目で見てほしい」
 ※ デスクメモ
 理屈が通らないと分かっているから、法律や通達で言うことを聞かせようとする。政府がコロナ関連の法改正案に罰則を盛り込もうとしているのもその典型だろう。説明しないのも最近のあしき風潮の一つ。高橋教授の「学術会議の任命拒否問題とも通底する」との指摘はその通りだ。(千)
『東京新聞』【こちら特報部】(2021/1/25)


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