=七生養護学校「こころとからだの学習裁判」控訴審=
平成21年(ネ)第2622号
経緯
1 1審原告らは,平成15年当時,七生養護学校(本件養護学校)の教員であり若しくはあった者(29名)又は生徒の保護者であり若しくはあった者(2名)である。
2 本件養護学校では,「こころとからだの学習」という性教育(本件性教育)が行われていた。
3 平成15年7月2日,1審被告都議会議員(1審被告都議)らのうちの1人が,東京都議会の一般質問で,本件養護学校の性教育を,行き過ぎた性教育の実例として取り上げ,1審被告東京都教育委員会(1審被告都教委)の教育長は,これを認める趣旨の答弁をした。
4 平成15年7月4日,1審被告都議ら及び1審被告東京都教育委員会は,本件養護学校の視察(本件視察)を行い,1審被告産業経済新聞社(1審被告産経新聞社)は,この視察を取材した。
5 1審被告都教委は,平成15年7月9日,本件養護学校の校長から,性教育の教材の提出を受けるとともに,同日以降,指導主事を本件養護学校に派遣し,1審原告教員らを含む教員全員から本件性教育の実情について聴き取り調査をした。
6 1審被告都議らは,1審被告都教委から上記教材を借り受け,平成15年7月23日,これが不適切教材であるとする展示会を開催した。
7 本件養護学校では,その後,1審被告都教委の指導,助言を受け,同年9月以降の性教育の年間指導計画が変更された。
8 1審原告のうち教員13名は,学習指導要領を踏まえない不適切な性教育を行ったなどとして,1審被告都教委から,厳重注意(本件厳重注意)を受けた。
9 平成15年7月当時本件養護学校に勤務していた教員の多くが,平成16年4月以降,他の都立学校へ異動し,又は退職した。
10 1審被告産経新聞社は,本件性教育につき,産業経済新聞に4回にわたり記事を掲載した。
事案の概要
本件は,1審原告らが,1審被告らに対し,1審被告らの上記の各行為及び一連の行為が1審原告らの本件養護学校における教育の自由を侵害する共同不法行為に当たるなどと主張して,1審被告都教委を除く1審被告らに対して,それぞれ慰謝料99万円の連帯支払を,同東京都及び同都教委に対して,教材等の返還を,同産経新聞社に対して謝罪広告の掲載を,それぞれ求めた事案である。
原審の判断
原審は,①1審被告都教委に対する訴えを不適法却下し(主文1項),②本件視察の際に,1審被告都議らが,対応した1審原告の教員2名に対し侮辱を行ったとして,また,1審被告都議らの当該行為は,旧教育基本法10条1項により禁止されていた「不当な支配」に当たるところ,1審被告都教委の職員は「不当な支配」から教員を保護する義務を負っているのに,これを怠ったとして,1審被告都議ら及び同東京都に対し,上記1審原告2名にそれぞれ慰謝料5万円を連帯して支払うよう命じ(主文2項),③1審原告の教員10名に対する厳重注意は,裁量権を濫用したものであって,違法であるとして,1審被告東京都に対し,上記1審原告10名にそれぞれ慰謝料20万円を支払うよう命じ(主文3,4項),④1審原告らのその余の請求は理由がないとして,これを棄却した(主文5項)。
これに対し,1審被告東京都,1審被告都議ら及び1審原告らが,それぞれ控訴した。
当裁判所の判断の要旨
1 原審の認定判断は,正当であり,本件各控訴はいずれも理由がない。
2 本件性教育は,学習指導要領に違反しているとはいえない。
3 1審被告都議らが本件視察において1審原告及び同に対してした言動は,同1審原告らに対する侮辱に当たり,不法行為を構成する。
4 1審被告都議らの上記侮辱を1審被告都教委の職員らが制止するなどしなかったことは,教育に対する「不当な支配」から教員を保護するよう配慮すべき義務に違反したもので違法であり,1審被告東京都は,1審原告及び同に対し,損害賠償義務を負う。
5 本件厳重注意を受けた1審原告ら13名のうち,本件性教育を行ったことを理由としてされた1審原告、外9名に対する厳重注意は違法であり,1審被告東京都は,上記10名に対し,損害賠償義務を負うが,本件性教育を行ったことを理由とするものとはいえないその余の1審原告3名に対する厳重注意は違法とはいえない。
6 1審被告らのその余の行為は,違法であるとはいえない。
平成21年(ネ)第2622号
判決要旨
経緯
1 1審原告らは,平成15年当時,七生養護学校(本件養護学校)の教員であり若しくはあった者(29名)又は生徒の保護者であり若しくはあった者(2名)である。
2 本件養護学校では,「こころとからだの学習」という性教育(本件性教育)が行われていた。
3 平成15年7月2日,1審被告都議会議員(1審被告都議)らのうちの1人が,東京都議会の一般質問で,本件養護学校の性教育を,行き過ぎた性教育の実例として取り上げ,1審被告東京都教育委員会(1審被告都教委)の教育長は,これを認める趣旨の答弁をした。
4 平成15年7月4日,1審被告都議ら及び1審被告東京都教育委員会は,本件養護学校の視察(本件視察)を行い,1審被告産業経済新聞社(1審被告産経新聞社)は,この視察を取材した。
5 1審被告都教委は,平成15年7月9日,本件養護学校の校長から,性教育の教材の提出を受けるとともに,同日以降,指導主事を本件養護学校に派遣し,1審原告教員らを含む教員全員から本件性教育の実情について聴き取り調査をした。
6 1審被告都議らは,1審被告都教委から上記教材を借り受け,平成15年7月23日,これが不適切教材であるとする展示会を開催した。
7 本件養護学校では,その後,1審被告都教委の指導,助言を受け,同年9月以降の性教育の年間指導計画が変更された。
8 1審原告のうち教員13名は,学習指導要領を踏まえない不適切な性教育を行ったなどとして,1審被告都教委から,厳重注意(本件厳重注意)を受けた。
9 平成15年7月当時本件養護学校に勤務していた教員の多くが,平成16年4月以降,他の都立学校へ異動し,又は退職した。
10 1審被告産経新聞社は,本件性教育につき,産業経済新聞に4回にわたり記事を掲載した。
事案の概要
本件は,1審原告らが,1審被告らに対し,1審被告らの上記の各行為及び一連の行為が1審原告らの本件養護学校における教育の自由を侵害する共同不法行為に当たるなどと主張して,1審被告都教委を除く1審被告らに対して,それぞれ慰謝料99万円の連帯支払を,同東京都及び同都教委に対して,教材等の返還を,同産経新聞社に対して謝罪広告の掲載を,それぞれ求めた事案である。
原審の判断
原審は,①1審被告都教委に対する訴えを不適法却下し(主文1項),②本件視察の際に,1審被告都議らが,対応した1審原告の教員2名に対し侮辱を行ったとして,また,1審被告都議らの当該行為は,旧教育基本法10条1項により禁止されていた「不当な支配」に当たるところ,1審被告都教委の職員は「不当な支配」から教員を保護する義務を負っているのに,これを怠ったとして,1審被告都議ら及び同東京都に対し,上記1審原告2名にそれぞれ慰謝料5万円を連帯して支払うよう命じ(主文2項),③1審原告の教員10名に対する厳重注意は,裁量権を濫用したものであって,違法であるとして,1審被告東京都に対し,上記1審原告10名にそれぞれ慰謝料20万円を支払うよう命じ(主文3,4項),④1審原告らのその余の請求は理由がないとして,これを棄却した(主文5項)。
これに対し,1審被告東京都,1審被告都議ら及び1審原告らが,それぞれ控訴した。
当裁判所の判断の要旨
1 原審の認定判断は,正当であり,本件各控訴はいずれも理由がない。
2 本件性教育は,学習指導要領に違反しているとはいえない。
3 1審被告都議らが本件視察において1審原告及び同に対してした言動は,同1審原告らに対する侮辱に当たり,不法行為を構成する。
4 1審被告都議らの上記侮辱を1審被告都教委の職員らが制止するなどしなかったことは,教育に対する「不当な支配」から教員を保護するよう配慮すべき義務に違反したもので違法であり,1審被告東京都は,1審原告及び同に対し,損害賠償義務を負う。
5 本件厳重注意を受けた1審原告ら13名のうち,本件性教育を行ったことを理由としてされた1審原告、外9名に対する厳重注意は違法であり,1審被告東京都は,上記10名に対し,損害賠償義務を負うが,本件性教育を行ったことを理由とするものとはいえないその余の1審原告3名に対する厳重注意は違法とはいえない。
6 1審被告らのその余の行為は,違法であるとはいえない。
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