パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ ジャーナリズムの真価が問われている「戦争」報道

2024年06月25日 | 平和憲法

 ☆ 政府と一体のメディアが戦争を推進し、住民を取り込む (百万人署名運動全国通信)

皆川学さん(元NHK職員 表現の自由を市民の手に全国ネットワーク)

 ☆ 報道の「自由度」が更に低下

 「国境なき記者団」(本部パリ)は5月3日に「報道の自由度ランキング」を発表しましたが日本は70位で、昨年より順位をさらに二つ下げました
 その理由はいろいろありますが、一つは「記者クラブ」の閉鎖性・排他性ですね。あとジャニーズの性犯罪追及報道の不十分さや、「権力への忖度(そんたく)」などでそのように評価されたわけです。
 自由度ランキングでイギリスは23位ですが、BBCは自社の編集規則で、例えば、パレスチナ問題で、ハマスを「テロリスト」とは言わないようにしています。フォークランド戦争(1982年)の時にも「わが軍は」とは言わず、「イギリス軍は」と言うように決めていました。
 ところが日本のメディアはみなハマスを「テロリスト」扱いして、ハマスが2006年の総選挙で第一党となった正式の政権であることを言わず、「イスラム原理主義組織ハマスが実効支配するガザ地区」などと表現して、「テロリスト・ハマスが力づくでパレスチナを支配している」という誤った情報を流布してイスラエルのガザ虐殺を正当化しています

 ☆ 歪められたウクライナ戦争報道

 ウクライナ戦争でも、2023年1月8日、英・フィナンシャルタイムスが、沖縄の米海兵隊ジェームズ・ビアマン司令官の「ウクライナ戦争の成功は、2014年以来のウクライナ支援工作=セッティング・ザ・シアター(舞台づくり、軍事用語で“戦域作り”)によるもので、現在は中国との戦争に備え、日本との準備を備えている」という記事を出しました。
 この発言を報道した日本のメディアは、日経WEBと沖縄地元二紙以外見当たりません。
 この驚愕(きょうがく)すべきスクープ発言を、なぜ日本の多くのメディアが無視したのでしょうか?

 ロシアのウクライナ侵攻直後、テレビには「戦争だから日本は中立的立場を」「戦争の背景には、NATOの東方拡大戦略がある」などと発言する人も少数いましたが、その後、そのように言う人はメディアからは排除され、代わりに防衛省防衛研究所の職員などが連日戦況分析を行うなど、いつの時代の放送なのかと思わせる状況が続いています。
 その挙句、「ゼレンスキー頑張れ」コールが国会でも沸き起こりました。
 なぜ冷静な報道ができないのか?根底的には、日本の大手メディアが、NATOや日米安保体制を容認し、その節穴から世界情勢を見ていることに起因しているからだと思います。
 日本の大手メディアは、すでに「ゆでガエル」になっています。

 ☆ 「朝日新聞」の社論転換

 今年の5月3日の憲法記念日に、東京の有明防災公園で3万2千人の集会が開かれましたが、朝日新聞の扱いは目を疑うような小ささでした
 少し前でしたら、護憲、改憲両派の集会を大きく扱い、憲法記念日の意義を読者に考えさせる紙面にしていました。
 朝日の社論転換は、「吉田調書」問題(福一原発の故吉田昌郎元所長への政府事故調の調書報道の撤回)から始まっていますが、決定的だったのは、2022年12月の「安保三文書」の閣議決定報道でした。
 自民党政権は、安保三文書をつくる過程で、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」を何回も持ちます。これには経団連名誉会長や三菱重工会長などの他に、『読売』社長の山口寿一、『日経』元社長の喜多恒雄、『朝日』元主筆の船橋洋一が参加していました。
 山口は「敵基地攻撃のためには外国製ミサイルの購入を」、喜多は「軍拡の財源はひろく国民が負担すべき」と提言しました。船橋は、「南西諸島で、基地の日米共同使用を促進すべき」を提言しました。
 メディアのトップが、このような政府の委員会に堂々と参加していることに驚きますが、すでに退職していたとはいえ、一時は「リベラル朝日」の顔ともされていた船橋氏がここに参加していたことも驚きです。

 ☆ 「満州事変」の教訓

 「社論転換」といえば、朝日には戦前に大きな「前科」があります。
 朝日はある時期まで、満州への派兵に批判的で、軍縮論も新聞界の先頭に立って展開していて、在郷軍人会から不買運動を仕掛けられているほどでした。
 「満州事変」の3年前の張作霖爆殺事件(1928年6月4日)が起きた時、朝日は緒方竹虎が編集長格でした。緒方も各紙の記者も「恐らくこれはデッチあげ、謀略だろう」ととらえて、各社とも軍部が期待するような、大々的な取り上げはしなかったんです。
 そういう事態の反省から、小磯國昭陸軍省軍務局長は、満州事変の1ケ月前に各社の中枢を料亭に招待して、接待攻勢(世論工作)をかけるんです。
 そして小磯は満州「独立論」を言い、メディア関係者が乗り気でないのに対して「いや日本人は戦争が好きだから、火ぶたを切ってしまえばついてくるさ」と言ったそうです(「朝日新聞社史」)。
 また、陸軍参謀本部の今村均作戦課長は緒方と料亭で会談し、4時間熱弁をふるったところ、緒方は「わかった」と言い含められてしまった(NHKスペシャル「日本人はなぜ戦争に向かった」)。
 結局、朝日は戦争推進に社論を変えて、「満蒙は日本の生命線論」の鼓吹者になります。
 そして、号外は出すわ、映画作って上映するわと盛り上げました。国民は戦地の情報を知りたくて新聞も買う。朝日は経営危機から脱しました。

 ☆ 自民党のメディア戦略

 メディアが今日のような体(てい)たらくになった歴史を見ると、1993年の「椿発言」事件が大きな契機だったと思います。
 その年の7月の衆院総選挙で自民が過半数を割って野党になったとき、テレビ朝日報道局長の椿貞良氏が民放連の会合で「『報道ステーション』へ圧力をかける自民党を許すな。反自民の連立政権を成立させる手助けとなる報道をしよう」と発言しました。その発言で自民党はテレビ報道のために選挙に負けたとして、TBS・テレ朝や放送番組への規制強化にのり出しました。
 2016年には、政権に耳の痛い苦言を呈していた多くのキャスター、コメンテーターがテレビから姿を消しました。

 1997年、自民党の「歴史教育を考える若手議員の会(会長:中川昭一、事務局長:安倍晋三)」が発足、歴史修正主義の立場から、教科書や新聞・テレビ報道のチェックを始めました。
 そして、2001年、慰安婦問題を取り上げたNHK・ETV2001「問われる戦時性暴力」の番組批判をして「番組改変事件」になります。
 その時、安倍官房副長官(当時)は、「公平・公正にお願いしますね」と注文を付け、放送内容を変えさせました。それまでNHKは他局に比べて圧倒的に「慰安婦問題」を取り上げていたのですが、以後、一切番組では取り上げていません。
 安倍政権は、朝日とNHKを目の敵(かたき)にしていましたが、朝日を「吉田調書」問題で屈服させ、NHKはトップ人事に介入する戦略を取りました。
 そのことは森功さんの『国商最後のフィクサー葛西敬之』に詳しいですが、JR東海の葛西は中曽根内閣の国鉄分割民営化をやった後、安倍晋三を支援する財界人の会「四季の会」のメンバーを中心に、NHKの会長や経営委員長に送り込みました。
 また、経営委員会に百田尚樹や長谷川三千子などという札付きの右翼を送り込んだりしました。
 その過程で起きたのが2018年、かんぽ保険不正契約問題を取り上げた「クローズアップ現代+」への経営委員会の番組介入事件です。
 毎日新聞のスクープという形で発覚しましたが、介入の事実を示す委員会議事録の公開を求める訴訟を起こし、私も原告団に加わりました。今年2月20日、東京地裁は議事録音データの提出を命じる画期的判決を出しました。NHK側は控訴しましたが、控訴理由書の提出期限(4/19)を過ぎてもまだ提出していません。自民党政権によるNHK私物化に一定の打撃を与えることができたと思います。

 ☆ 「台湾有事」に扇動されるな

 「台湾有事」という用語がメディアに登場するようになるのは、2021年3月9日、デービットソン米インド太平洋軍司令官「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と発言してからです。
 2021年7月5日、麻生太郎が講演会で「台湾危機は日本の『存立危機事態』にあたる」と言い、2021年12月1日、故安倍元首相が台湾で「台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事である」と発言しました。
 中国は、台湾が「独立」に動かない限り介入しない(戦争しない)ことを国の政策としているので、「台湾有事」は、アメリカの「セッティング・シアター」戦略による世論誘導、日米同盟による中国を敵とした戦争策動です。自衛隊の「南西諸島配備」や軍拡はそのもとで推し進められています。
 5月3日の櫻井よしこら改憲派の集会で、与那国町の糸数健一町長は「日本は旧宗主国として、台湾に対する責任を放棄してはならない」「台湾という日本の生命線を死守できるかという瀬戸際にある」「中国と一戦を交える覚悟が全国民に問われているのではないか」などととんでもない発言をしています。
 こういう発言を取り込んで政府とメディアが「台湾有事」を煽れば、満州事変での朝日新聞の社論転換のようなことは簡単に起こりえます。

 今年1月の能登半島地震の際、NHKは自衛隊に対し、ヘリコプターでの人員・燃料の運搬を要請しました。要請の根拠は「我が国の報道機関で唯一の指定公共機関としての使命を果たすため」としています。NHKが戦前に「大本営放送局」であったことを想起させる事態です。
 沖縄の宮古・八重山諸島は、普段から報道拠点の少ないところですから、「台湾有事」の際、NHKが「指定公共機関」として自衛隊の協力(実は指揮下)で動くことは十分に予想できます
 また、今国会で経済安保保護法、地方自治法や土地規制法の改悪が強行されれば、軍需産業や基地問題への取材が、場合によっては罰則付きで制限される。ここはジャーナリズムにとっては重要な戦場になります。
 放送局や新聞社に所属する記者やディレクターの社内、社外での発言も難しくなってきている状況があります。しかし、ジャーナリストはさまざまな形での弾圧に屈せず、さまざまな形で闘っています。労働組合を強化すること、あるいは闘うジャーナリストのユニオン設立も構想されなければなりません。
 私たちのメディア監視活動も今のレベルを超えた視点が必要だと思いますし、ジャーナリストを支援し、ともに闘っていくことだと思います。(文責:事務局)

『百万人署名運動全国通信』(2000年6月1日)

 


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