クライマーズ・ハイ

・クライマーズ・ハイ　横山秀夫　（文藝春秋）

悠木和雅は群馬の地方新聞社・北関東新聞の記者であり、２児の父親である。悠木が同僚の安西と谷川岳衝立岩に登る予定だったその日、群馬と長野の県境で飛行機墜落事故が発生する―、そう―、世界最大の航空事故―御巣鷹山日航機墜落事故である。
たぶん日本人なら知らない人はいないであろう大事故と、この事故を追う墜落地―群馬の地方新聞社の人々を描く。これは、若き日の著者が上毛新聞の記者として御巣鷹山事故の現場を取材した経験をベースに作り上げたのであろう。よって、社内の覇権争い、事件へのアプローチ、記者の心境はリアリティーに溢れ、読む者の心を掴んで離さない。事故の悲惨さだけでなく、記者たちの心境の悲惨さも作品から伝わってくる。
悠木は事件と関わる中で、『人の命の重さ』について考える。マスコミに取り上げられる命、取り上げられない命―、重く扱われる命、軽く扱われる命―、人の命の重さは平等ではないことを―。だが、大切なことは他人の評価ではなく、自分が納得できるように生きること。人に自慢し評価されるために山に登るのではなく、自分のために、自分が納得できるところまで。目標に向かってがむしゃらに―、それがクライマーズ・ハイ状態。