福岡のむかし話/福岡県民話研究会編/日本標準/1983年
親の遺言の話。
子ガエルは、かあさんガエルのいうことを聞かず、いつも反対のことばかりしていました。
留守番を頼まれると外へ遊びに行きます。かあさんガエルが重い病気になって、冷たい水でからだをひやしたら、どんなに気持ちがいいだろうと、子ガエルに冷たい水でからだをふいてくれるよう頼むと、外で虫を取ろうと遊んでいた子ガエルが かあさんガエルのまくらもとにもってきたのは、なまぬるい水。
かあさんガエルの病気がだんだん重くなり、「ぼうや。おねがいだから、おかあさんが死んだら川にうめて頂戴ね。」というと、大きな息をひとつして死んでしまいました。いつも反対していた子ガエルは、せめて、おかあさんが死ぬときにいいつけたことだけは、望みどおりにしようと、川底に穴を掘ると、おかあさんの亡骸を埋めました。子ガエルは、やっとおかあさんの思い通りにできてほっとして、うれしくさえありました。
ところが梅雨になって川の水が増えると心配なことが持ち上がりました。川底に埋めたおかあさんの亡骸が、今にも流されるのではないか。いやもしかしたら、もう流れてしまっているのかもしれません。
子ガエルは、雨が降るたびに、おかあさんのことが心配になりました。子ガエルは、濁って勢いよく流れる川の水を見つめているうちに、はっと気がつきました。おかあさんは、本当は、山にうめてほしかったのではないかしら。ぼくが、いつも反対のことばかりするので、こんどもそのつもりで、「川にうめて」といったのにちがいない。そこまで考えた子ガエルは、取り返しをつかないことをしてしまったと、声をあげて泣きました。それ以来、へそまがりの子ガエルは、雨がふるたびに、おかあさんの亡骸がながされるのではないかと心配して、ゲコ、ゲコ、ゲコ グェッ グェッとなくようになりました。
「孝行したいときに親はなし」。思い当たることもありますね。