・銅のなべ(子どもに語る北欧の昔話/福井信子・湯沢朱美:編・訳/こぐま社/2001年)
いかにも昔話らしい話です。
昔は金持ちで大きな農場をもっていましましたが、夫に先立たれ不孝が続き息子と小作人小屋でほそぼそとくらしていた女がいました。
地主にも借金があり、明日返すようにいわれ、払えないなら小屋からでていくようにせまられ、息子に友だちからお金をかりてきてくれないか、と頼みます。
息子は友だちを訪ね歩きましたが、人にお金をかせるような友だちは、ひとりもいませんでした。
息子が、帰りの道をとぼとぼあるいて、川のところまでくると、小さなみすぼらしい男から川を渡る手伝いをしてくれないかと頼まれます。息子が男の手をとって石の上を歩かせ、ちゃんと向こう岸に渡してやると、男は小さな銅のなべをとりだし、お礼にあげるといいだします。うちには料理するものがなく鍋をもらってもしかたがないと息子が言うと、「そんなことは、心配しなくていい。かまどに少しでも火があれば、その上になべをかければいいんだ。そうすれば、役に立つなべだとわかるから」と、男にいわれなべをもちかえります。
息子が男の言ったことが本当かどうか試してみようと思い、なべの下に種火をおくと、なべが大声で「おいらの出番だ、でかけるぞ!」といいます。「それじゃ、おかゆを少しもってきておくれ。地主さんのかまどにのっているのをね」と、おっかさんがいうと、なべは台所の戸口から飛び出し、またすぐにもどってきました。中にはおかゆがいっぱい。
食べ物じゃなくても持ってこられるか知りたかった息子は、もういちど、なべの下に種火をおきました。なべが「おいらの出番だ、でかけるぞ!」と、さけぶと、息子は「地主さんの金庫から、うちの借金分の十ダーラーをもってきておくれ」と、いいました。なべがもどってきたときには、なべのそこにぴかぴかの銀貨が。
その後も必要なものが手に入ります。
けちな地主は、しょっちゅうお金をかぞえていましたが、金庫のお金が毎日少しづつなくなっているのに気がつきます。
地主がねむらずに番をして、金庫からお金をかき集めたなべの上に、どっかりとすわりこむと、なべは地主をのせたまま、煙突の上でとまります。
おろしてくれるようはげしくののしる地主に、息子はさまざまな要求をします。
ちょっとやりすぎな要求。地主の娘さんをよめに欲しいという要求まで。若い二人が結婚すると、なべは どこかへいってしまいます。
・まほうのつぼ(世界のメルヒェン図書館②/巨人シュットンペ=ピルト/小澤俊夫:編・訳/ぎょうせい/1981年)
昔話のでだしは、登場人物が貧しいということ。
貧しい夫婦が、唯一の財産であるめうしを売ることにしました。夫がめうしのかわりに、手に入れたのが、おじいさんのもっているつぼ。
おかみさんは、夫がつぼしか持って帰らなかったので、このろくでなし、まぬけといって、さんざんののしります。
小屋のすみっこにおかれたつぼが「では、わたしはいこうかな」としゃべるのを聞いたおかみさんは、どこにでもいってしまえと、どなります。
つぼが歩いて、近くの狩の館の台所口の前でとまります。きれいなつぼをみたコックたちは、つぼに肉やベーコンを詰め込みます。つぼはぎっしりつめこまれると「さあ、わたしはいくかな」と、また歩き出し貧しい夫婦のもとへ。ふたりはたらふく肉を食べ、何日も満足にくらしました。
ある晩、女房は「さあ、わたしは行くかな。」と、つぼが話すのをききました。「行ってきておくれ、行ってきておくれ。わたしたちのしあわせのつぼよ!」と、女房がいうと、つぼは、こんどは町の大ホールへ。銀の食器をみがく台所女たちは、美しいつぼをホールの中へ持ち込むと、銀の食器類をみんなそのつぼのなかにいれます。それから「さあ、わたしは行こうかな。」というと、また貧しい夫婦のもとへ。
それからというもの、つぼは長い間、二人の家にいました。
ところがある晩「さあ、わたしは行こうかな」と、でかけたのは王さまの部屋でした。ダンスを楽しんでいた王さまが部屋に戻って見慣れないつぼを見て、トイレ用のつぼと思います。王さまがつぼに腰掛けると、つぼは王さまをのせたまま夫婦のもとへ。
王さまは「きょうの奇妙な訪問のことは、だれにもいわないでおくれ。そうすれば、お前たちに、新しく美しい家をたててあげよう」と、ふたりに約束し、二人はそのとおりに、美しい家を手にいれます。
ところで、まほうのつぼ どうなったでしょう。王さまを連れ帰ったとき、つぼは割れて小さなかけらに なってしまったのです。
鍋も壺も擬人化されているのは共通です。壺は食物の保存だけでなく、トイレとしても利用されていたのでしょう。
魔法の力をもつものが、いつまでも存在するのは気になりますが、鍋も壺もなくなる最後は、ほっとします。