どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ジプシーの杯

2017年03月29日 | 創作(外国)

     ジプシーの杯/風の妖精たち/メアリ・ド・モーガン・作 矢川澄子・訳/岩波少年文庫/1979年初版


 メアリの作品は作者の没後、長らく埋もれていたが、再評価されはじめたと1979年の矢川さんのあとがきにありました。

 「ジプシーの杯」は、語ることができたら楽しそうですが、文庫本でページ数が54ページ。時間は90分以上かかりそうです。
 創作のほとんどは、語られるのを前提にしていないので無理もないのですが、60分ほどの話も聞いたことがありますから、あながちダメということでもないと思うのですが・・・・。

 注文があればどんな型の鍋でも土瓶でも作らぬものはなかった一人の若い陶工が、街道端に轆轤をすえて仕事していると、ひとりの若いジプシーの娘がやってきます。
 じっと陶工の仕事をみていた娘が、おまじないのかかった杯をこしらえてあげたいといいだします。
 娘は、轆轤を借りて、陶工の目の前で、手際よく水差しや鉢のジョッキを作っていました。

 「平凡で色柄も地味だけど、あんたがさきにその杯でのんで、それから恋人にものませてやれば、恋人のこころはすっきりあんたのものになるのよ。でも気をつけて、その女に二度とはのませないようにしてね。一度目は恋するためだけど、二度目にのんだらこんどは相手を憎むようになるんだから」
と、ばら色のくちびるを杯にふれんばかりに近かづけて、なにごとかをささやきながら、せっせせっせと轆轤を動かしつづけます。

 祭りの市で陶工が娘のつくった作品をじぶんのものといっしょに露台にならべると、これまでにない高い値段で売れ、何か月もかかっても稼ぎきれないほどの儲けでした。

 ジプシーの娘は姿を消してしまいます。

 このジプシーの娘は、やがて陶工の妻のところに、小さい男の子をつれて、ひもじくて死にそうなので、なにか食べ物を恵んでもらえないかとやってきます。しかし、これは後半です。

やがて、陶工は、祭りの市で糸つむ車で機を織る娘に恋します。しかし娘は一年後の祭りのときに返事をさしあげたいといいます。
 一年後、陶工は例の杯で娘にワインを飲ませます。するとジプシーの娘がいったとおり、陶工の妻になることを承諾します。
 そのご二人は楽しく暮らし、やがて子どももうまれます。
 杯は棚の上におかれていました。

 妻が赤んぼと留守番していると、ひとりの色黒の荒くれ風体の人相がやってきます。この男は後半で明らかになるのですが、ジプシー娘の亭主でした。
 杯の秘密を知る男は、なんとか例の杯で、陶工の妻に酒を飲ませ、杯を取り上げます。

 二度目に杯から飲んだ陶工の妻は、つまらぬ結婚をしてしまったと後悔し、夫がかえっても、くるりと背をむけ、ふれてはいやといいます。妻が不機嫌になり怒ったりするのを見たことがなかった陶工は、杯がなくなっていることにきがつき、その原因に思い当ります。
 陶工は杯を持ち去った男を捜す出すため、家をでます。

 妻は、夫を見ないですむと思うとうれしくてたまらず、しばらくは赤んぼと楽しく暮らしますが、次第に貯えが底をつき、昔使った織り機で布を織り上げます。

 そこにジプシーの娘が小さい子を連れてやってきます。病気でした。
 ジプシーの女は杯のことを知ると、ひどい亭主が杯をもっていたのにきがつきます。明日の晩にも死ぬかもしれないと心配するジプシーの女に、あとことは心配しないでと陶工の妻は話します。
ジプシーの女は、死ぬ前に最後の力を振り絞って、小さな茶色の杯を作り上げ、陶工の妻がこの杯で水をのむと、夫のことを思い出します。

 夫のことを思い出し、もとのように愛していることを告げるにも、夫はどこにいるかもしれません。

 また貧乏に追い込まれた妻ですが、ジプシー女の残した男の子の機転に助けられ、わらマットを織り、何とか暮らしていけるようになります。わらマットの模様はきまって杯のかたちになってしまいます。

 ジプシーの男の子は、陶工の妻にいいます。
 「あんた、会う人ごとに言伝するんだ。空の鳥にも、野のけものにもだよ。なにか遠くへ知らせたいときにはそうしろって、母さんに教わったんだ。風によびかけ、砂にも記し、地面にも、木々の葉っぱにも。万一とどくことがあるかもしれないからね。どうしてマットにそのことを織り込まないの?マットを買った人たちはあちこちに持っていくだろ。もしそれが旦那さんの目にとまれば、あんたが帰ってきてもらいたがっていることがわかるじゃないか」

 陶工の妻は、そこでじぶんの思いをマットに短い詩を織り込みます。
     ジプシーの杯により、わたしは愛し
     ジプシーの杯により、わたしは憎んだ
     ふたたび愛の杯は 与えられたものの
     時すでにおそく 恋人はもどらない

 やがて、再会をはたす二人ですが・・・・。

 ジプシーの女は魔法の杯を作れるのに、自分の運命はコントロールできず、つまらない男に引っかかってしまいますが、他人のことはよくみえています。
 月のひかりを手のひらにうけて陶器をつくるようにみえるジプシーの女にとって、陶器をつくり生活の糧にもできそうですが、自分の思いを陶工に重ねていたのでしょうか。

 ジプシーの女が残していった男の子も不思議な存在。
 わらを手に入れ、それでマットを織るようにすすめ、陶工の妻を励まし、思いを表現する手助けもします。

 「矢車菊の花みたいなまっさおな眼で、金色の唐黍粒みたいな金髪をした愛くるしい女」とは、陶工の妻の表現です。


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