大人と子どものための世界のむかし話16 アラブのむかし話/池田修・康君子・編訳/偕成社/1991年初版
タイトルはややもの足りませんが、昔話のいろいろな要素が盛り込まれている話。
貧しいお百姓の三人兄弟。
自分の力で生きていくよう父親からいわれて三人兄弟は旅にでます。
一番上の息子はアルシャドといい、からだは大きく、赤ら顔で心やさしい少年。
真ん中の息子は、やせて、黄色い顔をしており、妬み深く、いじわる、下の息子はアスアドといい、色白で背が低く、たいそう小柄で、あだなが<みじかいしっぽ>。
三人兄弟で末の子が主役だと、上の二人は悪役ですが、これでは真ん中の兄が一人悪役という損な役割です。
王さまの宮殿では、水の出る井戸がなく、たいそう苦労しており、さらに宮殿の庭には大木が葉を繁らせ、宮殿には日があたらなくなっていました。
王さまはおふれをだしますが、深い井戸を掘って、一年中十分な水を得られるようにできる者はひとりもありませんでした。
大木を切り倒そうにも、幹に斧を打ち込むたびに、斧がはじきかえされ、ようやく枝を一本切り落としてもすぐに切り口から二本の枝がはえてきます。
王さまは、大木をたおし、井戸を掘ることができた者には姫君と結婚させ、王国の半分をあたえるとのおふれをだします。
三人兄弟も運試しをしようとでかけるのですが、途中、上の二人が気にもしないことを<みじかいしっぽ>は突き詰めて、ひとりでに上がったり下がったりして木を切り倒す斧、ひとりでに動くつるはし、ひとりでに水を湧き出させているクルミのからを手に入れます。
この三つがあれば成功したようなもの。兄たちは問題を解決できないため両耳を切りおとされてしまいますが、<みじかいしっぽ>は、大木を切りおとし、さらにつるはしで井戸を掘り、クルミのからから水があふれ出ます。
ここで、すぐに姫君と結婚というわけではなく、そこまでいくにはさらにさらに話が展開していきます。
二番目の兄の策略で、牛をまるごと飲み込む巨人を忠実な召使にするという課題がだされます。
この巨人との駆け引きで一つの話ができそうです。
森中の木を全部きりたおされそうになって、あわてた巨人は台無しにしないでくれと<みじかいしっぽ>に頼み込みます。
<みじかいしっぽ>は、チーズのかたまりをたべ、石を食べているようにみせかけます。
さらに、おきまりのとおり、力比べ、大食い競争があります。
大食い競争では、皮袋をチョッキの下にかくし、食べものを袋のなかに、なげこみ、皮袋を切りひらいて食べたものを床にまき散らし、同じようにやってくれというと、巨人は恐れ入って、召使になることを申し出ます。
他の話では、巨人が主人公とおなじことをやって、死んでしまうという終わり方ですが、死なないところがこの話のよさでしょうか。
チーズを石といって、握りつぶす場面もよくあるパターンです。
これでもおわりでなく、結婚に慎重な姫君との知恵くらべがあります。
この姫君、王さまから言われて、すぐに”はい”と承諾するのではなく、自分のやりかたで、自分の権利を守らせてくださいと申し出るあたりが新鮮です。
自動的に木を切り倒したり、土を掘り起こすつるはしだけでは、確かに<みじかいしっぽ>の人柄を判断するというのは難しかったかもしれません。
かるく1時間はこえそうですが、昔話をよく聞いている人だったら、先の展開も予想できるので時間を感じないのではないでしょうか。
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