子どもに贈る昔ばなし19/小澤俊夫・監修/小澤昔ばなし研究所/2023年
秋になって、猫の手もかりたいぐらい村じゅうが忙しくなりましたが、う五郎さんは、仕事もせずぶらぶら。早く手伝いをたのまないと手が足りなくなるよといわれても平気。
村の人の稲刈りがほとんど終わったある日の夕方、う五郎さんは、となりの人へ、「うちは明日稲刈りをするからな」といいました。となりの人は、そのとなりの人へ、この話はあっというまに村じゅうに広がりました。翌日、おおぜいの人がう五郎さんの家に、集まりました。とにかく、おおぜいの人で稲刈りはどんどんはかどりました。おおぜいの人が集まってきたのは、う五郎さんは、稲刈りの手伝いをしてくれたら、おいいしいご馳走を出すと公言していたのです。
昼頃になって、う五郎さんの家からおいいしいにおいがしてきました。そのころ、稲刈りはほとんど終わっていましたが、う五郎さんは、「昼飯にしてもいいのだが、昼飯を食べて、また稲刈りというのもたいへんだろう。ちょっとおそくなるけど、昼飯前にぜんぶがんばってくれないか」といいました。みんなも、それはそうだと思い、一息に刈り上げてしまいます。
手伝いの人が、いよいよご馳走が出るとわくわくしていると、う五郎さんは、「家が狭いので、一列に並んで、順番に入ってくれ」と、言います。だされたものは、いりこのしょゆ味のにぎりめしとたくあんだけ。ご馳走と聞いて、朝めしや前のばんめしをぬいた者もいて、昼めしもぬいていたので、だまされたと思いながら食べてみると、そのうまいことうまいこと。さらに順番を待っている人から、はやくはやくとせかされ、外に出たときは、<うまかった>という気持ちだけでした。入り口と出口がちがうので、ごちそうの中身がわからず、う五郎さんに騙されたことにはらをたてましたが、「ひもじいときにまずいものはない、だろう」という、う五郎さんの言葉にまちがいはありませんでした。
う五郎さん、つぎの年、「二匹目のどじょう」を ねらったのか、別の方法を考えたのか?。