世界のメルヒエン図書館5 火の馬/小澤俊夫:編訳/ぎょうせい/1981年
羊飼いのチェミド・チュジンは、ふとしたことで主人公から追い出されて、足の向くまま旅に出ます。
チェミド・チュジンは力比べして誰にもまけたことのない男でした。
森の中で眠り込んでいると、夢のなかに真っ白いながいひげを長く伸ばしたおじいさんがあらわれて、「おまえがいまやすんでいる木の下には鉄の扉がある。その扉は地下の部屋に通じていて、そこには百四年雨から魔法の馬が並んでいて、自分にのる男をまちのぞんでいる。その馬にのりなさい。お前は本当の英雄になれる。そして、まずしいものをたすけてやりなさい。悪いものを罰し、よくばりな金持ちたちをこらしめておやり!」といいます。
地下には雪のような白い馬がいて、くらには英雄の使う武器がぶらさげられていました。
馬を走らせていると灰色の馬に乗っているサギブ・アリと黒い馬に乗っているムハメド・ケリムという騎士に会います。
三人いれば力を合わせて、難題に立ち向かうかとおもっていると、三方にわかれている道で、別々の道をすすんでいきます。
はじめはトルコで、あらゆる国の英雄が集まって、わざをきそい、その中で一番強いものに大王が王女をよめにくださるというので、トルコにむかっていたのですが、三人きそっておたがいになぐりあいになるのをさけようとしたのです。
サギブ・アリもムハメド・ケリムもなかなかの人物で、弱い人やこまっている人を助けながら旅をつづけていたのですが、木にしばられていたむすめに姿をかえていたヘビに、のみこまれてしまいます。
一方サチェミド・チュジンは、やはり白くて長いひげをはやしたおじいさんにいわれて、トルコではなくキルギス人の皇帝サミグルとたたかうことにします。
皇帝サミグルは、あらゆるねがいごとがかなう魔法の石をもっているというのです。
このサミグルのテントのまわりには、切り落とされたおおくの人間の首がつきささっていました。
テントの中にはひとりのとしとったおばあさんがいて、サミグルがかえってきたとき、魔法の石のありかをききだすことができました。
魔法の石は金の刀の柄のさきにうめこまれていました。
サミグルが眠り込んでいるとき、チェミド・チュジンは、壁にかかっている刀をうばうと、大声でさけびます。
あまり時間をかけず、チェミド・チュジンはサミグルをたおしてしまいます。
そして、三年後の再開を約束していた、あのふたりの親友もたすけだします。
冒険と友情だけでなく、三人が勇敢で、心やさしい人間としてえがかれています。
バシュキール族というのは、主としてロシア連邦のバシコルトスタン共和国に居住するテュルク系民族で、1989年のデータで、ソ連領内に144万9千人が居住していたとありました。また主要宗教はイスラム教スンニー派のようです。