観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

となりのタヌキ

2012-12-24 00:48:21 | 12
4年 大貫彩絵

 「トトロの森みたいだね。」
 先日、自分の家周辺の航空写真を見ていたら、友達にそう声をかけられた。それを聞いて、思わず笑ってしまった。わが家は山に囲まれている。前も後ろも横も山である。幼稚園の頃から今の場所に住んでいるが、あの頃から私は周りの山を見ながら「この山には絶対トトロがいる」と思っていた。あの時はとても強い確信があった。そのことを思い出すような一言だった。
 昔から、家の周りの山ではよく遊んでいた。一人でドングリを拾い集めたり、家の人に連れられて少し奥の方まで散歩をしたりしていた。小学校までは友達とも探検をしたりしたが、中学や高校に上がるにつれて、あまり山へは行かなくなった。しかし最近、私は山に通っている。特に何か目的があるわけではない。ただ、「癒し」を求めているだけ。一人でフラッと山に入り、山の奥にある神社で佇む。そうやって自然の中に身を置くと、自分も山の一部になったような気持ちになり、なんとなく満たされる。山には野鳥はいるが、そのほかには野良猫の友達に会う程度で、他の獣に会うことはなかった。
 だがこの間、私は衝撃的な出会いをした。それはいつものように山をフラフラして、友達と戯れていたときだった。ふと何気なく小道を見たら、ひどい寝不足のような顔で、そいつはそこにいた。友達も私と一緒にそいつを見た。一瞬の沈黙。その沈黙を破ったのは私の
「タヌキだ!!」
という素っ頓狂な声だった。
 家に帰って「タヌキに会った」と家族に報告しても、信じてもらえない。祖母には長年ここに住んでいるが見たことがないと言われる。そこまで言われると、私の見間違いだったのではないかとさえ思えてくる。いや、あの顔は確かにタヌキだと思うのだが。
 二回目に会ったとき、やっと確信が持てた。あれはタヌキだ。初めて会ったのは夏で、時間は夕方の五時半過ぎのことだった。二回目は秋で、五時十五分ごろ。会う時間が早くなってきている。最近は五時少し前、丸々太った子に会うようになった。彼らは腕時計をしているわけではない、太陽を見て生活しているのだと実感した。
 きっと彼らは昔からこの山にいて、彼らのペースで暮らしていたのだろう。私たちが気づかなかっただけで、あの有名なトトロの歌のように「森の中に昔から住んで」いたのだろう。そう考えると、幼き日の私のあの確信はあながち間違っていなかったのかもしれない。そんなことを一人思いつつ、私は今日も山に通う。

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