観察 Observation

研究室メンバーによる自然についてのエッセー

ユニコーンが教えてくれたこと

2012-12-01 02:07:26 | 12
修士2年 大津綾乃

 野生動物学研究室は、国内外の野生動物を対象に科学的な目線から起こっている現象についてアプローチする研究室ですが、今回は少し、その対象動物をファンタジーな生き物に変えてお話ししたいと思います。
 私は昔からウマが好きだったので、研究室ではタヒ(モウコノウマ)というモンゴルに生息している野生馬について研究しています。しかし現実に存在している動物と同じくらい、小さなころから絵画や伝説の中に登場する想像上の動物に惹かれていたものでした。想像上の動物と言っても、神や悪の化身とされるドラゴンやウマに翼の生えたペガサスなどさまざまですが、中でも一角獣(ユニコーン)には強く惹かれるものがありました。ユニコーンは文字の通り、1本の角が額に生えたウマに似た動物とされており、さまざまな絵画の中でモチーフとなっています。もともとウマが好きだったし、角が生えていて幻想的なので幼心にとても興味を持ちました。それから成長して大学生になっても10年以上、「ユニコーンはウマに角が生えた想像上の生き物」という認識は変わることはありませんでした。もちろん大学では、毎日実際に生きている動物の様々な知識を勉強していました。座学や解剖の実習などを通して、動物の形態などについても少しずつ知識を深めていきました。
 そんなあるとき、ふと、絵画に描かれたユニコーンに違和感を覚えました。ユニコーンはウマに似た動物とされていますが、絵画によっては、顔つきはウマに似ているのにその特徴がウマのものとは明らかに異なっているのです。まずはあごひげです。ウマではあまり発達していないと思われるあごひげがヤギのように生えています。次に尾です。尾はウマのようなふさふさの毛で描かれることは少なく、獅子のような形をしています。極めつけは蹄です。ウマは奇蹄目であり蹄は分かれずに1つです。しかし、モチーフの中のユニコーンはほとんどのもので蹄が2つに分かれていたのです。この事実に気づいたとき、もしかして、ユニコーンはウマではなく、ヤギなどの偶蹄目なのでは!と大きな衝撃を受けました。
 このことに気づいた時には衝撃が大きかったのですが、今では、ユニコーンは想像上の生き物だからいろいろな動物の特徴があってもいいじゃない、と逆にそのちぐはぐ感がユニコーンという動物をますます魅力的にしているのだと感じるようになりました。
 その後、少し調べてみると、横から見たときに角が1本に見えることから、偶蹄目であるアラビアオリックスがユニコーンのモチーフであるという説もありました。小さなころは、奇蹄目・偶蹄目の概念を知らなかったため、ユニコーンはウマに似た動物であるということを疑うことなく信じきっていました。しかし、大きくなり、知識を身につけて、今まで当然そうだと思っていたことについて改めて考え、疑問を持つという機会を得ました。
 同じものを同じ人が見るのに、その時々で捉え方が変わることはとても不思議で、でもとてもおもしろいとも感じました。このことは何もこの例だけに言えることではなく、あらゆることについても言えるのだと思います。

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