診療報酬改定で激変する病院、勤務医にも大きな影響
――ASK梓診療報酬研究所所長 中林梓氏に聞く (聞き手:土田絢子=日経メディカル)
日経メディカルOnline 2014年8月21日 記者リポート
2014年度診療報酬改定から4カ月。急性期病床の絞り込みを図り、その「受け皿」を拡大させるための大掛かりな仕掛けが盛り込まれたこの改定で、現場にどのような影響が出ているのか。現時点の影響度と今後の見通しを、診療報酬制度に詳しいASK梓診療報酬研究所所長の中林梓氏に語ってもらった。
──2014年度診療報酬改定は、前回に引き続き看護配置7対1病床の絞り込みが大きなテーマとなりました。病床機能の再編に向けた病院の動きをどう見ていますか。
今多くの病院が、7対1一般病棟入院基本料の要件厳格化などの経過措置期間が終了する9月末を見据えてシミュレーションを重ね、機能再編の準備をしているところです。今後の方向性がはっきりしていて「7対1を10対1に変えよう」などと決めている病院は経過措置の終了を待たずに転換していますが、シミュレーション中の病院の方が圧倒的に多いです。
というのも、10月にスタートする病床機能報告制度が絡みますので、点数だけを見ていても機能再編はできません。地域の医療提供体制や人口、患者ニーズを踏まえて、自院の立ち位置を考慮する必要があります。地域の他院の動きもチェックしつつの再編となります(病床機能報告制度については7月24日NEWSを参照)。
──7対1病棟は維持したいと希望する病院が多いのでしょうか。
本音を言えば「急性期に残れるものなら残りたい」でしょう。ベッド数を減らすなど何とかして7対1病棟を守ろうとする病院も多いと思います。しかし、それで今改定は乗り切れても、次期改定でひずみが出るかもしれません。7対1病床の削減が期待したほど進まなければ、厚生労働省は次期改定でさらなる絞り込み策を実施するでしょうから。
これから2025年にかけて高齢者数が激増します。高齢化率の高い地域で急性期を担う病院が幾つも必要かどうかはやっぱり考えなくてはなりません。過剰な機能を減らして足りない機能を補うべく再編することは必然的な流れです。
現実的には、7対1病棟から10対1病棟、または地域包括ケア病棟に転換する病院が多いでしょう。具体的には、7対1病棟から、(1)一部を地域包括ケア病棟にして7対1病棟を維持する、(2)10対1病棟と地域包括ケア病棟にする──という再編パターンが多いと考えています。
結果的に、今後、2018年の診療報酬・介護報酬同時改定にかけて、病院は激変していくと考えています。在宅復帰の徹底や大病院の外来縮小によって患者の流れも変わります。病院で勤務する医師にも大きな影響があります。機能再編によって医師の働き方が変わるでしょうし、適職を求めて転職も増えるでしょう。診療報酬改定は、もはや点数の上げ下げでは語れなくなりました。改定で、医療施設、患者、医療従事者を動かそうとする傾向はより強まっています。
──2014年度改定では「在宅復帰率」が急性期~慢性期の全ステージで要件または評価指標として導入されたのも特徴的ですね。
7対1入院基本料の要件に在宅復帰率の考え方が入ったのは特に大きなポイントです。「自宅等退院患者割合75%以上」とされました。これは病床機能再編にも影響します。
「75%」の基準を1回でも満たさなければ7対1入院基本料を算定できないとされました。多くの7対1病棟は現状でも「75%」の基準をクリアしているのですが、「基準を満たさないことが1回でもあるとダメ」と言われると浮き足立ちます。退院先の管理には力を入れるはずです。
──7対1病棟からの退院患者を受けている病院はどうでしょうか。
最も影響を受けるのは、10対1病棟や13対1病棟、在宅復帰機能強化加算を算定しない療養病棟、有床診療所です。在宅復帰先の要件である「自宅等」にこれらの施設は含まれないので、7対1からの退院患者を受けられなくなる可能性があります。そうすると経営的なダメージが大きいので、地域包括ケア病棟の設置などを考えなくてはなりません。既に地域包括ケア病床の運用を開始した10対1の中小病院もあります。療養病棟も同様です。在宅復帰機能強化加算の算定などを検討する必要に迫られます。
ちなみに、療養病棟の在宅復帰機能強化加算は画期的で、「在宅に退院した1カ月以上の入院患者の割合が50%以上」とされました。例えば1カ月入院して、1カ月在宅で療養するというケースが認められる。厚労省の前保険局医療課長である宇都宮啓氏はこれを「時々在宅」と呼んでいました。家族の負担を軽減し、介護を続けられるよう考えた施策です。
──救急医療に関しては、集中治療室(ICU)の施設基準を満たして救急患者を受け入れている病院を評価する「特定集中治療室管理料」に上位ランク(入院7日以内で1万3650点、8日以上14日以内で1万2126点)が設けられました。
今改定では、急性期病床の中での機能分化を誘導する傾向が強まったと感じています。病床機能報告制度では、急性期医療の区分として「高度急性期」と「急性期」があり、それぞれにふさわしい医療の内容を明確にしたのです。高度急性期を狙う病院は、上位ランクの特定集中治療室管理料を取りにいくでしょう。
特定集中治療室管理料の下位ランク(入院7日以内で9361点、入院8日以上14日以内で7837点)でも患者の重症度、医療・看護必要度の要件を厳格化しました。「A項目3点以上かつB項目3点以上の患者が8割以上」の要件を満たさなくてはなりません。
患者データを取りながらICUの下位ランクの要件がクリアできるか検討している急性期病院は多いはずです。要件がクリアできなければICUからハイケアユニット(HCU)への転換が選択肢となります。
──外来医療への影響で注目すべきポイントとは?
200床未満の病院と診療所を対象とした地域包括診療料が新設されました。地域包括診療料と同加算、いわゆる主治医点数は、在宅医療への関与を必須としたことがポイントです。厚労省は、在宅医療を主治医の必須条件としたのです。また診療所は、中小病院が「主治医」機能に関して地域で競合する可能性があることも考えておかなくてはなりません。
大病院に対しては、外来縮小への誘導を強めました。特定機能病院と許可病床500床以上の病院(一般病床が200床未満は除く)に対して紹介率と逆紹介率の基準を設け、基準に達しなければ初診料や外来診療料が下げられます。さらに、30日分以上の投薬の処方料や薬剤料などが40%減額になります。
大病院から逆紹介された外来患者を中小病院や診療所にしっかり診てほしいから地域包括診療料や地域包括診療加算を新設したわけです。中小病院や診療所が増患を考えているなら、近くに大病院があればチャンスです。そこからの外来患者を受け入れるべきです。
今回は500床以上の大病院に限った外来縮小でしたが、次期改定ではこれが400床以上などに拡大される可能性も高いとみています。500床未満であっても比較的規模の大きい病院であれば、今のうちに外来縮小に向けた対策を考えておくことが不可欠ですし、その周辺の中小病院や診療所は外来患者を受け入れる可能性を考えておくとよいと思います。
──医師の働き方はどう変わりますか。
病院の機能再編や在宅復帰強化の動きは、医師の業務フローを変えるでしょう。できるだけ患者が早く退院できるようチームでの管理を徹底しなくてはなりません。
また急性期志向の医師なら、勤めている病院が7対1病棟を縮小して地域包括ケア病棟に転換すれば違う急性期病院への転職を考えるケースも出てくるはずです。後々開業を考えている医師は、急性期病院よりも地域に密着している地域包括ケア病棟のある病院に転職する動きが出てくることも考えられます。自らのキャリアの方向性に合う診療機能の勤務先を求めて、転職するケースが増えると考えています。
ただ私は、医師の動きが本格化するのは今ではなくて2年後以降だと思っています。ここ2年間は医療の内容をそれほど変えずに頑張る病院が少なくないと考えているからです。2018年の診療報酬・介護報酬同時改定までに厚労省は、病床の機能分化に向けた政策誘導を強めるでしょうから、2016年改定から2018年改定までの時期に大きな変化が生じ、医師や看護師が、自身に適した所属先を求めて転職する動きも活発化するでしょう。(談)