白洲 正子文学逍遥記

故・白洲正子様の執筆された作品を読み、その読後感と併せて能楽と能面、仏像と仏像彫刻、日本人形、日本伝統美術についてご紹介

「白洲正子文学逍遙記ー十一面観音巡礼」編ー再開12

2016-01-23 | 日本の伝統芸術

 

白洲正子文学逍遥記

 

十一面観音巡礼」編 

 

紀伊三井寺-01

 

 

 

 

十一面観音巡礼も第二番紀伊三井寺に至りまして、

最後の巡礼の札所のお寺となりました。

 

古くからの仏閣や最近建立された仏閣が混在している風景

 

本来ならば那智の青岸渡寺から延々と続く遍路道を辿って至る第二番のお寺

「十一面観音巡礼」では何故か結番となってしまった。

 

 三井寺と聴くと通常二つの寺をすぐ連想する。

滋賀県の園城寺・三井寺と紀伊和歌山県の紀伊三井寺。

何方もつとに有名である。

 

園城寺・三井寺

 

 

琵琶湖の傍にある三井の晩鐘・鐘の音と井戸で有名なお寺でもある。

 

 筆者は近くに住んでいたから、ちょくちょくお邪魔していた懐かしい仏閣であった。京都や大阪や近在の方は訪れるのに交通の便が良い。庶民に親しまれている。これからご案内の紀伊三井寺とは三個の水・霊泉の由来がある寺でも有名である。

園城寺の方は天智・天武・持統天皇の三帝の誕生の際の産湯に用いられた霊泉から、「御井の寺」の由来である。現在、金堂西側にある「閼伽井屋」から流れている湧き水・御井がそれである。

それに引き換え紀伊・三井寺のそれは、「清浄水・楊柳水・吉祥水」の三カ所の井戸が現実に存在する。いずれにしても水=十一面観音菩薩と縁が有ることになる。園城寺・三井寺のご本尊は弥勒菩薩であり、紀伊三井寺のご本尊は十一面観音菩薩である。

園城寺・三井寺--天台宗中興の名僧・智証大師・円珍に由来する名刹である。円珍没後門流の対立が激化し、円珍門下は園城寺・三井寺、円仁門下は延暦寺となって、寺門と山門に分かれた由来がある。滋賀県下にはどちらかの由来の名刹が数多い。

 

 紀伊・三井寺の長い石段・結縁の坂

 

紀伊国屋文左衛門のゆかりの結縁の階段として有名

 

桜の季節となると、全国から西国三十三カ所巡礼の人達が集まる。 

もうすぐ紀州にも桜が咲く季節。

 

 

 

 

護国院 

 

 

紀伊・三井寺は通称で「紀三井山金剛宝寺護国院 」が正式名称。

紀伊・三井寺は以前、真言宗山階派の寺院であったが、昭和26年に救世観音派の総本山となった。往古には天台宗と真言宗に三井寺有りという時期も有ったことになる。西暦・770年創建の寺である。

 

 御本尊は十一面観音菩である。同時に千手千眼観音菩薩像も有名である。

 50年間秘仏の諸仏である。まさに拝観は一生に一回のチャンスである。

 

秘仏・50年に一度開扉
大光明殿内安置

 

国指定重要文化財 

  

 

紀伊・三井寺には十一面観音像が2体ある。二佛とも拝見はしたことはないが、像高が同じようであるから、同時代同工房の作であろう。千手千限観音の造りから見ても相当の作品である。 

 

道成寺

 

いよいよ最後の寺訪問となった。

 

 三重塔

 

 道成寺と聞けば反射的に娘道成寺・・般若となるほどの有名なお寺。

「十一面観音巡礼」も最後の寺はこの道成寺である。

 

 道成寺・山門と石段

 

 本堂

 

 

千手千眼観世音菩薩と脇佛(日光・月光菩薩)

 

AD800~850 年頃の作とされている。宝佛殿の内部本尊であり、

周りには名作の仏像が取り巻いている。

 

千手千眼観世音菩薩 

 

 一見して素晴らしい十一面式千手千眼観音菩薩である。

ヒノキの一木造で、頭体幹部から台座の蓮肉までを共木としている。

興福寺・千手千眼観音と並ぶ名品である。

 

千手千眼観世音菩薩

 

 44の手を持たれる千手観音菩薩。像のバランスや尊顔でその作品の素晴らしさが一目でわかる名作。

気品のある当代一流の仏師集団の造像であることが解る。

 

 

 

                    本堂厨子の重文・千手観音立像 

本堂の重文・千手観音立像

 

表の千手千眼観音菩薩の裏側にある、北面に向いて祀ってある千手千眼観音菩薩がこの仏像である。

もともと胎内佛として製作されていた仏像である。観音が南北に背中合わせになっている珍しい形である。

手観音・・本堂の裏側には北向観音と呼ばれる33年に一度の秘仏の鞘仏・千手観音像(室町時代作)が安置されているが、この室町時代の木彫像の胎内から破損した奈良時代の千手観音像が発見された。本堂厨子に安置されている千手観音像が破損した胎内仏を修復・補修した仏像である。・・「十一面観音巡礼」では、<47年に一度の開帳>と記載されているが、これは33年の間違いであろう。

 

興福寺                 

     

 興福寺の食堂にあった十一面式千手千眼観世音菩薩である。

素晴らしい逸品である。お近くの方は是非ご覧いただきたい。

 

 

 能・道成寺

 

いよいよ大詰めのところまで来た。能の「道成寺」で余りにも有名な安珍・清姫伝説である。

恐らく著者が書いているような、実際有った話が基礎になって出来上がってきた話であろう。

女が嫉妬に狂うと「生成」から「般若」に変化していく。それが能面として打たれている。

能面の髪の生え際の書き方(毛書き)は、明らかに女である。

般若 

 

生成は未だ人間の情念を有しているが、般若は中成といって獣じみている。

 

生成            般若 

      

 

生成→中成→本成(真蛇) 

真蛇 

 

 

河内 家重作(江戸時代の名人) 「般若」 

 

 

 能の専門家らしく「十一面観音巡礼」も<能面>で終わったようである。

次回は総集編として「最終回」といたしたい。

2月からは読売文学賞受賞の「かくれ里」に入って行きたい。

 

 

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