崖っぷちロー

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「狼と西洋文明」読了

2009-05-07 00:33:45 | 小説・本
クロード・カトリーヌ ラガッシュ , ジル ラガッシュ著, 高橋正男訳 「狼と西洋文明」(八坂書房、1989)を読んでみた。

amazonnのカスタマーレビューで適切に紹介されているように、
西洋(フランス)と狼の関係について広く書かれたもの。
西洋社会から見た狼のイメージや伝承、狼による被害、狼と人間の戦いなどなど。

数多くの言い伝えやエピソード、書物や新聞・公文書等を参照しており、
非常に細かい部分まで調べられている。

読み物としても、また、資料としても、大変興味深いものとなっている。


***
本書では、第六章「狼を殺せ」で、狼狩りの制度や方法などを紹介した後、
第七章「狼の復権」、第八章「狼は復帰するか」で狼のイメージに対する変化や
ほとんど全滅に近い状態の狼の保護などについても触れている。

ここで筆者は、狼と友情の絆で結ばれるにいたる人間が登場する「青少年向けの最近の作品」についても言及し、
「狼を理想化してしまう」ような「この種の物語は狼を復権させることはできない」と言う。
それは、犬と人間との間に結ばれるような友情が、
あたかも狼と人間との間にも成立するかのように描いてしまうところに「嘘」があるからだろう。

この点、マリ・コルモン著「ビーバー親父」(フラマリオン社)という絵本で描かれている
少女マルラゲットの冒険のエピソードは示唆的である。
 (もっとも、本書の構成としては、フリッツ・メニテール著「幽霊狼」の方が直接的なのだが)

この絵本の中で、少女は一頭の大きな狼との間に友情を育む。
しかし、少女と狼にとって、別れは避けられないものである。
「彼女は、おたがいはそれぞれの掟に従わなくてはならないこと、
 そしてそれぞれの道を歩まねばならないことを悟る」
のである(231頁)。

さて、私たちが親しんでいる「狼と香辛料」はどのような結末になるのだろうか。
「狼と香辛料」の物語が終わる時、それはラガッシュ氏の目にはどのように映るのだろうか。

***
本書では羊飼いが狼から身を守るため唱える「狼への祈り」なども紹介されている。
これはキリスト教的な信仰に基づくもので、その内容も明確である。
「狼よ、私はここにまします大神の名においてお前を祓う。
 大悪魔が聖なるミサに祈りを捧げる司祭に何の力も持たないように、
 お前は私にも私の動物たちの上にも、力を持たないだろう」
(14頁)

狼と香辛料第2巻で羊飼いノーラがした旅の安全祈願のお祈りが
「羊飼い自身も本当の意味はしらない」(98頁)とされていることとは対照的に見える。

ただし、狼に対する祈りは他にも多々あり、異様なものもあるようようだ。
本書では、狼人間に対するわけのわからない祈り(まじない)も紹介されている。
「キリストの内なる健全な人の決まり文句は
 いつも、ア、ア、ア、狼男に反対。
 そして、この世から、オ、オ、オ、出て行け。
 オン、オン、アン、アン、そして狼男は死んだ。」
など(109頁)。



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