崖っぷちロー

チラ裏的ブログ。ここは「崖っぷち」シリーズ・あん○ーそん様とは関係ありません。レイアウト変更でいろいろ崩れ中

まおゆう魔王勇者好きにはいいかもしれない本

2013-01-16 20:14:49 | 小説・本
表題通り、「まおゆう魔王勇者」が好きな人が読むと面白いんじゃないかという本を、ぱっと思いつくかぎりで。いろんな人のおすすめ本を見比べることができると更にいいんじゃないでしょうか。

(1)ポール・ポースト著 山形浩生訳 「戦争の経済学」
 ハードカバーでも意外と安い。今なら文庫本とかになってそう。

(2)ヴェルナー・ゾンバルト著 金森誠也訳 「戦争と資本主義」
 講談社学術文庫なので買いやすい。

(3)ロバート・S. ロペス著 宮松 浩憲訳 「中世の商業革命」
 これは以前にこのブログで取り上げたことがあったと思います。
 訳が硬い点に注意。

(4)ジョゼフ・ギース、フランシス・ギース著、栗原 泉訳
  「大聖堂・製鉄・水車 中世ヨーロッパのテクノロジー」
 これも講談社学術文庫。
 技術史の分野で手に取りやすくて読みやすい本はないかとおもっていたら、
 これが発売されました。この著者の二人は本当に安定してます。

***
 ブログを更新するのがあまりにも久しぶりすぎるため、まおゆう魔王勇者(原作の方)についての感想を書いていたかどうかも覚えていません。

 (1)ドラクエなどの和製RPGが作り上げてきた似非中世ヨーロッパなお約束、(2)2chの掲示板で日々生産消費されていたSSのお約束、(3)その両者を組み合わせた魔王と勇者物SSのお約束を前提としているという点はなかなか難しい。
 他方で、史実の技術であったり思想であったりの要素をちりばめているので、そこらへんの要素要素がフックになって楽しめるという側面もある。加えて、私にとってはあまりクリティカルではなかったけれども、キャラクター物とか恋愛物としても楽しめる。

 そういう意味では、巷で言われているように、狼と香辛料的な楽しみ方ができる作品なのかもしれません。

 なお、アニメ第2話のメイドさんが農奴姉妹に対して言った虫発言が話題になっているようです。ここでは、市民革命を経て勝ち取られた近代的な人権が、そこそこ財産のある成人男性を前提としたものであったということを思い出す必要があります(更に遡って、人権の歴史の始まりとされるマグナカルタともなると、そこで問題になっているのは国王に対する貴族たちの権利でしかありません。)。我々は近代において重要な物を確かに勝ち得たのですが、それはなお、不十分なものであり多数の人間がその保護から零れ落ちていたということ。

 近代で十分なのか、通過点としての近代なのか。

 現代の立場から過去を振り返って、あれがだめだこれが足りないということは簡単ですが、ではどうすればよいのか。

 人類が誕生したそのときから現代的な人権観を全人類が共有できていれば歴史はもっとよいものになったのか。あるいは、原始共産制のようなものが超越的にプログラムされ不変のものとされた世界がいいのか。私には良く分かりませんので、そこらへんを上手いこと書いてある作品があれば読んでみたいですね。

ライトノベルの表紙・イラスト議論リンク

2010-12-05 10:25:02 | 小説・本
1.書籍
・新城カズマ『ライトノベル「超」入門』
 1974年の宇宙戦艦ヤマト小説版以降、2006年までの流れを概観。

・一柳 廣孝・久米 依子編著 『ライトノベル研究序説』
 これも表紙イラストの歴史を概観。また、挿絵イラストについての論考も掲載。

・『このライトノベルがすごい!』各年度版
 近年人気のイラストレーターの情報、独自のランキング。

・『ライトノベル完全読本』1~3号
 グラフィックデザイナーへのインタビューなど。

 ※その他、イラストレイター向けの技術書など。

2.ブログ、webサイトなど
ライトノベル・ファンパーティー-ライトノベル・イラストの傾向(12月8日追加)
 各レーベルの膨大な作品からデータを取って分析されている。圧倒的。

REVの雑記-ライトノベルの表紙;白バック(白背景)・ピン立ちについて。 
 表題の議論について、多数のサイト等へのリンクがある。

モノクロサファイア-ライトノベルの表紙はなぜ見分けがつかないのか 
 ライトノベルの表紙についての全般的な議論、多数のサイト等へのリンク。
 「女の子一人の表紙」の割合などのデータ。

ARTIFACT@ハテナ系-オタクイラストの歴史(12月8日追加)
 イラスト(レーター)の変遷について

「90年代ラノベ」→「オーフェンと草河遊也」→「ラノベのジャンルと絵の変遷史」→「TRPG雑誌史」(イマココ)
 イラストの技法的な検討など

偏読日記@はてな-白背景+女の子」のライトノベル表紙ってAVのパッケージとそっくりだよね 
 隣接する他領域との比較

世界の中心でマイを叫んだけども-ライトノベルについて考察その1・まずは表紙から
 電撃文庫表紙についてのデータ。

うぱ日記-ラノベ表紙の工夫をまとめてみた
     -ラノベ帯のパターンを纏めてみた

今日もだらだら、読書日記。-遊び心溢れるラノベの装丁をまとめてみた。

StarChartLog-ライトノベル表紙の欧米版との比較をしてみる
 
3.ライトノベル表紙画像のまとめ(但し、18禁小説の表紙も混ざっているようです)
2011年2月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/e/a/ea6c8440.jpg(11年3月25日追加)
2011年1月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/5/e/5e819a00.jpg(11年3月25日追加)
2010年12月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/d/e/de9c59d3.jpg(11年1月2日追加)
2010年11月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/8/2/820dcab7.jpg
2010年10月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/a/3/a3082b98.jpg
2010年9月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/4/0/406bff38.jpg
2010年8月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/b/3/b39bd30e.jpg
2010年7月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/2/e/2e592d51.jpg
2010年6月版 http://livedoor.2.blogimg.jp/ponpera/imgs/4/9/49b3f63b.jpg
 最近のラノベ、どうしてこんなにダメになったの?15などより
 

『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』読了

2010-11-22 08:53:55 | 小説・本
河原温著『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』(中公新書)

ベルギーの地方都市、ブリュージュの歴史を纏めた一冊。
経済、政治、文化を多面的に描き出している。

また、著者自身、本書には以下のような狙いがあると書いている。
>この「北方のヴェネツィア」ともよばれる古都ブリュージュの魅力あふれる歴史的背景をたどり、
>今日のあるべき姿の一端をこの都市の現在に見出してみたいと思う。(プロローグ)

>本書の執筆において、私が意図したのは、このフランドルの歴史的都市のもつ魅力の源泉を、
>中世をさかのぼって探訪し、さらに現代都市の行く末を考える時の参照系としてもらうことであった。(あとがき)


私がこの本書の狙いをきちんと捕らえた読みを出来ているかはわからないが、
断片としてでも、多くの示唆を得ることができるのではないか。
ブリュージュが興隆した理由、衰退した理由、再度確かな地位を得るに至った理由。
それぞれを考えると、なるほど現代でも変らないものがそこにあるように思われる。

***
一つの国、一つの都市の歴史に焦点を当てた新書は数多くがあるが、
この『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』は一つのモデルになるのではないかと思う。

冒頭のカラービジュアルは都市の色彩を鮮やかに伝えているし、本文中の図版も豊富。
新書という形態を踏まえた平明な文章で、限られた紙面の中でも要所要所では深く細かいところまで説明されている。
同時代人の言葉が挿入されているのも良い。
脚注は無いものの、本文だけでも完結して理解できる。
巻末には年表があり、各章ごとの参考文献もついている。
著者お勧めのベルギー料理やレストランが紹介されているのはご愛嬌。

索引はないが、目次が細かいので代替はできる。

***
気になった記述など。

・ブリュージュの規模、人口

13頁 1127年 70ヘクタールの広さを囲い込んだ市壁、6つの市門
    人口8000~10000人

70頁 13世紀末の市壁 431ヘクタール、9つの市門
83頁 14世紀後半 人口4万6千人
149頁 1477年 人口42000人
189頁 16世紀半ば ブリュージュ人口3万人 
203頁 17世紀終わり 4万人
208頁 1840年 5万人
216頁 現在 12万人


・高利貸し、質屋の金利 47頁以下

14世紀初頭の都市の法令 ブリュージュの「ロンバルディア」人高利貸し 年率43.3%を超えてはならない。

デ・ロエリオ家がとった金利 年利15~20%

15世紀 高利貸しの公定利率 32%超
16世紀後半 同上 21.7%
17世紀前半 同上 10.8%


・14世紀末ブリュージュの納税者 86頁
課税対象 3651世帯
3デナリ以下 3036世帯(83%)
3~7デナリ  509世帯(14%)
7デナリ以上 106世帯(3%)

***
中公新書に対する「内容が専門的過ぎる」という旨の批判や、
学研歴史群像のムックに対する「ビジュアルが多すぎる」という旨の批判等を見かけることがある。
求めるものとレーベル・シリーズとのミスマッチが起きているのではないか。
現物とはいかないまでも、せめて同レーベル・シリーズの本を買う前に見てその方向性を把握しておいたほうがいいのでは……

「貧乏貴族と金持貴族」読了

2010-11-04 16:07:06 | 小説・本
マイケル・L. ブッシュ (著)永井三明(監訳), 和栗珠里(訳), 和栗了(訳)『貧乏貴族と金持貴族』

ヨーロッパの貴族社会には均質性と結合性があった。
(略)
しかしながら、この結合性と均質性は往々にして表面的なものであって、実際には、貴族階級は多様でばらばらであった。

貧困貴族は、貴族が没落した結果や、土地所有者を周期的に悩ませた経済危機の産物であるというよりもむしろ、恒常的な存在であることの方が多かった。

貴族階級に新しく加わる者は多く、去る者は少なかったため、諸特権を共有する貴族階級の仲にはあらゆる職業が見出され、財産も家柄も千差万別だったのである。



第1章から「貴族の多様性」という章題であり、上記のような内容の記述がならび、我々が持つ<一様に裕福で優雅な貴族階級>というイメージは否定される。<没落貴族の悲哀>の希少価値も下がるというものだ。

「均質的な外見とは裏腹に貴族階級がいかに多様で不均質であったか、ということが本書を貫くテーマであり、著者は、貴族階級に対して抱かれがちな紋切型のイメージに激しい揺さぶりをかける。」という訳者の言葉そのままだ。

この主題がおもしろいのは当然だが、検証のための各種データも豊富で、そのデータ自体も大変興味深い。

本書は、約300ページという分量の割には4000円もするので、なかなか手を出しづらい本ではないかと思う。ただ、この分野の本は少なく、他の本も基本的に高いのであきらめるしかない。

プラス要素
・訳注もあり、一部省略されているものの原注もある。
・参考文献も省略されておらず、また、邦訳参考文献も掲載されている。
・索引が充実しており、原語の綴りも併記されている。

*** 気になった記述など
第2章 貴族社会の規模 貴族の人口密度の違い
・大規模
 ポーランド(16世紀) 全人口の6~8%が貴族。
      (18世紀) 8~10%

 スペイン(1700年) 12~13%  
     (1797年) 14%

・小規模
 デンマーク(1660年) 0.4%
      (1720年) 0.2%

・一つの国の中でも、貴族人口には極端な多様性があった
 スペイン
 ブルゴスとレオンの周辺では、1591年に貴族は全人口の46.5%もおり、
 その数値は国の平均の四倍であった。
 カスティリャのガリシア地方とカスティリャ・ラ・ヌエバ地方(略)では貴族の人口が5%を超えることはなかった。

 フランスでは、ノルマンディー、ブルターニュ、アンジュー、パワトゥ、メーヌ、トゥルーズなどで貴族の人口密度は比較的高く、2~3%に達した。
 反対に、アルザスロレーヌ、フランシュコンテ、ベリー、ニヴェルネ、シャンパーニュ、ドーフィネ、そして17世紀後半頃のプロヴァンスでは、貴族の人口は全人口の1%未満を示していた。


第3章 貴族社会の構造 定式化されない格差
・ロシア
 1834年に500人以上の男性農奴を所有していた貴族は、農奴を所有する貴族全体の3%にすぎなかった。
 一方、100人程度の男性農奴しか持たない貴族は84%にものぼった。
 5万7500家族は20人以下の男性農奴しか持たなかった

第6章 居住習慣
11、12世紀 3000~4000もの都市から成るネットワークがヨーロッパに出現。
1300年 500の都市が人口5000人以上の規模
      125の都市は1万人以上の人口
      4の都市は10万人を越える。(パリ、ナポリ、ヴェネツィア、パレルモ)

イギリスの貴族について>>小林章夫「イギリス貴族」読了

小林章夫「イギリス貴族」読了

2010-07-15 16:37:55 | 小説・本
小林章夫「イギリス貴族」(講談社現代新書、1991年)読了。

目次
プロローグ 大英帝国の先頭に立つ者
第1章 貴族は稀族
第2章 貴族の豊かな生活
第3章 貴族の教育
第4章 ノブレス・オブリージュ
第5章 金と暇が生み出したもの
第6章 貴族の生き残り作戦
エピローグ されど、貴族

イギリス貴族の生活をいろんな局面で切り取ったもの。
中世というよりも、近~現代の貴族がメイン。
プレップスクール・パブリックスクールでの教育や、
スポーツと貴族とのかかわり、現代貴族の生計などが取り上げられているのも興味深い。

文章も、エッセー風の軽妙な語り口で、きわめて読みやすい。

また、専門書ほどの深みにはあえて入らないようにされているものの、資料や文献からの引用も多く、
巻末参考文献もコメントつきで、読書案内としても使えそうだ。

***
興味深い記述など。

・24頁 貴族の人数
 17世紀初め 約60人
 17世紀末  170人
 19世紀   300人~400人
 1987年   王族公爵5人、公爵26人、侯爵36人、伯爵192人、子爵126人、男爵482人、女伯爵5人、女男爵13人
       →885人(「英国を知る辞典」からの引用)
 
・34頁 イングランドとウェールズにおける土地所有(1870年代)
 400人の貴族が全所有地の17%にあたる572万8979エーカーを所有。(1エーカーは約1200坪)
 3000エーカー以上の地主が1288人いて、全所有地の25%所有。
 1000エーカー以上3000エーカー以下の地主が2529人いて、全所有地の約13%所有。
 →全土地所有者数のうち0.44%の人間が、全所有地の約55%を所有。

・46頁 使用人の数
 中世後半期において貴族や高位聖職者の世帯の人数は通常、100人から200人の間であった。
 使用人の大部分が男だった。(中世のノーサンバランド伯爵家では、男女の比率が166対9)

ヨーロッパ全体の貴族社会について>>「貧乏貴族と金持貴族」読了

『ヴェルサイユ宮殿に暮らす-優雅で悲惨な宮廷生活』読了

2010-07-03 11:25:02 | 小説・本
ウィリアム・リッチー・ニュートン著/北浦春香訳 ヴェルサイユ宮殿に暮らす-優雅で悲惨な宮廷生活 読了。

本屋で偶然見つけた一冊。
多くの人がイメージするヴェルサイユ宮殿の豪華絢爛な生活とは反対の、
こつこつとした、あるいはジメジメとした、生活の裏側に焦点を当てたもの。
目次を見ただけでも、そこらへんにあるヴェルサイユ宮殿物とは違うことが分かる筈だ。

プロローグ
住居-居住不足に翻弄される貴族たち
食事-豪華な食事は誰のものか
水-きれいな水は必需品
火-寒い部屋は火事の危険と隣り合わせ
照明-窓と鏡と蝋燭だのみの薄暗い部屋
掃除-清潔さとは無縁の宮殿
洗濯-洗って干す場所を求めて右往左往
エピローグ



冒頭、「住居」から驚きの連続である。
金と権力を持ち、勝手気ままに振舞っている印象のある貴族たちが(官僚達が、使用人たちが)
国王の寵愛を受けその権力の恩恵を受けるために、ヴェルサイユ宮殿の小さなパイを巡って、
優雅さとは程遠いイス取りゲームを繰り広げている。

しかも、その小さなパイは、本書を読み進めていけば分かるように、決して住み心地のいいものではない。
暗い、狭い、古い、汚い、くさい、寒い、暑い……
私には、現代日本の安アパートの方がよっぽどマシなように思える。
「なるほどこの住環境の悪さも革命の遠因の一つなのかもしれない」と思わせるに足るものである。

本書について不満があるとすれば
・図表が少ない
・22頁にも及ぶという原注がカットされている
というあたりか。
とはいえ、値段も高いというわけではなく、文章も読みやすい。

ヴェルサイユ宮殿に観光に行く際には、予習として読んでおくといいのではないだろうか。


***
綺麗な(中世)~近代ヨーロッパが実は汚いということはそれなりに知っているつもりであったが、
本書に書かれているエピソードはそれを凌駕するものであった。

例えば、「宮殿にトイレが無く、貴婦人達も庭で用を足していた」というようなことはよく目にしていた。
だが、「王族棟」であるにもかかわらず使用人たちが廊下や階段で用を足していたというのは驚きだ(95頁)。

***
(中世)~近代ヨーロッパ的な宮殿をフィクションとして描写する際にも、
本書のような視点を一つ二つ取り入れれば、より深みのある世界が書けるのではないだろうか。
あるいは、本書で書かれているような問題点を克服するような仕組みを考え、完璧な世界を構築するもの一興かもしれない。

***
著者のウィリアムさんには未邦訳の著書がまだまだあるようで、そちらの方も是非出版していただきたいものです。

ビザンティン帝国の軍隊―886‐1118

2010-04-27 01:59:44 | 小説・本

オスプレイ・ビザンティン帝国の軍隊―886‐1118 ローマ帝国の継承者 (オスプレイ・メンアットアームズ・シリーズ) を買ってみた。

ヴァリャーギ親衛隊について書いてあるという情報を読んだもので。
といっても、英語版『Byzantine Armies 886-1118』。
(日本語版は新品が絶版で、中古はプレミアムが付いていて定価の6~7倍。)

本書の内容については、紹介文を引用すると、
「黄金期を築いたマケドニア朝時代から、暗転する帝国の復興に力を注ぎ、十字軍を要請したことで知られるアレクシオス1世の治世までを範囲とし、ビザンティンの軍隊を解説している。
 タグマ(中央軍)、ヴァリャーギ親衛隊等の組織構成や、小アジアの防衛に機能したテマ(軍管区)制の解説に加え、皇帝が捕虜になるという悲劇を生んだマンツィケルトの戦いを詳細に記述している。 」

ただ、この膨大な範囲を40ページほどの冊子にまとめているので、ヴァリャーギ親衛隊についての記述はそんなに厚くない。
まぁ、以前に読んだ『ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊』では否定されている説を紹介したり、同じ事件についてその年号が異なっていたりするのがおもしろいといえばおもしろい。

より重要なのは、オスプレイシリーズの売りの一つであるカラーイラストと、それに関する解説だろうか。伝えられているエピソードの数々(戦闘における勇猛さや酒癖の悪さ等)に圧倒的な説得力を与える、すばらしいイラストだと思う。


***
ヴァリャーギ親衛隊については、それを単体で扱った物が夏にオスプレイから出るようなので、そちらを待ったほうが良かったのかもしれない。

***
人名1つとってもどう読めば良いのか分からないので、『ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊』が欠かせなかった。オスプレイを読むことで、より一層この本の評価が上がりました。

堀越孝一「ブルゴーニュ家」読了

2010-03-08 06:19:29 | 小説・本
堀越孝一「ブルゴーニュ家」読了(講談社現代新書)を読み終えた。
これは96年出版なので中古で買ったが、定価でも760円とお手頃価格。

本書は、14世紀半ばからのヴァロワ系ブルゴーニュ家について概観するもの。
最盛期には広大な領域を支配し、一国の王家といっても良いようなレベルにあるブルゴーニュ家の歴史であり、各国の王家や諸侯との人間関係、外交関係も複雑に入り組んでいるが、それが新書としてコンパクトにまとめられている。著者はホイジンガ「中世の秋」研究の第一人者らしく、本書でも資料に裏付けられた記述と著者の歴史家としての洞察がバランスよく書かれている。

本書ではブルゴーニュ家に関連するエピソードとして、様々な題材が登場する。
5章では貨幣、6章ではワイン、7章では塩の話など。
細かいといえば細かい話だが、それが面白かったりする。

また、本書では「御用金部屋詰め三奉行」「会計」「歴史編纂官」「弁護士」「官房長」「貨幣方頭取」「侍大将」など、フランス王家・ブルゴーニュ候家の様々な役職にいる人物が登場する。そういった人間の仕事を見るのも面白いだろう。

8章は金羊毛騎士団についての章だが、この騎士団が設立された経緯・目的などについて、コンパクトだが明瞭な説明がなされているように思う。

なお、チーズの銘柄として有名な「サンタンドレ」という名称の意味を知ることができたのは個人的には良かった。

***
ただ、この本は、「読みにくい」といわれることが多いようだ。これは確かに否定できない。
その理由としては、
(1)無理に口語調にしている
  ex.「なんとも~で、これを、まあひとつ~」(63頁)など、表現が迂遠になっている。
    おそらくエッセイ風の文章を目指されたからだろうと思う。  
    日本人の多くにとってなじみの薄い題材であるから、硬くない文章にすることで敷居を低くしようとされ
    たのかもしれない。
    同じ著者の文章でも、論文とは行かないまでもやや固めの文章(「中世ヨーロッパを生きる」掲載のもの
    など)であれば極めて読みやすい。

***10年4月30日追記
 致命的なミスを発見しました。「中世ヨーロッパを生きる」の堀越「宏」一さんは別の方ですね。
 申し訳ありません。


(2)唐突に美術品に対する言及が挿入
  もちろんこれには筆者の狙いがあるのだが、私としては頭の切り替えに苦労した。
(3)あだ名を地の文でつかっている
  ex.「同盟者であり義兄であるおひとよしと~」(69頁)など。
    ここでいう「おひとよし」があだ名で、これは「フィリップ善良公」のこと。
    これに関連して、用語の翻訳がやや特殊だというのも要因のひとつになるだろう。

(4)そもそも題材が複雑
 支配領域も現在の国境をまたいでいるから、単純にフランスの一地方のことを考えればいいわけではない。
 人間関係も複雑であり、外交関係も複雑である。
 そのため、視点の移動も多く、読者としては混乱しやすいのかもしれない。

などが考えられるだろう。

とはいえ、本書の独特の語り口も、読み進めていくうちに次第に気にならなくなってくる。
波長さえ合えば、むしろ堀越さんの講義を聞いているようで、リズムに乗って読み進めていくことができる。

***
その他の本書の長所と短所。
長所としては、新書にしては地図やイラストが多く、年表まで付いていることがあげられる。

短所としては、索引がないこと、参考文献の記載が荒いことがあげられよう。
例えば143頁では「シャルル六世の王家家政について調べた本がたまたま手元にあって」とあるが、これがいったいどの本なのかは明示されていない。研究者にとっては自明であり、他方、一般読者にとっては細かすぎるとして参考文献を明示しなかったのかもしれない。が、参考文献を辿って読む本が広がっていくということもあるので、これは私としては残念である。


***
騎士団の中でも、宗教的な騎士団(騎士修道会)については日本語の本も多いが……
世俗的な騎士団について要領よくまとめた本などないものだろうか??


自衛隊「地下鉄サリン・イラク派遣・阪神大震災」関連書籍読了

2010-02-24 05:14:03 | 小説・本
この1~2ヶ月ほどで、自衛隊関連の本を3冊ほど読んだ。

松島悠佐『阪神大震災自衛隊かく戦えり』(時事通信社)
福山隆 『地下鉄サリン事件戦記』(光人社)
佐藤正久『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)

いずれも、事件当時、現役の自衛官として自衛隊の活動に携わってきた方々の手記的作品である。

・松島悠佐『阪神大震災自衛隊かく戦えり』(時事通信社)
 著者の松島氏は、阪神淡路大震災発生当時の中部方面総監(伊丹)だった方。
 本書は地震発生から始まり、震災の被害状況が明らかになるにつれて36普通科連隊、第3師団、方面隊主力の各活動へと発展してく様がスピード感を持って描かれている。(1章~3章)

 また、実際の活動にあたった各級の指揮官や曹・兵の声も収録されているし、自衛隊の支援を受けた被災者の声も収録されている。
 (自衛隊に好意的な意見のみならず、自衛隊に対する苦情や、自衛隊の車に投石した男が居たことなども書かれている。)

 本書の後半では、自衛隊の災害に対する備えのあり方や、阪神大震災での教訓を受け他危機管理のあり方などが書かれている。

 なお、以下のような記述がある。(186頁)
 神戸においては自衛隊へのアレルギーが強く、対策会議で自衛隊側から積極的な提案をするのを好ましく思わない一部の職員がいて、相互の調整が巧く機能しなかったこともたびたびあった。

 救援活動に総力を上げなければならない時にまで、自治労の人たちがイデオロギーを主張して対応行動を遅らせてしまうのは、被災者不在の救援活動ではないかという感じがしていた。


・福山隆 『地下鉄サリン事件戦記』(光人社)
 著者の福山氏は、地下鉄サリン事件発生当時、市ヶ谷駐屯地の32普通科連隊長で、地下鉄サリンの除染作業を直接指揮された方。
 
 32普通科連隊の説明などもいれつつ、事件発生当時の様子(福山氏は休暇中でゴルフをしていた)から、駐屯地へ急いで帰還する様子、上級部隊も混乱している中で様々な決断を下しつつ事態に対処していく様などが描かれている。32普通科連隊の各隊員たちの証言も豊富に取り入れられており、読み物としての完成度も高い。

 第8章では「幻の作戦計画」として、上九一色村等への警察の捜査にたいしてオウム側が武力で抵抗した場合の自衛隊投入計画があったこと、32普通科連隊がそれに備えて準備していたことなどが書かれている。

 この作戦計画が連隊の各中隊長に下達された際のある中隊長のリアクションに緊迫した様子が見て取れる。(184頁。近藤2尉の証言として)
 連隊長室から出てくる各中隊長の表情は一様に強ばっており、ある中隊長は顔面蒼白で、ワナワナと体を震わせ「こんなことできないよ……」とつぶやく始末。

 なお、自治労関連のエピソードはここでも登場する(72頁)。
 通信小隊は、普段から通信伝播状況を調査するため、都内各地に展開して通話試験を行い、通話の可否に関するデータを整備することに努めていた。ところが、都内各区・市の災害対策の中枢となるべき区・市庁舎との通話試験は自治労などの妨害にあって、調査が出来ないところが多かった。


・佐藤正久『イラク自衛隊「戦闘記」』(講談社)
 著者の佐藤氏は「ヒゲの隊長」として有名で、このブログでも何度か取り上げてきた。イラク派遣当時は、イラク先遣隊の隊長として活動されていた。

 本書では、序章として殉職された外交官の奥克彦さんとのエピソードや、その中で醸成された「思い」を書くことから始まっている。
 中盤はイラクのサマーワでの佐藤氏たちの活動の様子の描写で、先遣隊隊長として心がけたことや実際に行ったこと等が書かれている。
 佐藤氏の文章は素朴で読みやすく、その内容も示唆に富んでいるが、指揮下の各隊員の声などは収録されていない点は残念といえば残念。

 第6章では佐藤氏の集団的自衛権に関する問題など、自衛隊が海外で活動する際の諸問題について著者の持論が語られている。

 なお、自衛隊の隊員たちが日本から出発/日本へ帰国する際、日本の民間航空機には乗せてもらえず、また、成田空港において制服=迷彩服を着ることが空港事務所から禁止されたとのこと。
 (26頁、188頁)

***
上記3冊が扱っている事件はどれも極めて大きな事件であるから、大体のことは知っているつもりであったが、いざ読んでみると知らないことも多く、また、著者がそれぞれの当事者であることから他にはない迫力があった。

とはいえ、それぞれの本でどこまで細かく書くのか、隊員の声を利用するのかなどはバラバラで、その点では第三者が一定の基準をもって客観的に記述する公刊戦史の必要性も感じられた。
 (もしかしたら見落としているのかもしれないけど、これらの活動についての公刊戦史はなかったはず。あるなら読みたいです。)

また、部隊の活動報告書などの各種文書の引用・利用も少なく、この点も公刊戦史でフォローすべきだと思われる。
 (例えば、アメリカ海兵隊の『国連平和維持軍アメリカ海兵隊レバノンへ』では、各種資料やインタビューがふんだんに利用されている。)

上記三冊はいずれも良書だと思うが、それ故に公刊戦史・オーラルヒストリーの重要性が感じられるような気がする。

「ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊」読了

2010-02-20 23:45:52 | 小説・本
「ヴァリャーギ ビザンツの北欧人親衛隊」マッツ・G. ラーション著、荒川明久訳

ヴァリャーギというのは、副題にもあるように、歴代のビザンツの皇帝に親衛隊として仕えた北欧人達のこと。

中世の北欧人というと西ヨーロッパを中心に暴れ回ったヴァイキングというイメージがあるが、本書はその北欧人たちが遥か東方のビザンツへと旅立ち、そこで様々な活躍をしていたことを描き出している。原著者はビザンツの資料・年代記と北欧の各地に点在する石碑(ルーン文字)、各地に残っているサガを丹念に比較検討し、北欧人たちの生き様を浮かび上がらせることに成功している。

本書の後半70ページほどは、スウェーデンに散在しているルーン文字の石碑の資料となっていて、石碑の写真・画に加えて、ルーン文字の書き起こし、ラテン語訳、古北欧語訳、日本語訳が併記されている。

私には言語的なことはさっぱり分からないが、写真や画を眺めているだけでも楽しいし、日本語訳を読めば亡き家族を思う心は今も昔も変わらないことが分かる。


また、本書については、翻訳された荒川明久さんの功績も特筆されるべきだろう。日本語訳をするにあたっての入り組んだ作業はもちろん、細かな部分にまで異常なほどに(主に語学的な)注釈がなされている。
 (上記の石碑の写真・画の収録も日本語版を出すにあたって荒川氏が行ったらしい)


***
当時のヴァリャーギたちの様子を伝える文献が少なく、断片的な情報から推量していかねばならないことから、ヴァリャーギたちの組織・編成・生活などについての細かな情報を読み取ることはできないし、ある時点においてヴァリャーギたちがビザンツ帝国内にどれくらいいたかということも分からないようだ。

それでも、皇帝を警護する様子、警戒のために武装したまま寝ること、大酒のみで騒がしい様子、斧や盾を装備して勇猛果敢に戦う様子、ビザンツでの勤めを終えて故郷に錦を飾る際の晴れ晴れとした様などが記述されている。

私としては、研究が深まり、ヴァリャーギたちの生活の様子が細部にわたるまで明らかになることを期待する。


戦場で反乱軍と交渉する皇帝を警護する様子 92頁(プロセースによる描写)
 この戦士らは(皇帝を囲むように)円陣を組み、長槍や片刃の闘斧で武装していた。斧は肩に担ぎ、投げ槍は目の前に並べてあるため、まるで屋根が組まれたような光景でった。

 
野営地で皇帝を警護するヴァリャーギが寝るときの様子 142頁
 ヴァリャーギは夜通し交代で皇帝の身辺警護の任に当たっていた。警護を終えると横になって休むことができたが、完全武装のままであった。ソノッリによれば、彼らは頭に兜を冠ったまま盾で身体を覆い、剣を枕代わりに寝るのが慣わしであった。そして、右手は剣の柄を握るのが決まりであった。


***
世界各国・各時代の親衛隊や近衛隊を厚かった通史的な本を探していたが上手く見つからず、「武装SS全史Ⅰ」(歴史群像欧州戦史シリーズ)に収録されている「『親衛隊』の世界史」という記事ぐらいしか無く、そこで紹介されている親衛隊の各論を探してもいまいちという結果に。
 (もちろんナチスのSSは別)

なにか良い本がないものか……