崖っぷちロー

チラ裏的ブログ。ここは「崖っぷち」シリーズ・あん○ーそん様とは関係ありません。レイアウト変更でいろいろ崩れ中

『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』読了

2010-11-22 08:53:55 | 小説・本
河原温著『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』(中公新書)

ベルギーの地方都市、ブリュージュの歴史を纏めた一冊。
経済、政治、文化を多面的に描き出している。

また、著者自身、本書には以下のような狙いがあると書いている。
>この「北方のヴェネツィア」ともよばれる古都ブリュージュの魅力あふれる歴史的背景をたどり、
>今日のあるべき姿の一端をこの都市の現在に見出してみたいと思う。(プロローグ)

>本書の執筆において、私が意図したのは、このフランドルの歴史的都市のもつ魅力の源泉を、
>中世をさかのぼって探訪し、さらに現代都市の行く末を考える時の参照系としてもらうことであった。(あとがき)


私がこの本書の狙いをきちんと捕らえた読みを出来ているかはわからないが、
断片としてでも、多くの示唆を得ることができるのではないか。
ブリュージュが興隆した理由、衰退した理由、再度確かな地位を得るに至った理由。
それぞれを考えると、なるほど現代でも変らないものがそこにあるように思われる。

***
一つの国、一つの都市の歴史に焦点を当てた新書は数多くがあるが、
この『ブリュージュ―フランドルの輝ける宝石』は一つのモデルになるのではないかと思う。

冒頭のカラービジュアルは都市の色彩を鮮やかに伝えているし、本文中の図版も豊富。
新書という形態を踏まえた平明な文章で、限られた紙面の中でも要所要所では深く細かいところまで説明されている。
同時代人の言葉が挿入されているのも良い。
脚注は無いものの、本文だけでも完結して理解できる。
巻末には年表があり、各章ごとの参考文献もついている。
著者お勧めのベルギー料理やレストランが紹介されているのはご愛嬌。

索引はないが、目次が細かいので代替はできる。

***
気になった記述など。

・ブリュージュの規模、人口

13頁 1127年 70ヘクタールの広さを囲い込んだ市壁、6つの市門
    人口8000~10000人

70頁 13世紀末の市壁 431ヘクタール、9つの市門
83頁 14世紀後半 人口4万6千人
149頁 1477年 人口42000人
189頁 16世紀半ば ブリュージュ人口3万人 
203頁 17世紀終わり 4万人
208頁 1840年 5万人
216頁 現在 12万人


・高利貸し、質屋の金利 47頁以下

14世紀初頭の都市の法令 ブリュージュの「ロンバルディア」人高利貸し 年率43.3%を超えてはならない。

デ・ロエリオ家がとった金利 年利15~20%

15世紀 高利貸しの公定利率 32%超
16世紀後半 同上 21.7%
17世紀前半 同上 10.8%


・14世紀末ブリュージュの納税者 86頁
課税対象 3651世帯
3デナリ以下 3036世帯(83%)
3~7デナリ  509世帯(14%)
7デナリ以上 106世帯(3%)

***
中公新書に対する「内容が専門的過ぎる」という旨の批判や、
学研歴史群像のムックに対する「ビジュアルが多すぎる」という旨の批判等を見かけることがある。
求めるものとレーベル・シリーズとのミスマッチが起きているのではないか。
現物とはいかないまでも、せめて同レーベル・シリーズの本を買う前に見てその方向性を把握しておいたほうがいいのでは……

「貧乏貴族と金持貴族」読了

2010-11-04 16:07:06 | 小説・本
マイケル・L. ブッシュ (著)永井三明(監訳), 和栗珠里(訳), 和栗了(訳)『貧乏貴族と金持貴族』

ヨーロッパの貴族社会には均質性と結合性があった。
(略)
しかしながら、この結合性と均質性は往々にして表面的なものであって、実際には、貴族階級は多様でばらばらであった。

貧困貴族は、貴族が没落した結果や、土地所有者を周期的に悩ませた経済危機の産物であるというよりもむしろ、恒常的な存在であることの方が多かった。

貴族階級に新しく加わる者は多く、去る者は少なかったため、諸特権を共有する貴族階級の仲にはあらゆる職業が見出され、財産も家柄も千差万別だったのである。



第1章から「貴族の多様性」という章題であり、上記のような内容の記述がならび、我々が持つ<一様に裕福で優雅な貴族階級>というイメージは否定される。<没落貴族の悲哀>の希少価値も下がるというものだ。

「均質的な外見とは裏腹に貴族階級がいかに多様で不均質であったか、ということが本書を貫くテーマであり、著者は、貴族階級に対して抱かれがちな紋切型のイメージに激しい揺さぶりをかける。」という訳者の言葉そのままだ。

この主題がおもしろいのは当然だが、検証のための各種データも豊富で、そのデータ自体も大変興味深い。

本書は、約300ページという分量の割には4000円もするので、なかなか手を出しづらい本ではないかと思う。ただ、この分野の本は少なく、他の本も基本的に高いのであきらめるしかない。

プラス要素
・訳注もあり、一部省略されているものの原注もある。
・参考文献も省略されておらず、また、邦訳参考文献も掲載されている。
・索引が充実しており、原語の綴りも併記されている。

*** 気になった記述など
第2章 貴族社会の規模 貴族の人口密度の違い
・大規模
 ポーランド(16世紀) 全人口の6~8%が貴族。
      (18世紀) 8~10%

 スペイン(1700年) 12~13%  
     (1797年) 14%

・小規模
 デンマーク(1660年) 0.4%
      (1720年) 0.2%

・一つの国の中でも、貴族人口には極端な多様性があった
 スペイン
 ブルゴスとレオンの周辺では、1591年に貴族は全人口の46.5%もおり、
 その数値は国の平均の四倍であった。
 カスティリャのガリシア地方とカスティリャ・ラ・ヌエバ地方(略)では貴族の人口が5%を超えることはなかった。

 フランスでは、ノルマンディー、ブルターニュ、アンジュー、パワトゥ、メーヌ、トゥルーズなどで貴族の人口密度は比較的高く、2~3%に達した。
 反対に、アルザスロレーヌ、フランシュコンテ、ベリー、ニヴェルネ、シャンパーニュ、ドーフィネ、そして17世紀後半頃のプロヴァンスでは、貴族の人口は全人口の1%未満を示していた。


第3章 貴族社会の構造 定式化されない格差
・ロシア
 1834年に500人以上の男性農奴を所有していた貴族は、農奴を所有する貴族全体の3%にすぎなかった。
 一方、100人程度の男性農奴しか持たない貴族は84%にものぼった。
 5万7500家族は20人以下の男性農奴しか持たなかった

第6章 居住習慣
11、12世紀 3000~4000もの都市から成るネットワークがヨーロッパに出現。
1300年 500の都市が人口5000人以上の規模
      125の都市は1万人以上の人口
      4の都市は10万人を越える。(パリ、ナポリ、ヴェネツィア、パレルモ)

イギリスの貴族について>>小林章夫「イギリス貴族」読了

津田氏「ニコ生の出演料はテレビより高い」

2010-11-04 14:12:04 | ニコニコ動画・ネットとか
津田大介さんが出演された「UstToday vol.27」が大変興味深い内容でした。
>津田氏「テレビは制作費が削られ、厳しい状況になってきている。一方でニコニコ生放送は制作費
>をしっかりかけており、放送作家や出演者など、テレビ業界で活躍している人材が流れこんできている」
>「テレビに出るのもニコ生もギャラはそんなに変わらない。場合によってはニコ生の方が高いこともある」
>「ニコ生の出演料はテレビより高い」
津田氏「ニコ生の出演料はテレビより高い」

確かに、地上派で放送していてもおかしくない出演者陣・内容の番組も増えてきました。田原総一朗司会の討論番組あり、遠藤章造さんや陣内智則さんが出演するバラエティ番組ありと。最近では、読者モデルや湘南乃風を起用した番組も放送されているようです。ニコニコ動画・生放送のサービス開始当初には全く想像できなかったラインナップです。

他にも、
・政治方面では小沢一郎さんのネット会見を放送して注目を集める。
・かつては違法コンテンツにただ乗りしていたニコニコが、アニメを公式に配信・放送する。
・宇野常寛さん主催の「PLANETS」や荻上チキさんらが関わる「シドノス」が月1回のレギュラー番組を持つ
・中森明夫さん高橋源一郎さんのトークショーや、宮台真司東浩紀対談が中継される。

などなど。
個人的には、下二つのような方面の番組がうれしいですね。

「小沢一郎ネット会見」 新聞・テレビはどう伝えたか
「これからはみんなで正史を作っていけばいい」宇野常寛が語る未来のガンダム
食料自給率の大ウソを暴く!ニコ生シドノス「大丈夫か!?日本の食と農」

***
以下、この記事には掲載されていない部分を一部文字起こし。

・31分~ ニコニコ生放送で月1放送している「ネットの羅針盤」について 
津田
インターネット界隈の、NHKでの「視点論点」のような、専門性が高くなってしまうネットの問題に対してちゃんと解説する番組が欲しいと思った。じゃあ、「MIAU」で継続的に追いかけている問題もたくさんあるので、それをゲストなんかを招きながら、ちゃんとその背景にどういうことがあるのかを議論する番組を作りたい。

かつ、ニコ生さんはちゃんとギャラとか制作費も払ってもらえるので、で、僕らも僕らで「MIAU」という活動は完全ボランティアでやっているので、ある種収入源も欲しいというところで、ドワンゴさんにこういう公式番組をつくりたいんだけどとお願いしたら、わかりましたっていって、制作費をいただいて作ることができている。

ちゃんとコンテンツ、ネットならではのテレビでは見られないコンテンツを作りますということに対して、コンテンツに対してちゃんと金を払いましょうと。結構いまインターネットの企業って、どことは言わないが、金を払わない。

良いコンテンツを作ってがんばっているのにそれにたいして金を払わないで、ただで、トラフィックあげるからいいんじゃんみたいな感じで、お金を払わない企業が多すぎる。ミクシィとか。ミクシィとか。ミクシィとか。そういうのが僕はすごくイヤで、コンテンツを作る側に対して、作ったものに対してちゃんと制作費もはらいます、それでお互い幸せになりましょうという風になってほしい。そういう意味でドワンゴさんには感謝している。

司会
ドワンゴさん、話によると月に一億円以上生放送の公式にかけているというお話も。


・46分~ ニコ生番組の二つのとらえ方
津田
 (テレビは)地方局ですら一回電波に流してやれば数万人が同時にみているわけで、どんなにくだらない番組でも誰かが見ているというメディアと、USTっていうのは見たいと思った人が意識的に見に来ているメディアという意味で、全然違う。

 (UstTodayの視聴者数である)700という数字をどう捉えるかというかで、テレビの価値観で考えればすごく低い数字で、影響力なんて持たないということになると思うんですけど、そうじゃなくて、USTやニコナマって、ある種講演会とかイベントの拡張なんじゃないかという、そっちの捉え方を最近はしている。 

普通に個人がこれについて語るトークをやりたいといって場所を借りる、50人入る場所を借りるのもまず大変だし、そこで50人埋めるというのも大変なわけです。でも、それが普通に今USTでやれば50人とか100人とか平気で入ってくるわけです。
 
だから今、僕と三上さんが話している内容を700人の会場を借りてやるとしたら相当リスキー。まず700人入るかも分からない。でも、トークイベント見たなものがすごく拡張されて、700人が見ていると考えるとこれは結構すごいこと。

あくまでイベント空間の拡張としてのUST・ニコ生という風に、ユーザーがやる場合はそう考えると、ものすごいメディアになるんじゃないか。あとはそこから先は、これに対して良かった人がお金を払える送金のプラットフォームとかが入ってくるだけで相当かわってくる。

ある意味で言うと、ニコ生は両方やっている。
 (略)
テレビのオマージュ、テレビが今つまらなくなっているときに、本当に見たいテレビってこうだよねという方法論でつくる番組・UST番組と、そうではなくて、日常的なイベントとかトーク見たいなものを拡張するものとしてのニコ生・USTの両面があって、両方の質と量が充実してくることによって、初めて動画ライブメディアというものが一段上のレベルにいけるという気がしている。

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ニコニコ動画/広告媒体資料のご案内/10年7~9月
企業がニコニコ生放送を広報に使う場合の料金体系など。