崖っぷちロー

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堀越孝一「ブルゴーニュ家」読了

2010-03-08 06:19:29 | 小説・本
堀越孝一「ブルゴーニュ家」読了(講談社現代新書)を読み終えた。
これは96年出版なので中古で買ったが、定価でも760円とお手頃価格。

本書は、14世紀半ばからのヴァロワ系ブルゴーニュ家について概観するもの。
最盛期には広大な領域を支配し、一国の王家といっても良いようなレベルにあるブルゴーニュ家の歴史であり、各国の王家や諸侯との人間関係、外交関係も複雑に入り組んでいるが、それが新書としてコンパクトにまとめられている。著者はホイジンガ「中世の秋」研究の第一人者らしく、本書でも資料に裏付けられた記述と著者の歴史家としての洞察がバランスよく書かれている。

本書ではブルゴーニュ家に関連するエピソードとして、様々な題材が登場する。
5章では貨幣、6章ではワイン、7章では塩の話など。
細かいといえば細かい話だが、それが面白かったりする。

また、本書では「御用金部屋詰め三奉行」「会計」「歴史編纂官」「弁護士」「官房長」「貨幣方頭取」「侍大将」など、フランス王家・ブルゴーニュ候家の様々な役職にいる人物が登場する。そういった人間の仕事を見るのも面白いだろう。

8章は金羊毛騎士団についての章だが、この騎士団が設立された経緯・目的などについて、コンパクトだが明瞭な説明がなされているように思う。

なお、チーズの銘柄として有名な「サンタンドレ」という名称の意味を知ることができたのは個人的には良かった。

***
ただ、この本は、「読みにくい」といわれることが多いようだ。これは確かに否定できない。
その理由としては、
(1)無理に口語調にしている
  ex.「なんとも~で、これを、まあひとつ~」(63頁)など、表現が迂遠になっている。
    おそらくエッセイ風の文章を目指されたからだろうと思う。  
    日本人の多くにとってなじみの薄い題材であるから、硬くない文章にすることで敷居を低くしようとされ
    たのかもしれない。
    同じ著者の文章でも、論文とは行かないまでもやや固めの文章(「中世ヨーロッパを生きる」掲載のもの
    など)であれば極めて読みやすい。

***10年4月30日追記
 致命的なミスを発見しました。「中世ヨーロッパを生きる」の堀越「宏」一さんは別の方ですね。
 申し訳ありません。


(2)唐突に美術品に対する言及が挿入
  もちろんこれには筆者の狙いがあるのだが、私としては頭の切り替えに苦労した。
(3)あだ名を地の文でつかっている
  ex.「同盟者であり義兄であるおひとよしと~」(69頁)など。
    ここでいう「おひとよし」があだ名で、これは「フィリップ善良公」のこと。
    これに関連して、用語の翻訳がやや特殊だというのも要因のひとつになるだろう。

(4)そもそも題材が複雑
 支配領域も現在の国境をまたいでいるから、単純にフランスの一地方のことを考えればいいわけではない。
 人間関係も複雑であり、外交関係も複雑である。
 そのため、視点の移動も多く、読者としては混乱しやすいのかもしれない。

などが考えられるだろう。

とはいえ、本書の独特の語り口も、読み進めていくうちに次第に気にならなくなってくる。
波長さえ合えば、むしろ堀越さんの講義を聞いているようで、リズムに乗って読み進めていくことができる。

***
その他の本書の長所と短所。
長所としては、新書にしては地図やイラストが多く、年表まで付いていることがあげられる。

短所としては、索引がないこと、参考文献の記載が荒いことがあげられよう。
例えば143頁では「シャルル六世の王家家政について調べた本がたまたま手元にあって」とあるが、これがいったいどの本なのかは明示されていない。研究者にとっては自明であり、他方、一般読者にとっては細かすぎるとして参考文献を明示しなかったのかもしれない。が、参考文献を辿って読む本が広がっていくということもあるので、これは私としては残念である。


***
騎士団の中でも、宗教的な騎士団(騎士修道会)については日本語の本も多いが……
世俗的な騎士団について要領よくまとめた本などないものだろうか??