いや、信長って自害ですやん。「真犯人」って、あーた。
などと書くと一行で終わってしまうし、「本能寺の変 真犯人」でググってきた人がここでUターンするだろうし、ろくなことはありません。だけど、明智勢の誰かに討たれたとしたら記録に残らないはずがないので、囲まれて自害したのはまあ、事実なのかな、と思う。
だから、よくいう「本能寺の変の真犯人は誰か」かというとき、「明智光秀を操って信長を討たせたのは誰か」(つまり「黒幕」はだれか)ということを差していることがあるんだけど、正直に言って「思考ゲーム」以上の意味はないと思う。誰がどんな本で何を主張しようが日本の歴史に何も足さない。
「ゲーム」としてはどの説が面白かったかというと、下の本が最高に面白いというか、「変」だった。
信長と十字架―「天下布武」の真実を追う (集英社新書) | |
立花 京子 | |
集英社 |
いわゆる「黒幕説」の中で、最もすごい「イエズス会黒幕説」を唱えた本。ある雑誌に「緻密な論証」と紹介されていて、たまげたことがある。この本が緻密なら「地球空洞説」だって「古代宇宙人来訪説」だって十分緻密な論証だと思う。
この本に比べると、「朝廷黒幕説」や「足利義昭黒幕説」「秀吉黒幕説」はいかにも地味。そもそも(秀吉はべつにして)この人たちに「お手紙」と「官位」以上の報酬が与えられるのか。
下の本もずいぶん話題になった本。
「本能寺の変」は変だ! 435年目の再審請求 (文芸社文庫) | |
明智 憲三郎 | |
文芸社 |
読んでいただくのがいちばんいいけれど、「本能寺の変」が発生した状況の説明はつく。うまくついているような気がする。読んでいる間は説得力もある。なんとマンガ化もされているヒット作。
光秀の「動機」に関する本も何冊か読んだけど、どれも上の二冊ほどの面白さはない、と思った。ぼくが「主君殺しの動機なんてどうでもいい」 と常々思っているからかもしれない。そもそも史料から一武将個人の動機を、それもたった一つだけ類推するなんで、小説を面白くする以上の意味があるのだろうか?
鬱陶しい主君が死んでみたら、スッキリした。それでいいではないか。
「安土城に入りし光秀は近江武士の帰属社寺の礼使に接し逆臣の身を以て俄かに将軍の如く時めきたり」
上の一節を、たまたま「近江蒲生郡志」という本で見つけた。晴れやかな表情を浮かべた明智光秀が目に浮かぶようだ。二週間の便秘がスッキリしたような。「信長公記」なんか読むと、信長って、上司としてはほんとうにシンドイ人物だと思う。パワハラするし、身内びいきするし。
本能寺の変の変 | |
黒鉄 ヒロシ | |
PHP研究所 |
動機はどうでもいいと書いたけど、黒鉄先生の上のマンガはとてもよかった。 2014年に発見された新史料に基づいて、四国の覇者であった長宗我部元親と明智光秀の腹心である斎藤利三との関係を分かりやすく解き明かしていく。「本能寺の変」に興味のある方で、マンガに偏見のないひとは、へたな新書を買うよりもためになると思う。
さいごに「本能寺の変の真犯人」を扱ったフィクションでもっとも好きな本を。やっぱりマンガである。
へうげもの(1) (モーニングコミックス) | |
山田芳裕 | |
講談社 |
「真犯人」は「秀吉」である。光秀をそそのかして軍を動かさせるのだが、このマンガの秀吉は、実際に自分で手を下すのである。つまり、変装して本能寺に忍び込み、直接、信長を斬るのだ。
あ、推理小説とちがって、真犯人がわかったからといって面白さが削がれたりしない。このマンガの肝は、そこから始まる。このマンガで描かれた「主君を殺した秀吉」像の、なんと素晴らしいことか。秀吉の臨終のシーンは涙なくして読めない。困ったことに、このマンガの秀吉があまりに素晴らしすぎて、他の小説を読んだときに、顔が山田先生の描く秀吉になっちまう(笑)、それくらい、いい。
タイトル詐欺みたいな投稿になってしまったけど、日本史の三大謎のひとつとされる「本能寺の変」は、個人的には謎でもなんでもないと考える。人間は複雑かつ単純な生き物だ。明智光秀という戦国時代では知性的で保守的な武将が、いろいろな要因が重なって、主君を弑逆した、それだけのことだと思うのだ。「できるときに、やりたかったことをやった」
2020年の大河ドラマは「明智光秀」だという。「本能寺の変」前後がクライマックスになるのだろうけど、この辺りをどのように料理するのか楽しみに待ちたい。
こんな私でも戦国時代を舞台にした本を出しています。先日、「加地尚武のThe House of Stories」で公開した短編も、ためしにKDPにしてみました。よければ、どうぞ。
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