key person

「どうする日本!」

右と左の真ん中で日本と世界を眺める

黛信彦の時事ブログ

浜矩子語録(68) 3人の妖怪(3234の初めの3)

2009年07月30日 | 浜矩子語録
『現在、世界と日本の経済に何が起きていて、わたしたちの生活はどうなるのか?』
富山県女性財団が、この難題を解くために妖艶なエコノミスト・浜矩子に4つの問いかけをした。
1、今、何が起こっているのか?
2、これから、何が起こるのか?
3、暮らしはどうなるのか?
4、だから、どうする?

09年7月26日、浜矩子は富山県民共生センター「サンフォルテ」2階ホールの演台に立って、それらに解答を与えた。
浜矩子が、「それぞれに対して、3・2・3・4という数字で答えを出したい」と前置きして語り始めた解答は明快だった。
最初の3は、3人の妖怪たち
2は、2つのショック
ふたつ目の3は、3つの悲劇
最後の4は、4つの秘策
である。

■今何が起こっているか? 3人の妖怪
今、ひたひたと起こりつつある3つの怖いこと。これが、今何が起こっているかということでございます。
現在進行中のある3つの怖いこと、3人の妖怪たちについてお話を進めてまいります。

●妖怪その1・・・・愛国づくし
今、愛国主義を標榜する動きが出てきていますが、保護主義と言い換えてもよろしい言葉でございます。
「愛国」という人々の思いに訴えかける形で、地球経済の津々浦々に広がりつつあることを思わせる今日この頃です。
その愛国づくしを大きく分ければ、世の中にまかり通っている愛国には3つの側面があるという気がします。

第一に、愛国消費。国産品愛用主義ということでございますが、その典型は「バイアメリカン」政策でございます。
アメリカを立ち直らせる経済対策の一環として行われる公共事業をやるにあたっては、「アメリカ製のものを使わなければだめですよ」ということです。
オバマ大統領はアメリカを変えてくれるだろうと、彼に期待し応援する人は多いのではないかと思いますが、悲しいことに、そのオバマ大統領をもってしても「愛国消費」というスタンスが前面に出ることを阻むことができなかった。悲しむべきことでございますし、なり行きが怖いと思います。
言ってみれば地球上に、愛国消費という症状、行動をもたらしている「流行病」が蔓延していますが、それに名前を付けるとすれば「自分さえ良ければ病」ということになると思います。
この病気は、国が罹れば愛国主義に、金融機関が感染すると貸し渋り・貸し剥がし・現金囲い込み、製造業が罹ると派遣切り・下請け切りがどんどん行われたりすることになって参ります。

第二は、愛国金融でございます。
各国が、公的資金を金融機関に注入し、「なるべく我が国の人々、我が国の企業に貸してくださいね。外国企業に貸してはだめですよ」というような愛国金融が、アメリカ・イギリス・フランスでもドイツ・イタリア・ギリシャでも、世界の津々浦々でそういう傾向が表に出ています。挙げて愛国金融ブームになっているという今日この頃でございます。

第三は愛国雇用、自国民優先主義的な雇用政策ということです。
公的支援をしている産業・企業に対して「なるべく外国人ではなくて、我が国の人を雇ってくださいね」ということが言われている。この現象が、アメリカでもヨーロッパでも起きているのです。

厳しい現状下、そうなってしまうのは尤もなことである面はございまして、一方的に糾弾することは辛いことでございます。けれども、そういうことをすべての国々がやり出すことになれば互いに門戸を閉ざして行く、お互いにお互いの経済を支え合うということがどんどんなくなってしまう。結局のところ地球経済が全体として沈下して行くことになりますし、国と国の関係はぎくしゃくして来るわけです。
我が身可愛さがぶつかり合う中で、皆で不幸になってゆくという状況を何とか阻止しなければならない時代、状況になっているのです。
このような、愛国尽くしが第一の妖怪です。

●妖怪その2・・・・統制経済
申し上げました愛国消費は、モノに関する自分さえ良ければ病。
愛国金融、これは、カネに関する愛国主義。
愛国雇用は、ヒトに関する自分さえ良ければ病ですね。
モノ・カネ・ヒト。 人・物・金というのはまさにグローバル時代の3大主役と言っても良いものです。
グローバル経済をグローバルたらしめている人・物・金の自由な往来を、愛国尽しは阻んでいるのです。ということは、とりもなおさず、「どこから物を買うか?」「誰に金を貸すか?」「誰を雇うか?」、これらはいずれも民間企業あるいは金融企業も含めて、企業経営民間市場において重要な意思決定の基本的要因と言ってもいい3つの要因ですが、民間市場を民間市場たらしめている3つの要因のすべてに対して政府が口出しをするようになっているという現象があるということでございます。こういう方向に向かおうとしていることは、統制経済という方向に一歩も二歩も足を踏み込むという展開になっている。

「まさか、今の世の中、21世の紀グローバルな世の中、世界で何が起こっているか皆が知っているというような時代に、まさか統制経済の影におびえる必要はないだろう。それは心配し過ぎ、人を脅かしすぎではないか?」と思われるかも知れません。
しかし、歴史が教えてくれたものが一つあるとすれば、それは「まさかは必ず起こる」ということでございます。
例えば、ヒットラーがああいう形で第3帝国をつくるというようなところまで行くはずはないと誰もが思っていましたし、リーマンショックの直前のところで、まさか日経平均が一万円を割るようなことがあると思っていなかった。
ところが、それらのまさかが現実になったわけですから、「まさか」と言いたくなったら「それは必ず起こる」と思っていただいたほうがよろしいと思います。
そういう危険な状況が、我々の足元にひたひたと迫ってきているのです。
「統制経済の忍び寄る影」が妖怪その2なのでございます。

●妖怪その3・・・・元の木阿弥
世界各国で、経済を立て直さなければならないということで、大型の経済対策が打たれ、中央銀行は市場にお金を流しています。
ここまで財政大盤振舞いを行い、市場に金を流し込むことは、結局何をやろうとしているのかというと、今のような状態に我々を追い込んだ2008年9月のリーマンショック以前の、世界的な金余り状態、バブル状態を再現するようなことに繋がる事を政策がやっているということではないかと考えられます。このことを元の木阿弥というように申し上げるのでございます。

「山高ければ谷深し」とはもっともな話ですが、じゃあ裏返して、「谷深ければ山高し、で良いのか?」ということを申し上げたいのです。
余りにも高すぎて足場が悪く、あまりにも危険な山の上に登りつめてしまったが故に、深い厳しい谷底に突き落とされている。
であるにもかかわらずまた、もう一度、あの高過ぎて、足場が悪すぎて危険な山の上に登るという方向、そういう格好で元の木阿弥に戻るとなれば、またぞろ、深い谷底に突き落とされることは決まっている。

こんなことを繰り返しては我々の身体は持たないわけで、そういう方向に政策がどんどん進んでしまっているのが現状であると思います。

元の木阿弥が現れている現象がすでにございます。
皆様も報道などでお目に留まっていることでございますが、つい先ごろ、投資銀行のゴールドマンサックスが大好決算を記録したというニュースが世界中を飛び交っております。
あれだけの金融大激震に見舞われて、アメリカから投資銀行が消えてなくなってしまうのではないかと思われたほどなのに、ほんの数か月で高収益を上げる。
その中身を見れば元の木阿弥、リーマン破たんと同様に、金融大暴走的なやり方で高収益を上げているわけですから、元の木阿弥化がすでに始まっている。
遠からず我々は、高い山の上に押し上げられてしまってまた落ちることになるのではないかと思うわけです。
以下、次編

浜矩子語録目次Ⅱ

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 5大紙社説にみる民主マニフ... | トップ | 5大紙社説に見る、自民マニ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

浜矩子語録」カテゴリの最新記事