ロック探偵のMY GENERATION

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マイク、国家を侮辱しているのはどっちなんだい?

2017-10-09 16:45:48 | 時事
アメリカのマイク・ペンス副大統領が、NFL(アメリカのプロフットボールリーグ)の試合会場から途中で退出するというニュースがありました。

国家に対する侮辱行為があったからだ……というのです。

その侮辱行為とは、「国歌斉唱時に起立を拒否した選手がいた」というものでした。

この、国歌斉唱時に起立しない、膝をつく、という行動が、いまアメリカのスポーツ界に広がっています。

発端は、去年のことです。

警官による黒人射殺事件などが相次いで、人種差別が問題視されるようになっていましたが、この状況に対してある選手が「敬意を払うことができない」と国歌斉唱時に起立せずに地にひざをつくという行動をとりました。そこから広がっていったようです。

今年は、シャーロッツビルの事件以来、人種差別に反対する行動が広がっており、それが今回の一件につながっています。
白人至上主義を擁護するかのようなトランプ大統領の姿勢も、こうした動きに拍車をかけているでしょう。


さまざまな議論があると思いますが、私は、NFL選手たちの行動を支持します。
なぜならそれは、実現されるべき理念が実現されていないということを示し、改善を促すための行動だからです。


We hold these truths to be self evident:
that all men are created equal

アメリカ独立宣言の冒頭部分です。

「私たちは、以下を自明の真理と信ずる――すべての人は平等である」

かのキング牧師は、この一節を引用して、そこで語られる理想が実現することを、彼の“夢”の一つに挙げました。
その夢は、実現されているのか。
されてないんじゃないか。
だったら、そのことを示さなければいけない。アメリカの国家が体現すべき理念が実現されていなということを……それが、NFL選手らの行動だと思うんです。


「スポーツに政治をもちこむな」という批判もあるようですが、そうした批判は的外れだと私は思います。
たとえばサッカーのワールドカップでは、「反人種差別」を掲げ、準々決勝では人種差別に反対する宣言を選手が読み上げています。
これは“政治的”だからやめるべきなんでしょうか。
肌の色で人を差別するのはおかしいよ、ということが政治的なのかい? 
人を殺してはいけない、といったらそれは政治的なのかい?
そういう話でしょう。


このブログはロック探偵を名乗っていますから、ここで一つロックの名曲を紹介しましょう。

ジョニー・キャッシュの Ragged Old Flag です。
(“歌”というか、“朗読”なんですが……)

その詞は、主人公がある郡の庁舎前にある公園を訪れるところからはじまります。
そこに国旗が掲揚されているのですが、国旗を掲揚するポールが少し傾いている、それに、掲揚されているのはぼろぼろの旗だ……という主人公に対して、男が旗の来歴について語ります。

それはアメリカの歴史そのものです。

独立戦争から、南北戦争、二度の世界大戦、そしてその後の、朝鮮戦争、ベトナム戦争……

その歴史の中で、星条旗がいかに傷ついてきたかが語られます。


この旗は、燃やされ、貶められ、否定され、拒絶されてきた
国旗によって代表される政府が、みんなをあきれさせてきた


最初に「国旗を掲揚するポールが少し傾いている」といったのは、アメリカという国の理念がゆがんでしまっているということを言いたいんだと思います。

この歌は、直接にはウォーターゲート事件について歌っているといわれます。

政府こそが、国旗を侮辱している。

そういう認識があるんだと思います。


ひるがえって、今回のNFLの件はどうなのか。
ペンス副大統領は「国家を侮辱する行為があった」といっていますが、国家を侮辱しているのはいったい誰なのか。
人種差別をなくそうとするどころか、白人至上主義に理解を示すかのような発言をし、壁をつくり、外からやってくる人を国籍によって選別しようとしているいまの政府のほうが、よっぽど星条旗を侮辱しているんじゃないか……

そこで、私はこう問いたい。

マイク、国家を侮辱しているのはどっちなんだい?