ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

阿部陽一『フェニックスの弔鐘』

2017-10-07 22:07:21 | 小説
このお題で意図されているのはおそらく本格系ミステリーなんでしょうが、私はあえて阿部陽一さんの『フェニックスの弔鐘』(講談社)を挙げたいと思います。

第36回乱歩賞受賞作で、エスピオナージと呼ばれるようなタイプの作品です。
発表されたのは今からもう20年近くも前ですが、冷戦終結という当時の時代背景をからめた、きわめてクオリティの高い作品になっています。

国際謀略サスペンスなんていうと、突拍子もない陰謀論めいた話でついていけないという方もいらっしゃるでしょうが、この作品に関しては、作者が相当にいろんなことを調べて書いているため、現実の世界で起きていることを理解する助けにもなると思います。

実際読む前のことですが、大学の図書館で、国際政治学のような書架にこの本が置かれているのを見たことがあります。

なんでここに置いてあるんだろう……とそのときは思っていましたが、読んでみればわかります。そういうレベルにまで完成された作品なのです。

作品のなかで、マディソン・スクエアに旅客機が突っ込んでいくというテロ事件が描かれているのですが、これなんか、作品発表からおよそ10年後に起きたアメリカ同時多発テロを予言しているかのようです。そのテロをきっかけにして世界が戦争にむかって突き進んでいく……というところは、まさに現実の歴史を先取りしています。国際政治に関する深い洞察があってこそなせるわざです。

硬質な文体とストーリーテリングも絶妙で、私は乱歩賞史上でも屈指の傑作だと思っています。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの帰還~

2017-10-07 15:15:51 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回の記事は、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の制作裏話シリーズです。

前回は、トミーこと富井仁のプロトタイプについて書きました。
二回目は、トミーが今の設定で初登場した作品について書きたいと思います。

その作品については、小説投稿の世界に身を置いている人は、ひょっとしたら知っているかもしれません。
以前書いた通り、私は横溝正史ミステリ大賞の最終候補になったことがあるのですが、実は、その作品こそが、現行のトミーシリーズ第一作となる作品なのです。

タイトルは、『天国への階段』。

その題名からわかるとおり、この作品はレッド・ツェッペリンの「天国への階段」をモチーフにしています。トミー・シリーズは、作品のタイトルを楽曲の曲名からとるというスタイルになっていて、(『ホテル・カリフォルニアの殺人』も、応募時のタイトルは『ホテル・カリフォルニア』でした)この作品もそうなっているわけです。

この作品は、まずトリックを先に考えました。

密室殺人を扱っているのですが、密室のトリックを考え、それが一番生きる舞台設定を考えたところ、「階段」に行きついたのです。
そこから「天国への階段」を連想。
だったら、ロックをモチーフにして謎を解く男……あのトミーを主人公にすればいいんじゃないか。

こうして、トミーは復活しました。

ただし、新たな作品を書くにあたって、設定は大幅に変更されました。
年齢は20歳ぐらいで、インディーズで活躍する天才的なギタリスト。音楽に関してはめちゃくちゃ詳しく真摯だけれど、それ以外のことでは非常識でルーズ……そんなキャラクターです。

この作品は、選考レースをうまく勝ち上がってくれて、先述したとおり、横溝賞で最終候補に残りました。

私にとって、はじめての最終候補作でした。

選考の日までの日数をカウントダウンし、選考会の当日は、公園のベンチに座って、じっと連絡が来るのを待っていました。

しかし、受賞はならず……

さすがに、しばしへこみました。

ですが、小説投稿者に休息はありません。
その直後に、『ホテル・カリフォルニア』を書き上げて『このミス』大賞に応募することになります。
その経緯については、また、次回書こうと思います。