『絶対無敵ライジンオー 五次元帝国の逆襲』という小説を読みました。
前に一度紹介したアニメ『絶対無敵ライジンオー』をもとにした小説です。
著者は、アニメ版でストーリー構成と脚本を担当していた園田英樹さん。二年前にサンライズの公式ウェブサイトで連載されていたもので、それが今年文庫として出版されました。
内容は、あのアニメでやっていたライジンオーの続編――といっていいかどうか、ちょっと戸惑うところです。
そのあたりのことを詳しく書くとネタバレになってしまう可能性があるので、あまり書けませんが……はじめの部分をちょっとだけ紹介しましょう。
物語は、月城飛鳥を主人公とした一人称視点で語られています。
著者のあとがきによると、アニメで飛鳥の声を担当していた声優の岩坪理江さんが引退したことを惜しむ気持ちからそうなったということです。
さて――その飛鳥が高校生として同じ高校に通う白鳥マリアと屋上で会話を交わしているところから物語ははじまります。
最近「謎の影」が見えるという飛鳥――マリアと話している最中に、その謎の影があらわれ、そのなかに吸い込まれてしまいます。
そうして目を覚ますと、自分の周りに小学生時代の仲間が。なんと、小学生の頃に戻ってしまっていたのです。
タイムリープなのか……と思いきや、そこから読み進めているうちに、読者の側に違和感が。
この小説の主人公である飛鳥は、ライジンオーのことも地球防衛組のことも知らず、5年3組の他の生徒のことはみんな覚えているにもかかわらず、日向仁のことだけは知らないのです。ということは、タイムリープではなく、パラレルワールドなのか……? この謎をめぐって、二つの世界が交錯しつつ物語は展開していきます。
ライジンオーの設定を踏まえたうえでのかなり大がかりな仕掛けで、中盤からは意外な方向に話が転がっていき、純粋にエンターテイメントとしての完成度が高いと思えました。
園田さんは、かつてアニメのライジンオーを見ていた人たちと、それをまったく知らない今の子ども両方にむけてこの作品を書いたとおっしゃっています。
しかし、私個人としては、やはりオリジナルのアニメシリーズを見ていたほうが楽しめるとは思います。ストーリー的にもそうですが、武内啓さんのイラストで高校生になった防衛組の面々が描かれた口絵がついていて、それだけでも感涙です。さらに『大勇者物語』まで出てきて、懐かしさはひとしおとなります。
作品のテーマも、当然といえば当然ですが、かつてのアニメと共通しているように思えます。
夢と現実のせめぎあいというか……アニメ版を見ていた人なら、あの最終話のリフレインを聞き取ることができるでしょう。
そしておそらく、あれから30年近くの時の流れの中で、自分はいったいどうだったろうか……ということに思いを馳せるんじゃないでしょうか。
夢を大切にしたい。でも、いつまでも夢をみている子供のままではいられない――ライジンオーを見て育った子供たちは、そんな葛藤の日々を過ごしてきたかもしれません。
私なりの回答は、どちらも必要ということです。
たしかに、大人になって現実を見なければならないときもある。だけど、子どもの気持ちをなくしちゃいけないところもある――そういうことです。
いつだか、RCサクセションの「空がまた暗くなる」について書いたことと通じるところがあるでしょう。
現実は直視しなければならないし対処しなければならないけれど、その現実に呑まれてはいけないということです。「これが現実なのさ」とわけしりがおでいうのではなく、どこかで夢想家であり続ける……そう、まさに忌野清志郎です。
と、またしてもキヨシローのほうに話が流れてしまいましたが……
ライジンオーに話を戻すと、今回の小説も、そういうメッセージだと思うんです。
忘れてしまっていた大切なことを思い出したとき、そして自分の理想を信じるとき、それまで見えなかったものが見えてきます。
理不尽な現実に押しつぶされそうになっても、理想を決してあきらめない姿――地球防衛組から、あらためてそんなことを教えられた気がするのです。
というわけで、子供のころにライジンオーをみていた皆さんはぜひこの小説を読みましょう。著者の園田さんがあとがきに書いてるんですが、この小説がきっかけになってライジンオーがリメイクされるなんてこともあるかもしれません。
余談ですが、この本についている著者のプロフィールで、園田英樹さんが佐賀県鳥栖市の出身ということを知りました。鳥栖市は、県こそ違えど、私の住んでいる小郡市の隣町……郷土の偉人でした。