ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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映画『エルヴィス』

2024-07-30 22:36:59 | 映画


映画『エルヴィス』を観ました。

 

先日の映画記事はエルトン・ジョンを描いた『ロケットマン』をとりあげましたが、こちらはエルヴィス・プレスリーを描いたドキュメンタリーとなっています。これもアマプラに入っていたので、視聴してみました。


公開は、2022年。
『ボヘミアン・ラプソディ』が売れたから2匹目のどじょうを狙って作られた作品か……と私は思ってたんですが、どうやらそういうことではないようです。ウィキ情報によれば、作品の構想は2014年頃からあったんだとか。

その予告動画です。

映画『エルヴィス』US版予告 2022年7月1日(金)公開

この映画は、エルヴィスのマネージャーであったパーカー大佐の視点で描かれます。
エルヴィスを食い物にした悪徳マネージャーというようなイメージで見られることも多い人物です。そのパーカー大佐の回想というかたちで映画ははじまり、大佐の回想というかたちでの語りが折に触れて出てきます。この構造が、エルヴィス・プレスリーのドキュメンタリーとして適切であったかどうかというのは、議論の余地があるでしょう。私個人としては、それによってフォーカスのブレが生じているようにも感じられました。エルヴィスという人物を描くにあたって重要視されるべき要素がうまくフォーカスされずに焦点がぼやけてしまっているような……まあ、今さらエルヴィスの映画を作るのに普通に作っても新味がないということでこうなったのかもしれませんが。

結果として、この映画においては、ロックンロールの革新者としてのエルヴィスというよりも、その影の部分のほうが色濃く映し出されているように思われました。
成功のかげでドラッグに溺れ(といっても、エルヴィスの場合は違法薬物ではなく合法な薬物の濫用ということだったようですが)、家庭は崩壊し、放蕩が祟って経済的にも苦境に陥る……都会に出て堕落する、いわゆる“フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド”の典型であり、『ロケットマン』で描かれたエルトン・ジョンの姿にも相当に重なるところがあります。『ロケットマン』では、そこからの再生が描かれましたが、エルヴィスの場合、再生のための時間は十分に残されていませんでした。パーカー大佐の桎梏から逃れることができないまま、1977年に死去。エルトン・ジョンが別れを告げた“黄色いレンガ路”からエルヴィスはついに脱することができなかったのかもしれません。


ここで、音楽について。

音楽について、というと微妙ですが、本作にはゲイリー・クラークJrが出演したりしています。観ているときには気づきませんでしたが……
ゲイリー・クラークJr といえば、ビートルズの Come Together をカバーしている動画を先日紹介しましたが、このゲイリー・クラーク版のCome Together が劇中で使われているらしいです。これも気づかなかったんですが……

そして、映画のエンディング曲では、豪華なアーティストが楽曲を提供しています。
まず一組目が、エミネムとシーロー・グリーンがコラボした The King and I。エルヴィスの「監獄ロック」をベースにしたヒップホップとなっています。

そして最後に登場するのが、マネスキン。
今もっとも勢いのあるバンドといってもいいでしょう。そのマネスキンが、エルヴィスの If I Can Dream をカバーしています。
先述したような映画の構成上の問題で、この曲に関してはほんのさらりとしか劇中で触れられないんですが……
マネスキンのYoutubeチャンネルから、動画を載せておきましょう。
映画を踏まえたビデオとなっています。

If I Can Dream (From The Original Motion Picture Soundtrack ELVIS) (Official Video)

余談ながら、マネスキンのボーカルであるダミアーノは、エルヴィスと誕生日が同じなんだそうで……そういったこともあっての起用でしょうか。



映画『ロケットマン』

2024-07-23 22:56:50 | 映画


映画『ロケットマン』を観ました。

エルトン・ジョンを描く映画。

最近公開されたボブ・マーリィの映画が、二匹め三匹目のどじょうを狙っている感があると書きましたが、どじょうの一匹は、エルトン・ジョンでしょう。この映画がアマプラに入っていたので、視聴してみました。

映画『ロケットマン』本予告


この映画、ただのドキュメンタリーではなく、ミュージカル仕立てになっています。
突然登場人物たちが歌ったり踊ったりしはじめるというやつですね。エルトン・ジョンという人物には、こういう趣向があっているようにも感じられます。
使われる歌は、もちろんエルトン・ジョンの曲が多くを占めています。盟友バーニー・トーピンとの出会いから「僕の歌は君の歌」、エルトン・ジョンを一躍ロックスターにした「クロコダイル・ロック」、フーの『トミー』から「ピンボールの魔術師」、低迷期の中で再生の輝きをみせた「僕の瞳に小さな太陽」……これらの名曲のなかでも、とりわけ重要な役割を果たしているのが、Goodbye Yellow Brick Road でしょう。
エルトンが2年前にライブでこの曲を披露した動画がありました。

Elton John - Goodbye Yellow Brick Road (Live From Dodger Stadium, USA / 2022)

一応解説めいたことをいっておくと、この歌は『オズの魔法使い』に出てくる「黄色いレンガの道」がもとになっています。

カネや名誉といった虚栄の世界に別れを告げる歌……それが、まさにこの作品のテーマにつながっているということでしょう。この歌は、アレンジを変えながら作中で何度か歌われます。そんなふうに繰り返し歌われるのは(おそらく)この曲のみであり、映画における重要なモチーフとなっているのです。
成功によって身を持ちくずしたミュージシャンが本当の自分を取り戻す物語。そんなふうに考えると、クイーンを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』に通ずるところもあります。
制作のタイミング的にいって、『ボヘミアン・ラプソディ』の影響を受けているとは考えにくいとも思いますが……しかし、エルトン・ジョンとフレディ・マーキュリーというこの二人の天才ミュージシャンには、どこか似ているところがあります。
類まれなる楽才を持っている一方、同性愛傾向があり、そのことで疎外感ももっている。その音楽でスターになったものの、金と名誉のなかで道を見失ってしまう……
フレディの場合は、不治の病に冒されたことがある意味で立ち直りのきっかけとなりましたが、エルトン・ジョンは生きています。生きて、虚栄の道である“黄色いレンガ路”を超えたところに自分の未来を見出したということでしょう。
だいぶ前にクイーンのThe Show Must Go On をエルトン・ジョンがカバーしている動画というのがありましたが、ある意味で、エルトン・ジョンは道化の仮面を脱ぎ捨てたともいえるでしょう。それがまさに、この映画で描かれているテーマです。
映画の冒頭、それこそ道化のような衣装で登場したエルトンは、自分の過去に向き合い、人生を語りながら、派手な衣装を少しずつはぎとっていきます。そして最後に、自分のたどりつくべき場所にたどりつくのです。

映画のしめくくりには、こんな歌が流れます。

Elton John - I'm Still Standing

私はまだ立っている。

ときに堕落や低迷があったとしても、数十年にわたって紡いできた軌跡には、誇るべきものがあるということでしょう。

ついでなので、最後にもう一つ動画を。
映画でエルトンの役を演じたタロン・エガートンが本人とステージで共演する動画があります。
映画祭でのパフォーマンスということで何曲かやっているようですが、その中から映画のタイトルにもなった「ロケットマン」です。

Elton John & Taron Egerton - Rocket Man (Cannes Film Festival 2019)



映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

2024-05-28 21:51:17 | 映画

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』を観ました。


昨年公開の新作アニメ映画。
最近アマプラに追加されたということなので、視聴してみました。


正直、最近よくあるいじりすぎリメイクみたいなやつかと思ってあまり期待はしておらず、それで劇場にもいかなかったんですが……その予想はいい意味で裏切られました。

これは、ものすごい作品です。

6期鬼太郎の美麗ビジュアルをベースにしつつ、戦後間もない日本を舞台として、切なくも美しい物語が展開します。そこで描かれるテーマは、戦後日本史を俯瞰するようなものにもなっています。
奇しくも昨年はゴジラの新作があったわけですが、そこに通ずるものがあるでしょう。ゴジラ同様、戦後日本とともに歩んできた鬼太郎だからこそといえます。

冒頭部分の映像がYoutubeで公開されているので、載せておきましょう。

映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』本編映像(冒頭シーン)

この動画でわかるとおり、映画は現代から始まります。
物語そのものは戦後間もない頃を中心として展開しますが、冒頭部分とエンディングは、現代パート。
この構造が、先に述べた「戦後日本史を俯瞰する」ということにつながってきます。戦後、焼け跡から復興しつつある日本で語られる、未来の夢……そして、それから70年後の現代復興の頃の希望とは程遠い現実。そういう、戦後史を総括するような視点があるのです。クライマックスで主人公が口にする「ツケは払わなきゃな」というセリフは、まさに近代日本にむけられたもののようにも感じられます。
といっても、単に、戦後日本の歩みをニヒリスティックに突き放してみているわけではありません。
希望に満ちた幸福な歴史でなかったとしても、その道を歩んできた人々の足音がたしかにある。それを踏まえて、ここから先の未来を見据える、そんな力強さを感じさせるエンディングとなっているのです。


一応簡単にあらすじを説明しておきましょう。

「帝国血液銀行」に勤める主人公の水木は、龍賀製薬の本拠地である「哭倉村」を訪れます。そこでは、龍賀一族の当主であった時貞翁が死去し、その後継者をどうするかという問題が持ち上がっていました。ところが、弁護士が公開した遺言状によって選ばれた新当主は何者かに殺され……と、序盤は横溝正史の小説のようなかたちで展開しますが、そこに「ゲゲ郎」なる人物が現れ、中盤からは魑魅魍魎の世界へと話が展開していきます。
ネタバレを避けるために詳細は伏せますが……決してハッピーエンドとはいえないものの、深い印象を残す結末でした。PG12指定となっていることからも推察されるとおり、グロテスクな描写も結構ありますが、それでいて、美しく切ない物語となっているのです。

そして、映画に付された音楽も素晴らしい。
懐かしさを誘う山村の風景に流れるピアノ。
そして、往年の鬼太郎ファンとしては、かつての主題歌をアレンジした曲が要所要所で流れてくるのもポイントです。

前にも書いたように、本作は、水木しげる生誕100周年記念プロジェクトの一環ですが、実にそれにふさわしい作品となったのではないでしょうか。




『フウムーン』

2024-04-28 22:12:15 | 映画


映画『フウムーン』を観ました。

手塚治虫先生の漫画『来るべき世界』を長編アニメにしたもので、1980年の作。アマプラに入っていたので、視聴してみました。


“映画”として書いていますが……厳密には、本作は劇場で公開された作品ではありません。24時間テレビで放映するために作られたスペシャルアニメです。この頃の24時間テレビでは手塚治虫原作アニメを毎年やっていて、そのうちの一作となります。
その冒頭部分がYoutubeの手塚プロ公式チャンネルにあがっているので、載せておきましょう。


フウムーン

南太平洋に浮かぶ馬蹄島で、生物学者・山田野博士は新人類フウムーンと遭遇。彼らは高度な科学技術を持ち、遠い宇宙から迫りくる暗黒ガス雲の存在を察知し、このままでは地球は滅びるということで、宇宙への脱出を計画していた。一方、人類は暗黒ガス雲を迎え撃つための計画にとりかかる――といったストーリーです。

いかにも手塚治虫、という要素がつまった作品といえるでしょう。
環境問題が一つのテーマになっているところは、チャリティ番組にふさわしいともいえます。
そしてこのテーマが、やはり手塚漫画に頻出するモチーフである“人間の愚か”さという文脈で描かれるのです。
美しかった馬蹄島を奪い合い、戦争のすえに荒廃させてしまった二大国。彼らは、人類滅亡の危機がせまるなかにあってさえ、いがみあい、ついには再び戦争を始めてしまいます。そして、金儲けのことしか頭にない人間や、誤った情報に扇動されて暴動を起こす群衆……
数年前なら、さすがに人類もそんなに愚かではないだろうと思えたでしょうが、コロナ禍やウクライナ戦争を経たいま見ると、その考えはあらためなければいけないのかもしれません。手塚治虫という漫画家の根底にある人間不信というか、人間に対する冷めた目……その透徹した視線は、やはり人間というものの本質を鋭く見抜いていたのではないしょうか。


しかしながら、結末は決してバッドエンドではありません。
ネタバレとなるので詳細は伏せますが、24時間テレビのスローガン「愛は地球を救う」にもつながる結末でしょう。いろいろツッコミたくなるところもありますが、これもまた、手塚治虫という人のもう一つの重要な側面なのです。


手塚治虫先生といえば、このブログではたびたび話題になります。
去年はAIで新作なんていう話もありましたが、つい先月も博多マルイでブラックジャック関連イベントが行われていました。また、三池崇史監督がiPhoneのみで「ミッドナイト」を撮るなんていう話題もありました。
その普遍的なメッセージのゆえに、手塚作品が色あせることはないということでしょう。




映画『シン・仮面ライダー』

2024-01-25 20:29:15 | 映画


映画『シン・仮面ライダー』を観ました。

今日1月25日は、石ノ森章太郎生誕記念日。

ということもあって、今回はこの映画について書こうと思います。

いまさら説明するまでもないでしょうが、『シン・仮面ライダー』は、庵野秀明さんが指揮する「シン」シリーズの第三弾で、昨年公開された作品です。
その予告動画を貼っておきましょう。


『シン・仮面ライダー』予告

前半は、正直ちょっと方向性が見えない感じがしました。

過去のヒーローもの特撮やアニメをリメイクするときによくある、設定のいじりすぎ、現代風にアレンジしすぎ……という感じでしょうか。同じ石ノ森作品でいうと、『009ノ1』(『サイボーグ009』のセルフパロディみたいな作品。過去にドラマ化、アニメ化され、2013年に映画化されている)の映画版のような……
その手の作品はしばしば厳しい批判に遭いますが、『シン仮面ライダー』もちょっとそういうにおいがあります。シンゴジラやシンウルトラマンに比べてあまり評判にならなかったように思えるのは、そういうところなんじゃないでしょうか。
そことからんでもう一つ感じたのは、庵野さんのカラーを出しすぎている部分もあるのかな、というところです。
設定や特殊用語をあえて説明せずに話を進めたり、ショッカーが人類補完計画みたいなことをやっていたりするのも、やや庵野さんのカラーを出しすぎているように思われました。ラスボスまわりの美術も、非常にエヴァっぽい感じがします。あるいは、『ふしぎの海のナディア』に出てくる皇帝ネオがこんな感じだったような……
庵野カラーは、シンゴジ、シンウルトラマンではそれなりに抑制されていたように思いますが、ここにきてちょっと逸脱しているのではないかと。
結果、ゴジラシリーズでいうファイナルウォーズのようなことになっていると思われます。もとの作品とのギャップという点では、ゴジラ、ウルトラマンと比べて、往年のファンの反感を買う部分がかなりあったんじゃないでしょうか。そういうこともあって、私も前半はかなり微妙な感じで観ていました。

しかしながら、ラスボスとの最初のバトルあたりからの後半は、面白くなってきたと思います。
ネタバレを避けるために詳細は書きませんが……ああいうかたちで終わるというのも、憎々しい強敵をやっつけてすっきりという安易なカタルシスではなく好感がもてました。


さて……石ノ森作品といえば、最近『変身忍者 嵐』というドラマを見ています。

変身忍者 嵐 第01話[公式]

70年代に放送された特撮歴史ヒーローもので、Youtubeで週一話ペースで期間限定配信されており、視聴してるんですが……
やはり、ヒーロー特撮はこうあってこそだと思います。変に現代風にするよりも、このテイストをいかしてリバイバルしたほうがよいのではないかと。