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ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Maggie Rogers - Alaska

2025-04-22 21:52:05 | 音楽批評


今回も、前回に引き続き、政治ネタをからめた音楽記事です。

登場するのは、マギー・ロジャーズというシンガー。

2019年デビューということで、このブログで扱っているアーティストとしては、比較的新しい人といえるでしょう。
大学の授業で曲を作ったところ、それを聞いたファレル・ウィリアムズが感極まって涙を流したとか……そんなことで話題になり、注目されている人です。
その曲が、Alaskaです。

Maggie Rogers - Alaska (Official Video)

ニューポート・フォークフェスティバルなんかにも出ていて、フォークの方も向いているようで……そういうこともあってか、昨年ジョーン・バエズと共演したりしていました。チベット支援のイベントで、We Shall Overcome などを一緒に歌っています。


で、最近また、彼女がジョーン・バエズと共演した話題がありました。
しかも、そこでのメインは、ニール・ヤングだったのです。

その舞台となったのは、バーニー・サンダースが主催する政治集会。
サンダースといえば、米大統領選にも何度か無所属で出馬している闘士。トランプ批判の急先鋒でもあり、各地で集会を開いているようです。先日、ロサンゼルスで大規模な集会があり、そこにマギー・ロジャーズも参加。この集会で、ジョーン・バエズ、ニール・ヤングとの共演となったわけです。

ジョーン・バエズは、まさにフォーク界伝説の歌姫。そしてニール・ヤングも、60年代フォーク的なスピリットを色濃くもつロッカーです。そんな二人のレジェンドと共演するマギー・ロジャーズという人が、いかにすごいかということでしょう。
3人が共演している様子を集会参加者が撮影した動画があります。

Neil Young at LA Ca Bernie Sanders AOC Fighting Oligarchy Rally w/ Joan Baez & Maggie Rogers

ニール・ヤングが二曲目に披露しているのは、Rockin' in the Free World。
ロック史にさまざまな逸話を残す名曲です。
自由な世界でロックし続けよう――という歌詞は、発表当時の文脈においては一種の反語表現だったわけですが……現実が我々の理解を超越するほどにドリフトしてしまうと、反語はもはや反語として機能しなくなってしまいます。
ロシアによるウクライナ侵攻開始直後にロバート・フリップ夫妻がこの曲をカバーしたのは、そういうことだったでしょう。
そして、2025年のアメリカでもまた、そのときと同程度に現実がドリフトしています。
それがすなわち、トランプ大統領が世界にもたらした混乱です。

関税問題に端を発する混乱からトランプ氏への逆風が強まっていますが、いまアメリカで起きている反トランプのうねりは、多様性という観点ともつながっています。
トランプ大統領が打ち出してきた反DEIの態度は、かねてから批判されていました。50501などの運動は、むしろそちらが主流でしょう。その点がどうあれ、経済に関しては間違ったことはしないだろうと考えるトランプ支持者も少なからずいたと思われますが……今回の経済の大混乱を受けて、そこもあやしいとなってきて、反トランプの声が俄然高まってきているわけです。二期目に比べて思い切ったことができる体制になったことで、むしろトランプという人のダメな部分が露わになったということでしょう。私に言わせれば、そんなの最初からわかってたことじゃないかというところですが……ここまでの事態を引き起こしたからには、今後の動向でどうにか市場の混乱が収束をみたとしても、トランプ大統領に政策のセンスがからっきしないという評価は動かしがたいものとして定着すると思われます。上記の問題以外にも、移民問題で司法と対立したり、助成金の問題でハーバードと対立したりといったこともあります。そういったさまざまな問題の帰結として、世界中で“アメリカ離れ”を招き、アメリカへの旅行者が激減するという事態に直面してもいます。こうなったうえは、もう任期途中で辞任に追い込まれるというニクソン以来の不名誉な記録を作って、合衆国政治史に汚名を残してもらいたいところです。


マギー・ロジャーズに話を戻すと……この人は、ビョークなんかにも影響を受けているんだそうで、政治活動への参加というのは、そういったところもあるんでしょうか。ローリン・ヒルをよく聴いていたというような話もありますが、そうすると、フォークとはまたずいぶん違った趣もあります。ニール・ヤングやジョーン・バエズといった人たちは、もうその方面ではおなじみですが、こうしてもっと若い世代、違うジャンルからこういうアーティストが出て来て異議申し立てをするのは、頼もしいところです。



Shadows Fall - Blind Faith

2025-04-14 23:17:55 | 音楽批評


いわゆるトランプ関税が話題になっています。

世界各国に高関税を発動し、市場は混乱、一部品目を除外するとかしないとか、さらなる上乗せをするとかしないとか……しばらく混乱が続きそうな気配です。

この関税政策には、各方面から批判の声があがっていますが、ヘヴィメタル業界からも異論が出てきました。

というわけで、今回とりあげるのはShadows Fall というバンドです。


Shadows Fall は、マサチューセッツ州出身のバンド。
ヘヴィメタルのなかでも、メタルコアと呼ばれるジャンルを代表するバンドの一つです。
メタルコアというのは、ざっくりいえば、ヘヴィメタル+ハードコアということでしょう。ハードコアの2ビートとアグレッシヴ、ラディカルさをメロディック系メタルと融合させたスタイルといえます。
マサチューセッツ州およびその州都ボストンはメタルコアの一つの震源地として知られていて、MAメタルという言葉があるぐらいです。
MAメタルといえば筆頭に挙げられるのはキルスウィッチ・エンゲイジですが、シャドウズ・フォールとキルスウィッチ・エンゲイジという二バンドのギタリストはかつて同じバンドに在籍していたことがあり、そういった点からしても、この二者はMAメタルにおいて双璧をなす存在といえるでしょう。
シャドウズ・フォールのほうは、2010年代に入って一時活動を休止していたものの、数年前に活動を再開しました。
バンド休止中も、ドラムのジェイソン・ビットナーがオーヴァーキルに在籍、ギターのジョナサン・ドネイズがアンスラックスに在籍という風に、スラッシュ系大物HMバンドで活躍し、メタル界で存在感を示していました。


で、冒頭のトランプ関税の話なんですが……シャドウズ・フォールのボーカルであるブライアン・フェアが、トランプ大統領の関税政策を批判しています。
この人は、楽器やアクセサリーを製造販売する会社で働いているんだそうで、その立場から懸念を表明しました。
高関税をかければ物価上昇につながるのは自明であり、その影響は楽器などの市場でもすでに出ているといいます。
関税で輸入品の価格が上がるだけでなく、直接関税の影響を受けない国内生産メーカーもそれにあわせて値上げに動き、インフレが進む……果たしてそれは、トランプ支持者たちが望んでいたことなのか。物価上昇に直面して、こんなはずじゃなかったみたいに思っているのではないか……


シャドウズ・フォールに、Blind Faith という曲があります。

Shadows Fall - Blind Faith

エリック・クラプトンがやっていたバンドを思い出しますが、とりあえず関係ありません。このタイトルは、直訳すれば「盲信」。
信じたことが間違いのはじまり、疑問を持つこともなく、彼らが示すものすべてを買い、やがて他人の罪のために代償を払うことになる――こんな歌詞が、ドナルド・トランプという人を大統領に選んだアメリカを言い表しているように聞こえるのです。

昨年の米大統領選ばかりではなく、昨今の選挙では、支持者たちが偏った情報で盲信に陥っているように思われるケースをしばしば目にするようになりました。大衆を騙そうとする権力の欺瞞を見抜く――そういう、ハードコア精神が求められる時代なのだと思います。



Jimmy Page & The Black Crowes - No Speak No Slave

2025-03-16 22:43:07 | 音楽批評


最近、ネット上のニュースなどで、ジミー・ペイジの名前を耳にする機会がありました。

ジミー・ペイジの話はこれまで何度もしてきました。
もうあまり音楽活動そのもので話題になることはなくなった印象ですが、やはりそこはレジェンドギタリストということで、話題はいろいろとあるわけでしょう。
ニュースの一つは、ブラック・クロウズとの共演をおさめたライブアルバムがリリースされたという話。
といっても、やはり最近の音源ではなく、1999年に一度発表されたものの再発ですが……リミックス、リマスターが施されていて、99年盤には収録されていなかった曲もいくつか入っているとか。
その未発表音源の一つが、ブラッククロウズの No Speak No Slave という曲です。

Jimmy Page & The Black Crowes - No Speak No Slave

そしてジミー・ペイジといえば、最近もう一つ私の注目する話題がありました。

それは、英国政府が進めているAI関連の法整備に関するトピックです。

英国政府が、クリエイターの作品をAIにトレーニングさせる著作権法の例外規定を設けようとしていることに対して、ミュージシャンらが反対を表明しました。
デーモン・アルバーンや、ケイト・ブッシュ、アニー・レノックス、クラッシュ……といった英国のミュージシャンらが、Is This What We Want? (これは私たちの望んでいることなのか?)というアルバムを出しています。アルバムといっても、無音のトラックを集めたもの。沈黙による抗議です。それぞれのトラックタイトルは一単語になっていて、それらの単語をつなげると、英国政府はAI企業に利益をもたらすために音楽の盗用を合法化してはならない」と いうメッセージになっています。

で、ジミー・ペイジも、今回の件で反対の姿勢を示し、自身のインスタグラムで声明を発表しています。
その内容は、かいつまんでいうと次のようなものです。

・AIの生成する作品は、実体験から得られる芸術的本質が欠けている。

・既存の作品からデータを収集して音楽を生成するのは、窃盗であり、搾取である。

・オプトアウトは技術的に不可能である。
(※「オプトアウト」は、アーティストが自分の作品をAI学習に使用しないようブロックできる制度。ただし、そのためには、いくつもある研究機関の一つ一つに対してアーティスト側が申請しなければならず、非現実的と批判されている)

AIに関しては、このブログでも何度か書いてきましたが、今回英国のアーティストたちが表明した意見には私も基本的に賛同します。AI研究そのものの意義は否定しませんが、慎重にやっていく必要があるのではないか、と。

レッド・ツェッペリンという伝説のバンドでギターを弾き、三大ギタリストの一人と目されるジミー・ペイジの言葉には、相当な重みがあるんじゃないでしょうか。



Roberta Flack & Peabo Bryson - Tonight I Celebrate My Love

2025-03-03 22:33:30 | 音楽批評

先日、ロバータ・フラックが亡くなりました。

享年88歳。

死因は明らかにされていませんが、彼女は2022年にALSにかかっていることを公表していました。

ALS――筋萎縮性側索硬化症は、体中の随意筋が次第に麻痺していくという難病です。症状が進行していくと、手足を動かせなくなるというだけでなく、歌を歌うこともしゃべることもできなくなります。TOTOの故マイク・ポーカロもこの病気を患っていましたが、ミュージシャンにとってはきわめて残酷な病といえるでしょう。ロバータの場合、2022年の段階ですでに歌うことはできなくなっていたようです。


今回の訃報を受けて、多くのミュージシャンが追悼のメッセージを発しています。

そのなかには、ジョン・レノンの息子であるショーンやジュリアンも。ジョン・レノンがニューヨークに住んでいたときに、あのダコタハウスのお隣さんがロバータ・フラックだったということで、レノン一家とは家族ぐるみの付き合いがあるんだそうです。

また、ピーボ・ブライソンは、フェイスブックに投稿した追悼メッセージのなかでこんなことを書いています。

この象徴的で神から授かった才能を持つアーティストであり友人である彼女との関係は、私の音楽とエンターテイメントにおける人生を永遠に変えました。 彼女は私の最大のインスピレーションであり、芸術と人生の両方において卓越性を追求する上での礎として、常に私の心の中に存在し続けるでしょう。

ピーボ・ブライソンに関しては、若い頃ロバータが面倒をみたりもしていたそうで、それが追悼の言葉にもつながっているんでしょう。
ロバータ・フラックとのデュエット「愛のセレブレイション」は、大ヒットしました。

Roberta Flack & Peabo Bryson - Tonight I Celebrate My Love (Official Music Video)

ピーボ・ブライソンといえば、セリーヌ・ディオンとデュエットした「美女と野獣」も有名ですが、あの歌は世界中のいろんな人とデュエットしているようで、日本では本田美奈子と歌ったバージョンがありました。そういえば、本田美奈子はロバータ・フラックの代表曲「やさしく歌って」のカバーをやってたなあ……といったことも思い出され、ロバータ・フラックという人がいかにリスペクトされていたかがうかがわれるのです。



Michael Schenker Group, Are You Ready to Rock

2025-02-21 23:03:52 | 音楽批評


先日、ピロウズの解散という話がありましたが……

この件に関連するウェブ上の記事を読んでいたら、さわおさんがロックの方向に進むきっかけとして、マイケル・シェンカーの名が出ていました。

中学生の時にマイケル・シェンカー・グループのAre You Ready to Rockに出会い、これをギターで弾いたことが、大きな経験だったといいます。

Are You Ready to Rock (2008 Remaster)

「ロックの準備はできているか?」という問いかけに、さわおさんはイエスと答えたわけです。

ピロウズとMSGというのはちょっと意外な組み合わせという気もしますが……そこがさすがのマイケル・シェンカーということでしょう。この人は“神”とも称されるギタリストであり、ジャンルを問わず多くのアーティストにインスピレーションを与えてきたのです。


ここで一応、マイケル・シェンカーという人の基本情報。

マイケル・シェンカーは、スコーピオンズのルドルフ・シェンカーを兄に持つギタリストです。
代名詞のフライングVも、もともと兄がもっていたフライングVをちょっと借りて弾いたことがきっかけといいます。本人が「Vを探し求めたのではなく、Vが俺のところにやってきた」と語るように、出会いは偶然だったわけですが、Vの部分に足を差し込むようにして固定することでビブラートをより豊かに表現できる……というふうに、音楽上の利点もあるそうです。
シェンカー兄弟はドイツ出身でありスコーピオンズはドイツのバンドですが、マイケルがギタリストとしてワールドワイドに売り出したのは、ブリティッシュ・ハードロックのバンドUFOにおいてでした。
UFOは、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンといったレジェンド世代の存在です。このブログで以前書いたように、もうフェアウェルツアーをやって活動終了という状態ですが、再結成の噂もささやかれています。
昨年マイケルは、50周年を記念してUFOの楽曲をカバーするアルバムをリリースしています(自身が加入して初のアルバムとなるPhenomenonがリリースされたのが1974年で、そこを起点として50周年ということのようです)。
収録曲のいくつかはこのブログに載せてきたと思いますが、ここではRock Bottomの動画をリンクさせておきましょう。ハロウィンのカイ・ハンセンが参加しています。これも、前にどこかで紹介したような気はしますが……

MICHAEL SCHENKER - Rock Bottom feat. KAI HANSEN

私事ですが、ちょっと前に地元のライフハウスにいったら、そこでこの曲をカバーしているバンドがいました。もう半世紀も前の曲ですが、それがこうやって今でも演奏されている……マイケル・シェンカーというのは、そういう存在なのです。


この“神”にまつわる伝説はいろいろあるわけですが、オジー・オズボーンのバックギタリストに誘われたというのも、大物ぶりを示すエピソードでしょう。

オジー・オズボーンのバックギタリストとして知られるランディ・ローズが飛行機事故で死去した際、マイケルは、オジーから直々に後任の打診を受けていたといいます。
しかし、結果としてこれは破談に。
このときマイケル・シェンカーがプライベートジェットを要求したという話がありますが、マイケル本人によれば、これはわざと法外な要求を出して破談にもっていくためだったとか。その当時は状況的にオジーのバックにつくことが難しく、うまく断ることもできずにそういうふうにしたというのです。さすがにマイケル・シェンカーVSオジー・オズボーンともなれば、話のスケールが違います。



今年は、来日も予定されていますが……マイケル・シェンカーは日本にも結構愛着をもってくれているようです。
昨年は、先述した50周年記念の一環として、メインギターとして使用してきたギターDean V を日本のモバオクに出品するなどということもありました。このオークションの結果がどうなったのかというのはよくわかりませんが……悪質な転売屋の手に渡っていないことを願うばかりです。


最後に、もう一度さわおさんの話ですが、マイケル・シェンカーという人の考え方は、どことなくさわおさんに通ずるところがあるような気もします。

マイケルは自らを「音楽の修道士」と表現し、「本当に自分がやりたいことをやるだけ。誰かの真似をするのではなく、自分で選んだ方法でそれをやる場所にいるだけなんだ」と語っていますが、この言葉はピロウズのNEW ANIMAL という曲を思い出させます。

the pillows / NEW ANIMAL

この歌のなかでさわおさんは「審査員は自分自身のほかに誰もいらない」「誰かになりたいわけじゃなくて、今より自分を信じたいだけ」と歌いました。この孤高こそが、彼らを真のアーティストたらしめているものなのでしょう。

ちなみに、ここでさわおさんが弾いている白黒のV字ギターは、まさにマイケル・シェンカーへのリスペクトを示すものでしょう。さわおさんといえば白黒カラーのサイクロンも知られていますが、それだけマイケル・シェンカーにはリスペクをもっているわけです。ただそれは、歌詞にもあるとおり、マイケル・シェンカーの真似をしたいということではありません。自分がやりたいことをやる、誰かの真似をするのではなく――そういうアティチュードを共有するということなのです。だからこそ、彼らは力強いロックを奏でることができたのでしょう。