ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Roberta Flack & Peabo Bryson - Tonight I Celebrate My Love

2025-03-03 22:33:30 | 音楽批評

先日、ロバータ・フラックが亡くなりました。

享年88歳。

死因は明らかにされていませんが、彼女は2022年にALSにかかっていることを公表していました。

ALS――筋萎縮性側索硬化症は、体中の随意筋が次第に麻痺していくという難病です。症状が進行していくと、手足を動かせなくなるというだけでなく、歌を歌うこともしゃべることもできなくなります。TOTOの故マイク・ポーカロもこの病気を患っていましたが、ミュージシャンにとってはきわめて残酷な病といえるでしょう。ロバータの場合、2022年の段階ですでに歌うことはできなくなっていたようです。


今回の訃報を受けて、多くのミュージシャンが追悼のメッセージを発しています。

そのなかには、ジョン・レノンの息子であるショーンやジュリアンも。ジョン・レノンがニューヨークに住んでいたときに、あのダコタハウスのお隣さんがロバータ・フラックだったということで、レノン一家とは家族ぐるみの付き合いがあるんだそうです。

また、ピーボ・ブライソンは、フェイスブックに投稿した追悼メッセージのなかでこんなことを書いています。

この象徴的で神から授かった才能を持つアーティストであり友人である彼女との関係は、私の音楽とエンターテイメントにおける人生を永遠に変えました。 彼女は私の最大のインスピレーションであり、芸術と人生の両方において卓越性を追求する上での礎として、常に私の心の中に存在し続けるでしょう。

ピーボ・ブライソンに関しては、若い頃ロバータが面倒をみたりもしていたそうで、それが追悼の言葉にもつながっているんでしょう。
ロバータ・フラックとのデュエット「愛のセレブレイション」は、大ヒットしました。

Roberta Flack & Peabo Bryson - Tonight I Celebrate My Love (Official Music Video)

ピーボ・ブライソンといえば、セリーヌ・ディオンとデュエットした「美女と野獣」も有名ですが、あの歌は世界中のいろんな人とデュエットしているようで、日本では本田美奈子と歌ったバージョンがありました。そういえば、本田美奈子はロバータ・フラックの代表曲「やさしく歌って」のカバーをやってたなあ……といったことも思い出され、ロバータ・フラックという人がいかにリスペクトされていたかがうかがわれるのです。



Michael Schenker Group, Are You Ready to Rock

2025-02-21 23:03:52 | 音楽批評


先日、ピロウズの解散という話がありましたが……

この件に関連するウェブ上の記事を読んでいたら、さわおさんがロックの方向に進むきっかけとして、マイケル・シェンカーの名が出ていました。

中学生の時にマイケル・シェンカー・グループのAre You Ready to Rockに出会い、これをギターで弾いたことが、大きな経験だったといいます。

Are You Ready to Rock (2008 Remaster)

「ロックの準備はできているか?」という問いかけに、さわおさんはイエスと答えたわけです。

ピロウズとMSGというのはちょっと意外な組み合わせという気もしますが……そこがさすがのマイケル・シェンカーということでしょう。この人は“神”とも称されるギタリストであり、ジャンルを問わず多くのアーティストにインスピレーションを与えてきたのです。


ここで一応、マイケル・シェンカーという人の基本情報。

マイケル・シェンカーは、スコーピオンズのルドルフ・シェンカーを兄に持つギタリストです。
代名詞のフライングVも、もともと兄がもっていたフライングVをちょっと借りて弾いたことがきっかけといいます。本人が「Vを探し求めたのではなく、Vが俺のところにやってきた」と語るように、出会いは偶然だったわけですが、Vの部分に足を差し込むようにして固定することでビブラートをより豊かに表現できる……というふうに、音楽上の利点もあるそうです。
シェンカー兄弟はドイツ出身でありスコーピオンズはドイツのバンドですが、マイケルがギタリストとしてワールドワイドに売り出したのは、ブリティッシュ・ハードロックのバンドUFOにおいてでした。
UFOは、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンといったレジェンド世代の存在です。このブログで以前書いたように、もうフェアウェルツアーをやって活動終了という状態ですが、再結成の噂もささやかれています。
昨年マイケルは、50周年を記念してUFOの楽曲をカバーするアルバムをリリースしています(自身が加入して初のアルバムとなるPhenomenonがリリースされたのが1974年で、そこを起点として50周年ということのようです)。
収録曲のいくつかはこのブログに載せてきたと思いますが、ここではRock Bottomの動画をリンクさせておきましょう。ハロウィンのカイ・ハンセンが参加しています。これも、前にどこかで紹介したような気はしますが……

MICHAEL SCHENKER - Rock Bottom feat. KAI HANSEN

私事ですが、ちょっと前に地元のライフハウスにいったら、そこでこの曲をカバーしているバンドがいました。もう半世紀も前の曲ですが、それがこうやって今でも演奏されている……マイケル・シェンカーというのは、そういう存在なのです。


この“神”にまつわる伝説はいろいろあるわけですが、オジー・オズボーンのバックギタリストに誘われたというのも、大物ぶりを示すエピソードでしょう。

オジー・オズボーンのバックギタリストとして知られるランディ・ローズが飛行機事故で死去した際、マイケルは、オジーから直々に後任の打診を受けていたといいます。
しかし、結果としてこれは破談に。
このときマイケル・シェンカーがプライベートジェットを要求したという話がありますが、マイケル本人によれば、これはわざと法外な要求を出して破談にもっていくためだったとか。その当時は状況的にオジーのバックにつくことが難しく、うまく断ることもできずにそういうふうにしたというのです。さすがにマイケル・シェンカーVSオジー・オズボーンともなれば、話のスケールが違います。



今年は、来日も予定されていますが……マイケル・シェンカーは日本にも結構愛着をもってくれているようです。
昨年は、先述した50周年記念の一環として、メインギターとして使用してきたギターDean V を日本のモバオクに出品するなどということもありました。このオークションの結果がどうなったのかというのはよくわかりませんが……悪質な転売屋の手に渡っていないことを願うばかりです。


最後に、もう一度さわおさんの話ですが、マイケル・シェンカーという人の考え方は、どことなくさわおさんに通ずるところがあるような気もします。

マイケルは自らを「音楽の修道士」と表現し、「本当に自分がやりたいことをやるだけ。誰かの真似をするのではなく、自分で選んだ方法でそれをやる場所にいるだけなんだ」と語っていますが、この言葉はピロウズのNEW ANIMAL という曲を思い出させます。

the pillows / NEW ANIMAL

この歌のなかでさわおさんは「審査員は自分自身のほかに誰もいらない」「誰かになりたいわけじゃなくて、今より自分を信じたいだけ」と歌いました。この孤高こそが、彼らを真のアーティストたらしめているものなのでしょう。

ちなみに、ここでさわおさんが弾いている白黒のV字ギターは、まさにマイケル・シェンカーへのリスペクトを示すものでしょう。さわおさんといえば白黒カラーのサイクロンも知られていますが、それだけマイケル・シェンカーにはリスペクをもっているわけです。ただそれは、歌詞にもあるとおり、マイケル・シェンカーの真似をしたいということではありません。自分がやりたいことをやる、誰かの真似をするのではなく――そういうアティチュードを共有するということなのです。だからこそ、彼らは力強いロックを奏でることができたのでしょう。



The Darkness - Rock and Roll Party Cowboy

2025-01-29 23:49:34 | 音楽批評

ダークネスがニューアルバムを発表するということです。

ダークネスといえば……2000年代初頭に彗星のごとく現れたハードロックバンド。
グラムメタルに分類されることもあって、最近このブログで書いているグラム系アーティストの一つともいえます。

どのあたりがグラムかというと……見た目的な部分もそうですが、ボーカルであるジャスティン・ホーキンスのハイトーン・ボイス。
最初に聴いたときに、私はちょっとクイーンっぽさを感じもしました。グラム色の濃いハードロックバンドということは、クイーンの直系といえるんじゃないでしょうか。
クイーンとは、ちょっとしたつながりもあります。
というのは、現在ドラムを叩いているルーファス・テイラーは、クイーンのドラマーであるロジャー・テイラーの息子なのです。テイラー・ホーキンスが死去した後フーファイターズに加入するという噂もありましたが、それは実現せず、ルーファスは今年でダークネス加入10年目を迎えます。

話のついでで、今年の元旦に公開されたロジャー・テイラー出演動画。
曲は、クイーンがデヴィッド・ボウイとコラボしたUnder Pressure。まさに、ここにはグラムの血が流れているのです。

Roger Taylor & Louise Marshall - Under Pressure (Jools' Annual Hootenanny 2024)

ダークネスの話に戻りましょう。

ボーカルのジャスティン・ホーキンスは、ハイトーンボイスを操るだけでなく、リードギターもやっています。
ボーカルだったらリズムギターのほうなんじゃないかと思うところですが……リズムギターをやっているのは、ジャスティンの弟ダン・ホーキンス。
この人は、AC/DCのマルコム・ヤングに惚れ込んでリズムギターを志したという筋金入りの人物で、マルコムの真似をするために一万時間を費やしたと豪語し、マルコム亡きいま「世界に残された最後の正真正銘のリズムギタリストの一人」を自負しています。

女王の血脈と、オセアニアのタテノリグルーブ……その継承者であるならば、最強のハードロックバンドということになるのは必然でしょう。ロックンロールというジャンル自体が衰亡しつつあるともいわれる今、そんなダークネスは「最後の正真正銘のロックバンドの一つ」なのかもしれません。

ここで、ニューアルバムの中から動画が公開されている曲を一つ。

The Darkness - Rock and Roll Party Cowboy (Official Visualiser)

  ノースリーブの革ジャケット
  ハーレー・ダヴィッドソン

と始まるこの歌は、まさに80年代風メタルへの賛歌といえます。
キメの部分では、

  トルストイなんか読むつもりはないぜ

というフレーズ。
ここでトルストイが出てくるのは、直接的には韻の関係ですが、マジメとか道徳的とかいうものの象徴みたいな意味合いを持たせてもいるのでしょう。
そういうものに背をむけてみせるという、偽悪性……いかにもグラムロックというところです。
私は80年代のメタルをリアルタイムで聴いていたとはいいがたい世代ですが、なんとなくそういう雰囲気を肌で感じてはいて、ダークネスを聴いているとその懐かしい空気を感じる部分があります。そこがつまりは、ある種のメタルリバイバル的なところでしょう。そういうリバイバル的なスタイルにはいろいろな屈折がついてまわるのが宿命ですが、そのいろいろのなかで彼らがどう自分たちの音楽をやっていくのかというところに、あるいはロックンロールの未来が見えるのかもしれません。




WANDS 「David Bowieのように」

2025-01-15 22:48:11 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。


先日、このブログで「もう一つのロックの日」ということで記事を書きました。

1月8日がデヴィッド・ボウイ(と、エルヴィス・プレスリー)の誕生日だからということだったわけですが……そこから、ボウイつながりということで、今回取り上げるのは、WANDSの「David Bowie のように」という曲についてです。

WANDSといえば、昨年、中山美穂さんの記事で「世界中の誰よりきっと」でコラボしていたという話もありました。中山美穂と、デヴィッド・ボウイ……あまりつながりそうにないこの二つの要素が、一つのバンドの中でどのように同居しているのか。そこを探っていくと、ロックとは何か、グラムとは何か、会社に所属して商売として音楽をやるというのはどういうことかーといった深いテーマが見えてくるようでもあるのです。


WANDSは、いわゆるビーイング系のなかでも、トップクラスにヒットしたバンドといえるでしょう。

ビーイング系アーティストたちは、音楽的な部分だけでなく、CDのジャケットを一目見ればそれとわかる、ある種のブランドイメージを確立していたといえるでしょう。タイアップ戦略も巧みで、ビーイング系のバンドが相次いでヒット曲を連発し、90年代初頭頃には一時代を築いた感もあります。
ただ、そのブランドイメージは、あくまでもビーイングという会社が主導したものであって、本人たちのやりたい方向性と必ずしも一致しない部分があったようです。WANDSの場合はそれが顕著で、ボーカルの上杉昇さんは当時の活動に不満を持っていたことをあちこちで発言しています。
ただ、時代がちょっと進んでいくと、WANDSの音楽にもだいぶ変化が見られました。そのへんまさに私はリアルタイム世代ですが、10枚目のシングル「Same Side」 が出た時に、だいぶ雰囲気が変わったなと感じた記憶があります。さかのぼって考えれば、その前のシングル Secret Night からその萌芽はあって、それがより前面に出てきたというところでしょうか。そして、上杉昇在籍時最後のシングルとなったWorst Crime……私は、このあたりのWANDSは結構気に入ってました。これが彼らの本来やりたかったことなんだろうな、と受け止めてもいました。(ただ、上杉さん本人が志向していたという80年代グラム系メタルよりは、90年代風のオルタナ/グランジに寄っている感もありますが)
しかし、おそらく路線変更をめぐってレコード会社側とは軋轢もあったものと思われ……WANDSは激変することに。ボーカルの上杉昇、ギターの柴崎浩という二人が脱退し、ほぼ別物のバンドとなるのです。大幅なメンバーチェンジを経た新生WANDSは、まるでDEENとかFIELD OF VIEWのようなバンドになっていて、その変化に愕然とさせられたものです。別にDEENやFIELD OF VIEW が悪いというわけではありませんが、WANDSに求めているものはそれじゃないという……実際のところ、この変化についていくことができたWANDSファンはそうそういなかったんじゃないでしょうか。
スリーピースのバンドで2人が脱退というだけでも相当なことですが、その二人がボーカル/ギターという、バンドのなかでも前に出るパート。もっといえば、WANDSというバンド名は上杉、柴崎両氏の名をつなげたものという意味合いもあるとされているのです(「上杉」は英語でWESUGIと表記されていて、Wesugi AND Shibasaki でWANDSという解釈がある)。なにか、“大人の事情”が働いているような印象も濃厚に感じられ……ビーイングブーム自体も新たなムーブメントに押されるかたちで終息していき、WANDSは低迷状態に陥ったといって差支えないでしょう。
それからの年月で、さまざまに紆余曲折がありましたが……数年前に、ギターの柴﨑さんが復帰し、WANDSとしての活動を再開しました。現在のWANDS
は、第五期として活動しています。


WANDSの代表曲の一つに、「世界が終わるまでは…」があります。
TVアニメ『スラムダンク』で使用され、タイアップ効果もあって大ヒットしました。巷のライブハウスなどで、今でもたまにこの曲を聴くことがあります。
そして、WANDS自身も、第五期メンバーで再録しています。

WANDS 「世界が終るまでは… [WANDS第5期ver.]」 MV

この曲は、WANDSが大きく方向転換する直前のシングルであり、「世界が終わる」という言葉はその決別宣言であるともいいます。彼らが決別しようとした「世界」というのは、中山美穂さんとのコラボで大ヒットした「世界中の誰よりきっと」の「世界」でもありました。

それ自体は、商業主義に反発したグランジ/オルタナの動きと合致しているでしょうが……しかし、WANDSにおける変化はもう少し複雑だったようにも思われます。
というのは、もともと上杉さんが志向していたのは、80年代のグラムメタルだといわれるからです。
私個人としても、Jumpin’ Jack boyのイントロがヴァン・ヘイレンのPanamaに似てるんじゃないかとか……(よくあるコード進行ではありますが)そんなことを思ってました。
で、そうなってくると、80年代メタル vs 90年代オルタナ/グランジという対立軸も出てくるわけです。
この多層構造が、奇妙なねじれにもつながります。
アメリカの80年代メタルバンドは、レコード会社からオルタナ/グランジに寄せるよう求められそれに対して消極的だったりしたわけですが、WANDSの場合は逆に、バンド自身がオルタナ/グランジの方向性を望み、レコード会社は難色を示すというふうになっていました。日本のポピュラーミュージック史や音楽業界事情をあわせて考えると、この逆転現象は興味深いものがあります。



最後に、「David Bowie のように」について。
これは、第五期WANDSが発表した曲です。第五期として最初にリリースしたアルバムの、一曲目に収録されています。

WANDS 「David Bowieのように」 MV

デヴィッド・ボウイといえば、グラムロックを代表するアーティストの一人であり、長いキャリアのなかでさまざまに音楽性を変化させてきた人です。その変化は、自身が作り上げた虚構と向き合いながらのものであったということを、いつかこのブログで書きました。
WANDSもまた、そうなのでしょう。時代の奔流のなかで音楽性を幾度も変えてきたキャリアがあり、そのなかで過去にかぶっていたペルソナと向き合いつつ活動する、しなければならない、という……

  確かめた答えに
  何も無かったとしても
  今更戻れない
  絶え間ない寂しさの果てに

  不思議と泣いた歌詞に
  意味が無かったとしても
  今更変わらない
  思い出が美しいことに

という歌詞は、ある種の虚構性を受け入れつつも、過去を肯定する姿勢のように読み取れます。
そこには、ロック史における振り子運動を振り切って立とうとする、力強さのようなものも感じられるのではないでしょうか。





中山美穂 /「世界中の誰よりきっと」

2024-12-21 22:26:18 | 音楽批評


今月に入ってこのブログでは、「死んだ男の残したものは」ということで今年世を去った方々についていくつかの記事を書きました。

死んだ男の……ということで男性についての記事でしたが、つい最近になって、女性アーティストの衝撃的な訃報がありました。

もちろん、中山美穂さんのことです。

これは、大変なショックでした。

私は結構リアルタイム世代であり……思い出す曲がいろいろついります。
代表曲といっても候補がいくつか考えられますが、Youtubeの公式チャンネルにあったこの曲を。

中山美穂 /「世界中の誰よりきっと」MIHO NAKAYAMA CONCERT TOUR '93 On My Mind

およそ30年ほど前に、WANDSとのコラボで大ヒットした曲。
懐かしいかぎりです。

同期には、南野陽子、本田美奈子、斉藤由貴、森口博子、浅香唯、石野陽子、井森美幸……といった錚々たる顔ぶれが並んでいますが、そのなかにあってもトップレベルで、女性アイドル史において確かに一時代を築いた人といえるでしょう。
冥福を祈りたいと思います。