ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Metallica: Creeping Death

2020-04-30 20:52:15 | 音楽批評


 

今回は、音楽記事です。

このカテゴリーでは、これまでメタル系のアーティストについて書いてきましたが……ここでいよいよ、スラッシュメタル四天王のなかでもラスボス的な位置づけにあるメタリカについて書きましょう。

メタリカ……その存在があまりにビッグ過ぎて、彼らについて何かを語るというのもちょっと腰が引けてしまうところはあります。

メタリカは押しも押されぬモンスターバンドですが、単にビッグというだけでなく、メタルの世界を革新しようとしてきたバンドといえるでしょう。

革新は常に軋轢を生みますが、メタリカは、その革新性のゆえに軋轢の最前線にもいました。メタルの枠組みをあえて拡張しようという試みは、「あいつらはメタルを捨てた」という批判を浴びてもきました。その点は、あまりメタル方面に詳しくない私には正直どう評価していいかわからないんですが……ただ、いまにいたるまでモンスター的な存在であり続けているのは、彼らの試みが成功してきたということなのかもしれません。

トップに掲げたのは、バンド名を冠した5枚目のアルバム Metallica ですが、このアルバムはブラック・アルバムと通称されています。この言い方は、あきらかにビートルズのホワイト・アルバム(本来のタイトルは、バンド名を冠した The Beatles)を意識したものです。もう、そういうレベルの存在とみなされているわけです。


そのビッグさを示す事例といえるかはわかりませんが――最近、深海生物にメタリカに由来する名前がつけられるということがありました。

バンドの公式インスタによると、ハワイ南東の深海に生息する甲殻類に、“マクロスタイリス・メタリコラ”という名前がつけられたそうです。

命名の由来は、光の届かない完全な闇の中に住んでいてメタリカの曲名Blackened を連想させるということと、コバルトや銅、ニッケルといった金属の塊に住んでいるからということです。これらの金属はエレキギターのピックアップなんかにもよく使われるもので、なるほどふさわしいといえるでしょう。
バンド名を生物名につけた例としては、ぱっと思い出すところではピンクフロイドエビなんてのがいますが……メタリカも、もうそれぐらいビッグな存在ということです。
件のインスタでも言及されていますが、メタリカは“七つの大陸で演奏したバンド”としても知られています。七大陸を制覇しようと思ったら南極あたりがハードル高い感じになりますが、彼らは南極でもライブをやっているのです(正確には、キング・ジョージ島という島)。七つの大陸を制したバンド……唯一かどうかはわかりませんが、とにかく凄さは伝わってきます。


そのモンスター的な立ち位置で、メタリカは今般のコロナ禍においても存在感を発揮しています。

たとえば、メタリカの運営する基金が、コロナ対策のための寄付を行っています。じつに35万ドルを寄付するという太っ腹……さすがはラスボスです。

また、多くのアーティストと同様、配信も。“メタリカ・マンデー”と銘打って、毎週月曜に動画を配信しています。過去のライブ映像を蔵出しにするというもので、二時間あるようなライブの映像を丸まるYouTubeにアップするなど、ここでも太っ腹。

そして、それとは別に5日ほど前に Creeping Death という曲のライブ映像が公開されました。

Metallica: Creeping Death (Stockholm, Sweden - May 5, 2018)

これも、自宅待機支援の一環ということでしょうか。
このコロナ禍において Creeping Death =「忍び寄る死」……そのセンスには脱帽するしかありません。


一方で、実際のライブ活動のほうは停止していますが、これはコロナのためではありません。

Gt/Voのジェイムズ・ヘッドフィールドは、以前からアルコール依存の問題を抱えていて、昨年の9月にそれが再発したということでリハビリ施設に入所。今年行われる予定になっていたフェスを辞退し、ツアーも延期していました。

メガデスのデイヴ・ムステインもそうですが、やはり彼らも年齢的にそういう問題が出てくるころになってます。若い頃から無茶をしてきたのが出てきてる部分もあるでしょう。
はたして、このメタルボスが復活できるのか……刮目したいと思います。
伝えられるところによると、このコロナ隔離化の状況で、メタリカは定期的にZoomセッションをやっており、ニューアルバムを制作する構想もあるのだとか。ただ、コロナの収束はまったく見通せないので、メンバーがスタジオに集まることなく別々にレコーディングして制作という手法も考えているといいます。コロナに負けない音楽活動の一形態としても、要注目でしょう。



Megadeth - Dystopia

2020-04-27 19:57:21 | 音楽批評



今回は、音楽記事です。

最近このカテゴリーではスラッシュメタルバンドを扱っていて、アンスラックス、スレイヤーときました。この流れで、今回はスラッシュメタル四天王の一角である Megadeth について書きましょう。

メガデスといえば、かのマーティー・フリードマン先生が在籍していたバンドとしても知られます。
また、前回の記事でも出てきたスレイヤーのケリー・キングも、一時在籍していたことがあります。

中心人物は、デイヴ・ムステイン。

この人は、もともとはメタリカでギターを弾いていました。それが素行不良でクビになり、みずからのバンドとして作ったのがメガデス。

もとメタリカにいたぐらいなので、ムステインは超絶ギタリストです。そのムステインにもう一人ギタリストがいて、そこに織りなされるギター・アンサンブルがメガデスの持ち味です。
そのもう一人のギタリストは頻繁に入れ替わってるんですが、そこはやはり、ムステインのこだわりゆえでしょうか。
ものの本によると、ムステインは人差し指と親指にくわえて中指も使うという自分のピックの持ち方を歴代ギタリストに伝授(押しつけ?)していたのだとか。そういうところも、ギタリストが固定しない一因なのかと思えます。マーティ・フリードマンさんはそれを拒否したそうですが……そのフリードマンがもっとも長く在籍していて、おそらくはその時期がメガデスの黄金時代だったというのは、いろいろ考えさせられるところがあります。

そしてもう一つ、メガデスというバンドを特徴づけるのは、その歌詞や世界観でしょう。
“インテレクチュアル・スラッシュメタル”などともいわれる、知的でシニカルな歌詞です。
たとえば、初期のアルバムに Peace Sells ... But Who's Buying? というのがありました。「平和は売りに出されている。だが、誰がそれを買うんだ?」ということです。このタイトルだけで、インテレクチュアルでシニカルというのは伝わってくるでしょう。こういう感じがあるので、スラッシュメタル四天王のなかで私はメガデスを一番気に入っています。

その持ち味は、最新作である Dystopia にも表れているでしょう。

 

「ディストピア」という言葉が出てきただけでも「知的でシニカル」という雰囲気が漂ってきます。

メガデスの公式YouTubeチャンネルでは、そのビデオが公開されているんですが、このビデオも、いかにもな感じに仕上がっています。

Megadeth - Dystopia

  退廃し 飼いならされた民衆は
  戦いをもっともはやく終わらせる方法は敗北することだと考える
  独裁政治の終焉は暴君殺しからはじまる
  癌はその根を絶たなければならない


全盛期のメガデスに比べると、シニシズムという方向性はちょっと後退しているような気もするんですが……それは、さすがのムステインもちょっと丸くなったということなのか、あるいは、シニカルな態度もとっていられないほどに現実世界がディストピア化してしまっているということなんでしょうか……

ただ、この歌詞は――政治的な文脈とは別の意味で――予言的なのかもしれません。

というのも、デイヴ・ムステインはこのアルバム発表後に、癌を患っているのです。

ムステインさんは波乱万丈の生涯を送ってきた人ですが、昨年には咽頭ガンを宣告されて闘病生活を送っていました。
闘病中には、さまざまなアーティストから応援のメッセージが寄せられたといいます。
そのなかには、オジー・オズボーンや、KISSのポール・スタンレー、さらにはメタリカのジェイムズ・ヘッドフィールドも。実に豪華な顔ぶれです。メタリカとは因縁もあるわけですが、近年はBIG4でツアーを行うなど、関係は決して悪くないようです。

幸いなことに、ムステインさんはもうガンから回復し、メガデスでのツアーも再開しているということです。

ただ、やはりここでもコロナの壁が立ちはだかっていて……メガデスのベーシストでムステインの右腕ともいうべき存在であるデヴィッド・エレフソンが、同じくメガデスのクリス・ポーランドとともに5月に来日することになっていたんですが、これが延期となってしまいました。多くのアーティストで同じことが起きているわけですが、延期というのも、果たしてその延期先がいつになるものかまったく見通せない状態です。
しかしそこは、癌からも復活したデイヴ・ムステインです。
またいつか、メガデスとしての雄姿をみせてくれることでしょう。いまはその日を待ちたいと思います。



コロナシティ構想

2020-04-25 17:35:41 | 時事



とうとう、コロナ禍の収束がみえないまま、ゴールデンウィークがやってきました。

ことここにいたっては、検査を抑制し、クラスターを重点的に追っていくというやり方が失敗だったことはあきらかでしょう。

軽症者も積極的に検査し、感染がわかったら隔離する。医療崩壊を起こさないために、軽症者は専用の施設を用意して収容する――いまになってみれば、コロナ封じ込めを目指すならそれ以外の方法はなかったのだろうと思います。

日本も、徐々にではありますが、そちらの方向に舵を切りつつあるようです。

ただ、当初新型コロナを“甘く見ていた”ことからくる遅れが気がかりではあります。

最近、ある病院にくる患者をPCR検査してみたら、無症状の人でも6%が陽性という結果が出ていました。おそろしい数字です。仮にこれを日本全体にあてはめたとしたら……とんでもない数字になります。もちろん話はそう単純ではないでしょうが、しかし実際問題として、もう相当広範囲に新型コロナは蔓延していると考えなければならないでしょう。
そうなってくると、果たしていまから積極検査方式に切り替えても、それで収束に向かわせることができるのかという問いが出てきます。
韓国は、当初から積極的・徹底的に検査・隔離政策をとったのである程度抑え込みに成功したのだと思われますが、市中に蔓延しきった状態からそれは機能するのか、という問題です。

そこで、一つ、こんなやり方はどうかという提案をしてみたいと思います。

それは、“コロナシティ”とでも呼ぶべきものです。

名称がいささか不謹慎かもしれませんが……つまりは、「感染しているけど無症状」という人たちを一か所に集めて、コミュニティを作るという発想です。

場所は、たとえば福岡だったら、マリンメッセやペイペイドームでいいでしょう。
そこに無症状、あるいはきわめて軽症の感染者を集め、集団で生活を行ないます。ただの入院生活ではなく、感染した人たち自身が売店や飲食店などを運営して生活するのです。

これが、ホテルを借り上げての入院とは違うところです。
すでに感染している人だけのコミュニティであれば、うつす、うつされる、という心配はとりあえずしなくていいと考えられるので、そのなかではコロナ以前の生活ができるということです。

こうすることによって、一定程度経済も回すことができるでしょう。
全国各地にそういう施設を作れば、少なくとも今の状態よりは経済をまわせるはずです。

その後は、定期的に検査を行い、陰性が三回ぐらい続いたらその人は試験的に元の生活に戻す。
ただし、やはりそれからも定期的に検査し、再び陽性となったらまたコロナシティに戻す……というシステムです。

もちろん、リスクはあります。
実際にホテルを借り上げて軽症者を隔離収容しているところでは、感染者同士の接触も起きないようにしているといいます。感染者同士だからといって、むやみに接触したらまずいということはあるでしょう。

しかし……この新型コロナウィルスという厄介なウィルスを相手にして、完全なノーリスクは望めません。
リスクの有無をいうなら、仮に全員が家にこもりきりになったとしても、リスクゼロではないはずです。食糧は絶対に必要なので、買いに行くか、配達を頼むかすることで、外界との接触はある程度生じます。また、家族内に感染者がいた場合には、家にこもっていて家族内の全員が感染ということも考えられるでしょう。
であるなら、展望のない大規模な自粛・隔離を延々と続けるよりはいい方法があるのではないか……
報道によれば、新型コロナの隔離施設で、収容者に配膳を手伝ってもらったりしているところもあるといいます。単に人員不足を補うということではなく、そうすることによって、収容者も希望を持てます。だとしたら、それをさらに一歩推し進めて、感染者自身で運営するコミュニティというのもありなんじゃないでしょうか。





休業要請に応じない店舗の店名公表……

2020-04-23 18:33:07 | 時事



大阪府が、休業要請に応じない業者の公表を考えているそうです。

この件が、物議をかもしています。報道によると、国のほうでも、そういうことを考えているようで……しかしここには、一抹の気持ち悪さをぬぐえません。

この手法に対して感じる気持ち悪さの一因は、“世間の目”を利用しているということですね。

最近では感染者が出た家に投石や落書きなどの嫌がらせがあったりもするそうですが、そういう負のエネルギーを利用しようというところは大いに問題でしょう。

大阪に関しては、電話で要請しても無視、“ガチャ切り”などの悪質な対応をとる業者に対してやむなくそういう措置をとるのだということなんですが、果たしてそれがどういう結果を生むか……


ここで利用されている“世間の目”というのは、今回のコロナ禍でいえば、感染者に対する嫌悪の感情が根底にあります。

識者によれば、感染者を攻撃するのは、“行動免疫”という側面もあるといいます。
感染者に対して嫌悪の感情をもつのは、それによって感染症を遠ざけようとする、ある種生物的な本能からくる反応だというのです。
しかし、生物としてではなく社会的存在としての人間を考えた場合、生物としての反応はむしろ感染拡大を助長することになりかねないこわさがあります。

“世間の目”は、ある種の委縮効果を社会にもたらすおそれがあるでしょう。
“迫害”をおそれて、感染したことを隠す、あるいは、自覚症状があったとしても「感染していたら周りから後ろ指を指される」という恐怖から検査を受けないといった事態が考えられます。そして、そのような行動をとる人が多くいれば、ウィルスはさらに拡散していくでしょう。

逆に、休業要請に応じていないパチンコ店などの側では、「むしろPRになってもっと人がくるようになるのでは」などという声もあります。
店名公表という措置は、かえって負の効果だけが発揮されるということにもつながりかねません。やはり、根本的な対処法は休業補償しかないんじゃないでしょうか。



Slayer - Angel Of Death

2020-04-21 17:33:12 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

音楽カテゴリーでは、前回アンスラックスについて書きました。そこからのつながりで、今回は同じくスラッシュメタルBIG4の一角であるSlayerについて書きます。

スラッシュメタル四天王といったら、なかでもまずメタリカ、メガデスがツートップで、それについでスレイヤーというのが一般的な認知度順でしょう。そういう意味ではスレイヤーは三番手ということになりますが、その過激さという点では、四天王の筆頭かもしれません。

彼らの代表曲Angel of Death が、その端的な表れでしょう。
アウシュヴィッツ収容所で人体実験を行い“死の天使”と呼ばれたヨーゼフ・メンゲレのことを歌った歌です。
スレイヤーのYouTube公式チャンネルから、そのライブ映像を貼り付けておきましょう。

Slayer - Angel Of Death (Live At The Augusta Civic Center, Maine/2004)

スラッシュメタルのなかでもきわめつけに過激で、発表時にだいぶ物議をかもしたようですが、激しい批判を受けつつも、この曲はメタル史上に残る傑作とみなされています。この曲が収録されているアルバム REIGN IN BLOODは、スレイヤーがモンスターバンドに成長していく一里塚となりました。

 
しかし……このスラッシュメタル四天王の一角は、今ではもう存在しません。

2018年、スレイヤーは活動終了を表明し、去年の暮れまでファイナルツアーを行っていました。
思えば、このブログでは、何度か似たような話を書いてきました。エルトン・ジョン、ジョーン・バエズ、ポール・サイモンといった人たちが、ツアー活動の終了を宣言し、最後のツアーをやっています。スラッシュメタルの雄といえど、寄る年波には勝てずということでしょう。

ちなみに、このファイナルツアーには、先日紹介したアンスラックスもサポートアクトとして参加していました。
そのアンスラックスのチャーリー・ベナンテは、スレイヤーの活動終了を惜しみつつも、判断自体には理解を示しています。
バンドが高齢化すると、もうかつてのような演奏はできなくなってしまうかもしれない。演奏するのがやっとというような醜態をさらしたアーティスを見たこともある。自分のお気に入りのバンドにはそんなふうになってほしくない……といったようなことを語っています。

ニール・ヤング風にいえば、錆びつくよりも燃え尽きたいということでしょうか。

もっとも、ベナンテの言い方からすると、スレイヤーがすでにそういう状態になっているわけではないともいえるでしょう。スレイヤーのマネージャーも「頂点にいる状態で活動をやめる」ということだといっています。

しかし、あるいは年齢からくる衰えもあるのかもしれません。

それを裏付けるエピソードといえるかはわかりませんが、ファイナルツアーのなかで、ギターのケリー・キングが演奏に失敗するという一幕があったそうです。

曲の出だしのギターをミスし、もう一度やり直したものの、再びミス。3回目もミスし、結局その部分を端折って演奏したのだとか。
ケリー・キングといえば、その風貌もあいまってメタル界のカリスマ的存在となっているギタリスト。その帝王にあるまじき失態ということで、話題になったものです。
伝えられるところによれば、その日は新しいギターを導入していて、そのギターがしっくりこなかったため……ということなんですが、もしかすると年齢的な問題もあったのかと思ってしまいます。

結局ファイナルツアーは昨年12月に終了しました。
最終公演の最後の曲が Angel of Death だったそうです。この曲で感動のフィナーレという感じにもならないでしょうが、公演終了後には40分ほどかけてメンバーが別れの挨拶をしたといいます。

こうしてスレイヤーは活動を終了したわけですが……最近、そのスレイヤーの再結成を謳うコンサートのチケットが転売サイトで売りに出されるという事件が発生しています。いくらなんでもそんなにすぐに再結成はしないだろうという話ですが、これについては、スレイヤー側も明確に否定しています。ファンの皆さんはご注意を。


【追記】
ちなみに、スレイヤーにはギターが2人いるんですが、もう一人のギターであるゲイリー・ホルトは、最近コロナウィルスに感染したそうです。
やはり、いくら悪魔じみたことをいっていたからといって、ウィルスはそんなことおかまいなしということで……