ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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『ゴジラ対ヘドラ』

2019-08-31 17:23:50 | 映画
 


今回は、映画記事です。

 

このジャンルでは、ゴジラ作品について記事を書いていました。前回はいったん中断しましたが、ふたたびゴジラシリーズに戻りましょう。

 

順番にしたがって、シリーズ第11作にあたる『ゴジラ対ヘドラ』です。

 

公開は、1971年。

 

東宝特撮のゴッド的存在である円谷英二がこの世を去り、邦画の斜陽という時代もあいまって東宝特撮自体が風前の灯火となるなか、いったんは予算切れで制作中止に追い込まれながらなんとか完成にこぎつけたといういわくつきの作品です。

その予告の映像が東宝の公式チャンネルにあったので、それを貼り付けておきましょう。

 

【公式】「ゴジラ対ヘドラ」予告 根強い人気の公害怪獣ヘドラとの闘いを描いたゴジラシリーズの第11作目。

 

ゴジラは常に時代性を背負うことを宿命づけられている、と以前このブログで書きましたが……この作品のテーマは、環境問題です。

ヘドラはヘドロから生まれた怪獣であり、核実験から生まれたゴジラが核の恐怖を象徴していたように、ヘドラは環境問題の象徴なのです。

 

前作でも公害問題に言及するようなシーンがちょっとありましたが、『ゴジラ対ヘドラ』では、それをさらにテーマとして掘り下げています。

直接的には、田子ノ浦のヘドロ問題をモチーフにしているそうです。

 

高度経済成長の負の側面として公害問題が深刻化しつつあった頃。

公害対策基本法ができたのは1967年。そうしたことが背景にあるでしょう。また、レイチェル・カーソンの『沈黙の春』の影響もあるといいます。


監督は、坂野義光氏。

 

ゴジラ作品で、同氏がメガホンをとった作品はこの一作のみ……というより、坂野氏が正式に監督をつとめた映画作品は、この『ゴジラ対ヘドラ』しかないようです。

この監督の個性ゆえに、本作はシリーズの中でもきわめつけの異色作として知られるものとなっています。

 

具体的には、サイケデリック趣味や、マルチスクリーン、時折挿入されるアニメーションなど、実験的な手法が随所に取り入れられているのです。

 

海面を漂うヘドロの画像や、ヘドラの発する硫酸ミストで骨だけになった死体など、無気味な映像も出てきます。「怪獣によって殺された人間の死体」というのはなかなか怪獣映画で直接描かれることのないものと思いますが、この映画ではそれをやります。皮膚がただれて死んでいく姿などは、かなりグロテスクです。

そうした表現は、ある意味では、時代に先駆けたセンスだったのかもしれません。

前作から、ゴジラ映画には新たな表現がみられるようになったとこのブログで指摘しましたが……『ゴジラ対ヘドラ』は、そういう方向性を急速に推し進めたものともいえるでしょう。

 

実験的な手法がほとんど常にそうであるように、こうした表現は賛否を呼んだようです。

 

興行としてはそれなりに成功したということですが、酷評にもさらされたといいます。

ウィキ情報によると、あるとき「世界の最悪映画50本」というような企画があり、そのなかに本作が選ばれたのだとか。そこでは、「Z級の愚作」と酷評されたそうです。

私自身は、このカルトな感じが結構気に入ってますが……ただ、好きであるにせよ嫌いであるにせよ、この作品がゴジラシリーズ全作品のなかでも際立った個性を持っているというオンリーワン性は誰にも否定しえないところでしょう。

 

私がリスペクトする映画評論家の町山智浩さんは、この映画にかなり強く衝撃を受けたそうで、「人生において重要な意味を持つ映画」だといっています。

その町山さんによれば、『ゴジラ対ヘドラ』はカルト映画として町山さん世代の人たちに大きな影響を与えているんだそうです。

 それは映画関係者だけでなくミュージシャンなどもふくまれていて、たとえば怒髪天の増子直純さんや、チェッカーズのリーダーだった武内亨さんなども『ゴジラ対ヘドラ』が大好きなんだそうです。

たしかに、アングラ 酒場で、魚人間たちが踊る場面で流れる音楽は、いかにもサイケデリックロックっぽくてかっこいい。そういうところが、ミュージシャンの琴線にも触れたわけでしょう。


世界最悪の映画とされたものが、ある人にとっては名作となる……こういう構図は、映画にかぎらず、音楽、絵画などいろんなジャンルで見受けられます。このブログでも、いくつかそういう例を紹介してきました。

画期的な作品というのは、しばしばそういう毀誉褒貶を受けます。

町山さんは、本作にヌーベルバーグやアメリカンニューシネマの影響を指摘していますが、アメリカンニューシネマも、出てきた当初は強い批判を受けていました。それが、やがて高く評価されるようになっていったのです。

そういう意味でも、『ゴジラ対ヘドラ』は、ゴジラ史に残る作品になっているのだと思います。


西日本に大雨

2019-08-28 18:58:09 | 日記
西日本で、大雨が降っています。

私の住んでいるところはそれほどでもありませんが、福岡、佐賀、長崎のかなり広範囲で、豪雨になっているようです。

去年もこのブログで似たような話を書きましたが……やはり、夏になるとこういう豪雨が起きるのはもはや珍しいことではなくなっているように思われます。

その直前には、もはや涼しいというよりも肌寒いというレベルに急激に気温が低下するということもあり……気象の異常はもはや日常生活に無視しえない影響をあたえるところまできているのでしょう。

その状況にあわせて、インフラや社会制度も変更していく必要があるんじゃないかと思います。

The Stone Roses - Made of Stone

2019-08-26 16:04:14 | 音楽批評

今回は、音楽記事です。

 

例によってしりとり方式で、前回のスカボロー・フェアからの関連で、The Stone Roses について書きましょう。

 

どういうつながりかというと……

 

ストーンローゼズのアルバム『ストーンローゼズ』には、Elizabeth My Dear という曲が収録されていますが、これはメロディーがスカボロー・フェアそのものなのです。

 

トラディショナルソングというのは自然発生的に出てきたものなので、同じ曲に違う歌詞がついていたり、似たような歌詞が違うメロディで歌われていたりということがよくあります。パブリックドメインという扱いになり、著作権的な問題も生じません。したがって、ローゼズが別の歌詞をつけて歌ってもかまわないわけなんです。まあ、作曲者のところに自分たちの名前がクレジットされているのはどうなんだということもあるんですが……

 

しかしながら、取り上げるのは、この Elizabeth My Dear 自体ではありません。

 

Made of Stone という曲です。

 

ローゼズの代表曲の一つということと……もう一つ理由がありますが、その点については後述しましょう。

 

ストーンローゼズは、“マッドチェスター”と呼ばれるムーブメントを代表するバンドの一つ。

 

Made of Stonは、そのストーンローゼズのバンド名を冠したファーストアルバムに収録されています。

 

このアルバムは、ローゼズの代表作で(といっても、そもそもアルバム二枚しか出してないんですが)「ロックの歴史を変えた」とまでいわれ、かなり高く評価されているアルバムですが、そのなかでもハイライト的な位置づけにあるのが、この Made of Stone なのです。

彼らの公式YouTubeチャンネルにライブ映像があったので、それを貼り付けておきましょう。

 

The Stone Roses - Made of Stone (Live in Blackpool)

 

この選曲は、以前アジカンの記事でも書いた、ロックと社会性というテーマにもつながってきます。

 

はっきり書いてるわけではありませんが、この歌は社会の問題に無関心な人に、それでいいのかと問いかける歌とも解釈されるのです。

 

 

  ときどき思うんだ

  通りは寒々として孤独で 車が燃えているってのに

  こんな時代に お前は目をむけないのかい

  通りは寒々として孤独で 車が燃えているってのに

  お前は一人きりかい

  誰か家で待ってくれてる人はいるのかい

 

 

ローゼズの活動した時代は、セカンド・サマー・オブ・ラブなどといわれたりもします。

 

60年代サマー・オブ・ラブがあり、そこからパンクの勃興があり、ポストパンクがあり、一周してもとに戻ってきた感じです。

サマー・オブ・ラブは、若者を中心とした社会運動だったわけですが、セカンド・サマー・オブ・ラブにもそういうところはあります。

 

その一環とも考えられるのが、アルバムジャケットにあしらわれた輪切りのレモン。

これは、ローゼズのメンバーが、あるときパリ五月革命の闘士に話を聞き、催涙ガスから逃れるためにレモンを装備していたという逸話にインスピレーションを受けたからだそうです。

レモンに催涙ガス対策の効果なんてあるのかと思われるかもしれませんが……そういう噂は学生運動盛んなりし頃のわが国にもあったそうで、当時デモに参加する学生たちのなかにもレモンの輪切りを持ち歩く人がいたそうです。そのあたりのことを、歌人の道浦母都子さんは次のような歌に詠んでいます。

 

催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり

 

これと同じフィーリングを、ローゼズの面々も五月革命の挿話から感じ取っていたのではないか。

それが、アルバムジャケットのレモンなんじゃないかと思えます。バンド名/タイトルの隣にフランス国旗のトリコロールが添えられているのも、そう考えるとうなずけます。

 

このアルバムには、直截的に社会を批判するような歌はありません。

あえて挙げるなら、最初に紹介した Elizabeth My Dear がかなり辛辣な英王室批判になっているというぐらいでしょうか。それ以外では、 Made of Stone の歌詞がそのようにもとれるというぐらいで……しかしながら、こういう微温的ともいえる態度が、「胸で不意に匂えり」というレモンのイメージにあっているように思えます。ほかの収録曲も含めた歌詞のイメージからすると、政治批判というよりは、拝金主義的な世の中を批判するというようなトーンが優勢のようで、そのあたりがレモンな感じだったんじゃないでしょうか。

 

Made of Stone に話を戻すと、この歌の最後は Are you made of stone? と結ばれます。

これが曲のタイトルにもなっているわけです。

お前は石でできているのか。

他人の痛みに目を向けず、自分の金もうけのことしか考えないのか。そんなお前に、家で待ってくれる人がいるのか――この歌は、そんなふうに問いかけているように私には聞こえました。

 

80年代ぐらいから、世界中にそういう傾向が広がっていったことが背景にあるのではないかなとも推測されます。

その傾向は、それから年を経るにつれてだんだん強まっているようで……ローゼズは10年ほど前に再結成したわけですが、それにあわせてアルバム『ストーンローゼズ』がチャートを急上昇したというのも、単に再結成に対するご祝儀というだけではないのかもしれません。

やはり彼らも、この時代のカナリヤなのでしょう。

 

 

で、最後に、この曲をとりあげるもう一つの理由なんですが……

 

じつは、 Made of Stone は、トミーシリーズゆかりの曲でもあるのです。

これまで何度か紹介してきた幻の(笑)連作短編『トミーはロック探偵』のなかに、この曲をモチーフにした一作がありました。

そういうわけで、今回は特に Made of Stone を取り上げた次第です。例によっての我田引水ではありますが……


争いの河

2019-08-24 15:25:14 | 時事
GSOMIA破棄を受けて、日韓の確執がさらに深まっています。
現状はもはや、国交回復以後最悪といっていい状況ではないでしょうか。

いっぽうで、米中貿易摩擦も激化し、また米中ロの間ではINF全廃条約失効に伴い、核軍拡競争の兆しが見えるなど……まるでアマゾンの熱帯雨林火災のように、世界中に争いが広がっているようです。

ここで名曲を一曲。
タイマーズの「争いの河」です。


  大人たちが言い争ってる
  原発やコメや税金で争ってる
  大人たちが言い争ってる
  社会や文化、経済で争ってる
  その間に目的をもった奴がちゃくちゃくと準備をしてる

  政治家はただ選挙で争ってる
  宗教の奴らは神さまで争ってる
  科学者ときたら特許で争ってる
  企業はひたすら利益を争ってる
  その間に目的をもった奴がちゃくちゃくと準備をしてる

  芸術家が著作権で争ってる
  教育者は偏差値を争ってる
  芸能人は笑顔で争ってる
  スポーツマンは記録を争ってる
  その間に目的をもった奴がちゃくちゃくと準備をしてる

  男も女も朝から争ってる
  親子も他人も強大も争ってる
  人殺しもおまわりも争ってる  
  田舎も都会も海でも山でも空でも
  その間に目的をもった奴がちゃくちゃくと準備をしてる

  大人たちがまた争ってる
  未来や過去や現在を争ってる
  いい年こいてまた争ってる
  力で言葉で思想で争ってる
  その間に目的をもった奴がちゃくちゃくと準備をしてる



一応注釈をくわえておくと、タイマーズは忌野清志郎がやっていたバンドです。
この歌の歌詞を見ていると、やっぱり清志郎は見えている人だったんだなあとあらためて思います。

この歌の「ちゃくちゃく」という部分の後には、チャクチャク、チャクチャクというコーラスがついていて、曲の最後はその繰り返しで終わってるんですが……この歌を聴いていると、そのコーラスがなんだか不気味に響いてくるのです。

今回の日韓の件でいば、お互いの国のヘイトを煽ってほくそ笑んでいるものがいるんじゃないか――そういう冷静な視線を持つ必要があるんじゃないでしょうか。

日本政府に衝撃=韓国に抗議へ―軍事情報協定破棄

2019-08-22 20:42:27 | 時事


これはよろしくない状況ですね……

このままでは、際限なく日韓関係が悪化していくばかりです。

勢いで勇ましいことをいわない、そういうことをいう人に喝さいを送らない――そういう姿勢が大事だと思います。