ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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中ノ森BAND / Whatever

2020-03-29 18:04:36 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

中ノ森BANDというバンドについて書きます。

前回からのつながり……というのも特にないんですが、まあ“しゃがれ系女性ボーカル”つながりといったところでしょうか。

中ノ森BANDは、ボーカル中ノ森文子を中心とする4人組のガールズバンド。

残念ながら、アルバム三枚出したところで解散してしまったんですが……パワフルなガールズバンドとして、私は注目していました。

おそらく、日本のロック界でもひそかに注目を浴びていたんだと思われます。

たとえばこのバンドは、ブルーハーツの甲本ヒロトさんから、「イソブラボー」という曲を提供されています。さらにそのシングルには、真島昌利さんの提供した曲も。この二人が他のバンドに曲を提供するのは初のことだったそうです。
また、ラストアルバムとなった「エレクトリックガール」では、三宅伸治さんがプロデュース。
三宅伸治といえば、忌野清志郎のバックバンド「ナイスミドル」のバンドマスターをつとめていた人です。その三宅さんが、プロデュースをしている……このことを知ったとき、私はにやりとしました。
三宅伸治さんがプロデュースをしているということは、ロックの“お墨付き”を得ているということにほかならない。ふっ、やはり俺の耳は間違っていなかったか……と。まあ、趣味嗜好が似ているということですから、当たり前といえば当たり前なんですが。
(また、これは後になって知ったことですが、先述したシングル「イソブラボー」でも、三宅さんはバンドとともにアレンジを手がけています)

ともかくも、忌野清志郎と公私で親交のあったミュージシャンと共同作業しているということは、キヨシローが一つの基準となっている私としては、重要なポイントです。

そんな中ノ森BANDの、Whatever という曲があります。

 

2枚目のシングルで、おそらく、代表曲といっていいでしょう。
バンドが活動していた頃ラジオ番組をやってたんですが、そのラジオで、リスナーがこの曲のラスト部分を真似してみせるというコーナーがあったりもしました。
レコード会社がアップしている動画を貼り付けておきましょう。

中ノ森BAND / Whatever

ストレートなロックサウンドと、中ノ森文子さんのパワフルかつ表現力豊かなボーカルが魅力です。
が、その歌詞もまた注目です。

タイトルになっているwhatever という言葉は、ロックを象徴するような英単語だと思うんですね。
特に90年代以降……たとえば、オアシスがずばりWhatever というタイトルの曲をやってますが、ニルヴァーナの Smells Like Teen Spirit にもこの単語が出てきます。90年代の英米ロックをそれぞれ代表するともいえる二曲に、使われている言葉なのです。
それをタイトルに掲げた歌を歌うというのは、それなりに覚悟がいるでしょう。しかし、中ノ森BANDはそれをやってのけたのです。そこで歌っている内容も、オアシスが「俺が何になろうが俺の自由」と歌ったスピリッツを継承しています。
中ノ森文子さんは、だいぶ前にテレビに出た時に、ニッケルバックがいいといったかと思えばマディ・ウォーターズが好きだともいい……もう、そういうロックの歴史を先史時代から現代にいたるまで踏まえてきているミュージシャンなのです。

そんな中ノ森BANDが再結成してくれないものかな……と、私はちょっと思っています。




鮎川哲也『黒いトランク』

2020-03-27 17:32:02 | 小説

 

鮎川哲也の『黒いトランク』を読みました。

以前クロフツの『樽』について書きましたが、その『樽』を意識して書かれたこの作品を、ミステリーキャンペーンの一環として読んでみた次第です。

私としてミステリー書きの端くれなので鮎川作品をいくつか読んだことはありますが……“実質的なデビュー作”といわれるこの作品は、未読でした。


一応簡単な説明をしておくと、この作品は、講談社が企画した長編ミステリー公募に鮎川が応募し、当選したものです。
鮎川哲也はその時点ですでに作家デビューしていましたが、なかなか思うような成果を出せず、ここに活路を見出します。それまではさまざまなペンネームを使っていましたが、鮎川哲也名義でこの『黒いトランク』を発表。そこから、本格ミステリー界のレジェンドとなるのです。

その選考には、江戸川乱歩や横溝正史もくわわっていました。
本格ミステリー二大巨頭に認められての“デビュー”ですから、これはもう成功が約束されたようなものでしょう。
事実、鮎川哲也は戦後の本格ミステリーを代表する作家となりました。いまでは彼の名を冠した賞が存在し、多くの本格系作家を輩出しています。

その鮎川哲也としてのデビュー作となる『黒いトランク』ですが……

乱歩も指摘したように、たしかにクロフツ『樽』との類似点がみられます。
鮎川本人は、横溝正史のエッセイから着想を得たといっていますが、作中で『樽』に言及していたり、『樽』の内容を踏まえたものと思える記述があったりして、『樽』を意識していたことは間違いありません。
クロフツの場合と同様に、死体を詰めた容器が二つ存在し、それが複雑に移動する過程で謎が生じ、探偵役がその謎を解明していくのです。詳細は書きませんが、『樽』を念頭に置きつつ、クロフツとはまた一味違った解決となっています。
いうなれば、チャック・ベリーの Sweet Little Sixteen を下敷きにしてビーチボーイズが「サーフィンUSA」を作ったというようなもので……まさに、本格ミステリー伝説の幕開けにふさわしい作品といえるでしょう。

GLIM SPANKY - 「怒りをくれよ」

2020-03-25 20:38:47 | 音楽批評


今回は、音楽記事です。

このカテゴリーでは、椎名林檎/東京事変をとりあげましたが、そこからの関連で GLIM SPANKY の「怒りをくれよ」という曲を紹介しましょう。

 

 

 

 

この曲は、東京事変のベースを担当している亀田誠治さんのプロデュースになるものです。そしてまた、私がやっているバンドでコピーしている曲でもあるのです。

ボーカル松尾レミさんのワイルドな歌声が印象的なロックナンバーで、ほぼ全編スリーコードのみの展開も、そこにはまっているでしょう。


 

GLIM SPANKY - 「怒りをくれよ」

 

ONE PIECE劇場版の主題歌として使われたので、それで知っている方も多いでしょう。
原作者である尾田栄一郎先生がGLIM SPANKY を指名し、ワンピースをモチーフにして曲を作ったということです。ただ、それで作った曲がダメ出しを受けたそうで……
ワンピースを意識して、ワンピースにあわせた感じで曲を作ったところ、そういうことじゃない、と。それで「好き勝手に」作ったのが、この「怒りをくれよ」なのです。
下に、歌詞の一部を抜粋しましょう。


   関係ない顔した ことなかれ主義の腑抜けが
   陰でニヤニヤ 人のこと何を笑ってるんだ?
   お前らさ 笑われるのは
   湿った心は 最悪の燃えないゴミだぜ
   怒りをもっとくれ 理性なら邪魔なんだ
   限界越えた先にしか欲しいものはないから
   目が眩むほどの 火花散らして
   なあ 全身全霊で ぶつかろうぜ 輝くために


痛快な歌詞です。
「好き勝手に」作ったとはいえ、やはりそこにワンピースのイメージはあるでしょう。
松尾さんはワンピースのファンで、昔から「ルフィみたいだ」といわれてたんだそうで、ある意味で相思相愛だったわけです。であればこそ、GLIM SPANKY をそのまま出すことが、尾田栄一郎先生の意にかなうことだったのでしょう。
この歌詞について、ギターの亀本寛貴さんはインタビューで次のように語っています。

……愛や平和が一番根底にあるうえでそれを実現できない社会への怒りを歌っているのがロック。 怒りだけがピックアップされてロックとされてしまうんですが、いちばん大切なのは愛であり、平和であり、希望なんです。だからGLIM SPANKYは「怒りをくれよ」と歌っていますが、なぜ怒りが必要なのかというと、その怒りでステップアップしてもっと素晴らしい景色が見たいから、みんなを連れていきたいから。その希望を歌っているんです。

たまにツイッターなんかをみると、“最悪の燃えないゴミ”のようなつぶやきを最近よく見かけます。
なんだか、この十年ぐらいの日本はそういう傾向が強くなっているようで……そんな湿った心ばかりの世の中を、吹っ飛ばすようなロックが聴きたい今日この頃です。



 


五輪、延期か

2020-03-23 20:47:58 | 時事

 

 

IOCが、とうとう五輪の延期を示唆しました。

 

おりしも、ドイツのフェンシング代表選手マックス・ハルトゥングという方が、「予定通りに東京オリンピックが開催されるなら出場を辞退する」と表明したそうです。

 

「予定通りの開催なら不参加」を国単位で表明するところも出てきたようで……IOCとしてももう突っ張り切れなくなったというところでしょう。

 

数日前まで、わが国の安倍総理も“人類がウィルスに打ち勝った証として完全なかたちでの開催”にこだわっていましたが……理解しておかなければならないのは、仮に724日に開会したとしても、現状、もはやそれは“完全な形”での開催ではないということです。

予選もできていないし、選手はトレーニングができていないという状況があります。

それがあるから、各国の五輪委員会や競技団体から相次いで延期の要望が出ているわけです。いくら日本がやりたいといっても、選手たちが次々に辞退していったら、どうしようもありません。

 

いまの状況を考えると、予定通りのスケジュールで五輪が開催される可能性は、実質ゼロになったといっていいでしょう。

 

延期は中止よりも難しいといいますが……だからこそ、本気で東京五輪をやりたいなら、延期の手段を考えておくべきでしょう。

 

いつの時点まで延期するのかを検討し、延期によって生じるさまざまな難題をどう処理するか。その問題に取り組む能力が問われるわけです。

果たして、日本の政治家や、五輪組織委の人たちにそういう調整能力があるのか……それを考えると、だいぶ道は険しいような気もします。

 

 

 


椎名林檎 - 自由へ道連れ

2020-03-21 21:13:12 | 音楽批評

 

 

今回は、音楽記事です。

 

音楽カテゴリーでは前回東京事変について書きました。そこからのつながりで、今回は椎名林檎さんについて書きましょう。

 

取り上げるのは、椎名林檎さんが2012年に発表した「自由へ道連れ」。

 

東京事変解散後、最初にリリースされたシングルで、小松奈々さんが出演するPVも話題になりました。

そのPVを貼り付けておきましょう。

 

椎名林檎 - 自由へ道連れ

 

この曲はまず、なんといっても、ギターリフがかっこいい。

シンバルのカウント(?)に続いて、ピックスクラッチからなだれこむあのリフは、破壊力があってじつに印象的です。

事変の「閃光少女」と同様に、いま自分が所属しているバンドでやってたりするんですが、ギターソロの部分もふくめて非常に弾きがいのある曲です。まあ、それをどこまで弾けているかというと、微妙なものがありますが……

 

曲全体をとおしてみると、ポップな感も。

 

椎名林檎/東京事変の曲は、どこか昭和歌謡的なレトロ感を漂わせているものが多い印象がありますが、この曲はちょっと違った意味で懐かしい感じがします。私のイメージでは、平成初期の草創期J-POPのような……

 

しかしながら、この歌にも、単純なポップではないところが感じられます。

林檎さんは「罪と罰」という歌で“現実界”というラカンの言葉を使っていたりして、ポップな歌であっても、しばしばそういう哲学性が顔をのぞかせます。

 

  世界の真ん中が視たい

  Take me there, won't you?

  混沌(カオス)と秩序(コスモス)の間で待って居るよ

 

と、まず「混沌/秩序」という二項対立が示されます。

 

それからさらに「破壊/建設」「子供/大人」「男/女」という対立概念を並べていき、最後にこう歌います。

 

 

  相反する二つを結べ 

  自由はここさ

  本当の世界のまん中

 

あらゆる二項対立が無効化されるデュオニソス的祝祭……そこにある“自由”は、一般的に使われる自由という言葉の意味を超えたものでしょう。

 

PVも、そういうモチーフを表現しているように見えます。

スクリーンに映し出された虚構の世界を破り捨てると、その向こう側に“本当の世界”がある。そして、歌詞に出てくる“ミサイル”という言葉や、PVに描かれるライターの炎、花火……それらが喚起する爆発のイメージ。まさにここが、椎名林檎というアーティストの危険な魅力なのです。