今回は、音楽記事です。
寺山修司ゆかりのアーティストシリーズということで……今回取り上げるのは、頭脳警察です。
まあ、ゆかりというほどのゆかりがあるわけでもないんですが……
頭脳警察は、日本のポピュラーミュージック史におけるオーパーツのような存在です。
方向性はやや違いますが、ダイナマイツの「トンネル天国」なんかと似たような感じでしょうか。
60年代から70年代ぐらいの日本にはすでにそういう音楽があり、ロックンロールがそういう方向に進みうる可能性はあったはずなのです。
しかしながら……それはあくまでも可能性にすぎませんでした。
そのような方向性は断ち切られ、結果、頭脳警察もダイナマイツもオーパーツ的な存在となり、そこにいたPANTAや山口冨士夫といった人たちも、表舞台にはなかなか出てこなかったのです。
つまりは、前回小室等さんの記事で書いた、あの圧力――フォークをニューミュージックに変化させたあの力が、ここでも働いていたのでしょう。そしてそれは、ロックという音楽に対しては、フォークに対してよりもさらに強力に作用したのだと思われます。
その音楽を聴いてみれば、なるほどこの国の“世間”がそれを圧し潰そうとするのももっともな話だと思えます。
とにかくラディカル
MC5とか、デッド・ケネディーズとか、そういう感覚なのです。パーカッションのTOSHIさんがMC5のファンだったということで、それが出ているんでしょう。
あまりの過激さゆえに、ファーストアルバムは発売中止に。
それからリリースされるまでにおよそ30年がかかりました。その『頭脳警察1』に収録されている「赤軍兵士の詩」「銃をとれ」が聴ける2019年のライブ映像をリンクさせておきましょう。タイトルだけでも過激さは伝わってきますが、中身はそれを裏切りません。
頭脳警察「赤軍兵士の詩」「銃をとれ」「ふざけるんじゃねよ」2019.0706渋谷Lamama
音楽や歌詞が過激なだけでなく、その行動も過激でした。
日劇ウェスタンカーニバルに出演した際には、ステージ上でマスターベーションをしてみせるというパフォーマンスでも伝説となりました。
もう一つ、頭脳警察が起こした事件として有名なのは、三田祭事件。
はっぴいえんどが演奏することになっていたステージをジャックして、はっぴいえんどは一曲しか演奏できなかったという事件です。
これは学園祭での話ですが、その当時は学生運動も盛んな頃で、学園祭は荒れることが多く乱闘騒ぎなんかもしばしばあったとか……
前に書いた中津川フォークジャンバリーもそうですが、シナリオにない何かが起こりうる、そういう面白さがあった時代なんだと思います。
その時代を象徴するのが寺山修司……というわけで、ここで寺山修司が出てきます。
冒頭にも書いたように、直接のつながりがあるわけではありません。寺山側からの関りは、セカンドアルバムが発売中止になった際に、その件についてコメントを寄せたことがあるというぐらいです。
いっぽう頭脳警察は、寺山修司の「時代はサーカスの象にのって」という作品を取り上げています。
また、寺山の「アメリカよ」という詩を朗読している音源も。下の動画では、この詩を朗読した後に、「時代はサーカスの象にのって」を歌っています。
[朗読:アメリカよ]...
ちなみに、このライブでは、近田春夫さんもゲストでキーボードを演奏しています。
その近田さんが参加している「コミック雑誌なんか要らない」です。
コミック雑誌なんか要らない
ボーカルのPANTAさんは、忍者の末裔だとか、父親はCIAの関係者だったとか……いろいろ伝説のある人です。
一時ラディカル路線を離れていた時期もありますが、結局はそちらに引き戻されてきたようで、小室等さんとはまた違った意味で、70年代ごろの感覚を今でも持ち続けている稀有なミュージシャンといえるでしょう。
たとえば、先代天皇(現上皇)の即位の礼の日に、「超非国民集会」と銘打ったライブをやるとか……まさに、70年の感覚そのものです。
安保闘争が三たび持ち上がりはじめていた2014年には、日比谷野音で行われた
ANTI WAR LIVE
にも登場。その動画が、制服向上委員会のチャンネルにアップされています。
時代はサーカスの象にのって/頭脳警察 @日比谷野音
PANTAさんは必ずしもこの種の活動に親近感を持っているわけではなさそうですが、やはりあの2014、15年当時の状況にはそうもいってられなかったということでしょうか。
同じステージでは、中川五郎さんと共演もしています。
理想と現実/PANTA,中川五郎,橋本美香&制服向上委員会
ちなみに、制服向上委員会というのはPANTAさんが関わっていたアイドルグループ。
アイドルグループではありますが、そこはなにしろPANTAさんなので、やはり時事問題を扱ったりする異色のアイドルでした。
福島第一原発の事故以降は、脱原発ソングを歌ったりもしていて、「おお、スザンナ」を替え歌にした反原発ソング「おお、ズサンナ」で物議をかもしたことも。
このあたり、忌野清志郎のセンスに通ずるところがあるようにも感じられます。
PANTAさんは、2009年フジロックに初登場した際には、直前に亡くなった清志郎を追悼してRC版サマータイムブルースを歌ったということで……往時にはライバル意識も持っていたそうですが、やはり同じ方向性を共有していたのでしょう。
さて、その2009年は結成40周年ということでしたが、解散や再結成を繰り返しつつ、50周年を超えた今でも頭脳警察は活動を継続しています。忌野清志郎も、山口冨士夫ももういませんが……一つ一つ灯し火が消えていく中で最後に残ったろうそくのように、頭脳警察は日本のロック界を照らしています。フォークにおける小室等さんと同様、遠い昔に失われてしまった魂が、そこに生き続けていると感じられるのです。