ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

The Kinks, You Really Got Me

2017-11-29 17:54:01 | 音楽批評
 

今回は、音楽記事です。

前回フーの記事を書いたところ、いわゆる四大バンドの中ではキンクスが好きだという方からコメントをいただきました。

で、今回は、せっかくなのでキンクスのことを書こうと思います。

とりあげるのは、You Really Got Me。
いわずとしれた、キンクスの代表曲です。

フーの代表曲は何かとなったらいくつか候補があがりますし、ビートルズやストーンズの代表曲といったら百家争鳴状態になるでしょうが、キンクスの代表曲は何かといわれたら、100人中99人ぐらいはこれを答えると思います。それぐらい、大当たりした曲です。
いつだか、イギリスで時代ごとのロックのベスト曲を選ぶというアンケート企画があり、そこでYou Really Got Me が60年~70年の一位になったという話を聞いたこともあります(記憶があいまいなのですが、切り方は55年~65年だったかもしれません)。この曲が、どれだけロックファンの心をとらえたかがわかるでしょう。

そういうわけなので、様々なアーティストにカバーされてもいます。とりわけヴァン・ヘイレンのバージョンが有名で、ヴァン・ヘイレンの曲だと思ってる人も世の中にはいるかもしれませんが、さにあらず。あれはカバーで、オリジナルはキンクスです。

You Really Got Me といえば、まず、あのリフが浮かんできます。

ジャララララッ ジャララララッ というやつですね。

構成をみるときわめてシンプルなリフですが、シンプル・イズ・ザ・ベストを地でいっています。
そしてそれが、Ⅰ→Ⅱ→Ⅴという、特異な進行で展開されます。こういう表し方をするのが妥当かどうかもわからなくなる進行ですが、とりわけ序盤にⅠ→Ⅱとなるところで「お?」と思わされます。普通はこういうのないですからね。デイヴィス兄弟も、これが結構ツボだったようです。

とんがったギターサウンドは、アンプなどに故意にダメージを与えることで作り出されたものといわれます。
このへんも、ロック草創期のなんでもありな感じが出てていいですね。

また、この曲のレコーディングには、ジミー・ペイジが参加しているそうです。レッド・ツェッペリン結成前の裏方的な仕事をしていた時期に、縁があって参加したということです。
ただし、ジミー・ペイジの弾いたギターが使われているのか、使われているとしたらどの部分なのか、というのは、はっきりしないようです。ギターソロを弾いているんじゃないかという説もありますが、これに関してはデイヴィス兄弟もジミー・ペイジも否定しています。

キンクスは、最近、再結成の動きも出ているようです。
デイヴィス兄弟の不仲のためになかなか実現できないようですが、もしかしたら、You Really Got Me を生で聴くことのできる日がやってくるかもしれません。もっとも、彼らの年齢との勝負にもなってきますが……

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの復活~

2017-11-25 22:33:23 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』
今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話シリーズです。

長々と書いてきましたが、いよいよ、これで最終回になります。

以前も書いたとおり、トミーシリーズをいったん封印して修業の日々を送っていた私は、相も変わらず、投稿するためのいくつかの作品を書いていました。トミー復活も視野に入れ、いよいよ今度こそ受賞に向けて攻勢をかけようとしているところでした。

そんな折に、『このミス』大賞を主催する宝島社の編集の方から、連絡がありました。
数年前に最終候補になっていた『ホテル・カリフォルニア』が、“超隠し玉”という企画の候補にあがっているというのです。

降ってわいたような話です。
願ってもない幸運……と思いました。

ただ、これは『このミス』大賞15周年記念の企画という性質のものなので、ちゃんと賞をとってデビューしたほうがいいと思うなら、この話を受けるかどうかはよく考えたほうがいいという助言もいただきました。

それで、私も考えました。

結論は、イエスでした。

私の投稿生活も、もうかなり長くなっていました。

はじめて一次選考を通過した時には、なんの根拠もなく「4年以内にはデビューする」なんて思ってたんですが、現実にはその時期をかなりオーバーしていました。この辺でそろそろ、何らかの成果が欲しいという焦りもありました。

で、かつての応募作が『ホテル・カリフォルニアの殺人』と改題されて、刊行されることとなったわけです。

出版にいたるまでの作業は、もちろん未知の領域でした。

編集の方とは、一回だけ福岡に来ていただきお会いしましたが、それ以外はメールと郵便でのやりとりでした。

作中に使われている図は、私がラフな下書きをして、それをデザイナーの方に図版化していただきました。

解説は、川出正樹さんに書いていただき、また、文庫の帯には千街晶之さんのお言葉もいただきました。

そして、表紙のイラストは、田中寛崇さんに描いていただきました。

こうして、多くの方々のご支援をいただき、『ホテル・カリフォルニアの殺人』は、今年の8月に発売となったのです。


この決断が妥当なものだったかは、今はまだわかりません。
しかしともかくも、私はこの道を選びました。

それが間違いじゃなかったと後でいえるように、今は必死に進み続けるだけです。
そして、できうれば、今後も進み続けたい……

というところで、この制作裏話シリーズを終えたいと思います。

今後とも、どうぞごひいきにお願いします。

The Who, My Generation

2017-11-22 19:07:41 | 音楽批評
 

今回は、音楽批評記事として、The Who の My Generation を取り上げます。

なぜ突然……と思われるかもしれませんが、じつは、私は結構フーと縁があるんです。
このブログのタイトルはもちろんMy Generationからとられいますし、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』の主人公トミーの名も、フーの作品からとられています。そういう縁がある(というより、勝手につなげていってるだけではあるんですが……)んで、フーのことを書いておこうかな、と。

フーは、英国ロック草創期の伝説的なバンドです。
ビートルズ、ローリング・ストーンズ、キンクスなどと同世代。この三つと比べると知名度はいくらか劣りますが、パンクの先駆けとも目されていて、後のアーティストに与えた影響はかなり大きいと思われます。パンク系バンドのライブでギターをぶっ壊すというパフォーマンスが時々ありますが、一説には、あれを最初にやったのはフーのピート・タウンゼントだそうです。

そんな彼らの代表曲の一つが、My Generation。

この曲には、彼らの無軌道な衝動がよく表れています。お前はお前、俺は俺、俺は自分のやりたいようにやってるだけなんだから、口出ししないでくれ……という。
たとえば、次のような歌詞です。


あんたらみんな消えてくれない?
俺たちのいうことを詮索しないでくれよ
大センセーションを巻き起こそうなんて思っちゃいない
ただ、俺の世代について話してるだけ

俺の世代
これが俺の世代さ ベイベー

「年取る前に死んじまいたいぜ」という有名な一節もありますが、そんな彼らが70を過ぎてこの歌を歌っているという……まあ、そういうツッコミはやめておきましょう。

また、この曲は、間奏のベースソロもいかしてます。
フーを特徴づける、ジョン・エントウィッスルの、まるでギターのようなベースです。
ロックの勃興とは実はベース革命だったのではないか……なんて私は思っているんですが、そういう視点でみても、フーは革新的な存在なんです。

斬新なのは、音楽の部分だけではありません。
アルバムのアートワークなども独特のセンスがみられ、また、彼らは“ロックオペラ”なんてものもやってました。
そのロックオペラのタイトルがTOMMYで、ロック探偵トミーの名がそこから来ているというのは、はじめに書いたとおり。
ブログタイトルもそうですけど、なんかいかした名前をつけたいな、と思うと、ふっとフーが出てくるんですね。そういう卓越したセンスが彼らにはあると思うんです。
そして、そうかと思えば、一点突破のインパクトだけでなく、いろんな歌の詞を読んでると結構深いことをいってたりもする。破天荒なようでいて、深い。そういうところが、フーをレジェンドたらしめているのだと思います。

古井由吉『夜明けの家』

2017-11-19 17:31:17 | 小説
先日『アメトーーク』が読書芸人の回で、古井由吉さんの著書が取り上げられていました。

私の作風からすると意外に思われるかもしれませんが、実は私は、小川国男さんや古井由吉さんの作品が結構好きだったりします。

で、調べてみると、古井さんは今日が誕生日だそうなんですね。

そこで、たまには小説のことも書いたほうがいいんじゃないかということで、今回は古井さんの『夜明けの家』という短編集を取り上げたいと思います。

 

古井由吉さんといえば、なんといってもあの印象的な文章ですね。

たとえば、「通夜坂」という短編は、こんなふうに始まります。


 自分から見ようとすべきことではないのだ、と道原は話を切り上げた。見ようとしてもまた、見えないことだから、と私はその意に添った。いや、見てしまうことはある、としかし道原は答えた。あるはずなのだ、あったはずなのだ、と繰返して黙った。
  何を話していたのか、道原にたずねて確かめるすべもなくなった。格別の話ではなかった。暮れ方に駅前で落合って通夜の寺まで歩いて向かう十五分ばかりの道のことで、それまでに二年近く顔を合わせていなかったので、仔細な話にもなりようがない。故人の噂はすぐに尽きた。その夏、私は喪服をしまう間もないほど不祝儀が続いた。同じくだと道原も苦笑していた。お互いに五十代のなかばにかかっていた。


途中「ない」という形が一回ある以外は、すべての文が「~た」という言い切りになっています。これは、きちんと文章として成立させるのは難しいけれど、うまくできれば絶妙な文章になる高等テク。この高等テクが、きっちりきまってます。
そしてもう一つ気づくのは、書かれている内容が追想の流れに沿っているらしいこと。
書く内容をリストアップして整理して書いたら、情報を提示する順番はもっと違ったものになるでしょうし、もう少し詳しく説明したり、文の間につなぎが入ったりするでしょう。そこをあえて、こういうふうに書くわけです。
そもそもこの箇所、話の冒頭部分としてはなんだか唐突なようにも思えますが、こんなふうにはじまるところもまた、独特な文学世界を構築する要素でしょう。
で、その後でもう少し詳しく説明してくれるのかというとそうでもありません。作品全体を通しても、筋道だった構成はありません。過去のいろんなできごとが断片的に描かれています。
表現を研ぎ澄ましていくと、構成を放棄せざるを得ないという例でしょう。
こういうスタイルを、石川達三は“朦朧派”と評したそうですが、言葉で表現できないものを表現するためには、そういうふうにならざるをえないのだと思います。そこに迫っていくがために、古井由吉さんの文章は、言葉ではうまく言い表せない印象を残すのでしょう。

その鋭い筆致は、時代にもむけられます。

たとえば「道草」では、こんな一節があります。

――おそれも知らぬくせに、追いつめられると、もろい。年々、人がもろくなっていく。苦しむ力から、まず失せる。ただ騒ぐ。それから、昨日までは騒いでいたのが、物を言わなくなる。
――大勢、死んだのか。
――物を言わなくなるのも一時だ。たいてい、まだ生きている。気もつかずに。

これは、バブルで浮かれる世相のことを書いたものかと思われます。

この作品集は1998年に発表されたもので、バブル崩壊の残響が聞こえるようです。

時代におもねらず、流されず、透徹した目で世の中を見る……そういう仙人的というか、文学職人的なたたずまいが見えてきます。


古井由吉さんは、今日で80歳になられるそうですが、先日の『アメトーーク』に新刊が取り上げられていたとおり、いまでも現役で活動しておられます。また、世代的にかなり離れた後輩の作家たちとコラボったりもしてこられました。どこまでも追求をやめない、孤高の求道者……文学界のヴァン・モリスンというか、そういうレジェンド的存在なのです。

『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話 ~トミーの旅は続く~

2017-11-17 15:55:46 | 『ホテル・カリフォルニアの殺人』


今回は、『ホテル・カリフォルニアの殺人』制作裏話・番外編の続きです。

前回“超隠し玉”の打診を受けたところまで書きましたが、その話を進める前に、もうちょっとだけ寄り道して、文学フリマのことを書こうと思います。

以前このブログで書いたように、私は福岡の文学フリマにも出品していたのですが、その出品作は、トミーシリーズだったのです。

文学フリマに出す本は、手作りです。
費用のことを考えると、それほどページを増やすわけにはいきません。そこで、短編を収録した作品とすることにしました。
長編がアルバムとすれば、シングルのような感じです。

で、何を書くか。

これも以前書いたように、その時点におけるトミーシリーズの既成作品には、連作短編集がありました。そのなかの一つを利用することにしました。

その連作短編集、すなわち、メフィストに応募した『トミーはロック探偵』では、次の6つの曲を取りあげていました。

・ストーン・ローゼズ「メイド・オブ・ストーン」(The Stone Roses, Made of Stone)
・ビーチ・ボーイズ「素敵じゃないか」(The Beach Boys, Woudn't It Be Nice)
・マディ・ウォーターズ「ローリン・ストーン」(Muddy Waters, Rollin' Stone)
・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド「黒い天使の死の歌」(Velvet Underground, Black Angel's Death Song)
・ニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」(Nirvana, Smells like Teen Spirit)
・ビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」(The Beatles, Strawberry Fields Forever)


そのなかの一つである「素敵じゃないか」を、いうなればシングルカットという形で収録しました。

しかしながら、既成の作品だけでは芸がない。そこで、この企画のための書き下ろし短編も書きました。
そのタイトルは、「朝日のあたる家」。
トラディショナルソングですが、作中ではアニマルズの曲として紹介されています。

この二つの作品を収録した小冊子として、出品されました。


そして翌年の文フリ福岡にも、私は出品しました。

このときは、2作とも書き下ろしでした。

一つは、トミーシリーズで、「雨を見たかい」。
いうまでもなく、CCRの曲がモチーフです。

そしてもう一つは、トミーではなく、私のなかでもう一つ別のシリーズになっている作品でした。


……というわけで、トミーシリーズには、これまで挙げてきたような作品があります。
それらを、私もいつか発表したいと思っています。

これらの作品が気になって読んでみたいという方は、宝島社に手紙を送って、トミーシリーズの作品が読みたいんだとアピールすると、そのうち発表されることもあるかもしれませんよ(笑)