国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

登山医学 (高山病: Acute mountain sickness)

2010-04-17 | Travel Medicine 各論

登山医学 (高山病: Acute mountain sickness)
- 登山医学
注意すべきは4つのH
Hypoxia
Hypothermia
deHydration
Hypoglycemia

酸素変化(標高m/気圧Torr/PIO2/PaO2/Ave. SpO2%)
平地:0m/760/149/95/97%
富士山頂上:3776m/480/91/46/86%
エベレストBC:5200m/380/80/32/67%
エベレスト頂上:8828m/250/43/23

高地の定義:海抜1500-2500m以上(明確な定義なし)

高地で問題となる基礎疾患:虚血性心疾患、高血圧、喘息、COPD、糖尿病、てんかん
その他に問題となる要素:妊娠、幼児、高齢者
高山病の発症率は高齢者でも子供でも変わらない
高齢者では基礎疾患が増える、小児では診断が遅れやすい
高地に行くべきでない疾患:不安定狭心症、コントロールされていない不整脈、非代償性心不全、弁膜症、先天性心疾患、心筋梗塞後2週間以内、血管再灌流後3週間以内
条件つきで高地にも行ける疾患:安定型狭心症、安定型不整脈(慢性心房細動)、軽症の先天性心疾患
喘息:安定している必要あり、予防薬と治療薬を持参する、予防的治療を検討する、不安定な喘息は3000mまで
糖尿病は高地で増悪するわけではないが、高山病と低血糖との鑑別が大事
安定型のてんかんは高地での痙攣のリスクは上昇しないが、発症した場合の対応は困難
妊娠に関するデータは乏しい
2500mまでは妊婦でも安全である
高地に住む人において、3000mまでは特に異なることはない
出生体重は高地で低下する傾向がある

高地にある都市

  1. ラサ、チベット、中国 3658m
  2. ラパス、ボリビア 3630m
  3. クスコ、ペルー 3399m
  4. スクレ、ボリビア 2844m
  5. キト、エクアドル 2819m
  6. トルカ、メキシコ 2680m
  7. ボゴタ、コロンビア 2644m
  8. コチャバンバ、ボリビア 2557m
  9. アディスアベバ、エチオピア 2408m
  10. アスマラ、エチオピア 2374m


高山病(Acute mountain sickness: AMS) と 高地脳浮腫(high altitude cerebral edema: HACE)

急性高山病の定義:(1991 カナダ レークルイーズ会議)
新しい高度に到達した際に起きる(二日酔いに似た)症状。頭痛、及び以下の症状のうち少なくとも1つを伴う。消化器症状(食欲不振・嘔気・嘔吐)・倦怠感または虚脱感・眩暈・意識障害・睡眠障害
身体所見ではなくて症状で診断
高地に入ってから6-12時間後に出現するが1時間後や24時間後に急速におきることもある
一般に、症状は最初の夜の後に最も重くなり、1日程度で軽快し、しばらくは同じ高度で再発しない
小児の場合の高山病の発生リスクは、成人と比較して同じかそれ以下と考えられる
幼児や乳児では体調不良を訴えられないことがあり、体調の変化に注意する

高地脳浮腫(HACE):high altitude cerebral edema
重症急性高山病の最終段階と考えられ、急性高山疾患者に精神状態の変化か運動失調を認める場合。急性高山病症状がない時は両者とも認める場合。
脳浮腫は一般的に4000m以上の高値、進行性、致死的、高山病の症状が先行
ネパールの登山者(4243m)の1.8%にみられる
直ぐに症状がなかった高度まで下がる

高地肺水腫(HAPE):high altitude pulmonary edema
以下のうち少なくとも2つの症状がある。安静時呼吸困難・咳嗽・虚脱感または運動能力低下・胸部圧迫館または充満感。また以下のうち少なくとも2つの徴候がある。肺野でのラ音・中心性チアノーゼ・頻呼吸(>110bpm)・頻脈(>20/min)
急激に標高4500mまで上昇すると10%に発生
エベレスト登山者の1.6%に発生
成人よりも小児で6倍生じやすい
寒さ、運動、HAPEの既往、NOシステムの異常もリスク因子
頻度としてはHAPE>HACE
最も影響しやすいのは循環動態から右中葉

対応方法として、留まって休むのが原則
1-2日休んで、症状があるうちは上らない、症状が軽快しても1日に上昇する高度を300mまで
症状が増悪すれば下がる


治療:
・低圧酸素の改善
  酸素投与・PEEP・下山・プレッシャーバッグ
・呼吸刺激
  ダイアモックス・二酸化炭素・アミノフィリン
・肺高血圧症の改善
  ニフェジピン・ジルデナフィル・NO
・浮腫に対して
  デキサメサゾン・コデイン・アセトアミノフェン

予防:
AMSの既往がある人は予防薬内服を検討
緩徐に標高を上げるようにする
リスクが高い人ではacetazolamide (ダイアモックス®)やdexamethasone の予防内服を考慮(通常 acetazolamide から使用して効果がなければdexamethasone)

acetazolamide (ダイアモックス®):1錠250mg
赤血球、脳、肺、腎臓を含む多臓器に作用する炭酸脱水素酵素の阻害薬で、様々な機序により高地順応を促進して、低酸素血症を改善する
具体的には、中枢神経系で化学受容体を阻害しないため呼吸が促進され、睡眠中の酸素血症低下を予防し、利尿効果で高山病に関連した浮腫症状を改善、夜間のADH分泌やCSF産生を抑制することで頭蓋内圧を低下させる
ダイアモックス予防内服の適応はAMSの既往があり標高2500m以上に上るか、既往に関わらず標高差2800m以上に上がるときAMSの症状を軽減するとの報告あり
また高地順応を早め、軽度の高山病症状を改善するとされる
高地順応後に内服を止めても症状が再燃することはないが、夜間の内服を継続することが有用であることもある
偽薬と比較して発症が14% vs 45%[High Alt Med Biol. 2008 Winter;9(4):289-93.]
125mgを1日2回内服は375mgを1日2回内服と比較してAMS症状の出現率はほぼ同等(24% vs 21%, 偽薬では51%)[High Alt Med Biol. 2006 Spring;7(1):17-27.]
小児での使用データは限定的であり、一般に推奨されないが、2800m以上の標高地へ飛行機で移動する場合や以前高山病を経験した場所に再渡航する際等に、ダイアモックスを内服する場合は1回当たり2.5mg/kg(max 125mg)で1日2回食後に内服する
予防効果は標高が高くなるほど低下するが副反応のリスクは増加する
最も特異的な副反応は四肢末梢の知覚異常
他には多尿や炭酸飲料の味覚鈍麻があり、稀ではあるが嘔気、意識混濁、勃起不全、近視を認める
スルホンアミド製剤であり、ST合剤に交差反応があるとされるため、ST合剤にアレルギーがある場合には注意が必要
同じ標高に留まる場合は上がる1日前から開始して、2日間治療を継続、標高が上がっていく場合には上がりきるまで内服を継続
ただしダイアモックスの予防投与はISMM/UIAAでは推奨されていない

dexamethasone を使用する状況(3500m以上, 高地順応不能, 下山を前提)では下山開始前に2-4mgを4回/日


登山医学に関連したウェブサイト
・国際ハイポキシアシンポジウム
http://www.hypoxia.net/ 

・国際山岳連盟医療委員会
http://www.theuiaa.org/?c=162 

・国際登山医学会:ISMM
http://www.ismmed.org/


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 狂犬病ワクチン [Rabies Vacc... | トップ | 航空医学 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Travel Medicine 各論」カテゴリの最新記事