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HIV患者と旅行

2006-08-19 | Travel Medicine 各論
HIV患者と旅行
・ 背景
HIVはHAART導入によって慢性疾患へ、HIV患者の旅行に対する需要増大。

・ 一般的な問題点
病状が安定しよく理解していることが前提。必要な医療情報の収集(処方箋のコピーや現地での医療機関情報等)や、医療保険加入、持参する治療薬の確保等の準備が必要。

・ HIVに対する入国制限
UNAIDSのwebsite等で情報収集。www.eatg.org/hivtravel/
www.aidsmap.com (→living with HIV →Travel →Information →countries and restrictions)
106/168カ国で何らかの差別的対策
74カ国で何らかのHIV特異的旅行制限(滞在期間により異なる・VISA取得等)
China: 2007年9月よりVISA申請に入国の条件としてHIV状態を記入
Russian Federation: HIV陽性者の入国は許可されない、旅行で3か月までの短期滞在ではHIV検査は必要なし
Saudi Arabia: HIV陽性者は拘束され、強制送還
Japan/France: 入国制限なし
12カ国でHIV陽性旅行者の入国禁止

・ HIV感染旅行者の健康問題
Simmonsら1)によれば海外での受診率5%、帰国後28%で、32%が下痢症・28%が皮膚疾患・6%が呼吸疾患に関する受信。旅行関連疾患での受診率が高くなる傾向がある。
一般にCD4 count 200未満で日和見感染のリスクが増加するため、CD4 countが回復するまで旅行を延期する必要がある。
副作用のリスクを避けるために出発予定日直前に日和見感染に対する抗ウイルス薬や予防薬の処方は避けるべき。

・ HIV感染患者のリスク
呼吸器:結核・肺炎球菌・ヒトインフルエンザ感染症、中南米ではコクシジウム・東南アジアではペニシリウム・熱帯諸国ではヒストプラズマ症の感染のリスク
消化器:旅行者下痢症(E. coli etc.)・サルモネラ・クリプトスポリジウム・シクロスポラ・イソスポラ感染
その他:マラリア・STD

・ マラリア感染に関して
HIV患者でのマラリア感染は重症化しやすく、HIVウイルス量増加とも関連するため必要に応じて予防内服が必要。TMF-SMX(コトリモキサゾール)内服は肺炎球菌・サルモネラ・Pneumocystis jiroveci・トキソプラズマ・イソスポラ・Cyclospora catayanensisに対して有効だが、マラリアの予防には不十分。一般にARDとマラリア予防薬の間に明らかな相互作用は認めないが、リトナビル・ネルフィナビル等のチトクロームP-450に対して活性の高いプロテアーゼ阻害薬は心臓毒の可能性があるためキニジン・ルメファントリン・ハロファントリンの服用は禁忌。

・ 下痢症に関して
  CD4 count <200/mm3で滞在期間<21dayならフルオロキノロン・リファキシミンを予防内服
  CD4 count <350/mm3であれば、緊急時にフルオロキノロン・アジスロマイシンを増量して使用

・ トラベルワクチン接種について
ウイルス学的にはリバウンドのリスクを伴うが、免疫学根拠・臨床的根拠を伴わない。HIVウイルス量の増加は一時的で、ウイルス量は速やかにベースラインに戻る。
一般に生ワクチン以外のワクチンは禁忌ではない:ジフテリア・破傷風・髄膜炎・非経口ポリオ・肺炎・百日咳・日本脳炎・HAV・HBV・ダニ媒介脳炎・狂犬病・非経口腸チフスワクチン・非鼻腔用インフルエンザ
全てのHIV患者に禁忌とされるワクチン:水痘・経口ポリオ・経口コレラ(103-HgR)・経口腸チフス(Ty21a)・鼻腔インフルエンザ
CD4 count <200/mm3で禁忌とされるワクチン:黄熱・麻疹・ムンプス・風疹
再接種が必要となるワクチン:肺炎球菌(3年毎)・インフルエンザ(1年毎)・HAV・HBV
一般にHIV患者では免疫反応低下のためワクチン摂取での免疫能獲得率が低下し、時間を要する。黄熱では免疫獲得率は100%から93%、免疫獲得までの期間は10日から1か月に成績が低下するため、1か月以上以前の予防接種と旅行前の抗体力価の測定が必要。
CD4<350/mm3のHIV患者へのHAV予防接種においては0/27週の2回打ちでは39%、0/4/27週の3回打ちでは73%の免疫能獲得2)。
疾患初期に予防接種を行うこと、治療が奏功している時(できればCD4>500/mm3)に予防接種を行うこと、事前の抗体検査で不要な予防接種を避けることが大事。

・ HIV治療に関するリスク
HAART中断/Adherence低下/リトナルビルの熱による劣化のリスク
対策としては入国制限のある国に薬の箱を持ち込まない・リトナビルは冷蔵庫に保存(無理ならばシロップを持参)・時差に順応し予定通りに薬剤を服用・出発前にHAART Regimenを変更しない・治療の中断も考慮しておく・薬剤を余分に持参する等



Reference:
1) Simmons et al. J Travel Med 1999
2) Launay et al. CROI 2007

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