国際医療について考える

国際協力という分野に興味を持つ人たちとの情報共有、かつ国際協力に関する自分としてのより良いありかたについて考える場所。

WHO Position paper (黄熱ワクチンの再接種の必要性等について)

2013-07-07 | Vaccine トピックス

Vaccines and vaccination against yellow fever WHO Position Paper – June 2013

2013年7月における黄熱ワクチンのポジションペーパーの更新は、2003年に公開したポジションペーパーからの切り替えと近年の進展を要約したものである。
黄熱ワクチンの推奨については直近で2013年4月のSAGEミーティングで議論がされた。

再接種
IHRで黄熱ウイルスの流入を防ぐために、旅行者に黄熱ワクチンの接種証明書の提示を求めることがある。
この接種証明書の有効期間は、現在は10年間となっており、免疫は生涯持続するとの最新の専門家の見解に考慮して、規定が調整される。
2013年の時点では、10年以内に黄熱予防接種がなければ、再接種が求められることもある。

十分な予防効果に関する研究データはないが、様々な黄熱ワクチンの予防効果を示唆する疫学データがある。
ワクチン接種者で確定診断された症例はない
ブラジルや南米諸国でのワクチン導入後、黄熱はワクチン未接種者でのも起きている
流行時のワクチン接種キャンペーンの効果が有効

健康な人において、予防接種後の中和抗体獲得の失敗はほとんど起きず、10日以内に80-100%、30日以内に99%中和抗体は予防域に達する。

予防効果は少なくとも20-35年間は持続し、おそらく生涯持続すると考えられている。
6つの系統学的レビューでは接種20年後にも90%以上の非接種者で抗体検出が可能としている。
第二次世界大戦中にワクチンを接種した軍人における研究では、1回の予防接種で30-35年経過後も80%以上に抗体が確認できたとされる。

1930年代以来、5億4000万本以上の接種実績があり、12例の予防接種後の黄熱疑い症例が報告されている。
12例中3例は検査での確定診断がされておらず、7例は診断が疑わしいか十分な検査所見がない。
残りの2例は予防接種後2週間以内の発症で、野生株のウイルスが検出されている。
全ての12例は予防接種から5年以内に症状を呈しており、獲得された免疫の漸減による発症は考えにくい。

HIV感染、妊娠、栄養失調など要素は免疫原性の低下との関連がある。
近年の後ろ向きコホート研究では予防接種から1年における免疫保有率が、HIV感染者(83%, 65/78)において非感染者よりも優位に低かった(vs 97%, 64/66)。
低所得国におけるHIV感染乳幼児では、HIV非感染で栄養が十分な同じ年齢の乳幼児と比べて、予防接種10か月以内の免疫保有率が低かった(17%, 3/18 vs 74%, 42/57)
免疫原性が低下するメカニズムは明らかではないが、HIVウイルス量やCD4数と関連があることが明らかである。

妊婦の黄熱ワクチンの免疫原性を評価した研究は数が少なく、結果も様々である。
1990年代に集団接種キャンペーンで黄熱ワクチンを接種してしまった妊婦に関するナイジェリアからの報告では、妊娠後期に予防接種をしても39%しか抗体が陽転化しなかった。
しかしながら、より最近のブラジルでの報告で、誤って黄熱ワクチンを妊娠初期に接種した441人の妊婦では95%にIgG抗体の上昇を認めた。
これらのことから、予防接種の効果の報告は様々で、接種時の妊娠時期との関連も考えられる。

WHO position
黄熱ワクチンを使用する目的と戦略
黄熱ワクチン接種は、流行地域に住む人々を疾患から守るため、流行地域への渡航者を守るため、ウイルス血症を伴う渡航者が非流行国に黄熱を拡大させることを予防するための3つの目的から実施される。
黄熱ワクチンの1回接種は黄熱を生涯予防するのに十分な免疫を付与するため、追加接種は必要としない。
現在の黄熱ウイルスの伝播、証明されている黄熱接種の安全性と有効性を考慮して、WHOは全ての流行国で黄熱ワクチンを定期接種として導入することを推奨する。

スケジュール
黄熱の流行国では、黄熱ワクチンを生後9-12月に麻疹ワクチンと同時接種することが推奨される。
黄熱のリスクのある全ての国が黄熱ワクチンを定期接種に導入する日程計画を立てるべきである。
加えて、接種率が低く、黄熱に罹患するリスクのある住民に対して、予防的な集団接種キャンペーンを実施することが推奨される。
予防接種は黄熱の症例が報告されている全ての地域において生後9月以上の全ての人々に対して実施されるべきである。
予防接種キャンペーンを実施する際には、ワクチンの供給問題を考慮する必要がある。
予防接種歴のない生後9月以上の、流行国への渡航者及び流行国からの渡航者は、黄熱ワクチンの接種が禁忌とならない限り、接種が検討されなければならない。

予防接種禁忌者と予防接種注意者
CD4カウントが200/mm3以上の無症候性HIV感染者には黄熱予防接種が考慮される。
HIVに感染した小児での黄熱ワクチンの免疫厳正や安全性のデータは限定的であるが、臨床的に状態の良い小児には黄熱ワクチンを接種しても良い。
予防接種を行うためにHIV検査を事前に行う必要はない。
黄熱は生ワクチンであることから、妊婦と授乳婦に対する接種によるリスクアセスメントが必要となる。
黄熱の感染リスクがある地域や、黄熱が流行している地域では、ワクチン株のウイルスが胎児や乳児に移行する可能性のリスクを、予防接種の利益が大きく上回ると考えられる。
妊婦や養母は、予防接種の適応を決定するため、生じる可能性のあるリスクとベネフィットについてよく説明を受ける必要がある。
また、授乳婦は母乳が人口ミルク等の代替品よりもはるかに重要であることについて助言を受けるべきである。
妊婦や授乳婦は流行地への渡航を延期したり、避けたりできない場合には、適応に応じた黄熱の予防接種が推奨される。
ワクチンは生後6月未満での接種は禁忌であり、生後6-8月での接種も、流行地での感染リスクが非常に高い場合を除いて、推奨されない。
その他の黄熱予防接種の禁忌は、鶏卵に対する重篤な過敏症と重度の免疫不全である。
重度の免疫不全を考慮する状態や治療は、原発性免疫不全、胸腺不全、症候性HIV感染症またはCD4カウント200/mm3未満、悪性腫瘍に対する化学療法治療、一定期間内の骨髄移植歴、免疫抑制薬・免疫調整薬の内服(大量の全身性ステロイド、アルキル化剤、代謝拮抗薬、TNFα遮断薬、IL-1阻害薬、その他の免疫細胞を標的としたモノクローナル抗体等)、一定期間内の免疫細胞に影響する放射線治療。
60歳以上の高齢者では副反応のリスクが高くなるが、それでも全体としてのリスクは低い。
現在のデータにおいて、60歳以上の高齢者に黄熱ワクチンを接種する際には注意が必要である。
黄熱接種歴がなく黄熱接種が推奨される全ての60歳以上の高齢者に黄熱接種によるリスクとベネフィットの評価を行うべきである。
リスク評価は黄熱に罹患するリスク(地域、季節、滞在期間、職業、渡航目的、現地での感染リスクの評価等)に対して、予防接種による有害事象のリスク(年齢、基礎疾患、内服薬等)について考慮されるべきである。
黄熱ワクチンはその他のワクチンと同時接種しても良い。
一般的には、どの生ワクチンであっても同時または4週間以上の間隔で接種しても良い。
経口ポリオワクチン接種は黄熱ワクチンとの接種間隔を考慮しなくて良い。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« WHO西太平洋事務局における麻... | トップ | ワクチン市場と開発が期待さ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Vaccine トピックス」カテゴリの最新記事