戦後予防接種行政の変遷 ~過誤への対応という観点から~ (第13回厚生科学審議会感染症分科会 予防接種部会(2010.9.14)説明資料)
作為過誤「するべきでないのにした」例:毒を飲んだ
不作為過誤「するべきなのにしなかった」例:効果のある治療薬を飲まなかった
全ての医薬品は効能効果と副作用、両面の性質を併せ持つため、2つの過誤の発生を同時に回避できず、医薬品を用いた介入には常に過誤回避のジレンマが生じうる。
また、どちらの過誤を回避する指向性が強いかについては、介入の性質や状態により異なる。
疾病により発熱などの症状(不健康状態)があれば、既に改善のための介入が求められている状態であるため、作為による過誤は問われにくく、不作為による過誤は責められやすい。
一方で、健康な人に対して介入する特性を持つ予防接種は、予防された疾病は自覚できないため、不作為による過誤は問われにくく、作為による過誤は責められやすい。
予防原則(precautionary principle)
本来要求される科学的知見に基づく決定に固執することで陥ってしまう「科学的に確実な結果が出るまで待った結果、対応が後手に回って被害が生じる」事態をいかに防ぐかのための指針として、発生しうる被害の甚大さに鑑み、科学的証拠が不十分でも対処を延期すべきではないとの「予防原則(precautionary principle)」が提唱されている。
不確実性下における政策構想や制度設計の正当化理由を提供する政策論として、気候変動や遺伝子組み換え食物、化学物質規制などさまざまな分野で一つの潮流をなす。
また、そうした決断に資する科学のあり方も通常科学とは異なる「規制科学(regulatory science)」として議論がされている。
(戦後行政の構造とディレンマ p14-15)
ジレンマに対応する2つの方向
① 対抗過誤の「非政治化」(予防接種施策の初期)
– 不可視化(例:過去には分かっていなかった副反応は認識できないので、作為過誤にならない)
– 希釈化 (例:健康被害の無過失補償)
– 対抗する過誤(予防接種の場合は作為過誤)を非政治化することで制度の安定をはかる
② 公的責任範囲の縮小(予防接種施策の中期以降)
– 分散化(保護者から同意を取るなどの責任の委譲、積極的勧奨の差し控え)
– 公的責任範囲を縮小することで、作為・不作為双方の過誤の可能性を低め、制度の安定をはかる
①の応用としては、無作為過誤の可視化(予防接種を受けないことによるデメリットも理解する)