ビーストは、常に、人の心の中に、「いやだ」とささやいています。そうすれば、人間が苦しむからです。
たとえば、仕事をしているとき、ビーストが心の中で「いやだ」と言えば、人はそれを自分のささやきだと思いこみ、ほんとうに仕事がいやになってきます。そして、仕事をやめるか、早くきりあげようと、あせります。そういうことが、ずっと続くので、人間はいつも、自分は何もできない、怠け癖のある馬鹿な人間だと思いこみ、ずっと、生きるのが、苦しかったのです。
ビーストは、こうして、見えない心の世界から、人間を堕落させ、悪いことをさせ、いやなものにしてやろうと、あらゆることをしてきたのです。心の世界からやれば、いとも簡単に、人間を支配できると、考えていたのです。確かに、簡単にビーストの手に落ちる人間はたくさんいました。けれども中には、敢然と刃向う人間もいました。そういう強い人間には、心の弱い人間に集団でいじめさせ、つぶしてきたのです。そうして、ビーストは、この世界を、自分たちが好きにできる、嘘ばかりの世界にしたかったのだそうです。
しかし、人間が心の世界に目覚め、魂の進化を果たすと、もはやこのビーストの手が、通用しなくなりました。心の中でささやく不穏で不快な声が、自分の声ではないと、とうとう気づいたからです。
現代の自己は分裂していると、心理学などで言われていたことが、実に、ビーストの仕業であることに、人間がとうとう気づいたのです。
そして、ビーストがどんなに人間の心を支配しようとしても、容易に言うことをきかなくなったので、ビーストはとても苦しんでいます。そして、逃げ始めているのです。この世界が、もう、自分たちの思い通りの世界にはならないと、わかってきたからです。
人間は、苦しみに耐えて学び、乗り越えていく、すばらしいものになっていく。進んでいく。そういうものになられては、もう誰も、ビーストの言うことをきかなくなるからです。
痛いと感じ初めてきた、見えないビーストたちが、大勢、この世界から、逃げ始めているそうです。それはそれは、大慌てで、逃げているそうです。にげなければ、自分のしでかしたことの責任の一切をとらされるからです。つらい、つらい、つらいといって、一斉に、逃げているそうです。
そこで困るのは、人間に化けているビーストです。彼らは、見えないビーストたちが助けなければ、本当に大変なことになってしまいます。馬鹿なことになりきってしまうのです。けれども、もはやだれも、助けてはくれません。人間世界にいるビーストは今、丸裸になっているのです。今まで、悪運が強いなどとうそぶいていたことが、まるで、嘘だったかのように、何もかもが悪くなっていきます。その悪くなりようも、たまらなくひどくなっていくのです。痛すぎるというものではないことになっています。ビーストが、すべてを嘘にするべくやってしまったことが、あまりにひどかったからです。
ビーストは今、燃えています。見えない業火に、焼かれているのです。そのさまは、凄惨です。一見、何の変りもなく、生きて、歩いているようにみえながら、もはやだれも、そこにはいないというとてもおかしな所に生きている。いやなことは何もないよ、という顔で、普通に歩いているようで、もう一切が、ひどいことになっていることが、自分でわかっている。それでも、何もできない。すべてが馬鹿なことになるのがわかっていながら、もう何もない。それでも、生きている。ずっと、生きている。生きていないはずなのに、生きている。それはあまりにも、すさまじく、馬鹿なことなのです。
ビーストは今、絶対にいないはずのものに、なっているのです。いれば、世界中のすべてのものが痛いと感じるものになってしまっているのです。それなのに、いる。それはすなわち、いながらに、別世界のものになりはてために、すべてが馬鹿になってしまうというものになったのです。
存在しながらに消えていく。それはどういう意味か。愛が、逃げていくのです。すべてをやさしくつつみ、あらゆるものを助けてくれる美しい愛が、すべての創造の親である愛が、逃げていくのです。信じられないことなのです。痛いというものではないことなのです。愛がなければ、一切は存在すらできないのに。愛をいじめすぎたために、ビーストたちは、存在の根幹を切り裂くような矛盾の叫びに、落ちていくのです。いやだ、といわれるのです。世界中のすべてのものに。
ビーストが燃えています。燃えつきることのない存在を燃やしつくすために、自ら燃えています。