monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

季節表現 春 三月

2015年03月01日 | 日本古典文学-春

三月(さんぐわつ)
 いたいけなる幼兒(をさなご)に、優(やさ)しき姉(あね)の言(い)ひけるは、緋(ひ)の氈(せん)の奧(おく)深(ふか)く、雪洞(ぼんぼり)の影(かげ)幽(かすか)なれば、雛(ひな)の瞬(またゝ)き給(たま)ふとよ。いかで見(み)むとて寢(ね)もやらず、美(うつく)しき懷(ふところ)より、かしこくも密(そ)と見參(みまゐ)らすれば、其(そ)の上(うへ)に尚(な)ほ女夫(めをと)雛(びな)の微笑(ほゝゑ)み給(たま)へる。それも夢(ゆめ)か、胡蝶(こてふ)の翼(つばさ)を櫂(かい)にして、桃(もゝ)と花菜(はなな)の乘合(のりあひ)船(ぶね)。うつゝに漕(こ)げば、うつゝに聞(き)こえて、柳(やなぎ)の土手(どて)に、とんと當(あた)るや鼓(つゞみ)の調(しらべ)、鼓草(たんぽぽ)の、鼓(つゞみ)の調(しらべ)。
(泉鏡花「月令十二態」~青空文庫より)