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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

忘れ水

2021年05月30日 | 日本古典文学-坤儀

もらさはやほそたにかはのわすれみつかけたにみえぬこひにしつむと 
(金葉集・三奏本-待賢門院堀河~日文研HPより)

左衛門督家成歌合し侍けるによめる 
和歌作者原表記 藤原範綱 
住吉のあさゝはをのゝ忘水たえたえならて逢よしもかな 
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

中納言定頼か許につかはしける 大和宣旨 
はるはると野中に見ゆる忘れ水絶ま絶まをなけくころかな 
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首御歌の中に 順徳院御歌 
おもひ出よ木のはのしたの忘水うつりし色にたえははつとも 
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

わすれたる人のおもひ出てをとつれたるによめる 橘俊宗女 
めつらしや岩まによとむ忘水いくせをすきておもひいつらん 
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

従三位頼政絶て久しくなりにける女、またかたらひける人に忘られて後、*あひ侍て申つかはしける(*あひ侍にイ)  読人しらす 
すむとしもなくてたえにし忘水何ゆへさてもおもひ出けん 
返し 従三位頼政 
人もみなむすふなれともわすれ水我のみあかぬ心ちこそすれ 
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

恋歌の中に 寂超法師 
むかし見しふる野の沢の忘水なに今更に思ひいつらん 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

山階入道左大臣家十首歌に、同心(絶恋)を 権中納言公守 
しられしな絶にし中のわすれ水我のみ人をおもひ出とも 
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

はるさめのふるののさはのわすれみつありしむかしやおもひいつらむ 
(夫木和歌抄-為家~日文研HPより)

文保三年百首歌たてまつりけるとき 後西園寺入道前太政大臣 
日をふれはもとの道さへ忘れ水野沢となれる五月雨の比 
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

夏歌の中に 前大納言隆房 
五月雨はあさ沢をのゝ名のみしてふかくなり行忘れ水哉 
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

くさかけのなつのにふかきわすれみつたえまあれはやおもひいつらむ 
(新撰和歌六帖-為家~日文研HPより)

忘水むすひし夢もうたかたにきゆるあさちか野への秋風
(草根集~日文研HPより)

ゆきなやみたえたえこほるわすれみつこのはのしたにふゆやきぬらむ
(洞院摂政家百首-範宗~日文研HPより)

あつまに侍ける時、都の人につかはしける康資王母 
あつまちの道の冬草しけりあひて跡たにみえぬ忘水哉 
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

大炊御門右大臣、久しうをとつれすと恨侍ける返事に 大納言実国 
今はさは思ひしりぬやわすれ水たゆはたれもおなしつらさを 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

(たいしらす) 橘義貞 
数ならぬ水草かくれの忘水ひとりすめともしる人もなし 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)


にはたづみ/にはたつみ(潦・潢潦・行潦・庭潦・庭水)

2021年05月29日 | 日本古典文学-坤儀

 かれ、この口子臣この御歌を白(まを)す時、いたく雨ふりき。(略)ここに匍匐(はらば)ひ進み赴きて庭中に跪(ひざまづ)きし時、水潦(にはたづみ)腰に至りき。その臣、紅(あか)き紐著(つ)けし青摺の衣(きぬ)を服(き)たりき。かれ、水潦(にはたづみ)紅き紐に払(ふ)れて、青皆紅き色に変(な)りぬ。
(「古事記・下〈全訳注〉」~講談社学術文庫)

はなはだも降らぬ雨ゆゑにはたつみいたくな行(ゆ)きそ人の知るべく 
(万葉集~伊藤博「萬葉集釋注」集英社文庫ヘリテージシリーズ)

題しらす 本院侍従 
庭たつみ行かたしらぬ物思ひにはかなきあはの消ぬへきかな 
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

世の中は有りて空しきにはたづみ己がゆきゆき別れぬる身を
にはたづみ流るゝ方の無ければや物思ふ人の袖に流るゝ
(古今和歌六帖~校註国歌大系9)

 のとかにもたのまさらなんにはたつみかけみゆへくもあらぬなかめを
(略)
 いつまてとしらぬなかめのにはたつみうたかたあはてわれそけぬへき
(狭衣物語~諸本集成第二巻伝為家筆本)

春雨のふる日、にこれる水に花の散かゝりたるをみてよめる 中納言兼輔 
庭たつみ木のもとちかくなかれすはうたかた花をありとみましや 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

さみたれにいけもひとつのにはたつみかはつすたきてみくさなみよる 
(延文百首-忠季~日文研HPより)

まつひともとはてふるやはさみたれのなかめにまさるにはたつみかな
(宗良親王千首~日文研HPより)

さみたれもしけきよもきのにはたつみゆくかたしらぬわかこころかな
(新撰和歌六帖-家良~日文研HPより)

にはたつみなかれてひとやみえくるとくもれはたのむなつのゆふくれ 
(好忠集~日文研HPより)

文保三年、後宇多院に百首歌奉ける時、夏歌 後西園寺入道前太政大臣 
月うつるまさこのうへの庭たつみ跡まてすゝし夕たちの雨 
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

(さふのうたのなかに) 従二位為子 
あらき雨のをやまぬ程の庭たつみせきいれぬ水そしはし流るゝ 
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

なかめのみたたつれつれのにはたつみよにふりはててゆくかたもなし
(新撰和歌六帖-為家~日文研HPより)


ははきぎ(帚木・箒木)

2021年05月27日 | 日本古典文学-草樹

こすゑのみあはとみえつつははききのもとをもとよりしるひとそなき 
(柿本集~日文研HPより)

園原や伏屋に生ふる帚木の有りとて行けど逢はぬ君かな
(古今和歌六帖~校註国歌大系9)

聞名尋恋
あはさらんことをはしらてははききのふせやとききて尋ねきにけり
(山家集~日文研HPより)

 不逢恋 法印隆淵
よしさらばありとなみえそ箒木のおふるふせやは道まよふ也
(飛月集~続群書類従14上)

 信濃国伊那と申所に侍て人の許へ申つかはし侍し
山たかみ見つゝわかこしはゝ木々のあはてふせやに迷ころ哉
(李花集~群書類従14)

あひみてはおもてふせやに思ふへしなこその関におひよ箒木
(纂題和歌集~明治書院)

 「帚木の心を知らで園原の道にあやなく惑ひぬるかな
 聞こえむ方こそなけれ」
  とのたまへり。女も、さすがに、まどろまざりければ、
  「数ならぬ伏屋に生ふる名の憂さにあるにもあらず消ゆる帚木」
  と聞こえたり。
(源氏物語・帚木~バージニア大学HPより)

物申ける人の母に、申へき事ありてまかりて尋けるに、たひ++なしと申てあはさりけれは 俊頼朝臣 
はゝ木ゝはおもてふせやと思へはや近つくまゝにかくれ行らん 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

そのはらやありとかききしははききをよそにもみせぬあさかすみかな 
(御室五十首_顕昭~日文研HPより)

ははききのおふるふせやのさみたれにありとはみえぬよはのつきかけ 
(洞院摂政家百首_基家~日文研HPより)

承暦二年内裏歌合にもみちをよめる 源師賢朝臣 
はゝきゝの梢やいつこおほつかなみなそのはらはもみちしにけり 
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

 素阿法師
またや伏屋に時雨ふるらん
 さそはるるその帚木の嵐にて
(菟玖波集~バージニア大学HPより)

その原と人もこそ聞け帚木(はゝきゞ)のなどか伏(ふせ)屋に生(お)ひはじめけん
(狭衣物語~岩波・日本古典文学大系)

よくよく見れば、園原(そのはら)や、伏屋(ふせや)に生(お)ふる帚木の、ありとは見えて逢はぬとこそ、聞きし物を今ははや、疑(うたが)ひもなき、その母や子に、逢ふこそ嬉しかりけれ、逢ふこそ嬉しかりけれ。
(謡曲「柏崎」~岩波・新日本文学大系「謡曲百番」)

帚木(ははきぎ)のよそながら見し文もあり。
(小町草紙~岩波文庫「御伽草子・上」)

信濃の国に園原伏屋といへる所あるに、そこに森あるを、よそにて見れば、庭掃く帚に似たる木の梢の見ゆるが、近く寄りて見れば失せる、と言ひ伝へたる。
(俊頼髄脳~ウィキペディアより)


榎(え・えのき)

2021年05月13日 | 日本古典文学-草樹

此(こ)を板來(いたく)の驛(うまや)といふ。其の西、榎木(えのき)林を成せり。
(常陸国風土記~岩波・古典文学大系2)

是に、大連、衣揩の朴(えのき)の枝間(また)に昇りて、臨み射ること雨の如し
(日本書紀)

 懸事
本儀は柳櫻松鷄冠木此四本也。(略)又切立は榎木椋木もこれを用べし。
(遊庭秘鈔~群書類従19)

玉虫多く住む榎二木あり。
(宇津保物語~新編日本古典文学全集)

汝ヂ前生ニ毒蛇ノ身ヲ受テ、信濃ノ國ノ桑田寺ノ戌亥ノ角ノ榎ノ木ノ中ニ有リキ
(今昔物語~国文学研究資料館HPの古事類DBより)

坊の傍に大きなる榎(え)の木ありければ、人、「榎木(えのきの)僧正」とぞいひける。
(徒然草~角川ソフィア文庫)

サテ行水シ坊ノ前ノ榎木ニ縄ヲカケテ。頸ヲクヽリテ死ニケリ。
(沙石集~国文学研究資料館HPより)

危かりける時、野中に大なる榎木一本あり。二に破て中開たり。宮其中に入給へば、木又いえ合ぬ。敵打廻見けれども、見え給はざりければ、陣に帰ぬ。其後榎木又破れて中より出給ぬ。
(源平盛衰記~バージニア大学HPより)

さしもに猛き守屋が強力。さしもに猛き守屋の強力。さも弱々と老木の柳の。緑の梢も朽榎木の。諍識も尽き果て。我慢も倒れて。櫓より落つるを。
(謡曲「守屋」~半魚文庫「謡曲三百五十番」より)

川端の岸のえの木の葉をしげみ道ゆく人の宿らぬはなし
(夫木和歌抄~校註国歌大系22)

わかやとのえのきつきのきつきことにつかひはやらむこころまたくな 
(家持集~日文研HPより)

外面なる榎の木の紅葉なかなかにおのれとうすき色はめづらし
(東撰和歌六帖~「和歌植物表現辞典」(東京堂書店)より)

我が門の榎の実もり食む百千鳥千鳥は来れど君ぞ来まさぬ(わがかどのえのみもりはむももちとりちとりはくれどきみぞきまさぬ)
(万葉集~伊藤博「萬葉集釋注」集英社文庫ヘリテージシリーズ)

のきはにはいなはかりかけやまかけのそとものえのみいろつきにけり 
(春夢草~日文研HPより)


なぎ(梛・竹柏)

2021年05月06日 | 日本古典文学-草樹

 寄社祝
ちはやぶる熊野の宮のなぎの葉をかはらぬ千世のためしにぞ折る
(拾遺愚草~「藤原定家全歌集・上」久保田淳、筑摩書房)

神祇の心を 権大僧都清寿 
君か代を神もさこそはみくまのゝなきの青葉のときはかきはに 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

み熊野の梛(なぎ)の葉しだり雪降ば神のかけたる四手(しで)にぞ有らし
(金槐和歌集~岩波文庫)

何となく名残そおしきなきのはやかさしていつる明方の空
(正治二年院御百首~続群書類従14下)

日比(ひごろ)の御参詣には、天長地久に事よせて、切目の王子の南木(なぎ)の葉を、百度千度かざゝんとこそおぼしめししに、(略)
(保元物語~岩波文庫)

熊野出(い)でて切目(きりめ)の山の梛(なぎ)の葉(は)し、万(よろづ)の人の上被(うはぎ)なりけり
(梁塵秘抄~岩波・日本古典文学大系)

又或夜二人通夜して同じう目睡たりける夢に、沖より吹くる風の、二人が袂に木の葉を二つ吹懸たりけるを、何となう取て見ければ、御熊野の南木の葉にてぞ有ける。かの二の南木の葉に一首の歌を蟲くひにこそしたりけれ。
ちはやぶる神にいのりの繁ければ、などか都へ歸らざるべき
(平家物語~バージニア大学HPより)

熊野へまいりて。うしろまいの後。うしろまりを西より百度。東より百度。二返に二百度あげて。おとさずして鞠をとり。ふしおがみて。其夜西の御前に通夜の夢に。別当常住みな見しりたる人ども。此鞠を興じほめあひたり。別当。いかでかばかりのことにてんとうまいらせざらんとて。なぎの葉を折てえつと思て。おどろきたるに。そのなぎの葉手にあり。かたじけなき事いふもおろかなり。是熊野のまもりの中にあり。一はそのまもりにこめてき。不思議の事にあらずや。
(成通卿口伝日記~群書類従19)

なぎの葉にみがける露のはや玉を結ぶの宮やひかりそふらむ 撿挍法親王
(夫木和歌抄~校註国歌大系22)