monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

「ほかならず/ほかならない」用例

2016年05月31日 | 日本国語大辞典-は行

 「ほかならず/ほかならない」という用語には「①それ以外のことではない。確かにそのことだ。」という語釈があり、日本国語大辞典・第二版では1878-79年の用例を早い例として挙げてありますが、もっとさかのぼる用例があります。

教は多き道ながら。悟は一つぞ胸の月。曇らじや三界唯一心の外ならじ。
謡曲・輪蔵~半魚文庫「謡曲三百五十番」より

召し出すことほかならず.
(「仮名手本忠臣蔵」第一・鶴岡の饗応)
『浄瑠璃集(新編日本古典文学全集77)』小学館、2002年、15ページ


「たぐいまれ(類稀)」用例

2016年05月30日 | 日本国語大辞典-た行

 「たぐいまれ(類稀)」という単語の用例は、日本国語大辞典・第二版では、浄瑠璃『頼光跡目論』(1661-73年頃)からの例が早い例としてあげられていますが、さらに、300年ほどさかのぼる用例があります。

源光政身まかりて後、父光助、なへて世のならひと思ふことはりもこの別にはしられさりける、と申て侍し返事に
なへてよにたくひまれなる別路を心のやみにさそまよふらん
(23・頓阿2・続草庵集、476)
和歌史研究会編『私家集大成 5巻(中世3)』明治書院、1983年、292ページ


「ならぶかたなし」という用語

2016年05月29日 | 日本国語大辞典-な行

 「ならぶかたなし」という用語は、「比類ない。比べようのない。」という語釈になりますが、日本国語大辞典・第二版には立項していません。
 見つけた用例を古い順に並べて挙げます。

いけ水につがはぬをしのうきまくらならぶかたなき恋もするかな
(197・千五百番歌合、2424)
『新編国歌大観 第五巻 歌合編、歌学書・物語・日記等収録歌編 歌集』角川書店、1987年、490ページ

なかにまた-ひとをはふせし-かみかきや-ならふかたなき-まろねなりとも
(長明集(鴨長明集)・74)~日文研HPより

まことに大やけとなり給はずはこれよりまさること何事かあらむとにぎはゝしくはなやかさはならぶかたなし。
(増鏡)~国文学研究資料館HPより

中にも昭君は。ならぶ方なき美人にて。帝の覚えたりしなり。
(謡曲・昭君)~サイト「半魚文庫」より

相手は主人の弟で、殿上でも当時ならぶ方のない頼長である。さすがに情(すげ)なく突き放して逃げるわけにもいかないので、玉藻もよいほどにあしらっていると、頼長はいよいよ図に乗って、ほとんど手籠めにも仕兼ねまじいほどのみだらな振舞いに及んだ。
(岡本綺堂「玉藻の前」法性寺・一)~青空文庫より


「室(むろ)の早早稲(はやわせ)」という用語

2016年05月28日 | 日本国語大辞典-ま行

 「室の早早稲(むろのはやわせ)」という用語は日本国語大辞典・第二版では「室の中で苗を育てたため収穫の早い稲。《季・秋》」という語釈となっていますが、秋の季語というわけではなさそうです。日国用例として採られている「栄花物語」の和歌は、『平安朝歌合大成2』(1995年、同朋舎出版)1028ページに載っており、永承六年五月五日の内裏根合の際に詠まれた「早苗」題で夏の歌題の和歌です。
 和歌の検索をすると、秋の収穫期の和歌もありますが、歌語として先に使用されたのは、苗を植える段階の夏の和歌のようです。
 秋限定の用語ではないので、語釈としては「室の中で苗を育てたため収穫の早い稲。また、その苗。」とまとめたら、よいのではないでしょうか。俳句のための季語設定をしなくてはならないのならば、語釈を二つに分けなくてはならなくなります。

早苗 右
早乙女(さをとめ)の山田(やまだ)の代(しろ)に下(お)り立(た)ちていそぐ早苗(さなへ)や室(むろ)のはや早稲(わせ)
(146・永承六年五月五日 内裏根合、十巻本、6)
『平安朝歌合大成2』同朋舎出版、1995年、1028ページ

津の国の室の早わせ出でずとも注連をばはへよもると知るがね
(古今和歌六帖、第五)
『校註国歌大系 第九巻』国民図書、1929年、453ページ

みたやもり-てたまもゆらに-いそくなり-けふのさなへや-むろのはやわせ
(延文百首・00825)~日文研の和歌データベースより

 秋の季語としての用例を挙げるなら、以下の和歌があります。

秋田 師継
我か門のむろのはやわせかりあけておくてにのこるひたの音かな
(わかかとの-むろのはやわせ-かりあけて-おくてにのこる-ひたのおとかな )
(宝治百首:秋・01456)~日文研の和歌データベースより