monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 冬 十二月 歳暮

2013年12月31日 | 日本古典文学-冬

あさましやこよみのおくをけふみれはひとくたりにもなりにけるかな
(実国家歌合~日文研HPより)

 年のおはりにこよみのちくのもとまてまきよせたるこゝろを人々よむに
まきよするこよみの心恥しくのこりのひらにおいみえに鳧
(恵慶法師集~群書類従15)

つきよめはとつきにあまりふたつきのみそかになるはこよひなりけり
(堀河百首~日文研HPより)

斎院の御屏風に、十二月つこもりの夜 かねもり 
かそふれはわか身につもるとし月をゝくりむかふとなにいそくらん 
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

百首歌奉し時 関白右大臣
今年また暮ぬと思へは今更に過し月日のおしくも有かな
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

としのくれによみ侍ける 基俊
いつくにもおしみあかさぬ人はあらしこよひはかりの年と思へは
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

としくれてこよひはかりやあしかきのまちかきはるのへたてなるらむ
(正治初度百首~日文研HPより)

 しはすのつこもりあはれなることともおもひつゝけてうちもまとろまぬにかねのをといと心ほそし
春ちかきかねのひゝきのさゆる哉今宵はかりと霜やをく覧
(兼好法師集~群書類従15)

とにかくに身にもおぼえぬ年暮れてなやらふ夜にもなりにけるかな
(後小松院御百首)

あらたまのはるをむかふるとしのうちにおにこもれりとやらふこゑこゑ
(正治後度百首~日文研HPより)

もろひとのなやらふおとによはふけてはけしきかせにくれはつるとし
(拾遺愚草員外~日文研HPより)

雪中歳暮 前右兵衛督為教
道もなく降つむ雪はうつめとも暮行としはとまりやはする
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

年の暮によめる 我が身にたどるの皇后宮の宰相
雪降りて暮れゆく年の数ごとに昔の遠くなるぞ悲しき
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

年のはてに鏡を見て
白雪をよそにのみ見てすぐせしがまさに我が身につもりぬるかも
(良寛歌集~バージニア大学HPより)

こもりゐて侍けるとしの暮によめる 前左衛門督公光
さりともと歎々て過しつる年もこよひに暮はてにけり
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

世をそむきて後、山里に住侍けるに、年のくれていほりのまへの道を樵夫とものいそかしけに過侍けれは 藤原為基朝臣
山人の軒端の道にいそかすはしらてや年の暮を過まし
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

ふるとしはこよひはかりになりにけりわかみのはてもいつとしらはや
(夫木抄~日文研HPより)

 蔵人の源少将、つごもりの夜、御読経の後、内裏よりまかでてかく聞こえたり。
  うかりける年さへけふにとぢむればいつを思ひのはてといふべき
御返りなし。
(うつほ物語~新編日本古典文学全集)

女の思ひにて読侍ける 前大納言忠良
さめやらて哀夢かとたとるまにはかなく年のくれにける哉
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

女の思ひにて侍りけるに、年の暮れ果てぬるも驚かれて 夢語りの前関白
年暮れて憂かりし日をば隔つれどありしにまさる我が涙かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

妻の身まかりてのとしのしはすのつこもりの日、ふることいひ侍けるに 兼輔朝臣
なき人のともにしかへる年ならはくれ行けふはうれしからまし
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

師走の晦の夜
なき人の来る夜と聞けど君もなしわが住む里や魂(たま)なきの里
(和泉式部続集~岩波文庫)

 ことしいたうあるゝとなくてはだらゆき二度許ぞふりつる。すけのついたちのものどもまたあをむまにものすべきなどものしつるほどにくれはつる日にはなりにけり。明日の物をりまかせつゝ人にまかせなどしておもへばかうながらこひつゝけふになりにけるもあさましう、御魂 などみるにもれいのつきせぬことにおぼほれてぞはてにける。年のはてなれば夜いたうふけてぞたゝきくなる
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

つき日はさながらおにやらひきぬるとあればあさましあさましとおもひはべるもいみじきに人はわらはおとなともいはず「なやらふなやらふ」とさわぎのゝしるをわれのみのどかにてみきけば、ことしも心ちよげならんところのかぎりせまほしげなるわざにぞ見えける。ゆきなんいみじうふるといふなり。としのをはりにはなにごとにつけてもおもひのこさざりけんかし。
(蜻蛉日記~岩波文庫)

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古典の季節表現 冬 十二月

2013年12月30日 | 日本古典文学-冬

月日やうやうすぎ暮て極月(しはす)にうつり行こそ人の名残も世のいそがはしきもおもひしらるれ
すさまじき物は十二月(しはす)の月夜といひけん
くもりなくさし出たる空のけしきさすがに見る人もなし
月のすゑにいたりぬれば心ぼそく成行まゝ
又くる春のいそぎにとりかさねて
家々うちはらふすゝほこりの立まよふていろめも見えぬに
町々は行人かへる人これかれめせといふて
門の松ゆづ り葉かざりのしめほなりのしたこゑごゑによはゝるもいとたうとし
かがみもちいつくとてとよめきにきはふもまたをかし
年月暮て節季候とおとりはねて物をこふところもあり
ことのいそがはしきにとりくはへてうたてしくもおかしかりけり
大つごもりの夜いたうくらきにたいまつがひともしなど手ごとにもちて
夜半すぐるまで人の門たゝきはしりありきてあしをそらになし
つもりかさなるあきなひ物のかけをきのりそのかはりをこふにことごとしくのゝしりていさかひあらそひてとよみになるもうとまし
あかつきがたよりはさすがに家々もしづまりつゝ物音もなく成ぬるこそ
年の名残はいま一時よとおもふにもいとど心ぼそからぬかは
明行空のけしききのふのいそがはしきに引かへて一きはめづ らしき心ちぞする
世のけはひも花やかにうれしげなる又あはれなり
いひかはす言葉もめでたき春のよろづ世をいはふ若水に屠蘇(とそ)白(びやく)散(さん)をちりうかして年の千とせをいはふとかや
(佛教大学図書館デジタルコレクション「十二月あそひ」より)

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古典の季節表現 十二月 仏名

2013年12月29日 | 日本古典文学-冬

あまたたひたけのともしひかかけてそみよのほとけのなをはとなふる
かはたけのなひくはかせもとしくれてみよのほとけのみなをきくかな
(六百番歌合~日文研HPより)

つくりけるつみものこらしけふしはやみよのほとけのみなをとなへて
(亀山殿七百首~日文研HPより)

としのうちにつもれるつみもきえぬらむみよのほとけのみなをとなへて
(永久百首~日文研HPより)

ゆきのうちにほとけのみなをとなふれはきくひともみなつみそきえぬる
(正治初度百首~日文研HPより)

 十二月佛名
夜を寒み風さへはらふ宿なれは残れる君かつみはあらしな
(源順集~群書類従14)

十二月仏名する所
つみとかはめにしみえねは降雪のきえむ朝をみるはかり也
(忠見集~群書類従15)

となへつる-みよのほとけの-ほかにまた-おほみやひとの-なのるへしやは
となへつる-みよのほとけも-きくやとて-おほみやひとの-なのるなりけり
(六百番歌合~日文研HPより)

仏名を読侍ける 前大納言為家
となへつる三世の仏をしるへにてをのれも名のる雲の上人
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

正治百首歌に 鴨長明 
ふけぬれは三世の仏のかすならぬ大宮人の名をもきく哉 
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

十二月十九日、佛名のよまゐりたりしに、月いとさえて面白し。職事ども、例の鬼の間にて、ふむはい、左右の頭中將まゐらす。つねとし・むねまさ・みつくになど、せちかゝりしたびにしるす。ちんこ(ん)のまつりはむねまさなどぞきこえし。「むかしは小袖あはせといふこと、こよひ有りける。」などかたる。上卿皇后宮權大夫、きゝもしらぬ佛の御名、ともになのりつゞくるこゑごゑ、まことに滅罪のやくもあるらむとおぼえて、辨内侍、
まことには誰も佛のかずなれやなのりつゞくる雲の上人
(弁内侍日記~群書類從)

となへこし三世の仏のいつれにか生れあひにし我か身ならまし
年くるる法の袖にやつつむらんかつくるわたのあつきめくみを
一念に三千仏をとなふれはわか身ひとつの名にこそ有りけれ
(草根集~日文研HPより)

かねもすみよもあけかたになりにけりみよのほとけのかすとなへつつ
(為尹千首~日文研HPより)

百首歌奉し時 入道前太政大臣 
雲のうへにねまちの月は更にけり野臥の袖も霜結ふまて 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

仏名の菊の花を御覧してよませ給ける 冷泉院御製
秋ならて霜夜にみゆるきくの花時過にたる心ちこそすれ
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

仏名のあした、けつり花を御覧して 朱雀院御歌
時過て霜にかれにし花なれとけふは昔のこゝちこそすれ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

佛名のあしたにゆきのふりければ
としのうちにつみけつにはにふる雪はつとめてのちはつもらざらなん
(蜻蛉日記~バージニア大学HPより)

 年もやうやく暮れ行くままに、仏の御名を唱へさせ給へるにも、と、思し出づる。年の急ぎの業(わざ)し給はんこともなければ、なかなか、御心も澄みわたりて、亡き魂(たま)をまつらせ給ひて、春を迎へさせ給へり。
(松陰中納言~「中世王朝物語全集16」笠間書院)

(長和五年十二月)二十日、庚寅。
内裏の御仏名会始があった。我が家の秋季読経も行なった。中宮に参った。三条院に遷御されるからである。亥剋に、中宮は御出された。人々は、饗宴に着した。遷御が終わった後に、内裏に参った。御仏名会を始めた後に、退出した。(略)
(御堂関白記〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

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古典の季節表現 十二月 荷前(のさき)

2013年12月26日 | 日本古典文学-冬

(天長三年十二月)丙午(十四日) 使人(しじん)を分かち遣わして、諸陵に荷前の幣(みてぐら)を奉納した。
(日本後紀〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

正暦三年十二月二十六日、乙酉。
天皇が建礼門に出御され、荷前が奉献された。左右大将(藤原斉時・道兼)は参らなかった。建礼門の前に幄(あく)を立てて、天皇の御在所とした。前に幔(まん)を施した。南東の方角に隔てること数丈に幄を立てて、公卿の座とした。公卿の座の南の末に、諸大夫の座が有った。東に太政官の上官の座が有った。また、東に隔てること三丈に外記と史の座が有った。
御在所の南に班幣の幄が有った。宸儀(一条天皇)は承明門に出御された。兵衛府が左右に陣を引いた。天皇が建礼門を出御される頃、左右近衛府は春華門と脩明門の両門に分かれ、班幣の幄を夾(はさ)んで陣を引いた。近衛府は天皇の御在所の東西に陣を引いた。衛門府は兵衛府の南にいた。今日は靴を着さず、ただ弓箭を帯びた。
(権記〈現代語訳〉~講談社学術文庫)

(長和元年十二月)十三日、丙子。
昨日から、雨がまだ降っていた。物忌であったので、土御門第に籠居した。荷前使たちも、昨日から物忌に籠っていた。私は宇治の三所の墓に荷前を奉献した。女方(源倫子)も、また同じように奉った。朝廷の荷前は、今日である。今年は節分が早いことによるものである。(略)
(御堂関白記〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

(長和五年十二月)二十六日、丙申。
朝廷、および我が家の荷前(のさき)を奉献した。公卿の使たちは、多くは障りを申した。四人が兼仕した。夜に入って、内裏から退出した。
(御堂関白記〈全現代語訳〉~講談社学術文庫)

かしこしなのさきの箱をになひもて年にかはらすたつる使は
 右荷前とは先皇の御陵へ年の終に幣帛を奉らせ給ふ也。
(年中行事歌合~群書類従)

十二月十六日、野さきの使のたつ日也。南殿の庭にまん引まはして、たいそうの御屏風などたてゝ、みくらやつかひなどか、雪はかきたれふるに、あらしをしのぎて、つかひつかひいそがしもよほすけしき、いとさむげなり。雪うちはらふもおもしろくて、辨内侍、
風まぜの雪うちはらふ袖さむしのさきのつかひ心しらなん
(弁内侍日記~群書類從)

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古典の季節表現 冬 雪に寄せて

2013年12月25日 | 日本古典文学-冬

 雪のいみじく降りたるに、人のありきたるこそをかしけれ。「われ忘れめや」などひとりごちて、直衣などもいたく濡れて来たらむと、つま戸かきはなちて入れたらば、かほも身も、いとつめたくなりて寄り来たらむは、わりなかるべきほどかな。
 六位の蔵人の青色も、いとをかし。すべて、雪に濡れたらむをりは、靭負の佐(すけ)の赤衣(あかぎぬ)、罪ゆるしつべし。
(前田家本枕草子)

 いとど、愁ふなりつる雪、かきたれいみじう降りけり。空の気色はげしう、風吹き荒れて、大殿油消えにけるを、ともしつくる人もなし。かの、ものに襲はれし折思し出でられて、荒れたるさまは劣らざめるを、ほどの狭う、人気のすこしあるなどに慰めたれど、すごう、うたていざとき心地する夜のさまなり。(略)
からうして明けぬるけしきなれば、格子手づから上げたまひて、前の前栽の雪を見たまふ。踏みあけたる跡もなく、はるばると荒れわたりて、いみじう寂しげなるに、ふり出でて行かむこともあはれにて、
  「をかしきほどの空も見たまへ。尽きせぬ御心の隔てこそ、わりなけれ」
  と、恨みきこえたまふ。まだほの暗けれど、雪の光にいとどきよらに若う見えたまふを、老い人ども笑みさかえて見たてまつる。
(源氏物語・末摘花~バージニア大学HPより)

御前めづらしうおぼして御覧ずれば暮るるまで御傍にさぶらふにも雪の降りたるつとめて、まだおほとのごもりしに、雪たかく降りたるよし申すを聞しめして、その夜御傍にさぶらひしかばもろともに具し参らせて見しつとめてぞかし、いつも雪をめでたしと思ふ中に、ことにめでたかりしかば、あやしの賤が家だにそれにつけて見所こそはあるに、まいて玉鏡とみがかれたる百敷のうちにてもろともに御覧ぜし有様など絵かく身ならましかばつゆたがへずかきて人にも見せまほしかりしか。戸おしあけさせ給へりしかば、誠に降りつもりたりしさま、梢あらん所はいづれを梅とわきがたげなりし。仁寿殿の前なる竹の台、をれぬと見ゆるまでたわみたり。御前の火たきやも埋もれたるさまして、今もかきくらし降るさま、こちたげなり。
(讃岐典侍日記~岩波文庫)

日吉へまゐるに、雪はかきくらし、輿の前板にこちたくつもりて、通夜したるあけぼのに、宿へ出づる道すがら、すだれをあげたれば、袖にもふところにも横雪にて入りて、袖のうへは、はらへどもやがてむらむらこほる、おもしろきにも、みせばやと思ふ人のなき、あはれなり。
なにごとをいのりかすべき我が袖の氷はとけんかたもあらじを
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)

雪のあしたに野宮のかたへまかりて読侍ける 入道前太政大臣
榊さす柴のかきほのかすかすに猶かけそふる雪のしらゆふ
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪のあした、基俊かもとへ申つかはし侍ける 胆西上人
常よりもしの屋の軒そうつもるゝけふは都に初雪やふる
返し 藤原基俊
ふる雪にまことにしのやいかならんけふは都に跡たにもなし
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪のいみしく降たりけるあした、慶政上人西山に住侍ける庵室によみてつかはしける 光明峰寺入道前摂政左大臣
いかはかり降つもるらん思ひやる心もふかきみねのしら雪
返し 慶政上人
尋ねいりし誠の道の深き山はつもれる雪の程もしられす
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪のふかくつもりて侍けるに、性助法親王のもとにつかはされける 亀山院御製
昔より今もかはらす頼みつるこゝろの跡そ雪にみゆへき
御返し 入道二品法親王性助
たのみつる心の色の跡みえて雪にしらるゝ君かことのは
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

むねをかのおほよりか、こしよりまうてきたりける時に、雪のふりけるをみて、をのか思ひはこの雪のことくなんつもれる、といひけるおりによめる みつね
君か思ひ雪とつもらはたのまれす春より後はあらしと思へは
返し 宗岳大頼
君をのみおもひこしちの白山はいつかは雪のきゆる時ある
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

堀川院位におはしましける時、南殿の北面に雪の山つくらせ給よしを聞て、内なる人に申つかはしける 周防内侍
行てみぬ心のほとを思ひやれみやこのうちのこしのしら山
返し 中宮上総
来てもみよ関守すへぬ道なれは大うち山につもるしら雪
(新後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪中遊興
今もちる雪のの原の朝ほらけしちをならへてたてるを車
(草根集~日文研HPより)

前大納言為氏まかるへきよし申て侍ける比、雪の朝に申つかはしける 平親世
おなしくは日かけの雪にきえぬまをみせはやとのみ人そまたるゝ
返し 前大納言為氏
みせはやと待らんとてそいそきつる日影の雪の跡を尋て
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪のあした、後徳大寺左大臣のもとにつかはしける 皇太后宮大夫俊成
けふはもし君もやとふとなかむれはまた跡もなき庭の雪哉
返し 後徳大寺左大臣
いまそきく心は跡もなかりけり雪かき分て思ひやれとも
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪の朝、性助法親王をとつれて侍けるにつかはしける 前関白太政大臣
跡つけてけさしもみつることのはにふるもかひある宿の白雪
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

文永三年十一月二日、雪いとふかくふりて侍けるあしたに、山階入道前左大臣のもとへ申をくりける 前大納言為氏
とへかしな跡ある道はうつもれて雪にもふかくつもるうらみを
返し 山階入道前左大臣
ふみ分て猶もつかへよしら雪のあとある道はむもれはてしを
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

山里に侍りける女のもとに、雪の降る日遣はしける 吹き越す風の宰相中将
寂しやと思ひこそやれ雪深き深山の里の雪の気色を
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

新大納言、世を逃れて高野に住み侍りけるに、雪の降る日遣はさせ給ひける 忍ぶの院の御歌
都だに消えあえず降る白雪に高野(たかの)の奥を思ひこそやれ
この御歌を見ても、雪御覧ぜし御供つかうまつりしことなど思ひ出でられ侍りければよめる 新大納言
昔見し小塩の山のみゆきまで思ひ出でても袖ぞぬれける
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

雪、霰がちに、心細さまさりて、「あやしくさまざまに、もの思ふべかりける身かな」と、うち嘆きて、常よりもこの君を撫でつくろひつつ見ゐたり。
  雪かきくらし降りつもる朝、来し方行く末のこと、残らず思ひつづけて、例はことに端近なる出で居などもせぬを、汀の氷など見やりて、白き衣どものなよよかなるあまた着て、眺めゐたる様体、頭つき、うしろでなど、「限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめ」と人々も見る。落つる涙をかき払ひて、
  「かやうならむ日、ましていかにおぼつかなからむ」と、らうたげにうち泣きて、
  「雪深み深山の道は晴れずともなほ文かよへ跡絶えずして」
  とのたまへば、乳母、うち泣きて、
  「雪間なき吉野の山を訪ねても心のかよふ跡絶えめやは」
  と言ひ慰む。
(源氏物語・薄雲~バージニア大学HPより)

かずまさる年にあはれのつもる哉わが世(よ)ふけゆく雪をながめて
(拾遺愚草~「藤原定家全歌集・上」久保田淳校訂、ちくま学芸文庫)

元輔かむかしすみはへりけるいへのかたはらに、清少納言すみけるころ、ゆきいみしうふりて、へたてのかきもたふれはへりけれは、申つかはしける 赤染衛門
跡もなく雪ふるさとはあれにけりいつれむかしのかきね成らん
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

前中納言定家はやうすみ侍ける所に、前大納言為家わつらふこと侍ける時、雪のあしたに申つかはしける 権中納言公雄
きえもせて年をかさねよ今も世にふりて残れる宿の白雪
返し 前大納言為家
消のこる跡とて人にとはるゝも猶たのみなき庭のしら雪
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

老の後病にしつみて侍し冬雪の夜、前大僧正道玄、人々あまたともなひ来りて題をさくりて歌よみ侍し中に、岡雪といへる事を読侍しを、筆とる事かなはす侍て、為兼少将に侍し時かゝせていたし侍し 前大納言為家
いかにして手にたにとらぬ水茎の岡辺の雪に跡をつくらん 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

夜一夜、病み明かしたるつとめて
すべなくて消えぬることよとばかりも雪の朝(あした)に誰眺めまし
(和泉式部続集~岩波文庫)

病おもくなり侍けるころ、雪のふるをみてよめる 良暹法師
おほつかなまたみぬ道をしての山雪ふみ分てこえんとすらん
(詞花和歌集~国文学研究資料館HPより)

ふりしけばまさに我が身とそへつべく思へば雪のそらに散りつつ(秋萩帖)

水上雪といふ事をよめる 源仲正
もろともにはかなき物は水の面にきゆれはきゆる淡の上の雪
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

法師にならむとしけるころ、雪のふりけれは、たゝうかみにかきをきて侍ける 藤原高光
世中にふるそはかなきしら雪のかつはきえぬるものとしるしる
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 貫之
消やすき雪はしはしもとまらなむうきことしけき我にかはりて
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

よのはかなきことを思ひつゝけて、雪のあしたに慶政上人のもとにつかはしける 関白前左大臣
かつきえてとまらぬ世とはしりなからはかなき数もつもる雪哉
返し 慶政上人
かつきゆる物ともしらて淡雪の世にふるはかりはかなきはなし
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪の降けるをみてよめる 上西門院兵衛
世中にふれとかひなき身の程はたまらぬ雪によそへてそみる
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

かくはかりふるにかひなきうき世ともしらてや雪の猶積るらん
(宗尊親王百五十番歌合~日文研HPより)

 ふるほともなくてやみぬるあはゆきのあはれはかなきよにもあるかな
(万代集~日文研HPより)

女御藤原述子かくれ侍にける比、初雪を御覧して 天暦御製
ふる程もなくて消ぬる白雪は人によそへてかなしかりけり
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

弘徽殿女御うせて後、雪のふるを御覧して 天暦御製
ふるからにとまらす消る雪よりもはかなき人を何にたとへん
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

九条左大臣かくれ侍てほかにうつし侍にける朝、雪ふかくつもりたりけるに、右衛門督忠基もとにつかはしける 前大納言為家
いつのまにむかしの跡と成ぬらむたゝよの程の庭の白雪
返し 右衛門督忠基
思はすよたゝ夜の程の庭の雪に跡をむかしと忍ふへしとは
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

父基綱身まかりて後、雪のふりける日かの墓所にてよめる 藤原基隆
ふりまさる跡こそいとゝかなしけれ苺の上まて埋む白雪
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

雪のふる日、母のはかにまかりて 頓阿法師
思ひやる苔のしたたにかなしきにふかくも雪の猶うつむ哉
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 平時高
きえぬまもみるそはかなきなき人のむかしの跡につもる白雪
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

地「急ぎ候ふほどに。これは早野田の里とかや申し候。あら笑止や。晴れたる空俄に曇り雪ふり。東西を弁へず候。暫く此処にて雪を晴らさばやと思ひ候。
シテ「あら面白の雪の中やな。あら面白の雪の中やな。暁梁王の園に入れば。雪群山に満てり。夜〓公が樓に上れば。月千里に明らかなり。我も真如の月出でて。妄執の雪消えなん法の。恵日の光を頼むなり。
(略)
地「地に落ち身は消えて。古事のみを思草仏の縁を結べかし。
クセ「我とはいさや白雪の。積る思はいやましに。有明さむみ夜半の月。
シテ「峯の雪。汀の氷ふみ分けて。地「君にぞ迷ふ。道は迷はじな津の国の。野田の川波高瀬漕ぐ袖の柵ひぢまさり。岩にせかるゝ沖つ船。やる方もなき我が心。浮べ給へや御僧と。月にひるがへす花衣実に廻雪の袖ならん。
シテ「朝ほらけ。野田の川霧。あさぼらけ。序の舞「絶えだえに。地「あらはれわたる。シテ「姿もさすが白雪の。地「姿のさすが白雪の。峯の横雲。シテ「立ちのぼる東雲も。地「明けなば恥かし暇申して帰る山路の梢にかゝるや雪の花。/\。又消え。きえとぞなりにける。
(謡曲・雪~謡曲三百五十番)

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