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地上が困難なら宇宙へ! 低周波電波の観測に対応する宇宙望遠鏡構想“GO-Low”は10万機以上の小型衛星で課題を克服

2024年06月20日 | 宇宙 space
宇宙空間内の放射源天体から届けられる光(電磁波)の中で、地上の天文台では観測が困難な周波数帯の“光”が存在しています。

それは、周波数が15MHz以下の低周波数(※1)です。
この周波数は、約50~1000キロ上空の“電離層(電離圏)”によって遮られてしまうので、地上の天文台では受信することが困難になることがあるからです。
※1.天文学で低周波電波(Low Frequency Radio)という用語が使われるが、周波数の範囲は明確に定められていない。
この低周波数電波を観測するための宇宙望遠鏡が、マサチューセッツ工科大学(MIT)ヘイスタック観測所のMary Knappさんが率いる研究グループによって提案されています。
それは、10万機以上の小型衛星の“集合体”を配備する構想“GO-LoW(Great Observatory for Long Wavelengths)”
図1.衛星コンステレーションで低周波電波を観測する様子を示したイメージ図。太陽系外惑星の磁場に起因するわずかな低周波電波をとらえるには、10万機以上の小型衛星が必要となる。(Credit: Knapp, N. et al.)
図1.衛星コンステレーションで低周波電波を観測する様子を示したイメージ図。太陽系外惑星の磁場に起因するわずかな低周波電波をとらえるには、10万機以上の小型衛星が必要となる。(Credit: Knapp, N. et al.)


低周波電波の観測に対応する宇宙望遠鏡

低周波電波を観測できる天文台には、オランダの“LOFAR(Low Freqency Array)”、アメリカ・ニューメキシコ州の“LWA(Long Wavelength Array)”、オーストラリアの“MWA(Murchison Widefield Array)”などが存在します。
これらは、複数の電波望遠鏡の観測データを合成して、一つの観測データとして扱う手法“電波干渉計”で、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができます。

ただ、低周波電波を観測できる天文衛星となると、これまでにNASAが運用した“エクスプローラー 38号(RAE-AおるいはRAE-1)”や“エクスプローラー 39号(RAE-BおるいはRAE-2)”しかありませんでした。

一方、近年運用されている宇宙望遠鏡は、ガンマ線観測衛星“コンプトン”、ガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”、X線天文衛星“チャンドラ”、ハッブル宇宙望遠鏡(紫外線、可視光、近赤外線用)、赤外線天文衛星“スピッツァー”、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡など…
そう、観測対象が低周波電波では無いんですねー
図2.宇宙望遠鏡と対応する光の波長との関係。(Credit: Knapp, N. et al.)
図2.宇宙望遠鏡と対応する光の波長との関係。(Credit: Knapp, N. et al.)
研究グループは、低周波電波の観測に対応する宇宙望遠鏡の実現には、いくつかの課題があるとしています。

これまでの宇宙望遠鏡は、単一の人工衛星で構成されています。
なので、ある個所で故障が生じると、システム全体が機能不全に陥る“単一障害点”という課題を抱えることになります。

また、電波をとらえるアンテナの口径は、対応する波長が長いほど大きくなってしまいます。
周波数が300KHz~15MHzの低周波電波用になると、アンテナ口径は中分解能の場合でも数百メートルから数キロにもなるようです。


多数の小型衛星により課題を克服

そこで、研究グループでは、太陽と地球のラグランジュ点“L4”あるいは“L5”の近くに小型衛星を多数配置することで、仮想的に大きな望遠鏡を実現する“GO-Low”を提案しています。

そう、地上に設置された“LOFAR”や“LWA”、“MWA”のような電波干渉計を宇宙で実現する構想です。
“GO-Low”により、単一障害点やアンテナ口径の課題を克服しようという訳です。

この仮想大型望遠鏡を構成するのは2種類の小型衛星です。
1つは、低周波電波用受信アンテナを搭載した3U(※2)サイズの衛星“LN(Listener Node)”。
もう1つが、100~1000機のLNを統括して地球との通信を可能にする、大きさにして1立方メートル未満の“CCN(Computation & Communication Nodes)”という衛星です。
個々の衛星は安価なので、故障した場合に交換しても費用を抑えることができます。
※2.3UはCubeSat(キューブサット)の規格で約10×10×30センチに相当する。
図3.“GO-LoW”のミッションの概要を示した図。低周波電波観測用の“仮想”大型望遠鏡(Listener Node)とCCN(Computation & Communication Nodes)という2種類の小型衛星から構成される。(Credit: Knapp, N. et al.)
図3.“GO-LoW”のミッションの概要を示した図。低周波電波観測用の“仮想”大型望遠鏡(Listener Node)とCCN(Computation & Communication Nodes)という2種類の小型衛星から構成される。(Credit: Knapp, N. et al.)


太陽系外惑星の磁場を観測する

低周波電波は、太陽系外惑星の磁場や恒星周辺の宇宙天気など、惑星の進化やハビタブル(生命居住可能)な条件に関する重要な情報を含んでいます。

太陽系外惑星の中には、私たちの住む地球のように磁場のある惑星も存在するはずです。
こうした惑星の磁場は、大気散逸や惑星移動、生命の源となりうる化学物質の破壊など、惑星に関する様々なプロセスに影響を与えると考えられています。

この太陽系外惑星の磁場を特徴づけているのが、オーロラに起因するわずかな低周波電波です。
なので、こうした電波をとらえることが“GO-LoW”の大きな目的の一つになります。

研究グループの見積もりによると、太陽系外惑星から放射されるわずかな低周波電波をとらえるためには、小型衛星を10万機以上打ち上げる必要があります。
図4.小型衛星の数(ノード数)と観測対象との対応。(Credit: Knapp, N. et al.)
図4.小型衛星の数(ノード数)と観測対象との対応。(Credit: Knapp, N. et al.)
“GO-LoW”の実現は、長年運用されてこなかった低周波電波用宇宙望遠鏡の復活を意味するだけではありません。
10万機以上という莫大な数の衛星コンステレーションの実現や、単一の宇宙望遠鏡に対する優位性を示すという科学的インパクトをもたらすはずです。

研究グループによると、“GO-LoW”の実現は10~20年後になるようです。


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129億光年彼方で合体を起こしているクエーサーを発見 宇宙の夜明けの時代に銀河や中心ブラックホールはどのように進化したのか?

2024年06月19日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
今回の研究では、すばる望遠鏡とジェミニ北望遠鏡を用いた観測により、合体中の2つの巨大ブラックホール(クエーサー)を発見しています。

このクエーサーのペアは、これまでに知られている中で最も遠方に位置するもの。
それだけでなく、“宇宙の夜明け”と呼ばれる時代でその存在が初めて確認された合体中の巨大ブラックホールになるようです。
この研究は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU, WPI)の尾上匡房特任研究員とJohn Silverman教授が参加する愛媛大学、国立天文台などの研究者からなる研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年4月10日付のアメリカの天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal Letter”に、“Discovery of Merging Twin Quasars at z=6.05”として掲載されました。
図1.すばる望遠鏡によって129億光年彼方の宇宙で発見された双子の超大質量ブラックホール“HSC J121503.42-014858.7(C1)”と“HSC J121503.55-014859.3(C2)”。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin (NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))
図1.すばる望遠鏡によって129億光年彼方の宇宙で発見された双子の超大質量ブラックホール“HSC J121503.42-014858.7(C1)”と“HSC J121503.55-014859.3(C2)”。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin (NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))


宇宙の夜明けの時代

138憶年前のこと、生まれたばかりの宇宙は電子や陽子、ニュートリノが密集して飛び交う高温のスープのような場所で、電離した状態にありました。

でも、宇宙が膨張し冷えるにしたがって、電子と陽子は結びつき電気的に中性な水素が作られます。
この時代には、光を放つ天体はまだ生まれていなかったので“宇宙の暗黒時代”と呼ばれています。

その後、数億年が経過した頃に宇宙最初の星“初代星(ファーストスター)”や、最初の銀河“初代銀河”が誕生し、それらが放つ紫外線により水素が再び電離されていくんですねー
これにより、宇宙に広がっていた中性水素の“霧”が電離(宇宙の再電離)されて晴れていきます。
この誕生直後の真っ暗な状態から、続々と天体が誕生し宇宙に光がともされる時代のことを“宇宙の夜明け”と言います。

この宇宙の夜明けの時代は、138億年の宇宙の歴史の中でまだ探査されていない最後のフロンティアで、天文学者の大きな関心を集めています。
特に初代銀河がいつ頃形成し、どのような性質を持っていたのかは分かっておらず、現代の天文学の大きな謎になっていました。


129億光年彼方で合体を起こしているクエーサーのペア

宇宙の夜明けの時代に、銀河とその中心に位置する超大質量ブラックホールはどのように進化したのでしょうか?
そして、それは再電離の進行に、どう影響したのでしょうか?

天文学におけるこの大きな謎を解き明かすため、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”による大規模サーベイ“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”によって、超遠方宇宙でのクエーサー探しが行われました。

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体です。

明るく輝いているので、これまでに約200個の超遠方クエーサーが発見されて来ました。
でも、“HCC-SSP”以外の発見を含めても、これまでにペアになっているクエーサーは見つかっていませんでした。

でも、研究チームが“HSC-SSP”の画像を目視で見直していると、思いもよらない発見に出くわすんですねー
それは、クエーサー候補の画像をスクリーニングしているときでした。
とても赤く、似通っている2つの天体が隣り合っているのに気付いたそうです。

この発見は、まったくの偶然によるもの。
極めて珍しいペアなので、“HSC-SSP”ほどの深さと広さを兼ね備えたデータだからこそ写っていたと言えます。

研究チームは、このペアが本当にクエーサーかどうかを確認するため、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置“FOCAS”とジェミニ北望遠鏡の赤外線分光器“GNIRS”を用いて追観測を実施。
その結果、“FOCAS”で検出したライマンアルファ輝線から、2つの天体が129億光年彼方に位置するクエーサーだと判明します。

また、2つの巨大ブラックホールが、ほとんど同じ質量を持つ“双子”ということも明らかになりました。
さらに、2つのクエーサーをつなぐガスの構造も検出されたことで、研究チームでは両者の合体が起こっていると推測しています。
図2.宇宙の夜明けに合体する双子の超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/M. Garlick)
図2.宇宙の夜明けに合体する双子の超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/M. Garlick)
予測されながらも長い間見つかってこなかった、“宇宙の夜明け”に存在する合体中のクエーサーが、今回初めて確認されました。
さらに、アルマ望遠鏡による追観測からは、周囲のガスが非常に興味深い構造をしていることも明らかになっています。

衝突と合体を繰り返しながら銀河は成長していきます。
今回の発見は、その中で超大質量ブラックホールが、どのように進化するのかを知るために重要なものと言えます。


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火星の衛星フォボスはどうやって形成されたのか? 小惑星捕獲説か巨大衝突説かは元素組成の観測から判別できるようです

2024年06月18日 | 火星の探査
月の研究によって地球の歴史が明らかになってきたように、火星の衛星の研究は衛星そのものだけでなく火星の歴史の理解にも繋がります。

火星にはフォボスとダイモスの2つの衛星があり、それらの形成過程については、これまで天体表面の色や地形を根拠とする“小惑星捕獲説”や公転軌道の特徴を説明する“巨大衝突説”が提唱されてきました。
でも、その議論に未だ決着はついていないんですねー

JAXAの火星衛星探査計画“MMX(Martian Moons eXploration)”では、様々な科学観測とフォボス表面から採取するサンプルの地上分析を組み合わせることにより、火星衛星の形成過程を解明することを目的としています。

そこで、今回の研究では元素組成に注目し。
衛星フォボスの形成過程の違いを見分けることを目指しています。

異なる形成過程を経験したフォボスが、それぞれどのような元素組成を持つことになるのか?
このことについて、火星表面や隕石の元素組成データベースを用いてモデル化し、それらが相互にどの程度重なり合う、あるいは異なるかを明らかにしています。

本研究の結果が示唆しているのは、MMX搭載の元素組成観測装置“MEGANE”を用いると、70%の確率で形成仮説が判別できること。
他の搭載機器による科学観測と併せて、MMXの科学目標の達成に大いに貢献することが期待されます。
この研究は、東京大学 理学系研究科 地球惑星科学専攻 平田佳織大学院生(JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)太陽系科学研究系所属)、宇宙科学研究所(ISAS)太陽系科学研究系 臼井寛裕教授、同・兵頭龍樹 国際トップヤングフェロー、同・深井稜汰特任助教たちの研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年3月1日発行のアメリカ天文学会 惑星科学部門の科学雑誌“Icarus”に、“Mixing model of Phobos’ bulk elemental composition for the determination of its origin: Multivariate analysis of MMX/MEGANE data”として掲載されました。


火星の衛星フォボスはどうやって形成されたのか

2つの火星衛星フォボスとダイモスは、これまで火星探査機や地上望遠鏡を用いて研究されてきました。
でも、その形成過程は未だに明らかになっていません。

有力な仮説として提唱されているのは、火星近傍を通過した小惑星が重力捕獲されたとする“小惑星捕獲説”や、火星への天体衝突により宇宙空間に放出されたチリやガスが再集積(※1)して形成されたとする“巨大衝突説”です。(図1)
※1.衝突によって放出されたチリやガスが重力によって集まり、再びまとまること。
これらの形成仮説を見分ける上でカギとなるものがあります。
それが元素組成です。

捕獲説の場合だと、火星衛星は捕獲された小惑星に相当する組成を持つことが想定されます。
これに対して、衝突説の場合には、火星組成(パルク・シリケイト・マーズ組成)(※2)と衝突した天体の組成の中間的な組成を持つと考えられます。
※2.バルク・シリケイト・マーズ組成とは、火星のケイ酸塩質部分、すなわち、岩石により構成される地殻とマントルの平均組成のこと。火星衛星の巨大衝突説では、バルク・シリケイト・マーズに対応する、火星の地殻とマントルの物質が天体衝突による宇宙空間へ放出され、火星衛星の一部を構成することになると予測される。


衛星フォボスの元素組成から形成仮説を判別

火星衛星の起源解明を目指すJAXAの火星衛星探査計画MMXでは、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所で開発されたガンマ線中性子線分光計“MEGANE”(※3)を用いた、フォボスの表層1メートル以内の平均元素組成の測定が計画されています。
※3.“MEGANE”は、MMX探査機に搭載されるガンマ線中性子線分光計(Mars-moon Exploration with GAmma rays and NEutrons)の通称。天体表面に宇宙線が入射することで表面物質(を構成する元素)から生成されるガンマ線や中性子線を検出することで、その元素組成を測定する。
本研究では、“MEGANE”の観測誤差や捕獲された、あるいは衝突した小惑星の種類や組成の未確定性などの現実的な条件を考慮して、“MEGANE”により観測されるフォボスの元素組成から形成仮説を判別することを目指しています。
図1.火星衛星の形成仮説と火星衛星を構成する物質。(左)小惑星捕獲説:火星近傍を通過した小惑星が重力的に捕獲され火星を公転する衛星になる。捕獲された小惑星に由来する物質が火星衛星を構成すると考えられる。(右)巨大衝突説:火星への巨大衝突により発生した周火星円盤物質が再集積して火星衛星を形成する。衝突天体由来の物質と火星から掘削・放出された物質の混合物が火星衛星を構成すると考えられる。(Credit: Kaori Hirata)
図1.火星衛星の形成仮説と火星衛星を構成する物質。(左)小惑星捕獲説:火星近傍を通過した小惑星が重力的に捕獲され火星を公転する衛星になる。捕獲された小惑星に由来する物質が火星衛星を構成すると考えられる。(右)巨大衝突説:火星への巨大衝突により発生した周火星円盤物質が再集積して火星衛星を形成する。衝突天体由来の物質と火星から掘削・放出された物質の混合物が火星衛星を構成すると考えられる。(Credit: Kaori Hirata)
まず、フォボスの元素組成を火星組成と小惑星組成の混合(捕獲説の場合は、火星成分0%+小惑星成分100%、衝突説の場合は火星成分50%+小惑星成分50%)により表現するモデルを考案。(図2)

2つの形成仮説に加えて、小惑星組成として12種類のコンドライト(※4)質組成を仮定し、合計24パターンの異なる形成過程を経験したフォボスのモデル元素組成が互いにどのように重なり合う、あるいは異なるかについて、“MEGANE”で測定可能な6種類の親石元素(※5)(鉄、ケイ素、酸素、カルシウム、マグネシウム、トリウム)に着目して調査しました。
※4.コンドライトは、石質隕石(金属ではなくケイ酸塩鉱物を主成分とする隕石)のうち、コンドリュールと呼ばれる粒上の組成を内部に含むもの。マグマ状に溶解したケイ酸塩鉱物が急冷されることにより形成されたと考えられるコンドリュールが再度溶解することなく保存されていることから、高温による分化を経験していない始原的な天体が母天体だとされる。
※5.親石元素は、天体が均質な溶融状態から分化する過程で、岩石(ケイ酸塩)相に集まりやすいと考えられる元素(ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素など)。親石元素の他には、鉄とともに金属相に濃集しやすい親鉄元素、気体になりやすい親気元素などがある。

図2.フォボスの元素組成モデルの概念図。フォボスの元素組成を、火星の組成(赤)と小惑星の組成(青と緑)の混合によって表現する。捕獲説の場合、フォボスの組成は捕獲された小惑星に相当するコンドライト隕石の組成になると考えられる。一方、衝突説の場合に考えらるのは、衝突した小惑星に対応するコンドライト隕石の組成と火星組成の中間的な組成になること。複数の種類のコンドライト組成を考えると、捕獲説と衝突説のどちらでも説明できるような組成(矢印)が存在することになる。(Credit: Kaori Hirata)
図2.フォボスの元素組成モデルの概念図。フォボスの元素組成を、火星の組成(赤)と小惑星の組成(青と緑)の混合によって表現する。捕獲説の場合、フォボスの組成は捕獲された小惑星に相当するコンドライト隕石の組成になると考えられる。一方、衝突説の場合に考えらるのは、衝突した小惑星に対応するコンドライト隕石の組成と火星組成の中間的な組成になること。複数の種類のコンドライト組成を考えると、捕獲説と衝突説のどちらでも説明できるような組成(矢印)が存在することになる。(Credit: Kaori Hirata)
その結果、“MEGANE”により観測されるフォボスの元素組成から形成仮説の判別が可能かどうかについては、その観測誤差に依存して変化することが定量的に示され、現在想定される観測誤差(20~30%)を仮定した場合、70%程度の確率で捕獲説と衝突説を判別できることが明らかになりました。(図3)

さらに、形成仮説が決定できた場合には、50%程度の確率で捕獲された、あるいは衝突した小惑星の種類を12種類の中から一意に決定できるということも示唆されました。
図3.仮想的なフォボスの鉄・ケイ素(Fe-Si)組成と、それを説明できる形成仮説の関係(“MEGANE”の観測誤差0~30%の場合)。本研究は、“MEGANE”により観測されるフォボス組成を、[1]捕獲説にのみによって説明できる組成(黄色)、[2]衝突説のみによって説明できる組成(青)、[3]両方で説明できる組成(グレー)、[4]どちらでも説明できない組成(黒)の4種類に分類している。“MEGANE”の観測から形成仮説が決定される([1]または[2])割合を「“MEGANE”の形成仮説判別性能」として定量化している。(Credit: Kaori Hirata)
図3.仮想的なフォボスの鉄・ケイ素(Fe-Si)組成と、それを説明できる形成仮説の関係(“MEGANE”の観測誤差0~30%の場合)。本研究は、“MEGANE”により観測されるフォボス組成を、[1]捕獲説にのみによって説明できる組成(黄色)、[2]衝突説のみによって説明できる組成(青)、[3]両方で説明できる組成(グレー)、[4]どちらでも説明できない組成(黒)の4種類に分類している。“MEGANE”の観測から形成仮説が決定される([1]または[2])割合を「“MEGANE”の形成仮説判別性能」として定量化している。(Credit: Kaori Hirata)
本研究が提案するフォボスの元素組成モデルとデータ解析方法は、将来MMXにより実際に取得される“MEGANE”の観測データに適用することができます。

その際には、MMXによる別の科学観測結果に基づいて捕獲・衝突天体の種類を追加あるいは限定するなど、形成過程の理解を深めるための応用も考えられます。

このように、“MEGANE”によるフォボスの元素組成観測は、MMXの他の科学観測と併せて、火星衛星の起源解明に大いに貢献することが期待されます。


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“JADES-GS-z14-0”が観測史上最も遠い銀河の記録を更新! 初期の宇宙では恒星の誕生や銀河の進化は想像以上に速かった

2024年06月17日 | 銀河・銀河団
宇宙に無数に存在する銀河は、いつ誕生したのでしょうか?

このことは、よく分かっていないんですねー
ただ、初期の宇宙に存在する銀河の数や大きさは、宇宙がどのように誕生したのかを探る上での基礎的な情報となります。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって、観測史上最も遠い銀河“JADES-GS-z14‐0”と、2番目に遠い銀河“JADES-GS-z14-1”を発見したことを報告しています。

特に、“JADES-GS-z14‐0”は、その距離にもかかわらず非常に明るい銀河なので、宇宙における銀河の形成過程を見直す必要があるのかもしれません。
この研究は、ピサ高等師範学校のStefano Carnianiさんを筆頭とする国際研究チームが進めています。
本研究の内容は、特定の科学誌に論文が掲載される前のプレプリントに基づいているので、正式な論文が投稿された場合、掲載内容と論文とにズレが生じる可能性があります。
図1.拡大領域の赤い部分が銀河“JADES-GS-z14‐0”。左上に無関係な銀河が重なって見えていることが分析を困難にした。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、Brant Robertson(UC Santa Cruz)、Ben Johnson(CfA)、Sandro Tacchella(Cambridge)& Phill Cargile(CfA))
図1.拡大領域の赤い部分が銀河“JADES-GS-z14‐0”。左上に無関係な銀河が重なって見えていることが分析を困難にした。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、Brant Robertson(UC Santa Cruz)、Ben Johnson(CfA)、Sandro Tacchella(Cambridge)& Phill Cargile(CfA))


赤外線で初期の銀河を観測する

現在の宇宙には恒星が無数に存在していて、その恒星が集団となった銀河もまた無数に存在しています。

銀河は、物質が高密度に集合して恒星が多数誕生する現場となっています。
また、寿命を迎えた恒星からは重元素が拡散することから、銀河は惑星や生命の誕生にも間接的ながら重要な役割を果たしていると言えます。

では、銀河は宇宙誕生後、どの段階で誕生し進化したのでしょうか?

銀河がどのように形成されて進化してきたのかを探るには、初期の銀河を探ることが重要となります。
でも、初期の銀河からの光は非常に暗い上に、宇宙の膨張により遠方銀河からの光ほど赤方偏移(※1)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
そのため、“初期銀河”のようなビッグバンから数億年後に誕生したと予測される銀河を観測するには、赤外線での観測が必須となるんですねー

そこに登場したのが、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”です。

2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍も高い感度での観測が可能になり、個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になりました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された非常に遠い銀河の候補。右側に行くほど遠い位置にあることを示している。ただ、きちんと距離が分析されたのは赤い点のみ。残りの青い点は候補で、この先の研究で距離が変更される可能性がある。(Credit: Stefano Carniani, et al.)
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された非常に遠い銀河の候補。右側に行くほど遠い位置にあることを示している。ただ、きちんと距離が分析されたのは赤い点のみ。残りの青い点は候補で、この先の研究で距離が変更される可能性がある。(Credit: Stefano Carniani, et al.)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、観測開始の初年度に宇宙誕生から約6億5000万年以内の時代に存在したと見られている銀河を数百個発見しています。

その中には、今回の研究成果が発表されるまで観測史上最も遠い銀河だった“JADES-GS-z13‐0”も含まれていました。

ただ、赤方偏移の強い銀河であるように見えても、実際にはもっと近い距離にある天体を誤認している可能性もあります。
距離が正しいかどうかは、赤方偏移以外の性質を詳細に調べる必要があり、大幅に間違った推定をしていたことが、その作業の過程で発覚した天体もありました。

例えば、“CEERS-93316”という天体は、2022年7月の発見当初は観測史上最も遠い天体として発表されています。
でも、2023年5月になって、実際にはその後の作業過程でずっと近い天体だと発表されています。


観測史上最も遠い銀河の記録を更新

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測プログラムの一つ“JADES(JWST Advanced Deep Extragalactic Survey)”では、“JADES-GS-z13‐0”を含め、非常に遠方にあると思われる銀河が複数見つかっています。

その中に含まれていたのは、“JADES-GS-z13‐0”の赤方偏移の値13.20を上回る、14以上と推定された3個の天体。
これらの天体は、いずれも2022年にジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”と近赤外線分光装置“NIRSpec”を用いて得られた観測データを元に推定されていました。

この3個の天体は、単純に考えれば観測史上最も遠い銀河の記録を更新することになります。

でも、この記録は確定的では無かったんですねー
特に、3個の中で最も遠いかもしれない銀河の候補は、より近い距離にあると推定される別の銀河が部分的に重なっていたので、慎重な分析が必要とされたからです。

2023年10月には、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“NIRSpec”と中間赤外線観測装置“MIRI”を使用して観測を実施。
別の銀河が重なっている候補を含む3個とも、実際に遠方の天体である可能性が高まったものの、まだ決定的ではありませんでした。


赤方偏移の値が14を超える2つの銀河

今回の研究では、2024年1月に実施した“NIRSpec”による合計10時間の追加観測で得られたデータと、過去の観測データを組み合わせて分析を行い、決定的な答えを得ています。

まず、3個のうち1個の天体は、詳しい分析を行うのに必要なデータの一部が不完全なことで、分析から除外されることになります。
次に、残りの2個は分析を行えるだけのデータが揃っていたので、暫定的に“JADES-GS-z14‐0”および“JADES-GS-z14-1”と名付けられました。(※2)
※2.この暫定名が付けられるまで、“JADES-GS-z14‐0”には“JADES-GS-53.08294-27.85563”、“JADES-GS-z14‐1”にはJADES-GS-53.07427‐27.88592“”というIDが付与されていた。後ろの長い数字の部分は、天球における座標を表している。
詳しい分析で分かってきたのは、それぞれの赤方偏移の値が“JADES-GS-z14‐0”は約14.32、“JADES-GS-z14‐1”は約13.90ということ。
このことから、“JADES-GS-z14‐0”は地球から約338.1億光年彼方に位置する135.0憶年前の宇宙に存在、“JADES-GS-z14‐1”は地球から約336.2億光年彼方に位置する134.9憶年前の宇宙に存在、で間違いないという結論が得られています。

これらの値は、これまで最遠記録となっていた“JADES-GS-z13‐0”(地球から約333.0億光年彼方に位置する134.7憶年前の宇宙に存在)を上回るもの。
このため、観測史上最遠の銀河は“JADES-GS-z14‐0”、2番目は“JADES-GS-z14‐1”となりました。
図3.“JADES-GS-z14‐0”の赤外線スペクトル(光の波長ごとの強度分布)。赤い線は水素から発せられる放射で、赤方偏移による波長のズレから距離が推定できる。(Credit: NASA、ESA、CSA & Joseph Olmsted(STScI))
図3.“JADES-GS-z14‐0”の赤外線スペクトル(光の波長ごとの強度分布)。赤い線は水素から発せられる放射で、赤方偏移による波長のズレから距離が推定できる。(Credit: NASA、ESA、CSA & Joseph Olmsted(STScI))


恒星の誕生や銀河の進化は想像以上に速かった

この2つの銀河のうち、特に注目されるのは観測史上最も遠い銀河となった“JADES-GS-z14‐0”でした。

まず、“JADES-GS-z14‐0”で注目されるのは、その大きさです。
“JADES-GS-z14‐0”の直径は、現在の宇宙における銀河と比べれば、かなり小ぶりな約1700光年(260±20パーセク)。
でも、この大きさは、宇宙誕生からわずか約2億9000万年後に存在した銀河としては、驚異的なものになるんですねー

また、“JADES-GS-z14‐0”はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“MIRI”による2023年10月の観測でもとらえられていて、赤方偏移によって引き伸ばされた可視光線領域のスペクトルを復元することに成功しています。

その結果、“JADES-GS-z14‐0”には水素と酸素の電離したガスが存在することが示されました。
宇宙誕生直後から存在する水素はともかく、恒星の内部での核融合反応でしか生成されない酸素が、恒星から離脱した状態で大量に存在するというのは驚くべき発見でした。

恒星内部の核融合反応で生成された酸素などの重元素(※3)は、恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくので、宇宙の重元素量は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。
※3.水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼ぶ。重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成され、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられている。
なので、大量の酸素の存在は、約2億9000万年後の宇宙では、いくつかの恒星がすでに寿命を終え世代交代が進んでいることを意味し、恒星内部の核融合反応で生成された重元素がばら撒かれることで、豊富に存在するということです。

“JADES-GS-z14‐0”の大きさと酸素の存在は、これまでの推定よりも恒星の誕生や銀河の進化が速かったことを示しています。

また、非常に良く似た銀河である“JADES-GS-z14‐1”が見つかっていることを考えると、宇宙誕生から約3億年後の宇宙には、これまでの推定の10倍以上もの銀河が存在したようです。
これらは、これまでの理論モデルやシミュレーションでは全く説明がつかないことです。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測は、これから10年かけて様々なものが予定されています。
特に、初期宇宙の観測に関しては、他の望遠鏡が何年もかけて行ってきた観測を、わずか数時間で終わらせるほどの性能を誇っているんですねー
なので、今後数年かけて“JADES-GS-z14‐0”のような銀河を多数観測すれば、初期宇宙の見方を完全に書き換えてくれるはずです。
そして、“観測史上最も遠い銀河”の座は、今後何度も更新されていくのでしょうね。


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なぜミニネプチューンは楕円軌道を公転しているのか? 赤色矮星周りの短周期惑星の軌道は潮汐力で円軌道化されるはず

2024年06月16日 | 系外惑星
今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”(※1)と地上の望遠鏡の連携観測により、4つの年老いた赤色矮星(星の年齢は10億歳以上)(※2)の周りにミニネプチューン(※3)を発見しています。
※1.“TESS”は、地球から見て系外惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにしていく。繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができる。
※2.表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星を赤色矮星(M型矮星)と呼ぶ。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
※3.地球より大きく、海王星(地球の半径の約4倍)より小さな惑星。
4つのミニネプチューンは、主星の近傍に存在する高温の短周期トランジット惑星(※4)で、少なくとも3つのミニネプチューンは楕円軌道にある可能性が高いことが分かりました。
※4.地球から見て惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から発見された太陽系外惑星。このように惑星の存在を探る手法をトランジット法という。
一般的に、主星に近い岩石惑星は、時間とともに軌道が円軌道に変化することが知られています。
なのに、発見したミニネプチューンは、誕生してから10億年以上が経過した現在でも楕円軌道を保持しているんですねー
このことから、これらのミニネプチューンは地球のような岩石惑星ではなく、海王星のような惑星かもしれません。

地球と天王星・海王星の間のサイズの惑星“ミニネプチューン”は、太陽系では見られない種類の天体です。
でも、太陽系外に目を向けてみると、ミニネプチューンは比較的ありふれた存在だと気付かされます。

2021年に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測ターゲットとして注目を集めるミニネプチューンは、一体どのような惑星なのでしょうか?
今回の発見は、謎に包まれたミニネプチューンの成り立ちと、その姿を解き明かす重要な手掛かりになるのかもしれません。
この研究は、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターの堀安範特任助教、平野照幸准教授、東京大学大学院総合文化研究科の福井暁彦特任助教、成田憲保教授たちが参加する国際研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年5月30日にアメリカの科学雑誌“The Astronomical Journal”に、“The Discovery and Follow-up of Four Transiting Short-Period Sub-Neptunes Orbiting M dwarfs”として掲載されました。
図1.発見された系外惑星の軌道のイメージ図。主星に近い系外惑星は時間とともに円軌道化しやすいが、今回発見された系外惑星のうち、左下以外の3つは10億年以上の年齢にもかかわらず楕円軌道を維持している。(Credit: アストロバイオロジーセンター)
図1.発見された系外惑星の軌道のイメージ図。主星に近い系外惑星は時間とともに円軌道化しやすいが、今回発見された系外惑星のうち、左下以外の3つは10億年以上の年齢にもかかわらず楕円軌道を維持している。(Credit: アストロバイオロジーセンター)


なぜ短周期ミニネプチューンなのに楕円軌道を公転しているのか

今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS”と、地上の望遠鏡に搭載された多色撮像カメラ“MuSCAT”(※5)の連携観測によって、4つの年老いた赤色矮星の周りで謎に包まれたミニネプチューンを新たに発見しています。
※5.“MuSCAT”シリーズは、アストロバイオロジーセンターと東京大学が共同で開発した多色撮像カメラ。岡山県の188センチ望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52メートル望遠鏡、アメリカ・マウイ島の2メートル望遠鏡に搭載されている。3つもしくは4つの波長帯で同時にトランジット観測が行える。“MuSCAT”はMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、岡山県の名産品にちなんでいる。今回の研究では、スペインのテネリフェ島の1.52メートル望遠鏡(MuSCAT2)とアメリカのマウイ島の2メートル望遠鏡(MuSCAT3)が用いられている。
4つのミニネプチューン“TOI-782 b”、“TOI-1448 b”、“TOI-2120 b”、“TOI-2406 b”のサイズは、地球半径の約2~3倍程度。
主星の周りをおよそ8日以内で公転しています。

さらに、ドップラーシフト法(※6)により4つの赤色矮星を観測。
すると、4つの惑星の質量の上限値として、地球質量の20倍より小さいという結果が得られました。
観測には、ハワイ島マウナケア山頂の“すばる望遠鏡”に搭載された近赤外線分光器“IRD(InfraRed Doppler)”が用いられています。
※6.ドップラーシフト法は、恒星の周りを回っている惑星の重力で、恒星が引っ張られることによる速度の変化を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法。
分光器により光の波長ごとの強度分布“スペクトル”を得ることができる。この“スペクトル”は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている時には短い波長(色で言えば青い方)へ、遠ざかっている時には長い波長(色で言えば赤い方)へズレてしまう(シフトする)。この周波数の変化量を測定することで、天体の動きやその速度を知ることができる。
ドップラーシフト法の観測データからは、系外惑星の公転周期や最小質量を知ることもできる。ドップラーシフト法だけでは原理的に求められるのが惑星質量の下限値。トランジット法でも観測ができる惑星系の場合だと、その結果と組み合わせて正確に惑星質量を求めることができる。
今回、得られた惑星の質量と半径の関係から、4つの惑星は地球のような岩石惑星ではなく、少なくとも何らかの揮発性物質(例えば、H2Oといった氷物由来の材料物質や大気)を含む可能性が高いと言えます。

また、4つのうち少なくとも3つのミニネプチューン“TOI-782 b”、“TOI-1448 b”、“TOI-2120 b”は、楕円軌道にある可能性が高いことも分かりました。

一般に、赤色矮星周りの短周期惑星の軌道は、主星からの潮汐力(※7)の影響を受けて円軌道化されます。
なぜなら、潮汐力により惑星自身がわずかに変形し、それによって生じる摩擦熱でエネルギーを散逸することで、楕円だった惑星の軌道が円軌道に変化していくことが知られているからです。
※7.地球の海では、衛星の月の重力によって周期的に潮の満ち引きが発生している。このように、他の天体の重力の影響で副次的に発生する力を“潮汐力”と呼ぶ。天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力とに差があるため起こる。
でも、10億年以上も年老いた赤色矮星の周りを公転する短周期ミニネプチューンは、現在まで楕円軌道を維持し続けてきました。

このことから、一つの解釈として考えられるのは、短周期ミニネプチューンがあまり潮汐力の影響を受けにくい内部構造である可能性です。

実際に、惑星の質量と半径の関係からも、4つのミニネプチューンは潮汐力の影響を強く受けやすい岩石惑星ではないことが示唆されています。
なので、これらの短周期ミニネプチューンは、潮汐力の影響を受けにくい、例えば海王星に似た惑星なのかもしれません。

こうした短周期ミニネプチューンは、現在運用中のNASAのジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による大気観測のターゲットとしても注目されているんですねー
今後の詳細な追観測によって、短周期ミニネプチューンの内部組成や大気への理解が、より一層進むことが期待されますね。


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