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史上初! 天王星で赤外線オーロラの観測に成功。高層大気や内部構造の解明への手掛かりになるかも

2023年12月22日 | 天王星・海王星の観測
太陽系の惑星の中では木星、土星に次いで3番目に大きな惑星が“天王星”です。

天王星といえば、その自転軸の傾きがほぼ横倒しになっていることが大きな特徴ですが、磁軸の角度や位置に大幅なズレがあることで注目されている惑星でもあります。

この奇妙な磁場の解明の手段として、“オーロラ”の観測が行われています。

今回の研究では、史上初めて天王星の赤外線オーロラの観測に成功しています。
このことは、天王星の高層大気や内部構造を調べる上で重要なデータになるようです。
この研究は、レスター大学のEmma M. Thomasさんたちの研究チームが進めています。
図1.今回観測された赤外線オーロラの観測データを、実際の天王星の撮影画像に当てはめたもの。実際にこのように撮影されたわけではない。(Credit: University of Leicester (赤外線オーロラ) / NASA, ESA & M. Showalter (SETI Institute) (天王星))
図1.今回観測された赤外線オーロラの観測データを、実際の天王星の撮影画像に当てはめたもの。実際にこのように撮影されたわけではない。(Credit: University of Leicester (赤外線オーロラ) / NASA, ESA & M. Showalter (SETI Institute) (天王星))


なぜ磁軸が自転軸から59度も傾いているのか

地球の高緯度地域で観測されるオーロラは、視覚的に美しく一般的にもよく知られている現象ですが、惑星科学的にも重要な存在になります。

オーロラは、太陽から放出される荷電粒子(電気を帯びた粒子)と、大気を構成する分子との衝突によって発生する現象です。
このオーロラの色が様々なのは、分子の種類や状態によって発生する電磁波の波長が異なるからです。

このため、オーロラは肉眼的に視認可能な可視光線だけでなく、目に見えない電波・赤外線・紫外線の領域でも発生しています。

オーロラの発生には、大気分子と荷電粒子の衝突が必要ですが、荷電粒子は磁場によって弾かれてしまうんですねー
なので、荷電粒子は磁場が弱い場所“磁軸(磁場の軸)”がある極付近に集中して発生することになります。

地球を含むほとんどの天体では自転軸と磁軸がほぼ一致しているので、多くの天体ではオーロラは高緯度地域のみで発生する現象になっています。

でも、大きな例外が一つあります。
それが“天王星”です。

NASAの“ボイジャー2号”が、天王星のフライバイ観測を実施したのが1986年のこと。
この観測で明らかになったのは、天王星の磁軸が自転軸から59度も傾いているだけでなく、天王星の中心から3分の1もズレた場所を通過していることでした。
図2.天王星の磁場の構造。磁軸は自転軸に対して59度ズレているだけでなく、中心から3分の1の場所を通過していて、このような構造は他のタイプの惑星には見られない。(Credit: Ruslik0)
図2.天王星の磁場の構造。磁軸は自転軸に対して59度ズレているだけでなく、中心から3分の1の場所を通過していて、このような構造は他のタイプの惑星には見られない。(Credit: Ruslik0)
天王星は、その自転軸の傾きがほぼ横倒し(98度も傾いている)になっている珍しい惑星です。
このことも考えると、なぜこのような磁場が存在しているのかは興味深い疑問といえます。

天王星の磁場を詳細に研究するのに最も適した方法は、惑星に探査機を送り込むことです。
ただ、探査機を送り込むとなると、膨大な予算と時間が掛かってしまいます。

そこで、探査機に代わる方法として、オーロラの観測によって磁場を間接的に測定する手段が検討されていて、このためには様々な波長のオーロラを観測する必要がありました。

天王星のオーロラは、これまで紫外線領域で観測されたことはありますが、赤外線領域で観測されたことはありません。
この状態はデータに大きな穴があることになり、他の天体とオーロラや磁場を比較する上で大きな障害となります。


史上初めて天王星の赤外線オーロラを観測

今回の研究で用いられたのは、ハワイ島マウナケアにあるケックII望遠鏡で取得された天王星の観測データ約6時間分でした。
研究チームでは、このデータに赤外線オーロラが含まれていないか調査を行っています。

これまでの研究から、天王星の赤外線オーロラはプロトン化水素分子(※1)によって発生する可能性が指摘されていました。
※1.水素原子が正三角形上に配置された分子。
1992年に発見されていたプロトン化水素分子ですが、これにより赤外線オーロラが発生しているのかは不明でした。
それは、オーロラ以外の理由で発生していると見られる赤外線に隠されていたからでした。

研究では、プロトン化水素分子によって発生する赤外線を見つけるため、3.5μmと4.1μmの波長で集中的にデータを分析。
その結果、確かに赤外線オーロラが発生していることを示す観測的証拠を得ることに成功しています。

天王星の赤外線オーロラの観測は、史上初めてのことでした。

今回の研究では、赤外線オーロラの発生状況はプロトン化水素分子の濃度を反映していることも判明しました。
オーロラの発生状況は温度にも依存しますが、今回の分析の結果からは温度変化はほとんどなく、濃度のみが変化していることが分かっています。

プロトン化水素分子の生成量は、オーロラが発生する上層大気の環境によって変化しています。
なので、オーロラを通じてプロトン化水素分子の濃度を調べられることは興味深い発見と言えます。

自転軸と磁軸が大幅にずれている状況は、天王星とよく似た物理的性質を持つ海王星でも観測されています。
また、天王星と海王星には、太陽から受け取る熱よりも、自身が放射する熱の方が多いという別の謎もあります。

熱源として疑われているものの1つにオーロラがあるので、今回の赤外線オーロラの観測は、熱源に関する謎を解明する可能性もあります。

さらに、天王星や海王星に似た惑星は、太陽以外の天体の周りを公転する“太陽系外惑星”でも多数発見されています。
そう、今回の赤外線オーロラの観測手法が太陽系外惑星にも適用されれば、磁場の発生源となる内部構造の謎に迫れるかもしれませんね。


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