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地上の大型望遠鏡を用いることで可能になる! 遠方の海王星に見つかったのは赤道上に分布するシアン化水素の帯でした。

2020年11月10日 | 天王星・海王星の観測
東京大学情報基盤センターの研究グループは、太陽系で最も遠くにある惑星“海王星”をアルマ望遠鏡で観測し、その大気に含まれている有毒ガスの一種“シアン化水素”を検出しました。

シアン化水素が成層圏に存在することは、すでに過去の観測から知られていたこと。
でも、今回の観測で明らかになったのは、シアン化水素が赤道上の成層圏に帯状に分布していることでした。
考えられるのは、シアン化水素の濃度が高いところに向かって大気の流れがあること。
なので、海王星の南半球では、南緯60度付近で上昇し、赤道と南極で下降する大気の流れ(循環)が存在するようです。

今回の研究で示されたのは、太陽系最遠の惑星でも、最先端の地上望遠鏡と解析技術を組み合わせ、大気に微量に含まれる成分を詳細に観測することで、その大気循環の解明が可能であること。

また、探査機とは異なり、地上望遠鏡だと継続的な観測が可能になります。
今後、研究グループが行うのは、同様の観測手法を他の惑星にも広げるとともに、観測を継続的に行うことで短期的および長期的な変化をとらえること。
この活動により、太陽活動や惑星の季節と連動した大気活動のメカニズムを明らかにしていくようです。
(左)ボイジャー2号が1989年に撮影した海王星。活発な大気の運動に伴う複雑な雲などの構造が観察できる。(Credit: NASA/JPL)(右)今回の研究で得られた海王星にあるシアン化水素の分布。赤道上で濃度が高く、南緯60度を中心にして低いことがはっきりと示されている。(Credit: 東京大学、All rights reserved.)
(左)ボイジャー2号が1989年に撮影した海王星。活発な大気の運動に伴う複雑な雲などの構造が観察できる。(Credit: NASA/JPL)
(右)今回の研究で得られた海王星にあるシアン化水素の分布。赤道上で濃度が高く、南緯60度を中心にして低いことがはっきりと示されている。(Credit: 東京大学、All rights reserved.)

なぜ成層圏上部にシアン化水素が存在しているのか

冥王星が準惑星に分類されてから、太陽系で最も外側を約165年の周期で公転している惑星が海王星です。
海王星は、ガス惑星と呼ばれる木星や土星、天王星と同様に、水素とヘリウムを主成分とする大気を持っています。
海王星は、惑星の分類としては木星、土星、天王星と共にガス惑星(木星型惑星)に含まれ、その中でも氷惑星(天王星型惑星)に分類される。

でも、海王星は他のガス惑星と異なり、成層圏上部にシアン化水素というガスが多く存在していることが分かっています。
シアン化水素の化学式はHCN。気体では青酸とも呼ばれ、猛毒であり強い呼吸障害を引き起こす。電波天文学では頻繁に観測が行われる分子で、惑星の大気においては木星で検出されている。

ただ、低高度にある対流圏と、その上にある成層圏に挟まれた領域“対流圏界面”付近の気温はマイナス200度と非常に低いので、ほとんどのガスは気体から液体に変化してしまいます。

なので、シアン化水素のような凝結しやすいガスは、成層圏に上昇することができないんですねー

なぜ、成層圏上部にシアン化水素が偏在しているのでしょうか?
その仕組みは太陽系天文学上の大きな謎になっていました。

アルマ望遠鏡を用いたシアン化水素の観測

今回の研究を進めたのは東京大学情報基盤センターのグループ。
アルマ望遠鏡を用いて、海王星の成層圏におけるガス状のシアン化水素の分布を詳細に観測することに成功しています。

観測の結果、明らかになったのは、シアン化水素の濃度は赤道付近で“約1.7ppb”と最も高く、南緯60度付近で“約1.2ppb”と最も低くなっていることでした。
1ppbは、大気分子10億個に対してシアン化水素分子が1個存在する。

ガス惑星の大気中において、このように微量分子に濃淡が生じることは珍しくないそうです。

ガス惑星は地表が無いので(あってもはるか下方のため)、風が地表の凹凸の影響を受けず、吹き続けることができます。
地球では考えられないような暴風が吹きすさんでいて、海王星では太陽系一の時速2000キロ強という風速が観測されたこともあります。
こうした大気循環により、シアン化水素が成層圏上部に存在するメカニズムの一端を担っているのかもしれません。

海王星までの距離は平均して地球~太陽間の約30倍もあり、光の速度でも4時間以上かかってしまいます。
非常に遠くに存在しているので、これまでの観測ではシアン化水素の分布を知ることはできませんでした。
今回の観測は、このシアン化水素の濃度が海王星上で緯度により異なっていることを、世界で初めて明らかにしたものになります。

観測に用いられたアルマ望遠鏡は、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設された電波望遠鏡です。

高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができます。
これにより、波長の短い電波(波長1ミリ前後)において、これまでにない高い感度と分解能(視力)を実現します。

アルマ望遠鏡の高い性能をフルに活用することで、見かけの直径で木星の1/20ほどと、地球からは小さくしか見えない海王星上の分子ガスの分布を明らかにすることを可能にしています。

シアン化水素の分布を実現するメカニズム

大気中の微量分子は、大気の大きな流れ(大循環)の影響を受けて、惑星上で非一様な空間分布になる事があります。
では、観測で明らかになったシアン化水素の分布は、どのようなメカニズムで実現されたのでしょうか?

このメカニズムを考える上で研究グループが参考にしたのは、地球の成層圏で同じように非一様に存在する分子“オゾン”の分布と大気の流れでした。

地球の成層圏オゾンは、高緯度でより多いという特徴を持ちます。
これは、オゾンが生成される成層圏では、低緯度から高緯度へと向かう大気の流れがあるからです。

そこで研究グループが考えたのは、オゾンと同じように海王星のシアン化水素の濃淡にも、成層圏の大気の流れが繁栄されているということでした。

そのメカニズムは、以下のように考えられます。
シアン化水素が最も少なかった中緯度付近で上昇流が生じ、シアン化水素の元になる窒素分子が成層圏に運ばれる。
運ばれた窒素分子は、成層圏での化学反応によりシアン化水素を生成しながら、赤道と南極に運ばれていく。

このように、巨大な大気の流れ“大気大循環”が海王星に存在し、これにより成層圏のシアン化水素が形成されているという可能性が、今回の研究で強く示されたことになります。

シアン化水素は対流圏から成層圏へと上昇するのではなく、成層圏で作られていたことになります。

惑星大気の運動や化学の研究へ

今回の研究成果は、地上大型望遠鏡を用いることで、海王星のような遠方の惑星に含まれる微量な分子ガスであっても、詳細な観測が可能になることでした。

この成果をさらに発展させ、シアン化水素以外の多様な分子の分布を観測することで、大気の運動や化学について新たな知見を得ることが可能になるずです。
同様の観測は他の天体でも可能なので、今後観測対象を広げていくようです。

さらに、地上からの観測には大きなメリットがあります。
それは、探査機と異なり地上からの観測は継続的に行うことが可能なことです。

なので、短期的および長期的な変化をとらえ、太陽活動や惑星の季節と連動した大気活動のメカニズムを明らかにしていくことも可能なはずですよ。


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