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月が形成されたのは、これまでの推定より約4000万年も古い年代だった。アポロ17号で採取された月の石を分析して分かったこと

2023年11月24日 | 月の探査
地球唯一の衛星“月”は、いつ形成されたのでしょうか?

この疑問の答えは、太陽系の中で起きた大衝突の答えにも迫ることになります。

今回の研究では、アポロ計画で採取された月の石に含まれている鉱物“ジルコン”を分析。
これにより、月の表面が固まった時期は遅くても44億6000万年前であると算出しています。

この数値は、これまでの研究よりさらに4000万年古く、太陽系の形成から1億1000万年後の時代になるそうです。
この研究は、フィールド自然史博物館のJennika Greerさんたちの研究チームが進めています。

月が形成される原因となった巨大衝突

夜空でもひときわ目立つ巨大な天体“月”は、地球唯一の衛星です。

太陽系全体を見渡しても月は5番目に大きな衛星で、周回している惑星との直径比・質量比は太陽系で最大になります。

月と同程度の大きさの他の衛星は、地球よりずっと大きな惑星を周回していることを考えると、月がどのように地球の衛星として誕生したのかは大きな謎といえます。

長年の研究により、月が形成される原因として最も有力な仮説がジャイアントインパクト(巨大衝突)説になります。

この説によれば、45億年前に火星サイズの天体“テイア”が、作られて間もない原始の地球に衝突。
この衝突から生まれた破片が、かなり急速(おそらく数百万年強の間)に分離し、地球と月を形成したと考えられています。

大きい方は地球になり、大気と海のある地質学的に活発な惑星になるのにちょうどよい大きさと環境へと進化。
小さい方が月になるのですが、こちらには地球のような特性を保持するのに十分な質量はありませんでした。

現状では、このジャイアントインパクト説が月の誕生の様子や地質学的証拠に最も一致しています。

月が形成された年代

月の存在は地球に潮汐力を作用させ、潮の満ち引きや自転周期に変化を与えています。
このため、地球の歴史を調べる上で、月の形成年代を正確に知ることは欠かせません。

また、初期の太陽系では“後期重爆撃期”という天体衝突の増加があったことが知られています。
この後期とは、星間物質の衝突による惑星の誕生・成長の時期を前期とし、惑星形成後の衝突を示したもの。
月が形成された後の出来事だと考えられています。

後期重爆撃期では、地球に最初の海が誕生し始めたころ(約38億年前)に、多くの彗星や小惑星が地球へ降り注ぐように衝突しています。

こうした集中的な衝突は、木星や土星のような巨大ガス惑星の軌道が移動して、それらの重力の影響を受けて軌道が変わった小天体の一群が、太陽系の内側に飛び込んできたことが原因と考えられています。

後期重爆撃期では、月や地球・水星・金星・火星といった惑星が多くの天体衝突を受けています。
地球にも小惑星が衝突したとされているのですが、地殻変動が原因でそのほとんどが発見されていません。
なので、後期重爆撃期を含む月の形成過程を知ることは、月以外の天体の歴史を知る手掛かりにもなります。

ジャイアントインパクト説を検証する上での重要な課題の1つは、月が形成された年代です。

衝突のエネルギーは高いので、形成直後の月は表面全体がマグマで覆われた“マグマオーシャン”状態にあったと考えられています。

月の表面が冷えて固まるスピードは、かなり速かったと考えられているので、月の石を調べればその形成年代が分かります。

これまで、その年代は今から44億1700万年前(±600万年)より以前だと考えられていました。

アポロ17号で採取された月の石を分析する

今回の研究では、アポロ17号で採取された月の石(標本番号72215)に含まれる鉱物“ジルコン”を分析し、月の形成年代を調べています。

月はジャイアントインパクトの段階で一度溶けているので、ジルコンが固まって結晶となった年代は、月のマグマオーシャンが固化した年代とみなすことができます。

ジルコンは化学的・物理的に強い物質なので、数十億年もの時間変化の中で変質せず、長期の年代を調べることができます。

また、数十億年という時間を測ることができるウランを含んでいる一方で、年代測定の邪魔になる鉛が結晶成長時にほとんど含まれないことも、ジルコンを使う利点になります。

さらに、これらの利点を生かし多くの研究で年代測定の指標として使用されているので、ノウハウの蓄積もあります。
ウランは時間をかけて鉛へと崩壊するため、ウランと鉛の比率を調べることで鉱物が結晶化した年代を推定することができる。でも、結晶化時に無関係の鉛が鉱物に入り込んでいると、年代測定結果を狂わせる恐れがある。ジルコンは化学的に鉛をほとんど含まない形で結晶化するので、ウランによる年代測定がしやすい鉱物と言える。
一方、このような研究では年代が異なることも珍しくありません。
なので、正確な年代を突き止めるには、結晶の場所ごとの年代を細かく調べる必要があります。
図1.実験装置に月の石を挿入するJennika Greerさん。(Credit: Dieter Isheim, (Northwestern University))
図1.実験装置に月の石を挿入するJennika Greerさん。(Credit: Dieter Isheim, (Northwestern University))

太陽系の形成から1億1000万年後に月は形成された

この研究では、極めて小さなジルコン結晶の年代を特定するため、“アトムプローブトモグラフィー”を使用して分析を行っています。

ジルコンの年代測定では、含まれている鉛の量を調べる必要があります。
そこで、研究チームでは、イオンビームで結晶表面を削り出して新鮮な表面が露出した後、紫外線パルスレーザーで表面の原子を蒸発させ、その中に含まれる鉛の量と分布を調べています。
図2.分析されたジルコン結晶の一例。丸い穴はイオンビームで削られた跡。今回の研究では、穴の表面をパルスレーザーで蒸発させ、鉛がどのくらい含まれているのかを調べることで年代測定が行われた。(Credit: Jennika Greer)
図2.分析されたジルコン結晶の一例。丸い穴はイオンビームで削られた跡。今回の研究では、穴の表面をパルスレーザーで蒸発させ、鉛がどのくらい含まれているのかを調べることで年代測定が行われた。(Credit: Jennika Greer)
分析の結果分かったのは、ジルコンに含まれた鉛が、ウランから崩壊して生じたもののみであること。
これにより、鉛の量がそのまま年代測定に利用できることが分かりました。

もし、ウランの崩壊とは無関係な鉛が含まれている場合、それは小さな塊として存在するので、場所ごとに鉛濃度の濃淡が生じるはずです。
今回の分析では、鉛は均一に分布していたので、元々含まれているという可能性を排除することができました。

いくつかのジルコン結晶の年代測定結果を照らし合わせた結果、月の形成年代は遅くとも44億6000万年前(±3100万年)と、これまでの分析より約4000万年も古い年代であることが明らかになりました。

これは、太陽系の形成から1億1000万年後の時代。
別の研究も合わせると、月が形成されたのは、今から45億1000万年前から44億6000万年前の間のどこかだと考えられます。

今回の研究では、最も古い年齢の月の石を通じて、月の形成年代を絞り込むことができました。
この研究成果は、その後の月や地球で生じた潮汐の影響や微惑星の衝突を解析する上でも重要なものになります。


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