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なぜ、地球以外の天体の内部構造を明らかにしたいのか? 観測で見えてくるもの

2022年07月31日 | 太陽系・小惑星
史上初めて火星に地震計を持ち込んだNASAの探査機“インサイト”。
ミッションでは火星で起こる1300以上もの“火震(地球での地震)”を検出してきました。

“火震”のデータは、それ自身が火星の内部構造を反映しています。

なので、データを調べることで直接見ることのできない核から地表までの内部構造が明らかになり、火星の形成や進化を解明していく上で欠かすことのできない情報を得ることができます。

そう、“火震”の検出は科学的価値が極めて高いものなんですねー

ただ、そのミッションも今夏その役目を終えることになりそうです。
原因は、太陽電池パネルに降り積もったチリのようです。

火星の地質調査を行う探査機

NASAの低予算プログラム“ディスカバリー”の候補に挙がっていた3つの計画。
この中から選ばれたのがインサイトミッションでした。

選ばれた理由は、スケジュールがズレ込む可能性や、予算の上限を超える可能性が低かったこと。
ただ、搭載機器の“地震計”に問題が発生し打ち上げは延期…
“地震計”の改良や、完成している探査機本体や機器の保管などに更に予算が必要になってしまいます。

それでも2018年5月に火星探査機“インサイト”は打ち上げに成功。
2018年11月には、火星の赤道付近にあるエリシウム平原地域の“ホームステッド”と呼ばれる浅いクレーターに着陸します。

NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機インサイト。
火星の内部構造の調査の始まりでした。
2018年12月にNASAの火星探査機“インサイト”が初めて撮影したセルフィ―(Credit: NASA/JPL-Caltech)
2018年12月にNASAの火星探査機“インサイト”が初めて撮影したセルフィ―(Credit: NASA/JPL-Caltech)

火星は熱で溶けた状態の大きな核を持っている

“インサイト”が検出した火震の速度と波形を調べて分かったこと。
それは、火星には予想外に大きい核があることでした。

さらに、確認されているのは、火星の核が地球の核と同じように熱で溶けた状態であること。

これまで、火星は地球よりもはるかに小さいので、惑星形成時に持っていた熱を早く失い、地球に比べより早く冷却されたと考えられていたんですねー
このため、火星の核は固体になっているだろうという説がありました。

また、“インサイト”は火星の核の密度が低いということも明らかにしています。
核の主な構成成分の鉄とニッケルより軽い元素が混じっていることで融点が下げられていることも、核の固化を遅らせている原因なのかもしれません。

様々な発見をしてくれた“インサイト”ですが、その役目も今年の夏に終えることになりそうです。
理由は太陽電池パネルに降り積もったチリによる電力の不足でした。
2022年4月24日に撮影された、“インサイト”最後のセルフィ―。太陽電池パネルにチリが積もり、得られる電力がコントロール不能なレベルまで低下してしまった。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
2022年4月24日に撮影された、“インサイト”最後のセルフィ―。太陽電池パネルにチリが積もり、得られる電力がコントロール不能なレベルまで低下してしまった。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

次の観測は土星の衛星タイタンへ

地球以外での天体における地震観測は、“インサイト”と共に終わるわけではありません。

2027年に打ち上げを予定しているNASAの探査ミッション“ドラゴンフライ”。
このミッションの目的地は土星の衛星タイタンです。

タイタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体です。

大きな特徴の1つは、衛星としては唯一、大気が存在すること。
その主成分は地球と同じ窒素で、表面気圧は地球の1.5倍あります。

このミッションがインサイトミッションと異なるのは着陸機にあります。
着陸機にはタイタンの様々な場所を飛行し移動するマルチロータードローンが使われます。

この着陸機に搭載されるJAXA開発の地震計は、表面を氷に覆われたタイタンの内部をのぞき込むことになります。

この地震計が軽量なんですねー
“インサイト”の地震計パッケージの11キロという重量に比べると、なんと300グラムという軽さで開発されています。
ドラゴンフライミッションの概略図。降下~着陸~地上活動~飛行など。(Credit: Johns Hopkins/APL)
ドラゴンフライミッションの概略図。降下~着陸~地上活動~飛行など。(Credit: Johns Hopkins/APL)

高感度月震計のネットワークを月に配置する

“インサイト”と“ドラゴンフライ”に搭載されている地震計はそれぞれ1台です。
でも、JAXAには月面に複数の地震計を設置するという構想があるんですねー

アポロ計画において宇宙飛行士が月面に地震計を置いて観測した月の地震“月震”は、地球の重力が生み出す潮汐力の影響で月がたわんで発生していると考えられています。

月の内部を解明することで、地球―月系の理解に役立つだけでなく、将来の有人基地建設にも必要な情報が得られるはずです。

このことからも、“インサイト”による火震の長期間の観測、そこから得られた火星内部構造の解明は素晴らしい成果でした。
内部構造の探査は、今後の太陽系探査の大きなテーマと言えます。

地震大国である日本も、独自の高感度月震計を月にネットワーク的に配置して、未だ不確定な月の内部構造を詳しく知るという計画を検討しています。

これは月面基地や月面天文台といった大規模構造物を月に展開する際にも重要な知見となると考えられます。

木星の氷衛星を探査する計画“JUICE”

岩石型天体の内部構造を明らかにする主な方法として地震計があります。

一方、もし内部が固体でない場合にはどうするのでしょうか?

もちろん、それに代わる方法もあるんですねー
それは、2023年の打ち上げを目指しているヨーロッパ宇宙機関が主導する木星氷衛星探査計画“JUICE”です。

このミッションでは、表面の氷の下に巨大な地下海が存在すると考えられている木星の氷衛星を複数探査。
ミッションの最後には氷衛星ガニメデを周回して精査する予定です。

“JUICE”に搭載予定の機器のうちJAXAが担当するのは、GALA(ガニメデ高度計)など、いくつかのハードウェアの一部。
このGALAによって、氷衛星ガニメデの地下海の詳細が明らかになる可能性があります。

惑星の探査が進むにつれて、地球以外の天体の内部構造も次第に明らかになっていくはずです。

木星氷衛星探査計画“JUICE”は、木星の氷衛星と呼ばれているエウロパ、ガニメデ、カリストのフライバイ観測を行った後、ガニメデ周回衛星となって氷衛星の内部にあると考えられている液体の海の探査を行います。

日本が観測装置の一部を担当しているガニメデ高度計“JUICE-GALA”はJUICE衛星とガニメデとの間の距離を測定することで、木星の周りを回るガニメデ衛星の形状変化をとらえて、ガニメデ衛星の地下海構造を明らかにする予定です。

私たちに初めて地球以外の惑星の詳細な内部構造を見せてくれたのが火星探査機の“インサイト”でした。
“インサイト”の観測データは今後も引き継がれ、惑星や衛星の形成についてこれまでよりはるかに多くの知見が蓄積されていくでしょう。

さらに、来年の4月には“JUICE”の打ち上げが予定されています。
今後の太陽系探査の大きなテーマ、内部構造の探査が進むことが期待されますね。


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