雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

釈迦誕生 (1) ・ 今昔物語 ( 巻1-2 )

2017-03-22 11:53:12 | 今昔物語拾い読み ・ その1
          釈迦誕生 (1) ・ 今昔物語 ( 巻1-2 )

今は昔、
釈迦如来の御母麻耶夫人が、父の善覚長者(ゼンカクチョウジャ・小国の王らしい)と共に、春の始めの二月八日(四月八日説もある)、嵐毘尼園(ランビニエン)の無憂樹(ムウジュ)の下に行かれた。
夫人はその園に着くと、立派な車から降りて、まず様々な美しい装身具で身を飾られ、無憂樹の下に進まれた。夫人の供として従う采女は八万四千人である。(八万四千は、仏典で極めて大きい数字を表現する常套語)彼女らが乗る車は十万である。大臣・公卿及び百官がそれぞれに供奉していた。
その無憂樹の姿は、上から下まで等しくて、葉が茂って垂れ下がっていた。半ば緑で半ば青色である。その色の照り輝く様は、孔雀の様であった。
夫人はその樹の前にお立ちになり、右の手をあげて樹の枝を曳き取ろうとした時に、右の脇より太子がお生まれになった。
大きな光を放っていた。

その時、諸々の天人・魔・梵・沙門・婆羅門などが、ことごとく樹の下に満ち溢れていた。
太子がすでにお生まれになったので、天人が手を添えお支えして、四方にそれぞれ七歩お進みになった。(天人が手助けしたというのは、経典などにはない)
足をお上げになると、蓮華が生じて足をお受けになった。南に七歩進んでは、すべての衆生の為に最上の福田(善行の種を蒔いて良い実りを得る田のこと)と成ることを示し、西に七歩進んでは、生死に輪廻することなく永く老・死を断つ悟りの境地を示された。北に七歩進んでは、諸々の生死(ショウジ)を渡ることで彼岸に至ることを示された。東に七歩進んでは、衆生を導く指導者となることを示された。
四つの維(ヨッツノスミ・南西・南東・北西・北東の四隅)に七歩進んでは、様々な煩悩を断ち切って仏と成ることを示された。上に七歩進んでは、不浄の者の為に穢れることのないことを示された。下に七歩進んでは、仏の教えの雨を降らして、地獄の火を滅して、あらゆる衆生に安穏の喜びを受けさせることを示された。
   
太子各々七歩を歩み終えて、頌(ジュ・偈頌。仏や菩薩の教えや賛辞を韻文形式で述べた詩句)を説いておっしゃられた。
「 我生胎分尽 是最末後身 我已得漏尽 当後度衆生 」
( ガショウタイブンジン ゼサイマツゴシン ガイトクロジン トウゴドシュジョウ )
( 私は輪廻転生の業が尽きて生まれ変わることはない これが最後の人身で すべての煩悩を超越し尽くしたから 今後は仏と成ってあまねく衆生を済度しよう )
太子がそれぞれ七歩進まれたのは、七覚(シチカク・悟りに到達するまでの七段階の修行)を表している。蓮華が地より生じたのは、地神が姿を変えて現れたものである。
                             ( 以下、(2)に続く )

     ☆   ☆   ☆

  

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