夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『劇場版 アナウンサーたちの戦争』

2024年08月26日 | 映画(あ行)
『劇場版 アナウンサーたちの戦争』
演出:一木正恵
出演:森田剛,橋本愛,高良健吾,安田顕,浜野謙太,大東駿介,水上恒司,藤原さくら,
   中島歩,渋川清彦,遠山俊也,眞島秀和,降谷建志,古舘寛治,小日向文世他
 
夏風邪をひいてしばらくダウンしていました。
『美食家ダリのレストラン』のあと4日間は映画を観ることなく、
5日目にものすごく久しぶりな気持ちでイオンシネマ茨木へ。
この日に本作を観ておかないと、翌週からは午前のみの上映になって観逃しそうでしたから。
 
たぶん客は私ひとりだったと思うんです。
「たぶん」というのは、私が入場したのが予告編開始1分前で、
そのとき遠く離れた最後列付近でカサッという物音が聞こえた気がしたのですが、姿は見えず。
それからはまったく音聞こえずだったから、ほかに誰もいなかったのではないかと。
というわけで、今年6度目の“おひとりさま”
 
昨夏に『NHKスペシャル』枠にて放送されたTVドラマの劇場版。
 
日本放送協会(NHK)の前身は、社団法人3局。
東京、大阪、名古屋それぞれの局が1924(大正13)年から1925(大正14)年に渡って設立されました。
「夢の機械」と言われたラジオでしたが、戦時中はそれが「悪魔の拡声器」となった。
当時のNHKアナウンサーたちの活動の事実に基づいています。
 
国民的人気を誇った名物アナウンサー・和田信賢(森田剛)は大の酒好き。
朝まで飲んで酔っぱらっては遅刻することもしょっちゅう。
彼が干されることなく居られるのは、その実力に皆が一目置いているのもあるからだが、
それ以上に先輩アナの米良忠麿(安田顕)がいつもかばってくれるから。
 
スポーツ実況で有名な松内則三(古舘寛治)は聴視者を盛り立てるアナウンスが得意で、
二・二六事件を担当して名をあげた中村茂(遠山俊也)は冷静なアナウンスに努めるのが信条。
彼らに続く若きアナ・館野守男(高良健吾)、今福祝(浜野謙太)、志村正順(大東駿介)それぞれに自負がある。
 
太平洋戦争下、日本は各地で快進撃を続けているように報道されていたが、実際はミッドウェー開戦で惨敗。
それを政府がひた隠しにしていることを知ってしまったアナウンサーたち。
 
報道の仕方はもちろんのこと、話し方まで政府から指示というよりも命令されていた彼ら。
声を張らないと「国民の士気が下がる」と恫喝され、それはそのとおりだと頷くアナもいれば、
事実を事実として淡々と伝えることこそがアナの役目だと考える人もいます。
 
若手アナのひとりである川添照夫(中島歩)が叫ぶ、「おかしいじゃないですか」。
ついこの間までアメリカやイギリスを好きでたまらなかったくせして、
今はそんな国を憎むようにアナウンサーが仕向けるなんて。
 
声が武器になると信じていたのに、自分たちが戦地へと飛んでみれば、声で戦えるわけもない。
フィリピンへと出征した館野の絶望が本当に痛々しい。
多くの国を侵略して日本の文化を教え浸透させるなんて、何様のつもりだったのか。
彼の地では「日本戦争」と呼ばれていたことを重く受け止めなければなりません。
 
終戦からまもなく80年が経とうとしているけれど、世界から戦争はなくならない。
いったい誰が、何のために。

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『美食家ダリのレストラン』

2024年08月25日 | 映画(は行)
『美食家ダリのレストラン』(原題:Esperando a Dali)
監督:ダビド・プジョル
出演:イバン・マサゲ,ジョゼ・ガルシア,ポル・ロペス,クララ・ポンソ,ニコラ・カザレ,アルベルト・ロサーノ,
   ヴァルヴァラ・ボロディナ,パコ・トウス,ホセ・アンヘル・エヒド,ビッキー・ペニャ他
 
テアトル梅田にて2本ハシゴの2本目はスペイン作品。
入場者特典はチュッパチャプスでした。
チュッパチャプスのロゴマークはサルバドール・ダリのデザインなのだそうで。
 
ダビド・プジョル監督はかの有名なレストラン“エル・ブジ(あるいはエル・ブリ)”に密着取材し、
TVドキュメンタリー『エル・ブリ:夢の物語』(2011)を手掛けた人。
ダリがもしもエル・ブリの天才料理人フェラン・アドリアと対面したら。
そんな発想を起点につくられたこの物語はとても面白い。
 
1974年のスペインはフランシスコ・フランコが独裁政権を握り、反体制運動を弾圧中。
バルセロナの一流フレンチレストランで料理人を務めていたフェルナンドは、
同じく料理人の弟アルベルトが市役所に放火して追われる身となったことを知る。
友人でヒッピーのフランソワは、カタルーニャ州の海沿いの町カダケスにふたりを案内し、
恋人ロラの父親がオーナーのレストランに勤められるよう紹介してくれると言う。
 
カダケスの町は、確かに身を潜めているには格好の土地。
しかし紹介されたレストラン“シュルレアル”を見てフェルナンドとアルベルトは唖然。
ダリをこよなく愛するオーナーのジュールズの目標はただひとつ、ダリに来店してもらうこと。
客席の至るところにダリの作品やマネキンが飾られ、およそ落ち着いて食事などできない。
それでもここにいるしかなく、ふたりは下働きに就く。
 
そんな折、ジュールズのやり方についていけないと、シェフだったジャンが怒って退職。
ジュールズはフェルナンドをもクビにしようとするが、
フェルナンドがつくったブイヤベースを一口食べると絶品。慌ててフェルナンドを連れ戻す。
 
確かにフェルナンドの料理は素晴らしいが、スペインでフレンチをつくる意味はあるのか。
ロリのひと言により考えを改めたフェルナンドは、地元の特産品をふんだんに使い、この町ならではの料理を提供する。
すると舌の肥えた金持ちらも次々と店を訪れるように。
しかし肝心のダリは相変わらず来店してくれなくて……。
 
フェルナンドがビールの泡を見てエスプーマを思いついた描写などもあり、
これは事実なのかなと思うとワクワクします。
エル・ブリの料理を食べる機会なんて一生ないし、おそらく食べてもわからない。
だけど、こんなふうに革新的な料理が生まれたと知るのは楽しいこと。
 
いつまで経ってもダリが来てくれない腹いせに、酔っぱらって家を襲撃しようとするジュールズ。
仕方なくそれにつきあわされ、ダリ家の運転手アルトゥーロに助けてもらうところなんかも良い。
 
美しい景色と美味しそうな料理と、心に残る音楽。
それがあれば生きていける気がします。
もっとも、そのためにはお金がないとどうしようもないんですが。(^^;

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『#スージー・サーチ』

2024年08月24日 | 映画(さ行)
『#スージー・サーチ』(原題:Susie Searches)
監督:ソフィー・カーグマン
出演:カーシー・クレモンズ,アレックス・ウルフ,ジム・ガフィガン,ケン・マリーノ,デヴィッド・ウォルトン,
   アイザック・パウエル,レイチェル・セノット,ジェフリー・オーウェンズ,アレックス・モファット他
 
テアトル梅田にて2本ハシゴの1本目。
 
アメリカ/イギリス作品。
監督はこれが長編デビューとなるソフィー・カーグマン。
本作は同監督が2020年に手掛けた同名短編を長編化したものなのだそうです。
 
母子家庭に育つスージーは、幼い頃から母親が読み聞かせてくれる推理小説の犯人を当てるのが得意だった。
たいして話も進んでいないのにスージーが犯人を当ててみせるものだから、
母親はなかば呆れつつ、「あなたはいずれその能力を使って有名になる」と応援。
 
やがて女子大生になったスージーは、病に倒れた母親を看病しながらアルバイトを掛け持ちして通学。
ファストフード店では清掃を担当、保安官事務所では雑用係に当たり、未解決事件に興味津々。
それらを取り上げたポッドキャスト“スージー・サーチ”を配信しているが、閲覧者はゼロに等しい。
 
あるとき、誰もが知る人気者でインフルエンサーのジェシーが行方不明になり、
スージーは捜索に乗り出すとともに事件を解決しようと考える。
証拠をあれこれ並べ、ジェシーの親が不動産王であることから、
ジェシーを亡き者にしたい彼の叔父ローレンスの仕業だと保安官に訴えるが、保安官は取り合わない。
 
そこでスージーはたったひとりでローレンスが所有する物件に向かい、地下室でジェシーを発見。
瞬く間にスージーは時の人となり、ジェシーからも誘いを受けるのだが……。
 
とても嫌な話です。
そもそもスージーはこう言っちゃ失礼ですが、可愛くもなんともない。いわゆる冴えない変人の部類。
それがこの事件をきっかけにブレイクスルー。周囲から一目置かれる存在になります。
 
かなり早いうちに明らかになることなのでネタバレにはならないと思いますが、すべてスージーの企み。
人気者になりたい一心で、ジェシーの行動をつぶさに調べ上げ、ローレンスの存在を知ると、
入念に用意していたグッズでジェシーを拉致し、地下室に閉じ込めます。それを自分が発見したふりをするという。
 
教師がスージーに対して「あなたの良いところは裏表のないところ」などと言って褒めるシーンがありますが、
人って、どこを見ているんだろうと思いますね。
スージーが怪しいと睨んでいたジェシーの親友レイは、スージーを問い詰めようとして事故死。
その死すら警察に届けることなく、スージーはレイの自殺を装います。
 
スージーが英雄のまま終わったら嫌だなぁと思っていたら、最後の最後に気づいたジェシーの表情。
あ、バレたのね、よかったと安堵してしまいました。
ま、この後ジェシーもスージーに殺されるのかもしれませんが。(^^;
 
面白くても嫌な映画。

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4回目の『ツイスターズ』は4DX2D版で。

2024年08月23日 | 映画(た行)
3回目を念願のIMAXレーザーGT版で観たので打ち止めのはずでした。
でも109シネマズ大阪エキスポシティの4DX版がお盆のあいだ連日完売なのを見て、
やっぱり私も4DX版を観ておきたいなと思いました。
ウチの職場に停電休みはあってもお盆休みはないから、昼間の回は無理。
21時半も近くになってからの回を予約して出向いたら、こんな時間なのに9割の入り。
 
映像との一体感に欠けるせいでスクリーンに集中できなくて、ただただ疲れておしまいということが多い。
 
過去に見た4DX版の中でいちばん映像と動きが合っていると思ったのは『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』(2023)。
この『ツイスターズ』はと言うと、今まででいちばん動きが激しかったかも(笑)。
隣の客のAppleWatchの光が鬱陶しくてしばしば舌打ちしそうになったのを除けば、概ね満足。
 
4回目になってから言うのもなんですけど、モーラ・ティアニー演じるケイトの母親が大好きです。
彼女は『アイアンクロー』(2023)でプロレスラー一家のかあちゃんを演じていました。
顔を見ているだけで慈愛を感じるし、彼女がタイラーを強引に誘って娘と過ごさせるシーンが◯。
 
残念ながら日本では大ヒットというわけには行かず、まもなく上映が終了してしまいそうですが、
この映画を大スクリーンで観ずしてどうすると思うのでした。
 
すべての版を網羅したのでこれがホントの打ち止めでしょう。
あとはそのうち爆音上映してくれるのを待つのみ。

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『フォールガイ』

2024年08月22日 | 映画(は行)
『フォールガイ』(原題:The Fall Guy)
監督:デヴィッド・リーチ
出演:ライアン・ゴズリング,エミリー・ブラント,ウィンストン・デューク,アーロン・テイラー=ジョンソン,
   ハンナ・ワディンガム,ステファニー・シュウ,テリーサ・パーマー,ザラ・マイケルズ他
 
最近でいちばん楽しみにしていた作品です。
公開初日の晩の回、109シネマズ大阪エキスポシティにて鑑賞。
 
基は1981年から1986年にかけて放送された人気TVシリーズ『俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ』。
監督本人がスタントマン出身ということもあり、スタントマンへの敬意がうんと払われています。
この監督は“ジョン・ウィック”シリーズや『Mr.ノーバディ』 (2021)、『バイオレント・ナイト』(2022)では製作を務めていて、
この人が何らかの形で絡んでいる作品は私はたぶん例外なく好きですね。
 
コルト・シーバースは、人気俳優トム・ライダーのスタントを務める一流スタントマン。
ところがある日、背中から落下するスタントで大怪我を負う。
すっかり自信をなくしたコルトは、当時撮影助手を務めていた恋人ジョディ・モレノの前から立ち去ると、
姿をくらましたままメキシコ料理店の駐車係で日々をしのぐ。
 
そんな彼のもとへ、プロデューサーのゲイル・メイヤーから連絡が入る。
トムの新作映画のスタントを引き受けてほしいと言われて即座に断るが、
なんとその映画『メタルストーム』の監督はジョディだと言うではないか。
ジョディの監督デビュー作に出演してほしいと言われては断ることはできない。
 
早速ロケがおこなわれているシドニーへと飛んだコルト。
しかし、ジョディ自身がコルトの出演を望んでいるとばかり思っていたのに、これはゲイルの策略だった。
2年近く前、自分を捨て去ったコルトの今更の登場にジョディは怒りを露わにする。
それでもトムのスタントを務められるのはコルトしか見当たらず、致し方ない。
ジョディから罵詈雑言を浴びながらも久々の再会に沸き立つ心を隠せないコルト。
 
ところがゲイルから驚きの相談を受ける。
実は数日前からトムが行方不明で困っている、トムを探し出してほしいと。
トムの滞在先とおぼしきホテルの情報を入手したコルトがそのホテルに潜入すると、
バスタブに氷漬けにされた男の死体が沈められていて……。
 
予告編ではジャーニーの“Separate Ways”が用いられていましたが、
本編ではそれかからず、のっけはKISS、続いてAC/DC。予告編との曲の違いにまず軽く驚く。
 
ライアン・ゴズリング演じるコルトは、至るところでスタントマンの技量を発揮します。
たとえばトムを探すとき。正面から突破するのは無理だから忍び込む。
普通の人間なら到底できないだろうということをやってのけるからカッコイイ。
トムがヤバイ奴らとつきあっていることは明らかで、探す途中で薬を盛られたりもします。
幻覚に襲われながらもめちゃくちゃ強くて惚れ惚れ。
 
それにしてもトム役のアーロン・テイラー=ジョンソンって、
『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』(2009)で初めて知ったときは、えらく綺麗な子なのに、
ふた回り近くも上の女性監督に捕まってしもてからにと、オバハンを怖く思ったものです。
だけど今になるとあの素直そうな彼はどこへやら、こんな悪役が似合う顔つきに見えてしまう。
 
ジョディ役のエミリー・ブラントもいいですね。
彼女は実の夫ジョン・クラシンスキーよりライアン・ゴズリングのほうがお似合いじゃないか。
アクション監督ダン・タッカー役のウィンストン・デュークもめっちゃよかった。
コルトとダンの会話には映画オタクでもついていけないようなネタがいっぱい。
 
スタントマンたちに最大級の賛辞が贈られている作品です。
終盤にはダンの号令によりスタントマンが結集、悪者を懲らしめますし、
エンドロールでは本作のスタントマンたちの撮影シーンと実名も披露されています。
オリジナルでコルトとジョディを演じたふたりもカメオ出演。
すごく楽しかった。
 
スタントマンに贈られる賞としては全米映画俳優組合賞スタント・アンサンブル賞があるものの、
どれだけ体を張って活躍しようがスタントマンはやっぱり日陰者。
でもこういう人たちに映画は支えられている。

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