井の中の蛙、カイラス山巡礼に挑む!

夢のカイラス巡礼を終え、登山を再開しました。山岳信仰の延長上に四国遍路、カイラス山巡礼があり、原点の登山に戻ります。

トムラウシ山 ・ 10’3月

2010-03-24 13:53:31 | 大雪山系の山
山スキーに一緒に行っているS氏からトムラウシ山へ行かないかとお誘いを受ける。
S氏は数年前の4月に行ったことがあるという。
そして、厳冬期に行ってみたいのだがと、お誘いを受ける。

一緒に行くことにしてS氏が以前登った時のログをいただく。
そのログをカシミールに落とし、登山ルートを研究する。

問題となる点は
 ① 森林限界から上の視界が確保されること
 ② カムイサンケナイ川最上流部にあるすり鉢状の斜面にある雪の状態
 ③ 山頂部に吹く風の強さ
以上の点ですが、これらに疑問符が付く場合には遭難の恐れがあると思わなければいけません。

それらを踏まえて3月2日に日帰りで行くこととして計画を練ることにしました。
リーダーをS氏とし、サブリーダーをO氏、それに私の3人で行くことになりました。

装備は日帰り用を基本として荷物を軽くし、機動力を持たせることにしました。
といっても、雪崩対策用の3種の神器、ツエルト、ストーブ、吹雪に遭う、視界不良になるなど最悪の場合には山中での1泊に耐えられる装備としました。

事前に調べている天気予報がクルクルと変わり、やっと、2~3日前の予報では
好天気が予測されます。
一番気になっていた風も数値予測では1,500m地点で数メートルの予測結果です。
登頂予定日は、これ以上ない天気のようです。

3月1日の午後、新得町・東大雪荘に向けて出発します。
今回東大雪荘に2泊の申し込みをしたところ連泊プランとして1泊5,400円の料金で泊まれることになりました。


3月2日、5時出発予定のはずが準備が早く済んでしまい4:45分東大雪荘を後にします。

東大雪荘には黒テンが数匹玄関前に置かれたエサを食べに来ています。
黒テンといっても冬毛ですので真っ白な身体をしています。
玄関のガラス越しにその顔を見ると愛らしいのですが、肉食動物ですので手を差し出すなどもってのほかです。
指を食いちぎられてしまうかも知れません。

さて、アンナプルナサーキット以来のヘッドライトをつけてのスタートです。
キャンプ場への分岐点から除雪されていない林道をスキーを付けてヘッデンの光を頼りに歩きます。
緑雲橋を渡りT字の交差点を左に進みます。
右へ進むと夏道の短縮登山道へ行くことが出来ます。

ユウトムラウシ二の沢左岸にある林道を登っていきます。
沢が北に大きく曲がる辺りで渡渉します。
ヘッデンの明かりを頼りに渡渉点を探します。

5時35分、渡渉を終え、廃道となった林道を詰めていきます。
途中で薄明るくなってきたので、ヘッドライトを消します。

ユウトムラウシ二の沢の沢底が遠くなってくると前方に小さな枝沢が右手に見えてきます。
この小沢にしたがって右手に登っていきます。

6時35分、地図を見ると1,006mポコの北にあるコルに着きます。
ここからは尾根を忠実に登っていくことになります。

標高差350mほどの狭く急な尾根を登ります。
ところどころ雪庇状に盛り上がった雪をジグを切りながら登ります。

標高1,350m辺りでは広く平らな斜面が広がっています。
視界が一気に開け、正面にはトムラウシの山頂が見えています。
    
      広い斜面の向こうにクッキリとした山頂が見えています。
      左の小さなコブが山頂です。

オプタテシケ山も見えていますので記念写真を撮ります。
    
      左はリーダーのS氏、右が私です。

心配していた天気が快晴・無風ですので安心して先へ進みます。

ここからは広い尾根が続きます。
帰りのことを考えてデポの赤布をところどころの木に縛り付けます。

踝ほどの新雪を快調に登っていきます。
標高が上がるにしたがってクラストした斜面に変わります。

9時10分、コマドリ沢の対面にある斜面に着きます。
これが冬のコマドリ沢です。
     
       疎林に沿って右にコルまで延びているのがコマドリ沢です。

さらにカムイサンケナイ川の上流部を目指します。
      
        カムイサンケナイ川の上流部です。
        一面真っ白な斜面がすり鉢状になっています。

この斜面に向かってもうすこし尾根を詰めていきます。
このトラバースが本日一番の核心部です。
直径約1キロ、見たとおり白一色の大斜面です。
どこで雪崩が起きても不思議のない斜面です。

9時10分、コマドリ沢の正面に着きます。
ここで雪の状態を調べて見ます。
表面の雪は固くクラストしており、厚さが5センチほどある。
プラの兼用靴でやっと割れるほどの堅さを持っている。

降り積もった新雪は15センチから20センチ、斜面を横切るうさぎの足跡がのこっている。
この雪はクラストした斜面にしっかりと馴染んでいる。
以上のことからこの斜面ではクラストした斜面を踏み抜くことはないであろうし、その上の雪も安定しているので流れの心配はないと思われる。

トラバースを始めるとこの感を一層強くしました。
先頭を私が歩いていきます。
トラバースは少し登りながら歩く方が足に対する負担が少ないのです。
ゆっくり進んでいきます。
   
   この斜面をトラバースしました。
         
南側に斜面に来るとしっかりクラストした斜面となりスキーアイゼンの歯をしっかり食い込ませなければ歩けなくなってきます。

ここで事件が起きました。
一番最後を歩いていたO氏が滑落してしまいました。
私は前を歩いていましたが気が付きませんでした。

後ろ振り返るとO氏の姿が見えません。
どうしたかと思ってさらに下の方を見るとスキーを脱いでいるO氏がいます。
「大丈夫ですかー」と声をかけると「落ちましたー」と帰ってきます。

スキーを履き直して歩いてくるO氏に聞くと、スキーを斜面に垂直にしたところスキーアイゼンが利かず斜面を滑り落ちたようです。
ハイ松の枝に掴まりやっと止まったなどと話してくれます。
     
      O氏を迎えに行くS氏

10時10分、トラバースをほぼ終えたので一休みします。
このトラバースに約1時間ほどかかりました。

尾根に登ると正面にトムラウシの山頂が大きく見えています。
ここから山頂下まで1時間、山頂下にスキーをデポして山頂まで30分かかると思います。    

最初の予定では、12時を目安にして下山することにいていましたが、この天候は崩れるとは思えません。
今日は多少時間がかかってもアタックすべき日なのです。
それが出来る日だと思いました。

オプタテシケもよく見えています。
    

このコースを経験済みのS氏によれば、前回は、ここから先は一面の雪でこんなに岩が出ていなかったという。
今年は雪が少ないようだ。

ハイ松と岩を避けながらクラストした斜面を慎重に登ります。
約1時間10分ほどで山頂下に着きます。
ここでスキーをデポして、ツボ足で山頂を目指します。
    
      この大きな岩陰に山頂があります。

ここから先はスキーをデポして山頂へ向かいます。
急な斜面にある岩はすべてエビのシッポで覆われ、斜面の表面もところどころ凍っており神経を使いながらキックステップで登ります。

プラスチックの兼用靴ですので思い切り蹴り込めば何とか登れます。
      

13時10分、山頂です。
360度の視界が開けています。
北を見ると大雪の山並み、旭岳の噴煙が真っ直ぐに立ち上っているのが見えます。
南には大きく聳えているオプタテシケから十勝岳までがよく見えます。
西には石狩岳、そしてニペソツなど至福の時間です。
    
      大雪山連峰、左端が旭岳、真っ直ぐ立ち上る噴煙が見えます。

         
           オプタテシケから十勝岳。

    
      石狩岳など東大雪の山並み

    
      山頂部の向こうに見えるニペソツ

最後になりましたが山頂はこんな風になっています。
キノコのようになっているのはエビのしっぽがビッシリと着いた山頂の標柱です。
      
       思わず笑みがこぼれます。

去りがたい山頂ですが、そろそろ下山しなければなりません。
下山は少し北側にコースを取ります。
こちらの方が雪の状態がいいようです。
それでも岩陰は注意しないと窪みに足が取られそうです。
   
     下山中のS氏とO氏   

スキーのデポ地点に戻り、ここからはスキーで一気に下ります。
アッという間にコマドリ沢の近くまで下ってしまいます。
クラストした斜面はスキーの滑りが良いものの、岩やハイ松がありますので、それらにスキーを引っかけないように注意して滑ります。

トラバース地点は、お互いの距離を取って慎重に歩きます。

そして、渡り終えるとここからは山スキーを存分に楽しめる斜面が続きます。
とはいってもかなり足に負担が来ているのか思うようなスキー操作ができません。
それでも転びながら楽しく滑ります。

林道跡が見えてくればこの滑りもあと少しです。

渡渉地点に来ました。
よく見ると、簡単に渡渉出来る場所がありました。
どうやら橋が架かっているようです。
来るときにはヘッデンでしたので見つけられませんでした。

16時、東大雪荘に到着。
長かった1日が終わりました。

でも、みなさんの顔を見ると満足感で一杯の顔をしています。

さあ、あとは温泉でゆっくり反省会です。


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    今回は、厳冬期にもかかわらず好天に恵まれ楽しい登山が出来ました。
   この山が昨年の夏に沢山の命を奪った山だとは思えません。

   山は、同じようにそこに聳えている。
   誰に対しても平等に!

   今回の成功は、何より好天に恵まれたことが第1です。
   次に綿密な計画を立てたことです。
   もう一つあげるなら、メンバーの力量に差がなく、まずは自分のことをしっかりと
   考えて行動をすればいいということがあげられます。               
   記憶に残る山行が出来たことに感謝!感謝! です。