井の中の蛙、カイラス山巡礼に挑む!

夢のカイラス巡礼を終え、登山を再開しました。山岳信仰の延長上に四国遍路、カイラス山巡礼があり、原点の登山に戻ります。

1,840mのコブから戸蔦別岳を歩く・その2

2013-04-12 21:29:10 | 日高山系の山
 3月29日

 昨夜は暖かく寝ることができました。
雪洞の入り口はブロックで閉じています。
とはいっても、ブロックには隙間があるので酸欠するようなことはありません。
テントの中は狭いので4人が足と頭を交互にして並んで寝ます。
寝返りが自由に打てるわけではありませんが、風の音一つしない雪洞の中は静かで暖かく、テントに比べると天国みたいなものです。

 さすがに2月の厳冬期とは違い気温が高くなってきているので顔が冷たくなるようなことはありません。
私の-18度対応の寝袋でもさすがに暑くなってきました。
ダウンジャケットを脱いで寝ました。

 朝4時に起きます。
雪洞の中は真っ暗です。
外の様子は入り口に積んだブロックに遮られていますが、かすかに風の吹く音が聞こえます。
天気予報では10mを超える風が吹くとの予測です。

 まずは、出発の準備をしなければなりません。
狭いテントの中ですので順番に寝袋を畳んでいきます。
昨夜、作っておいたアルファー米をお茶漬けにして簡単な朝食を食べます。

 テントは雪洞に中に張ったままにして荷物を整理していよいよ出発です。
雪洞の入り口に積んだブロックを外へ押し出します。
入り口の穴から見える外は、小雪がチラチラしており風も吹いています。

 6:00分、予定通りに出発できました。
   

 私のザックに取り付けたピッケルが落ちそうとのことでSz氏が直してくれます。
その間にOn氏がトップとなりmocoさんが続きます。

 私が歩き出して彼らに追いつこうとしていましたが、彼らの姿が見えないのです。
時間にして数分のことです。
姿が見えないのはおかしいと思っていたときです。
前方に大きな穴が見えるのです。
   
 近づいてみると穴の中にOn氏の姿が見えます。
びっくりして「大丈夫か~あ!」と声をかけます。
どうやら怪我はしていないようです。
mocoさんの姿が見えないので穴に近づこうとすると「来ないで!!」「落ちるよ!!」といわれます。

 その時、片足がズボット雪面を踏み抜きました。
mocoさんは、On氏よりずっと手前にいるようです。
二人の姿は確認できたのですが、mocoさんは脇腹を痛めたようです。

 On氏が3mほど、mocoさんはさらに2mほど落ちたようです。
雪庇の根元にできた大きなクレバスに落ちたようです。
この救出劇は、On氏が動画にまとめましたので見てください。

  2013トッタベツ恐怖クレバス落下

 無事に2人を救出しました。
幸いなことに怪我はしていません。

ここで、私とSz氏がトップを歩くことにしてトレースを作ります。
1時間ほどで1.840mのコブに到着です。
さあ、ここから今回の主稜線歩きがスタートします。

 主稜線に出ると西側から強い風が吹き付けてきます。
リーダーであるSz氏が「とりあえず1時間歩いてみよう」と声をかけてきます。
私は、これ以上風が強くなると視界もあまりない状態では難しいかなと感じていたのでその意見に賛成して1,803mのコブに向かって降ります。
    

 風は時折強くなるものの歩けないほどではありません。
視界も思ったよりあります。
   

 約束の1時間が過ぎましたが誰も帰ろうとはいいません。
黙々と前へ向かって歩きます。
   
 1.803mからの降りは硬い氷の斜面がありちょっといやらしかったのですが、幸いなことに尾根が広いためさほど恐怖を感じることなく順調に歩けます。

  
 1,763mに向かう尾根は、尾根というよりは広い斜面なので帰りのことを考えてこまめにデポを打っていきます。

 ここからダラダラとした尾根を戸蔦別岳に向かって歩きますが、右手はトツタベツ沢のAカール、左手には幌尻岳の七つ沼カールが見えるはずなのですが、小雪のため視界は20~30mほどでは、それも見えません。

 この地点には40年ほど前の夏にトツタベツ沢から七つ沼カ-ルへ抜けたことがあります。
その地点がどこかなどと考えながら歩いたのですが、風に吹かれて落ち着いて見回すことはできませんでした。

 そうこうしているうちに斜面の傾斜が増してきます。
いよいよ戸蔦別岳に山頂に向かう最後の斜面に取り付いたのです。
この斜面は急な上に凍り付いた斜面となっています。
左手から吹く強い風に飛ばされないように慎重に登ります。

 急勾配の斜面の先に大きさが1mほどの岩が見えています。
この岩陰ではわずかに風が弱くなっているので全員が揃うのを待ちます。
そして歩き出しますが、傾斜が緩く感じます。

 5分ほど歩くと平らな場所になりました。
私は山頂だと思い雪面を見回しました。
すると板のようなものが見えましたのでピッケルで掘り出すとこの板が山頂標識でした。

「ここに山頂標識があるよ」といって全員が集まり握手です。
   
 9:25分、戸蔦別岳の山頂に到着です。
視界はほとんどありません。
でも、間違いなくここは山頂です。
今回の大きな目標が達成された瞬間です。

 さあ、山頂を踏んだら長居は無用です。
数分いただけで直ちに下山します。

 この下山でまたしても事故発生です。
それは私が起こしたものなのですが、何と滑落してしまいました。
それも2回半です。

 2回半というのには訳があります。
1回目は、氷の斜面を降っていたときに右足のアイゼンの歯が滑り滑落しました。
この時は、足が滑って身体が斜面に付いたときにはピッケルのピックを雪面に刺していました。
それなのにズルズルと滑り落ちたのでピックに体重をかけると止まりました。
この時は10mほど落ちたでしょうか?

 みんなが心配して声を掛けてくれたのですが、幸いなことに怪我はありません。
慎重に降っていたのですが、さらにアイゼンの歯を滑らせ滑落してしまいました。
この2回目も身体が斜面についたときにはピッケルのピックを雪面に刺していたのですが、刺した位置が肩より上だったために体重がかかっておらず止まらなかったのです。
そこで、ピッケルを身体の下に引き寄せ体重を掛け直すとようやく止まりました。
この時は15mほど落ちたでしょうか?

そして半回というのは、風に飛ばされたオーバー手袋を取るために2mほど横に飛んで滑り落ちながら取ったときのことです。

 普段、滑落停止の練習などはやったことがありません。
それでも、2回半も何とかやれたのは偶然かもしれません。
疲れのため注意力が散漫になっていたかもしれません。
怪我がなかったのが幸いでした。

   
ここから先は我慢の歩きが続きます。
 
   
 登り返しにうんざりしながら我慢して歩きます。
そして、1.840mのコブに帰ってきたときは正直ホッとしました。

   
   雪洞に向かって歩きながら主稜線を見ると風によって雪が舞いあげられています。

   
   この先に雪洞があります。

 帰りは思ったより早く雪洞に戻ることができました。
往路より1時間は早く帰ってきたでしょうか。

 12:00分、雪洞に到着です。
ここでテントを畳みパッキングをするのですが、その前にお湯を沸かしゆっくりと休憩を取ります。
なんせ、ここまで約6時間、ほとんど休んでいないのです。
軽く食事を取って下山に備えます。

 13:00分、いよいよ下山です。
   

 急な尾根をドンドン降ります。
   
こんな急斜面を登ってきたのかと思いながら降りましたが、降りは楽です。
足を前に出すだけで良いのです。
あとは重力の力を借りて歩けます。

 最後に急斜面を降りてスキーをデポしたトツタベツ沢に降りきったときは、本当に終わったと思いました。
   
   思わず万歳したくらいです。
14:40分、到着です。

 しかし、ここから6号堰堤までが遠かった。
疲れた足でのスキーは本当に辛かったです。
でも、陽は長くなっているし暗くなるまでには着くだろうととにかく足を動かすことに専念して歩きました。

 そして、17:00分、みんなに遅れること10分~15分、やっと駐車場へ着きました。

 思わず身体の力が抜けるような感覚に襲われました。
とにかく、目的の1,840コブから戸蔦別岳を繋ぐことができたのです。
万々歳の結果を残すことができました。

1,840mのコブから戸蔦別岳を歩く・その1

2013-04-09 21:16:42 | 日高山系の山
 前回歩き残した1,840mのコブ山から戸蔦別岳は何としてもこのシーズンに歩きたいと思っていました。
それは、去年に続き7号堰堤の工事により6号堰堤にある最終ゲートまで除雪されていることが大きな理由です。
トツタベツ林道は、最終人家まで普段でも除雪されていますが、ここからラッセルをしながら林道を歩いても取り付きまで1日はかかってしまいます。
それが、最終ゲートまで車で入れるということは、往復で2日分の行程が短縮されるのです。

 そういったことで、3月も末になりましたがメンバーの休みが合ったので27日から29日にこの区間を歩くことにしました。
いつも一緒に登ってるKo氏は腰の不調により残念ながら参加できません。
その代わりというわけではないのですが、北見山岳会のmocoさんが初日高として参加することになりました。
今回は、私にSz氏、On氏、紅一点のmocoさん、4人での挑戦となります。

 当初は、26日から出かける予定でしたが、27日の天気予報は雨のため1日ずらして札幌を出発することにしました。

 3月27日

午後3時に集合して一路十勝を目指します。
今日は、剣山にある小屋で前泊の予定です。
この剣小屋は剣山の麓にありなかなか便利な場所にある小屋です。

 剣小屋に着くと前着者が1人いました。
長野から来られている男性のご老人でした。
本人曰く、「カリスマ失業者」という方でもう数年前に仕事を辞めて山登りに専念しているようでした。

 この方に、明日は早出するので少し騒がしいかもしれないがよろしくと挨拶をしておきます。


3月28日

 4時に目を覚まし出発の準備をします。
前日買い置きしておいたお弁当などで簡単に食事を済ませます。
5時過ぎに剣山小屋を出発してトツタベツ林道を目指します。

 林道へ入ると路面が凍ってツルツルです。
慎重に運転して最終ゲートに到着。
さあ、ここから今回の登山が始まります。

 6:30分、凍った路面のため私はスキーを担ぐことにしました。
On氏はスキーを履いていきます。
それぞれの方法で進みます。
   

 7号堰堤までは除雪されている路面がツルツルでした。
それでも25分ほどで到着です。
   
 前回来たときにあった作業用の詰め所などはきれいに片づけられています。
ここからは、除雪されていない林道歩きですのでスキーを履きます。

 8号堰堤までは林道がしっかりしています。
しかし、この先は廃道となっているようです。
8号堰堤の横(右岸)は急な崖となっており、そこから雪が流れ落ちて急斜面を作っています。
急斜面の下は遮るものがない状態で砂防ダムに堰き止められた湖面となっています。

 私とSz氏はスキーのままその急斜面をトラバースします。
クラストした斜面のトラバースですので滑り落ちると湖面にまっしぐらです。
緊張しながらスキーのエッジを雪面に食い込ませながら何とかトラバースを終えます。
On氏とmocoさんはスキーを脱いでトラバースしてきます。

 ここから先は、地図には林道の表示があるのですが現場でははっきりしません。
しかし、時々避難所の道路標識があるので林道であることは間違いありません。
そんな道を歩いていると大きな足跡が山の上の方から沢に向かってありました。
   
 何と、熊さんの足跡です。
足跡の輪郭が融けているので数日前の足跡のようです。
3月も末ですので、すでに熊さんも冬眠からお目覚めのようです。

 林道の跡がはっきりしないので川原へ降ります。
すると、右岸の奥から雪崩れたデブリが川原まで達しています。
   

 川原が狭くなったところで右岸から大きな沢が入り込んできています。
どうやら八の沢のようです。
ここまで約3時間かかりました。

 八の沢の出会いを回り込んでから尾根に取り付きます。
しかし、早朝のためクラストしたままの急な斜面ではスキーのエッジが利きません。
やむなく、スキーをデポしてツボ足で登ることにします。
幸いなことにツボ足でもクラストした斜面なので何とか歩けます。
   

 しかし、斜面の傾斜は半端ない急斜面です。
おまけに所々クラストした斜面を踏み抜くと腰くらいまで埋まってしまうのです。
だましだまし登りますが息が切れてきます。

 Sz氏が斜面を踏み抜き転がり落ちます。
2回転したところで窪んだところに助けられ止まります。
怪我がないようでしたので一同ホッとしました。

 登っても登っても急な斜面が続きます。
   

 1,200mを越えたところで少し傾斜が緩くなります。
しかしこの先にはさらなる急斜面が待っています。

   
 登るに従って神威岳の方が見えてきます。
この景色を励みに登ります。
今日の目標は1,500m辺りまで登ることです。

 尾根を登っていくと細い尾根が見えてきます。
この細い尾根の先は降らなければならないようです。
このコブ尾根を降るのが大変でした。
腰ほどまで埋まってしまうのです。
1歩1歩を腰くらいまで埋まりながらラッセルして何とかコルに到着です。

 この先はまたまた急な斜面が続きます。
その斜面を登りきるとやっと主稜線が見えてきました。
   
 大きな雪庇が続きます。
前回歩いたときにあった雪庇の根元のクラックが頭をよぎります。
雪庇の根元に注意しながら歩きますが、どうやらクラックはないようです。
雪面も堅く締まっています。

   
 前方に見えるコブの頭を目標に登ります。

 13:50分、今日の雪洞ポイントに到着です。
この場所は雪庇が顕著ではなく大きな雪が貯まっています。
尾根の前後を見ても雪庇が大きく雪庇の下に回り込むのが難しいのです。
それに比べるとこの場所は簡単に雪庇の下に回り込むことができます。

 On氏がゾンデで雪の深さを測ります。
上からと横から深さを測りますが雪洞を掘るには十分な量であることが確認できました。

 早速いつものように2穴を同時に掘り進めます。
   
 今回の雪洞はできるだけ雪面に近い場所に掘り進めます。
それは、雪が深くなると堅くなっているからです。
上部から1mほど下が天井になるように掘り進めます。

 雪洞堀りの途中で外を見ると空が晴れています。
   
 沢の向こうには前回登った神威岳からの稜線がクッキリと見えています。

 約2時間で完成しました。
   
 雪洞の中にテントを張ってやっと一息付けます。

 荷物を整理したら水作りです。
前室もあるのでそれぞれの場所に陣取りお酒を飲んだり会話を楽しんだりとホッとする時間を楽しみます。

 テントの中で小事件が発生しました。
Sz氏がホットウイスキーを作るためにガスストーブでウィスキーを温めているときです。
蒸発したアルコールに火が付きカップから炎が上がります。
まさにフランベした状態です。
一瞬テントを燃やしてしまうのではないか緊張が走りましたが、幸いなことにウィスキーの量が少量だったため大事には至りませんでした。

 テント内での火の扱いには十分な注意が必要ですね!!