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冬の夜空にかかる、男の星座のまぶしさよ

2014-11-23 18:00:00 | 編集手帳

11月19日 編集手帳

 

 「ナワナエ」競争が始まった。
おじいさん、
おばあさんが藁(わら)をよじり、
縄をなう。
15年前の沖縄・石垣島、富野(とみの)小中学校の運動会である。

お年寄りの真剣な表情に、
いつしか手をたたいていたと、
高倉健さんの随筆『沖縄の運動会』にある。
俳優は拍手をもらう仕事だが、
〈拍手するほうが、ずっと心がゆたかになる〉とも。

旅先でたまたま目にした光景という。
帰京後、
感謝の気持ちをこめてこの学校に望遠鏡を贈った。
そして悩む。
心の豊かなあの子供たちに贈り物など必要だったか。
〈少し後悔した〉と結ばれている。

行きずりの人に無心で拍手を送ることも、
受けた感銘を率直に伝え ることも、
その行為をしずかに省みることも、
いまの世が忘れかけた心だろう。
思えば、
その人が演じた不器用で温かく、
勁(つよ)く、
飾らぬ人間像も、
現代人の忘れ物に違いない。
銀幕という望遠鏡を通じ、
忘れ物の在処(ありか)を無言のうちに語り続けて、
高倉さんが83歳で亡くなった。

『網走番外地』の橘真一。
『昭和残侠(ざんきょう)伝』の花田秀次郎。
『鉄道員(ぽっぽや)』の佐藤乙松。
『あなたへ』の倉島英二。
冬の夜空にかかる、
男の星座の眩(まぶ)しさよ。


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