4月7日 編集手帳
駆けだしのアニメーター時代、
宮崎駿さんは新作の構想を聞いて思わず言った。
「えーっ、ハイジやるの?」。
相手は五つ年上の先輩、
高畑勲さんである。
宮崎さんの著書『本へのとびら』(岩波新書)によると、
スイスが舞台のヨハンナ・シュピリ『ハイジ』は戦争をしない永世中立国への憧れから、
戦後世代にはわりと読まれていた。
「そんなカビのはえたものを」という感覚だったが、
その後、
脱帽したことは言うまでもない。
歩けなかったクララがアルプスの草原に立つ場面を思い出し、
涙腺がゆるむ方もおいでだろう。
いくつもの心温まる作品を生み出した高畑監督が82歳で亡くなった。
その人の感性の路線は、
続く『フランダースの犬』に生きたという。
ハッピーエンドの物語も出回るなか、
原話の通りの悲劇になっている。
ネロとパトラッシュが聖堂の冷たい床に体を接して横たわり、
眠りにつく最終回のシーンは後日、
わが小学校の教室で話題になったのを覚えている。
死んだのだとわかると…。
アニメという娯楽の世界に高畑さんが残したものはなんだったのだろう。
涙の匂いと一緒に考えてみる。